─八 戒─


少し…ほんの少し仮眠を取ろうと暖かいベットで眠ったはずなのに…
今はとても静かな場所に居る…

『ああ、これは夢なんだな…』
少なくてもこんな場所知らないから…
纏わりついてくる空気はとても重く、それでいながら自分の身体はとても軽く…
地に足が着いていない…いや感覚が朧気だからか不安定という状態で安定しているようで…
『落ちつきませんね…』
薄暗いこの風景に心当たりはないが、それは何処にでもあるような深い森のようで、全く心
当たりのない場所と断定は出来ない気がしてきた…
『深い森の中は得てしてこういうものですし…別にここが何処でもいいんですけどね…』
ふっと自分が何かを握っている事に気づく…
『?』
さっきまで何も持っていなかったと思ったのに…いや、夢だからなんでもありか…
手には血の滴る刀…見れば右腕から胸から血でベッタリだ…
『あぁ…花喃に会いに行くトコか…』

もう花喃は死んだのに…

分かっている…

花喃は死んだ…


僕の目の前で…


顔を上げればユラリと回りの景色が一瞬歪み、そこら中の影を集めた様に…
そう、世界中の人の心の中から引きずり出したような巨大な影で城は作られる
また僕はあそこに行かなくてはいけない…
黒い闇の中…あの日確かに降っていた雨は降っていない…

少し違う…やはり夢の中だからだろうか…

あの日、雨にかすむ森の中で…霧がかる中に百眼魔王の城を見たのに…

ここは夢だと…

あの時とは違うのだと…


そんななんの意味もないのに黒い城の上に月が置いてあった…





少しずつ…少しずつ変わっていく僕の夢…
…いや、記憶が曖昧になっていくのだろうか…


忘れてはいけないから…
だから僕はこの夢を見続けるのだろうか…


忘れる事なんか出来る訳ないのに…



そして僕はゆっくりと歩き始める…
城に向かって…
刀を握り締め、僕は城内の妖怪を殺し歩くんだ…
地下への階段を見つけ、決して開かない鉄格子の向こうに花喃を見つける…




何度も見るこの夢が少しずつ変わっていくのなら…

いつか…

いつか夢の中でだけでいい…
それが現実ではないと分かっていて…
それでも尚…

尚、思う…
……いつか助けられる日が来るんじゃないかと…









《愛別離苦─悟浄─》









《言の葉あそび》