……長ぇ『鬼ごっこ』だったな このヒトコトに、一体どれほどの『想い』が込められていたのか、吊り上げられた男には微塵も理解 出来なかった。 ■ ■ コトの起こりは、いつもと同じ。 悟浄の『バカが付くほどお人好し』な性格が災いした。 助けたはずの少年に襲われ、気が付けばその少年さえも救えずに―――― そして、悟浄は己の矜持を保つ為だけにひとりで『カミサマ』とかいう、ふざけた男を捜しに出た。 残された八戒が、いつも傍らに在った暖かみを感じられないことに、寂しさを噛み締めないはずがない。 けれど、コレは悟浄が考えに考え抜いて決めたコト。 仮令、八戒といえども言葉を挟むコトは出来ない。 そう想ったからこそ、ひとりで行かせたというのに。 それなのに、いつの間にか『日常』と化していた存在の穴は、やはり誰にも、何にも補えない。 不本意の極み、と言わんばかりの表情で悟浄を追い、敵地に乗り込んだ一行だが、無様なまでの惨敗を 期し、自分を納得させるのに精一杯だった。 『神』に俗物の行動規範など判るはずがない。 再び遣って来た『オモチャ』に微笑みながら、『神』は有り得ない敗北に迷い込んでいく。 どうして、自分の手には何も残らないのか、『神』には判らない。 縋るものを喪くした『子供』は、彼にとっての『神』を想うが、何も持たない『子供』に微笑む『神』は 何処にもいなかった。 ■ ■ 『神』に見捨てられた『子供』は瓦礫に埋もれ、いまはその存在すら判らない。 「…………死んだのかな?」 ひとりで立っていられない程のケガを負ったクセに、悟空の口調はドコか、哀惜を帯びている。 これも、成長したってコトなのかな…? と暢気に考える八戒は、自らも銃弾に掠められ、抉り取られた 肉が疼いていた。 被弾直後、気孔で傷口は塞いだが、呼吸するだけで鋭い痛みが走る中、これまた、内蔵を傷付けている と思われる悟浄の肩を借りてやっと立っている状態である。 「…帰るぞ」 眉間に深い皺を刻む破戒僧のヒトコトは、八戒にジープを出せ、と言っているも同じだ。 八戒と悟浄が深手を負い、運転すべきは三蔵なのだ、と判ってはいるのだが、誰もが、彼が運転する乗り 物には乗りたくない、と感じているのは事実だった。 第一、彼は免許を持っているのだろうか? それを思うと、八戒は小さな溜息を吐きながら、自分が運転するしかないだろうな…と諦めるしかない。 「ジープ、疲れているところスミマセンが…」 小さな声で話しかける八戒に応えるかのように、ジープは「キュ…」と鳴く。 だが、自分の身体を離れ、運転席へ向かおうとする八戒を、悟浄が許すはずがない。 「お前に運転出来るわけねぇだろ。誰かサンから鉛玉、ぶち込まれたんだぜ?」 咥えた煙草をそのままに、肩に回す腕に力を込めると、三蔵の片眉が釣り上がった。 「言葉は正しく使え。二発ほど掠めただけだろうが」 「掠めた、ねぇ……。仲間を盾にして引き金引くのって楽しいんだろうなぁ」 「鉛玉をぶち込まれるのは、もっと楽しいかも知れねぇぞ?」 ガチャリ、と撃鉄を起こす三蔵に臆することなく、悟浄はニヤニヤと笑っている。 「遣れるモンなら、遣ってみろよ」 ――――あーあ……。 悟空と視線を合わせ、八戒は苦笑を漏らすしかない。 厄介事がひとつ消えたら、物騒な日常が舞い戻ってきた。 物騒だが、大切な『日常』。 とても、心地悦い『日常』。 だから、八戒はひとつの提案を試みる。 「じゃあ、こうしましょう。