『……また…か……』 『こんな雨の夜には決まってずっと起きているのに… 寝ればこうなんの分かっていたんだろ?』 雨の降る中、拾って帰ってきたのは何時だったか… 遠い昔のようにも思えるし、ついこの間のような気もする… 『お前に関しちゃ時間の感覚が狂うぜ…』 眠りの邪魔をしないように細心の注意で右目の上のモノクルを外す… カチャリと、それでも小さな音をたてたが八戒の眼を覚ますには至らなかった… いや、八戒だったら… そう、八戒だったら たとえ深く眠っていたって顔の前に手を翳せば眼を開けただろう… …雨… ……雨降る夜… ………ここにいるのは…… ………………………悟能だ… 天が少しずつ溜めた水を抱えきれなくなって大地に落とす雨のように 抱えきれなくなった想いもまた流れていってしまえばいいのに… 「忘れようと思っているうちは忘れられないのよ…」 そう言って泣いていた女の名前はナンだったっけ… 俺はそっと窓をあけた 雨音は煩いが、濡れた森から吹いてくる風は湿気を帯びてはいるが気持ちよかった… 雨が降らなければもう悟能は苦しまなくて済むんだろうか… 煙草を咥え火をつけた後、大きく息を吸い込んだ 『だけどさ、八戒… 雨が降んないと森の緑が輝かないんだぜ。 明日、雨が上がったら一緒に洗いたての緑の中を歩こうな』 俺は言葉の代わりに煙を吐いた… |