その苦い香りは 「悟浄のキスは苦いですね」 「お前のキスは甘いよな」 「煙草の味、ですね」 「ンじゃ、お前はお前の味だな」 「なんですかそれ」 小さな町の小さな宿の小さな部屋の一室。 僕を取り巻いた香りはやはりいつもの苦い苦い悟浄の香りだった。 荷物を整理しているときにも、買い物をしているときにも香ってくるその香りが僕を 安心させる 「なんかね、安心するンですよ」 買い物中煙草を買う悟浄を見てなんとなく僕の口からそんな言葉が出てしまった。 「何が?」 「…貴方の香りが」 臆面もなく僕がそう言ったら悟浄の方が照れてしまった。 よく、僕のコトを『可愛い、可愛い』言うけれどホントは貴方の方が可愛いンですよ? と言ってやりたくなる。 素直で温かくて優しくて…そんな貴方は凄く可愛い。 「喰っちゃってイイ?」 「何時も食べてるでしょ?」 笑いあいながら冗談を言い合えるこの時間が好き 笑いながらも近づく肌の温度が好き 「ほら、まずはご飯食べにいかなきゃですよ?」 長い長い口付けの後。これ以上浸食されないようにと僕からの制止。 「飯喰ったら…イイの?」 「狡いですよ」 何時も貴方はそう言う風にかわいこぶって強請って強請って僕を食べてしまうンだ。 でも 「イイですよ」 そう言われるコトを望んでいる僕がいる。 偶には貴方を僕にクダサイ 食事中は相変わらずで、悟空と悟浄は皿の取り合い。 僕はさり気なく自分の分は確保しておいて、悟空もまたさり気なく三蔵の食べる分 だけは残していた。 「ちょっと…何してるンですかぁ」 殆どお腹いっぱいになった悟浄とまだお腹が満たされない悟空。 悟浄が悟空をからかう為に席を立ち上がる。 悟空もまたまだ満たされない空腹の為それに本気で応戦する。 ワイワイワイ、ガヤガヤガヤ、と煩い食堂が何十倍にも煩くなる。 5・4・3・2・…心の中で小さくカウントを数えて、0になる瞬間に金髪美人の 最高僧を僕は見やった。 「ダメですよ?人が沢山いるところでそんなモノぶっ放しちゃぁ」 一瞬黙って懐に拳銃をしまった三蔵に続くように悟浄も悟空も静かになった。 そしてジッポの蓋が開く音と殆ど同時に香ってきた。悟浄のソレとは違う香り。 やっぱり狡いと思った。 僕が満たされるのは…その香りじゃなきゃダメだと実感したから。 満たされて満たされて 喰われて喰い尽くされた後は熱が冷める前に夢の中へと逃げてしまいたかった。 そんな僕の鼻を掠めるのは、やっぱり貴方の香り。 「悟浄は…狡いですね」 「何で?」 「何時も笑顔で…」 そしてその香りで僕を浸食して 「ソレはお前だろ?」 抱きしめられた。僕より少しだけ高い体温が心地よく感じられる。 肌に染みついた煙草の香りと汗の香りが混ざって ほら、もう一回、って僕の中が疼いてる。 「狡いです」 小さく再び呟いてみたけどそれが悟浄に聞こえたかどうかは判らない。 ただ、悟浄が苦笑をしていたのは判った その晩は眠れなかった。 一晩中時計の音を聞いていた気がする。 否、ホントは眠っていたかもしれないが、眠れなかった。 眠った愛おしい人の薄い唇にそっと口付けをすれば苦い味がする。 舌を差し込んでその中を味わおうとすると、寝苦しそうな声が聞こえた。 「仕方ないですね」 夜這いしたところで起きないンじゃ意味はない。 そう、冗談か本気か自分でもよくわからないコトを思いつつ、そっと悟浄を抱きしめた。 僕を浸食する香りを持つのは貴方 そして僕は無味 貴方は僕の味、覚えておいてくれますか? *END* |
《歩さまのコメント》 感想→前回も影からこっそりとのぞいておりました。 面白そうな企画でしたし、参加していた方々すべての作品がとてもよくて 次回こういう企画があれば参加したいなぁ、と思っていたので烏滸がまし いながらも参加させて頂きました。 でも、言葉を詰めていくのは凄く難しいなぁ、と感じました。 態とらしくなるのがイヤだったので何本か書いて一番キーワードがあった もので参加させて貰ってますが…。やっぱり難しいなぁ。 攻め気分の八戒さん、でも身体は受けよ、なコンセプトですかねぇー。 一応浄八だということにしてやってください。 素敵な企画本当に有り難うございました。 因みに、入っているキーワードは 煙草、拳銃、時計、夢です。 日常?新婚いちゃいちゃな二人に…「くそ〜!うらやましいぜ!」と絶叫。 煙草の香りが悟浄の味で、八戒の味は無味なんですか。 ……ぜひ味見させてください、と思ったのは私だけじゃ…ってまともな コメントもないままに終了;(ムードぶちこわし) |