「あ〜腹減った〜。」
 「そうですねぇ、そろそろ陽も沈みますし。」
 「うげぇ、また野宿かよぉ。」
 「やかましい手前ェら。」

赤い巨大な夕日が沈む方向へ向かって、一台のジープが走っていく。
その上には、いつもの四人がそれぞれ勝手なことを言いながら乗っている。

 「あと一時間くらいで集落に着けそうですよ。」
 「ああ。」
 「やっり〜!メシメシ!」
 「ったくそれしか頭にないのかよ、お前ェは。」

まるで先程までの死闘などなかったかのような、いつもと変わりない光景。
そしてこれからも何度も繰り返されるであろう光景。

 「で…さっきの勝負はどうなったワケ?」
 「あっ!それ俺も気になる!」
 「う〜ん…どうやら同着だったみたいで…。」
 「ふん。」

ボタンを押すタイミングを計ったのは、塔の中央で待機していたジープの鳴き声で。
もちろん、どちらのチームが先にたどり着いたのかを見ていたのもジープだ。
そのジープが、勝敗の判定を問われて困ったように首を垂れたのだ。
つまり、同着。
 「じゃあどうなるんだ?さっきの賭け。」
 「無効…ってところじゃないですか?」
 「仕方ねぇだろう。」
 「うっわ〜。俺様骨折り損?」

後部座席であがる文句に、助手席が銃を無言で取りだし安全装置を解除する。
そんな音ひとつで押し黙る後部座席の二人組に、運転席が小さく笑う。

 「あ〜あ、せっかく腹いっぱい食べようと思ってがんばったのになぁ。」
 「あはは悟空らしいですねぇ。」
 「まっ、どうせ小猿ちゃんの願いゴトなんてそんなもんだろうよ。」
 「……バカ猿。」

笑顔で納得するもの、揶揄するもの、呆れるもの…。
三者三様な反応に、発言者がむっとしたようなふくれ顔で反論する。

 「じゃあ悟浄は何願うつもりだったんだよ。」
 「ああ?俺?」

問われて悟浄は口を開きかけて…一瞬視線を宙に彷徨わせる。
そして言葉を選ぶようにして一言答える。

 「ああまぁ…やっぱイッパイ喰いたかった…かな。」
 「なんだよ、俺とおんなじじゃん。」
 「………。」

いちいち反論するのも面倒になって、悟浄は深いため息をつく。
確かに満たされたいという願望は同じかもしれない。
ただし、満たしたいのは腹ではなく…。

 「今回は結構大仕事でしたし、次の町では少しゆっくりしませんか?」
 「…まあ、いいだろう。」
 「ほんと?やり〜!」

砂漠越えで疲れているだろうから、ジープも休ませたいですし…ともっともな提案すれば、
一行の中の権力者が渋々了解する。
単純に喜ぶ小猿の横で、何かを感じた悟浄が視線を向ければ、バックミラー越しに八戒の口
元が小さな笑みを浮かべるのが見えた。
それは、先程の戦いの中で八戒が浮かべた、例の笑みと同質のもの。
つまりは、悟浄と八戒の間だけで通じるサインで。
そこから導かれる結論は、考えるまでもない。

──ああ、なるほどね。

八戒の笑みから何気なく視線を逸らすと、悟浄はポケットから煙草を取りだし口に銜える。
次の町が見えるのが待ち遠しい。
期待に自然にゆるむ口元を抑えきれず、悟浄は顔を隠すようにして火をつけた。






*END*








実はこの話は「無罪也。」さまの発行された「花鳥風月」に
ゲストとして差し上げたものです。
それをど〜してうちのサイトでアップしたかというと…あの
…私とにかく見せたがりなんです;
気分は「こんなの書いたのっ見て〜!」と嬉しげに振り回す
お子様そのまんま…。(汗)
とにもかくにも、使用許可を快くくださった「無罪也。」様
には大感謝です!ありがとうございました。

しかしテーマは「格好良い悟浄」だったんですが、果たして
ちゃんとこの話はクリアできてるのでしょうか?
か〜な〜り不安だったり…。
みなさま…どないです?クリアできてます?


【NOVEL】