〜八戒の復讐〜


ベッドの中、シーツにくるまったまま、八戒は熱でぼんやりとした思考回路を
フル回転させていた。
   
 一体、なぜこんなことになってしまったんだろう───?!
   
風邪を引いた悟浄の看病をしてあげようと思っただけなのに、どうして自分が
寝込む羽目に陥らなければならないんだろう?
今八戒がベッドと仲良しになっているのは悟浄に風邪を移されたせいばかり
ではなく、起き上がれないほどに───足腰が立たないほどに悟浄を受け止め
させられたせいでもあるのだ。
昨日の朝から今日の未明まで延々と繰り広げられた痴態を思い出して、
ふつふつと八戒の中に怒りが込み上げてくる。
『イヤだ』と言ったのに、聞き入れてはもらえなかった。
何度も苦手な行為をされて、散々に泣かされ喘がされたおかげで声は出ないし
風邪のためか喉も痛い。
その上、とても酷いコトまでされた。
なんと悟浄は仕返しに八戒のとある部分の毛をナイフで剃り落とすという
暴挙に出た。
思い出しただけで怒りと羞恥に顔が燃え上がるような気がする。
   
   
よく考えてみれば、確かに事の起こりは八戒である。
行動を起こしたのは八戒であるが、しかし、原因は悟浄にあるのだ。
   
そう。絶対に悟浄が悪い。
   
誰が何と言っても、絶対に悟浄が悪いはずだ。
八戒はベッドの中で拳を握り締める。
   
なぜなら───悟浄の頭髪や眉などはとっても綺麗な深紅だし、燃え上がる
ような真紅の瞳だって紅い睫毛に縁取られている。
髭は少々黒味がかっているような気がしないでもないけれど、悟浄の体毛は
深紅なのだと、八戒はずっと信じていたのだ。
それなのに───明るい場所で見た悟浄のスネ毛は真っ黒だった。
夜にベッドの中で見る時には視力の悪さも手伝って、全く気になって
いなかったその色が、違っていたショックよりも、真っ黒だったということが
何よりも八戒を打ちのめしていた。
   
なんと悟浄の体毛は深紅から黒へのグラデーションだったのだ。
その色は下へ行くほど濃くなるらしい。
結果───思い出しただけで苛立ちが蘇るほどに、そのすらりとした脛は、
もじゃもじゃと黒い毛に覆われていたのだ。
   
冗談じゃありません───!!
   
悟浄がまるでクマ男のような足をしているなんて、絶対に許せない。
   
悟浄至上主義の八戒をしてこう思わせたほどに、真っ黒で濃いスネ毛は
許せないものだったのである。
   
だから、刈り取ったのだ。
羊毛を刈るバリカンを借りることができたのも幸いだった。
それほど時間をかけることもなく綺麗になった悟浄の足にすっきりとして、
満足感さえ覚えていたと言うのに悟浄は風邪を引き───風邪を引かせたこと
には少々の罪悪感を感じるが、だからといって自分は間違った事はしていない。
   
許せない───
   
どうして綺麗にしてあげて、こんな酷いことをされなくてはならないんだろう?!
   
八戒はその日、収まりきらない怒りに悟浄と口をきいてやることもせず、
ただベッドで思考を巡らせていた。
そして日も暮れる頃、八戒は、ふとひとつの考えに行き当たった。
   
   
数日後───
 「八戒っ!!」
ようやく目を覚ましたらしい悟浄が、どたどたと階段を駆け下りてくる。
 「おはようございます」
既に陽は西へと傾きかけているが、とりあえず、起きた直後の挨拶は
「おはよう」だろうと、八戒はにこやかに声をかけた。
 「おはようじゃねぇっ!!」
 「ああ、すみません。こんにちはじゃおかしいかなぁ…と思いまして」
ビキッと音が聞こえるほどにこめかみに青筋を立てた悟浄が怒鳴る。
 「誰が挨拶の話をしてんだよ?!」
 「悟浄が」
 「んなこと言ってねぇ!」
言下に否定されて八戒は首を傾げた。
 「え、でも今…」
 「違うッ!そうじゃねぇッ!俺が言っているのは、これのことだ!!」
悟浄が噛み付くように言って指し示したのは、自分の膝下である。
   
悟浄の膝から下はパステルピンクの糸くずが無数に絡みついていた。
もじゃもじゃとしたその感じはまさにスネ毛のようではあるが、どうみても
人工的な色合いのそれは極細の毛糸を解したものとしか見えない。
そのうえそれはよくみれば、膝から下をグルグル巻きにした両面テープで
張り付けられていた。
 「一体、ナンなんだ、これ?!」
 「何って…悟浄の新しいスネ毛です」
八戒は殊更にニッコリと微笑んだ。
 「僕、悟浄がどうしてあんなに怒ったか、やっとわかったんですよ。
  急にスネ毛を刈り取っちゃったから、悟浄、寒かったんでしょう?
  だから、新しいスネ毛をつけてあげたら喜んでくれるかなぁ…ってv」
周囲の温度を二、三度は確実に下げるだろう微笑で八戒が続ける。
 「僕、悟浄がクマ男なのは許せませんけど、深紅のスネ毛だったら許せる
  かなぁ…って思って、それじゃあスプラッタになりそうなんで、ピンク
  にしました。同じ紅からのグラデーションですし、可愛いでしょう?
  それに強力粘着テープですからはがれる心配もありませんよ」
 「てっ…てめぇッ…」
 「あれ、悟浄、喜んでくれないんですか?」
何事かを反論しかけた悟浄を遮って、八戒は泣きそうに潤んだ瞳で悟浄を
見上げた。
 「だったら、スネ毛だけじゃなくて、もう少し上も同じ色にしてあげれば
  よかったですかねぇ…。ナイフの使い方は悟浄に教えていただきましたし。
  ああ、でも僕、悟浄より不器用ですから、手が滑っちゃうかも知れない
  ですねぇ…そうしたら浮気の心配がなくなって逆に一安心ですかねぇ…」
無言のまま口元を引き攣らせる悟浄に、八戒は瞳さえ笑っていれば極上とも
いえる微笑を浮かべて問いかけた。
 「ああ、でも新しいスネ毛、喜んでくれますよね、悟浄?」
胡乱な眼差しをむけたまま、悟浄は乾いた笑みを貼り付けて小刻みに震えていた。
それを見て、八戒の笑みは更に深くなった。
    
    
───FIN───
    
   


アンカーもLUNAさんにお願いしちゃいましたvv
あ〜。楽しい暴走でした。(笑)
巻き込まれてくれたLUNAさんに、みなさま拍手!
   
自分は少しも悪くない、ときっぱり言える八戒がステキです。
復讐、と言っても相手が悟浄のせいか可愛いぞ!と思った私は
八戒に対しての認識を間違っているのかも。
でも結局、なんだかんだ言って、悟浄ってばイイ思いしてるって
感じるんですけど。(苦笑)
     
お気づきでしょうが、タイトルは「STAR WARS」のパクリです。
   
【NOVEL】