僕と悟浄は後ろに乗りますから、三蔵が運転してください。 モチロン、悟空は助手席でナビゲーターです」 人差し指をピン、と立て、満面の笑顔の八戒に、その場が一瞬、凍り付いた。 「………八戒さぁ、三蔵の運転する車に乗りたいワケ?」 引き攣った笑いを浮かべる悟空に、八戒は変わらぬ笑顔のまま、答える。 「出来れば、一生お断りしたいです」 「………ケンカ売ってんのか、貴様は…」 「っつーか……サルにナビが出来んのかよ?」 「サル言うなってんだろーっ!」 片目を眇める三蔵も、疲れたように笑う悟浄も、なにやら元気な悟空も。 総てを無視して、八戒は悟浄を促しながら後部座席へと向かう。 「八戒ってば!!」 叫ぶ悟空の気持ちは、シッカリと顔に書いてある。 『三蔵の運転する車に乗るような、そんな命知らずなマネはしたくねぇ!』 それは確かだが、八戒には八戒の計算がある。 「なんか、お腹空きませんか?」 「あ……そー言えば…」 たくさん運動したからなぁ…と、一日が五時間程しかない体内時計に注意を向けた悟空が、フラフラと 助手席へ向かう。 「美味しそうな匂いのする方向へ行けばいいんです。ほら、簡単でしょ?」 ニッコリ、と笑えば、悟空は大きく頷く。 「うんっ!! 判った♪」 「………バカが」 「三蔵、早くしてください。あなたに撃たれた傷が疼くんです。よもや、こんな僕に運転しろ、なんてコトは 言いませんよねぇ?」 舌打ちする三蔵への釘刺しも忘れず、八戒はこれ見よがしに悟浄へと凭れ掛かった。 「そりゃタイヘンだ。早くどっかの宿に行って、傷の手当てしなきゃな」 埃と血の臭いがする濃い茶の髪に接吻を落とし、悟浄は痩せた身体を抱き込むと視線だけを三蔵へ向ける。 「…………煩ぇんだよ、てめぇらは」 低く唸るように呟き、三蔵はドカッと運転席に座り込むと派手な音を立ててドアを閉めた。 「……三蔵」 態とらしい溜息で、八戒はその行為を咎める。 「ジープに当たるのは辞めてください。一番働いてくれてるのに」 「そーだよなぁ。仲間を盾にしたり、八つ当たりしたり。いやぁホント、徳の高い坊さんってのはどっか 違うよなぁ」 悟浄の煽り文句にキレなかった三蔵を不気味に思いながら、悟空は助手席で立ち上がり、西の方を指さした。 「三蔵、アッチだ!! アッチからメシの匂いがしてる!!」 と、同時に、ジープが跳ね上がるように発進する。 「うわぁ!!」 後ろに落ちそうになった悟空の頭を蹴り上げ、悟浄は笑いながら小さく言った。 「三蔵サマ、激しくお怒りのようだな」 「そりゃそうです。怒らせるようなことをしたんですから」 舌を噛まないように注意しながら、八戒は当たり前のように言う。 「取り敢えず、ケガさせられたコトへの仕返しは終了です」 三蔵の銃弾に肉を抉られたことくらい、大したことではない。 それが悟空であっても、悟浄であっても、八戒は同様のことをしただろう。 けれど。 悟浄が納得出来ないのだ。 愛しいモノを傷付けられ、それを黙って見過ごせるような男ではない。 だから、余計な騒動が起きる前に小さな爆弾を投げて見せたのだが。 「……まぁだ終わってねぇんだよ」 悟浄はまだ、きちんと納得していないようだ。 「お前は俺のモンなのに、どーして勝手にケガすんだよ」 「…悟浄?」 悟浄は、ナニに怒っているのだろう? 怪訝そうな視線を向ける八戒に笑いかけ、悟浄は埃で些し黒ずむ鼻先を摘んだ。 「俺以外のヤツに、傷なんか付けさせんな。