小春日和の日。 紅葉も最後だと思って散歩に出た。 かさこそと足の裏で鳴る枯葉の音が楽しい。 頬に当たる風も心地よく、体もぽかぽかとしてくる。 「うーん、何だか眠くなる天気ですね」 のほほんと一人あてもなく歩く八戒の目の前に、誘うように陽だまりが見えた。 陽だまりには、背もたれになってくれといわんばかりの楓の大木があり、 ここにおいでと言っているようだ。 「休憩しようかな・・・」 家の掃除は終わったし、洗濯はまだ乾いていないだろうし、悟浄はまだ寝てたし・・・。 「ちょっとだけなら、いいですよね」 紅葉も終わりだし、日向ぼっこをするのも最後かな、と思う。 一瞬、頭の中に悟浄が起きる姿が見えたが、(悟浄は自分が起きた時に居ないと機嫌が わるくなるのだ)それは片隅に追いやって、木の根元に座り込む。 柔らかい日差しを受けて、きらきらと光ながら真っ赤に染まった落ち葉が、雨のように 降り注いでくる。 手をそっと伸ばすと葉っぱがぱたぱたと手にあたって、ころころと落ちていった。 まるで、赤い血が落ちるみたいだな〜とぼんやりと考える。 あの時、真っ赤に染まった自分の手。 こんな感じだったのかなと、ぎゅっと落ち葉を握り潰し、また、ゆっくりと手を開く。 そこには、細かく壊れた赤い破片がたくさん付いていた。 でも、血には見えない。 「なんか違いますね、この赤は」 これは、悟浄の色に近い。 悟浄の瞳の色。 髪の色。 暖かい温もりの色。 こんな自分を愛してくれる人。 「悟浄・・・」 そっと、その名前を言ってみる。 きっと今頃、まだ布団の中だろう。 今日も朝方に帰ってきていたから。 本人はこっそりのつもりなんだろうけど、帰ってくると、必ず寝ている僕のところに来て、 キスをしていくから目が覚めてしまう。もちろん、悟浄は起こすつもりはないらしいから、 寝たふりをしているけど。 うれしいけど、恥ずかしい。 こんな甘い人だったのかと最初はびっくりしたけど、今は、無いと寂しいくらいで・・・。 「なんだかな〜」 こんな風に自分が変わってしまうなんて、驚いてしまう。 赤い葉っぱがくるくると落ちてきて、どんどん自分を埋めていく。 まるで抱きしめるように。 「温かいですね」 自然に笑みがこぼれ、ゆっくりと体の力を抜いていく。 そして、そのまま眠りの中へ入っていった。 「あーったく、どこ行ったんだよ!」 目が覚めてみると、八戒が居なかった。 いつも自分が起きる時間には居てくれるのに。 「なんかムカつく」 すっかり乾いた洗濯物がひらひらと風にはためいている。 とっくに取り込んでいてもおかしくないのに。 買い物にしては、遅くないか? 思わず、洗濯物を取り込みながら不安が募る。 昨日、なんか言っていなかったか? そういえば、紅葉も見納めだとかなんとか・・・。 もしかして・・・。 「やっぱ、ここだったか」 家から直ぐの森の中。 ちょっとだけ小高くなっているこの場所。 この場所は八戒のお気に入りの場所で、春は花を、夏は涼みに、秋は紅葉を、 冬は雪を楽しんでいる場所だ。 がさがさと落ち葉を踏みしめて、弾む息を整えて、楓の根元に座る八戒に近づく。 「おいおい・・・埋もれちゃってるって」 気持ちよさそうに眠っている八戒は、真っ赤な楓の葉で被い尽くされていて、 頭からすっぽりと赤い布をかぶっている様になっていた。 その姿に苦笑がもれる。 「ったく、こんな無防備だと襲われるぜ、八戒さん」 髪の毛に付いている葉を取りながら話しかけるが、八戒はすやすやと寝息を立てていて、 一向に起きる気配が無い。 「おーい、八戒、起きないと風邪引いちゃうぜ、八戒?」 吐息がかかりそうな位置で話しかけても、やはり起きてこない。 静かに2人に葉がはらはらと降りそそぐ。 「八戒、襲っちゃうよ、いい?」 すっと頬に手をやると、ちょっとだけ嫌がる表情をするが目は覚まさない。 そのまま、顔を近づけ、そっと唇にキスをすると、ふわりと八戒の目が開いた。 寝起きのとろんとした瞳が自分の赤い瞳を写している。 宝石よりも、きれいで、大好きな瞳だ。 チュッと啄ばむ様なキスをもう一度唇にし、名残惜しい気分ですっと体を離した。 「あれ?悟浄、なんでここに居るんです?」 「なんでって、ったく!お前が居ないから探しにきたんじゃねーか。もう、こんなとこ で寝てるし。風邪引くだろう?」 「大丈夫ですよ、ほら、葉っぱが毛布になっているし。それに、赤い色は僕を温めて くれますから」 にこっと微笑みながら話す八戒。 しかし、何か引っかかる。 ざっと風が吹き、八戒の上に、雨のように赤い葉が降り注ぐ。 あぁ、と悟浄は納得する。 ふと目線を下にやると、手のひらに握りしめてばらばらになった葉が付いていた。 ぱたぱたと悟浄はその手をはたき、葉を落としていく。 「また、余計な事考えてたんだろ」 余計な事って・・・と苦笑してしまうが確かに悟浄にとっては余計な事かもしれない。 「違いますよ。この色は悟浄だなーと思ったんです。そうしたら、なんだか気持良くなっ ちゃって。ほら、僕の周り赤い色だけでしょう?赤って安心するんです。大好きな色 ですから」 けろりと話す八戒。 八戒の甘い言葉に顔に思わず血が上るのがわかる。 「あれ?悟浄、顔赤いですよ?ほら、この葉っぱと一緒」 悟浄の髪に付いた楓を1枚取ると目の前にすっと見せて、ふふっと笑う八戒に、敵わない と思ってしまう。 自分をこんなにドキドキさせるのは八戒だけだ。 「まったく、敵わないぜ、お前には」 え?ときょとんとした顔がかわいい。 あー頼むぜ、八戒、我慢できなくなるだろう・・・。 「八戒、今日は覚悟しとけよ」 「は?何言ってるんですか?悟浄はこれから仕事でしょう?ちゃんと稼いでもらわないと」 「今日は休む。もう、我慢できない」 「ちょっ、我慢できないって・・・悟浄!」 ぐいっと赤い葉っぱの中から八戒を引き出した悟浄は、そのまま腰を抱き、深く口付けた。 そのまま、口腔内を蹂躙し、体の力が抜けた八戒を抱え直す。 「ここでやりたいけど、さすがに風邪引くよな」 「当たり前です。そんな事したら、しばらく僕には触らせませんから」 「こんなになってんのに、八戒さん、強気だねー」 「・・・・悟浄、僕は本気ですから」 あー怖っと笑いながら、じゃ早く家に帰りますかと、八戒を抱えるように歩き出す。 バードキスを、また、唇にして。 悟浄のキスは自分を目覚めさせる。 その事を実は悟浄は知っているのかも知れない。 僕の方がきっと悟浄には敵わないだろう。 こんなにもあなたに惹かれているのだから。 くいっと悟浄の腕を引き、耳を近づけ、囁いた。 「大好きですよ、悟浄」 「ん、わかっているって」 温かい日差しが2人を包む。 でも、それ以上に温かいものを2人は知っている。 そう、温かいものを。 *END* |