「悟浄!なあこいつすっげえ可愛いぞ。」 突然の通り雨に慌てて逃げ込んだ店で、たまたま悟空と出くわした悟浄が 濡れて湿気た煙草を口に銜えながら、いかにも面倒くさいといった目つきで 声の主に視線を向ける。 が、そんな悟浄の不機嫌そうな視線など物ともせずに、ショーケースの中の 子犬を指さしながら悟空が言う。 「なあ、これ買ってくれよ!」 「あぁ?なんで俺がお前ェに貢がなきゃならんわけ?」 「いいじゃんか。めちゃくちゃ可愛いんだし。」 「可愛いだぁ?そ〜いうのは女をくどく時に…。」 そう言いながら、何気なく悟空の指さす子犬を見た瞬間、悟浄の動きが停止する。 ケースの中の子犬は小さなしっぽをしきりに振りながら、悟空の指先にじゃれる ように前足を伸ばしていたが、そんな悟浄の視線に気づいたのか大きな瞳を向け 数度瞬きする。 瞳は澄んだ湖水のような色。翡翠とでも言うべきだろうか。 少し暗めの茶色い毛並みは、僅かな空調の風でもふわふわと柔らかく揺れている。 耳先がへたんと垂れているのも、ひたすら愛くるしい。 そんな全身「可愛い」のカタマリが、注がれたままの視線に対し、不思議そうに 小首を傾げて悟浄を見上げる。 その瞬間、悟浄は紅い瞳を大きく見開き、命の次に大事な煙草をぽろりと落とす。 彼の心情を効果音にすれば「ズギューン!」愛の天使の放つ銃声一発というところ だろうか。 俺が朝目ェ覚ますだろ。そしたら枕元にこいつが柔らかい寝息を立てて眠っててさぁ。 極上の手触りの毛並みを楽しみながら、こう優しく撫でてやるとやっと目覚まして。 少し寝ぼけたような、どことな〜く潤んだ翡翠の瞳に見つめられてもうメロリン状態 な俺は、それでも顔に出さずにおはようにキスを鼻先にするワケ。 そうすっと、きっとすっげえ可愛い笑顔を浮かべながら俺にすりよってくる! でもってそれから…… 「悟浄?お〜いごじょ〜?エロ河童赤ゴ○ブリイロボケガッパ起きてるかぁ?」 目の前で悟空がひらひらと手を振りながら、言いたい放題言っているが、当の悟浄は 体を残したまま心だけどこか遠くに旅立ったまま、帰ってくる様子はなかった…。 --後日談-- 友人「お前最近、犬飼い始めたんだって?」 悟浄「おおよ、飼ってみると結構可愛いよなぁ。」 友人「だろ?ミニダックスとかウェルッシュコーギーとか小型犬もいい けど、ドーベルマンやシェパードなんていう大型犬もやっぱ 捨てがたいよなぁ。」 悟浄「…何言ってるんだ?俺の八戒が一番可愛いに決まってるじゃん。」 「八戒」と命名した子犬を思い浮かべながら、とてつもなくマジ顔できっぱり言い 放つ悟浄の姿がそこにあった…。 |