それが、お前本人だったとしても許せねぇんだよ」 パチパチ、と数回瞬いた碧の瞳は、直ぐに柔らかく微笑み、小さく頷いた。 「…はい。気をつけます」 「どうだかな。お前、時々すっげージギャクテキになっから」 肩を竦める悟浄は、何処か寂しそうだ。 思い当たる理由は、ある。 けれど、それは悟浄の責任でもあるというのに。 「自虐的な僕は、キライですか…?」 広い胸に擦り寄るように見上げれば、紅い瞳が笑い出す。 「キライなワケねぇだろ? ジギャクテキなお前って、すっげーヤラシイもんよ」 「ヤラシイって……それは、あなたの所為なのに…」 クスクスと笑う八戒は、そのキレイな瞳を閉ざすと、ウットリとした口調で呟いた。 「僕が傷付いたら、あなたが治癒してくれるって知ってるから……だから、僕は…」 カラダの傷も、ココロの傷も。 総て悟浄が舐めてくれる。 優しく、そして諭すように、舐めて、治癒してくれる。 だから、八戒は無意識に自分を傷付けようとするのだろう。 クックッ、と笑い、悟浄は耳殻に飛ぶ血糊をゆっくりと舐めとった。 「あとで、ゆーっくり治癒して遣るから、覚悟しとけよ」 擽ったそうに首を竦める八戒は、「いまはダメなんですか?」と問うが、無言で示されるルームミラーに 苦笑せざるを得ない。 小さな鏡の中には、眉間の縦皺を深くして、不機嫌そうに『へ』の字に曲げた口許へ煙草を貼り付ける高僧 の姿があったのだ。 「……了解しました。僕だって、生命は惜しいですからね」 「だろ?」 交わされる会話は小さな声だが、立て続けに煙草を咥え続ける三蔵には、その内容がほぼ理解出来ていた。 『あのヤロー、掠める程度じゃなく、キレイに貫通させて遣ればよかった……!』 「腹減った〜★」と喚く悟空を左手に握ったハリセンで殴り飛ばし、物騒な後悔に深く胸を灼きながら、 三蔵はグンッ、とアクセルを踏み込んだ。 ■ ■ これ以上の不愉快はない、とでも言いたげな三蔵だったが、疲れ果てていたし、ナニよりゆっくり睡眠を 取りたかった。 「三日ほど滞在する」 そう言い棄てると、一番端の部屋へ向かって歩き出した。途中、突然振り返り、悟浄への親切な忠告も 忘れない。 「お前らは一番向こうの部屋にしろ。睡眠の邪魔だけは絶対、するんじゃねぇ」 いつもの三割り増しくらいの低い声で言い放ち、三蔵はドアの向こうに消えた。 「……やりっ♪ 三蔵サマ公認だぜ」 既に片手で八戒の尻朶を揉み始めていた悟浄は、苦笑するその愛しい存在を促す。 「なぁ、俺は?」 所在なさげな悟空は、殆どエネルギー切れだろう。苦笑する悟浄は、この場合、最も適した指示を下した。 「お前はな、下で腹一杯メシ喰って、クソして風呂入って寝ろ。ジープにもメシ喰わせるんだぞ」 「判った!」 ちからいっぱい頷いた悟空は、主人の許を去り難そうにしているジープを抱え込むと、一気に階段を駆け 下りた。 「さぁて……と」 軽い刺激に気を取られかけている八戒の顎に指を掛けて上向かせると、悟浄は顔を寄せて囁いた。 「邪魔者は追っ払ったし、ケガの治療と、お仕置き、しなきゃ、かな?」 「……ごじょう…」 薄く開かれた口唇からは、溜息とも吐息ともつかぬ音が零れ落ちる。 ――――もしかすると、解放された廊下での行為に対する咎めなのかも知れないが。 八戒にすら判別出来ないけれど、吸われる口唇の端がチリチリと痛み、そこを緩やかに舐められて『期待』 の吐息だったことを知る。 「…ザラザラしてんな、お前のクチビル」 離れた口唇でそれだけ言うと、些し深みを帯びた目許に接吻けて、悟浄は勢いよくドアを開けた。 「先ずは、シャワー浴びようぜ」 汚れた服と埃を落とし、ベッドでたっぷり『お仕置き』されるのだろう。 その時間を想い、八戒は痛みではない疼きを身体の奥に感じた。 連れ込まれたバスルームはヒンヤリとしていて、些しずつ顕わになっていく肌が寒さに粟立つ。 「…寒いな」 小さく呟き、悟浄はバスタブに湯を落とす。 そして、思い切りよく衣服を脱ぎ捨てると、改めて八戒に向き直った。 「…………ったく。余計なケガばっかしやがってよ」 それは八戒へ、と言うより、自分への苛立ちなのだろう。小さく舌打ちをして、悟浄は傷口に張り付く衣服 を慎重に剥ぐ。 「………ッ!」 悟浄の指は優しいが、それでも鋭く走る痛みは消せるモノではない。 表情を顰める八戒に、悟浄の眉が寄せられる。 「痛いか…?」 その気遣う様子が何処か可笑しくて、八戒は悟浄の頬へ指を伸ばした。 「お仕置き、なんでしょう?」 『お仕置き』だ、なんて言っておきながら、痛みに身体を竦ませる自分を気遣っている。 そんな悟浄が愛しくて、八戒は悟浄の頬を柔らかく包んだ。 「あなたがくれる痛みなら、僕は悦んでこの身に受け取りますよ」 恍惚とした表情で呟く八戒に、悟浄は何故かムッとしたような様子で視線を逸らせた。 「……悟浄?」 「…………もう、ヤなんだ」 頬を包む指で自分の方を視るように促すと、悟浄は叱られたコドモのように肩を落とし、白い手に大きな掌を 重ねた。 そして、たくさんの擦り傷に覆われる八戒の手をギュッ、と強く握り締める。 ――――その様子は、子供が母親に縋るようにも思え、八戒は胸の奥が痛む。 「お前が傷付くのを視るのは、もう…ヤダ」 キュッ、と寄った眉が『その時』の衝撃を物語り、八戒は自分の取った行為は間違っていたのだろうか? と暫し考えてみる。 恐らく、初めてだっただろう、四人が見せたチームワーク。 『彼』を怯ませ、初めての一撃を浴びせた悟浄。 その背後から飛び出して更なる痛打を与えた悟空。 そして、バリアを張ろうとして直ぐに辞め、両手を広げて『彼』の前に立ちはだかった八戒。 決定打は、八戒の陰から狙い澄ました三蔵の銃だった。 別に、三蔵を援護する為に盾になったわけではない。 悟浄を傷付けたくて己を盾にしたわけではない。 ただ―――― もういいでしょう、と。 あなたは『カミサマ』なんかじゃない、と。 ムリして『カミサマ』を演じることはないのだ、と。 それだけ伝えたかったのだ。 これ以上遣り合ってしまっては、悟浄が傷付いてしまう。 どれほど憎い相手でも、どんなに非道な相手でも。 寂しさと悲しさの陰を紅瞳にしてしまえば、悟浄は深く傷付くだろうから。 けれど。 三蔵は撃ってしまった。 悟浄の目の前で『彼』を撃ってしまった。 それは間違ってなんかいない。 立ちはだかった自分の後ろに、三蔵が静かに移動するのは知っていた。 その位置から銃を放つだろう、ということも判っていた。 そもそも、悟浄自身がその目的を果たす為に旅から抜けたのだ。 それでも、悟浄は深く傷付いたのだ。 だから。 『もう、済みましたから』 『何故……?』と疑問を言葉にする『彼』に、八戒はそう答えたのだ。 悟浄自身の『仇討ち』は既に終わっていた。 三蔵の放った鉛玉などではなく、悟浄がその拳を打ち込むことで終わっていたのだ。 直ぐにでもこの舞台に幕を引き、『彼』を閉ざされた空間から引っ張り出したかった。 僕は、間違ってなんかいない。 確かに、悟浄の受けた衝撃は、生半可なモノではないだろう。 自分の取った行動の所為で仲間が傷を負い、金閣だけでなく、『彼』をも救うことは出来なくて。 あまつさえ、八戒の身体に銃創まで与える結果になってしまったのだ。 けれど、悟浄だけが八戒の傷を治癒出来るように、八戒だけが悟浄の傷を治癒すことが出来る。 傷を負うことでしか判らないことだって、在る。 穏やかな笑顔で、八戒はゆっくりと言葉を開いた。 「……勝手に怪我してしまったことは謝ります。でもね、この傷は、僕にとって勲章でもあるんです」 男らしい手を握り返し、驚きに瞬かれる紅い瞳を凝視める。 「だって…………どれほどあなたに大切にされているのか、教えてくれる傷になったから……」 「…………言っとけ」 照れたように苦笑い、悟浄は八戒の肩にコトン、と紅い頭を乗せた。 「お前には敵わねぇよ、マジ……」 小さく呟き、悟浄は痩せて傷だらけの身体をそ……っと抱き締める。 その髪に頬を擦り寄せ、八戒はクスクスと笑って言った。 「僕は、あなたにこそ敵わないんですけどね…」 「……信憑性ねぇって、ソレ」 ククッと笑い、悟浄は血の滲む首筋をペロリ、と舐める。その刺激に身体を竦ませる八戒に気を悦くしたのか、 そのまま口唇を滑らせ、数え切れない傷口を唾液で消毒していく。 「…ッ……ぁ…」 ゆっくりと官能を刺激されながら、八戒は想う。 最期の最期に『彼』に手を差し伸べた悟浄の優しさに、僕の醜い魂が敵うはずが在ろうか? 僕は、いつだって悟浄の総てに焦がれている。 その姿に。 その魂に。 その、カラダに。 「……ごじょう………僕を…傷付けてください…あなたしかつけられない…あの場所に……傷を…」 ひっそりと請われた悟浄は、喉を詰めて笑うと、顔を上げて熱い吐息を零す口唇に接吻を落とした。 「んで、そのあとは俺が舐めて治癒してやりゃあ、いーんだな?」 襞を舐められることを極端に厭う八戒だが、今日だけはどんなことを要求されても応えよう、と決めていた。 仮令、紅い瞳に凝視められたままの自慰であっても。 それほどに悟浄を愛しい、と想っていることを伝えたかった。 悟浄の深い想いにどれだけ応えられるか判らないが、自分に出来ることはなんでも差し出すつもりでいた。 「あなたでないと、治癒せないトコロでしょう?……ちゃんと、治癒してください」 ギュッ、と悟浄の首にしがみつき、八戒は耳許に囁き落とす。 「……覚悟しとけよ」 低く囁き返される言葉に、八戒はカラダとココロを震わせることしか出来なかった――――。 ■ ■ 「ぁ……ひゃ…ぁん……」 仰向けに寝かされ、大きく脚を広げられ、八戒は身を捩りながらその刺激に酔っていた。 ピチャピチャと淫らな音を立てて襞の隙間を舐める悟浄の舌に翻弄され、羞恥など党の昔に棄て去っていた。 「ごじょ……ふぁ…や…ッ!」 時折鋭い痛みが走る中、ソレさえも快楽に置き換えられるカラダは、密の滲むペニスを揺らしながら悟浄を 求め続けてしまう。 先程、濡らしも解しもされないままに悟浄でこじ開けられたソコは、ピリッと紙を裂いたように切れ、鮮血 が滲んでいる。 悟浄だけが付けられる傷を、悟浄だけが癒せる術で、治癒してくれている。 揺れるペニスには一切触れず、ひたすらに自分が放った精と、滲む血を舐め取る悟浄が恨めしくもあり、 嬉しくもある。 キン、と頭に響くようだった痛みが、ジワジワとしたモノになり、やがて甘い痺れを感じるようになった。 蠢く襞にソレを感じ取ったのか、悟浄の舌は癒すモノから快楽を与える動きへと変わっていく。 「あ………ん…」 内股をソロリ、と撫で上げられ、八戒の口唇からは淫らな音しか零れない。 節立った指がペニスを掠め、陰嚢を緩く揉み、八戒はもっと鋭い刺激を求めてしまう。 そろそろ、あの熱い楔を埋め込んで欲しい……。 「ねぇ……ごじょう…」 熱い吐息で強請ってみるが、悟浄はニヤリ、と笑うだけだ。 「まだダメ。いま突っ込んだりしたら、また切れちまうだろーが」 密が零れ落ちるペニスの先端に音を立てて接吻け、悟浄は八戒を焦らす。 それは、もっと深く請わなければダメだ、ということなのだろう。 ボンヤリとした頭でそう考えた八戒は、震える両脚を更に広げ、細い指を自らのペニスに絡ませた。 全身を羞恥の赫に染め上げて、小さく呟く。 「お願いです……あなたが欲しくて…欲しくて……気が狂いそうなんです…」 ヌチュヌチュと淫猥な音を立ててゆっくりとペニスを扱くと、その刺激で襞がキュッ、と締まるのが判る。 同時に、悟浄の紅い視線に自らの痴態が曝されている、と想うだけで羞恥が更なる悦楽を誘い出すから不思議 だ。 そして、淫らに自慰をしながら腰を揺らす八戒の姿に、悟浄の紅瞳が眇められる。 腹に残る引き攣った大きな傷痕と、両脇腹に出来た真新しい銃創。 その他にも無数にある大小の傷。 こんなに傷付いたカラダでいながら、八戒は悟浄を誘い掛けている。 潤んだ瞳は常より深い碧を放ち、喘ぐ吐息からは甘い香りが漂い、チロチロと見え隠れするピンクの舌は 悟浄の接吻を請うている。 …………ヤベェよ、お前…ヤバすぎだってーの。 ココで暴走したら、再び傷を付けることは判っている。 けれど。 傷付けてしまったら、また舐めて治癒してやればイイだけのこと。 ククッ、と喉を震わせ、悟浄は身体を上げて八戒の頬へ接吻を落とした。 「そんなに欲しいんだ?」 鼻と鼻とを触れ合わせ、悟浄はとびっきりの色悪さで八戒を淫靡なだけのイキモノにしてしまう。 「ください……早く…!」 ガッシリとした腰に脚を絡ませ、腰を浮かすようにしてペニスを擦り付ける。 そんな媚態に誘われるように、悟浄は滑らかな膝裏に両手を掛けて入り口へと己のペニスを宛う。 「あぁ……ごじょう…」 これ以上は我慢出来ない、とでも言うように、上擦った声で自分を請う八戒に、悟浄はニンマリと笑った。 そして、そのままズブリ、と先端を埋め込む。 「あぁぁ……」 漸く与えられた深い快感に、八戒は閉じた瞳から滴を落とした。 激痛、としか言えないような辛さを覚えた一度目の挿入とは全く違う、熱くて優しくて、抉るような快楽。 それらを与えてくれる悟浄が愛おしくて、八戒はしがみつくように広い背中を抱き締めた。 「ごじょう…もっと……深く…来て……」 恍惚とした表情で喘ぐ八戒に、悟浄も余裕というモノを無くしてしまう。 細い腰を吊り上げるようにして最奥を突くと、直ぐに抜き出し、また深くねじ込む。 何度も何度もそうやって八戒を啼かせ、悦がらせ、自身も深い快感を味わう。 やがて、快楽の限界を超える瞬間が来て、ふたりはきつく抱き合ったまま、長く熱い吐息を漏らした。 「………痛くねぇか?」 宥めるような接吻の合間に尋ねられ、八戒ははんなりと笑った。 「悦すぎて……痛みなんて感じてるヒマがありませんでした…」 その応えに満足したのか、コドモのようにクシャッとした笑顔を魅せ、悟浄は汗で白い額に張り付く髪を 優しく払いのける。 「あのさぁ……お前ってムチャしすぎ」 それが何を指しているのか、瞬時には判らなかったが、恐らく『あの時』を言っているのだろう。 だから、悟浄の右頬に残る青痣を指で撫でて言った。 「あなたがいたから。……直ぐ傍にあなたがいたから、僕はあんなことが出来たんです、きっと」 「なんで俺の所為なんだよ?」 殴られたあとに触れられると痛むのか、些し表情を顰めた悟浄は不服そうに笑う。 「だって……」 クスクスと笑いを漏らし、八戒は掠れた声でゆっくりと言葉を開いた。 「だって、僕が死にそうになったら、また……あなたが拾ってくれるでしょう?」 出逢いは、拾うモノと拾われるモノだった。 手放したかった生命と、無理矢理この世に繋ぎ止めたかった生命。 与太話を聞いたときのように、悟浄は笑った。 「そりゃそーだ。お前がバカ遣ったらよ、何度だって俺が呼び戻して遣るぜ」 俺が呼べば、お前は戻ってくるんだよな? 俺のいるトコに、お前はいるんだよな? それを『信頼感』と呼んでいいのかは判らない。 けれど、ふたりは相手を信じているからこそ、何度でも同じことを繰り返していくのだろう。 エゴイズムの延長でしかない『信頼感』だが、それこそが冀求の極みなのかも知れない。 楽しそうに笑い合ったふたりは、緩く抱き締め合ったところで疲労感、というモノを思い出した。 「…………なーんかさ、すっげー疲れた気がすんだケド…?」 「ええ。ついでに、とってもお腹が空いた気がします…」 深く溜息を吐き、長かった一日を振り返る。 「……取り敢えず、ゆっくり寝てさ、体力ってモンを回復しよーぜ」 ズルリ、と八戒の隣へ身体をずらせた悟浄が言う。 「…とゆーか、この状況でセックス出来る僕らって、かなりの体力持ってるのかも……」 呆れたように八戒は言うが、悟浄にしてみれば、お前が誘ったんだろーが、と言いたい。 けれど、いまは身体が睡眠を求めすぎ、そんなことはどうでもいいように想える。 「いーから、もう寝ようぜ」 欠伸をしながら細い身体を抱き寄せ、悟浄は瞳を閉ざした。 「……そうですね…」 呟く八戒も、瞼を降ろした途端、そのまま寝息を立て始めてしまう。 誰もがココロの支えを欲しがって、それを求めて彷徨っている。 運良く出逢えた者はイイ。 けれど、最期まで出逢えなかった者はナニを想って逝くのだろう? 夢の中でふたりは願う。 せめて、『彼』が最期に求める答えに出逢えたことを――――。 |
秋津さんのコメント 私の憎悪を一身に浴びることになったGF11月号の三蔵サマ。 ……悟浄ちゃんの愛する八戒さんに傷なんか付けるんじゃねぇよっ!! と叫んだワタクシ。 とうとうこんな企画を呼びかけてしまいました(^^;) 題して『GF11月号抗議企画』(即死) 内容としましては、八戒さんのあのセリフ。 アレを58クサレ乙女的に読むと、こーゆーコトになったわけです。 っつーか、ホントにそう想ってたんだもん。 …八戒さんの背後からヌッと現れる三蔵サマを目にするまでは★ あとね、八戒さんの傷を舐める悟浄ちゃん♪ とゆー美味しいシーンが 必須科目でしたが、12月号で見事にひっくり返されたんで、こんな傷 を作ってみました(苦笑) ……ダメだね、このクサレ乙女★ ちなみに、タイトルは「信頼」というイミがあるらしいです(苦笑) |