「誕生日おめでとうございます、悟浄。」
そう言って、八戒が微笑む。
まるで自分のことのように、本当に嬉しそうに微笑むその姿に
悟浄もまたゆっくりと口許に笑みを浮かべる。
 「…ああ、サンキュ。」
そう礼を返すと、さらに八戒が嬉しそうな顔になる。
     
――ああ、そうか。俺は生まれてきてよかったんだな。――
     
心からそう思えることが、何より嬉しい。
そう言ってくれる人がいる、それがこんなにも愛おしい。
     
誰も望まなかった、自分の誕生。
自分が生まれたから、母は死んでしまった。
自分が生まれたから、義母は心を壊すほど苦しんだ。
自分が生まれたから、兄は母殺しの罪を負ってしまった。
     
頬に刻まれた二筋の傷。
一生消す事の出来ない罪の証。
     
だから自分はイラナイモノだと思い、それが苦しくて辛かった。
人と深くつきあうのを避け、心を通わせる事を恐れた。
生きながら死んでいた自分に、こんな日が訪れるとは思わなかった。
そう、一年前までは。
     
一年前の今日、あの日互いに互いの事を語り明かした。
自分の痛みも苦しみも、吐きだしてしまえば驚くほど楽になって。
ようやく本当に前を向いて歩き出せると思ったら、
道の上に八戒が立っていた。
     
――こいつと一緒に歩いていこう。――
     
そう決めたら、もっと楽になった。
野郎だろうがなんだろうが、そんな事はどうでもいい。
こいつとなら、何があっても歩いていける。
それだけで充分だった。
     
そして一年。
やっと一年。
ひとつ年を重ね、そしてまた来年ひとつ一緒に重ねるのだろう。
そんな予感は、たぶん確信で。
     
     
 「くれるのは言葉だけ?」
形になるものも欲しいと暗にねだれば、八戒がくすくすと笑いながら
尋ねてくれる。
 「何が欲しいんですか、悟浄は。」
 「ん〜そうだなぁ。今一番欲しいのは…。」
そう言って、ちらりと悟浄は八戒の顔を見る。
すると、それに気付いた八戒が悪戯っぽい瞳で笑みを浮かべる。
そして悟浄の肩に両手を置くと、頬の傷に優しいキスをする。
 「おめでとうございます、悟浄。」
耳元でそう囁くと、反対側の頬にもまた小さなキスを落とす。
 「あなたが生まれてきてくれて、嬉しいです。」
同じようにまた耳元で囁き、額にもひとつキスをする。
 「ありがとう悟浄。生まれてきてくれて。」
まるで神聖な儀式のような口付けと囁きは、優しい温もりとなって
悟浄の心と体を優しく包み込む。
くすぐったいような、泣きたくなるような不思議な気持ちで
胸がいっぱいになる。
 「悟浄…。」
優しく名を呼びながら、最後にその口にキスをしようとした八戒を
照れた笑いを浮かべた悟浄がそっと制した。
 「最後のこれは、俺から…な。」
指先で八戒の唇をそっと指先でなぞりながら、悟浄がその耳に
低い声で囁く。
くすぐったそうに微かに肩を竦めると、八戒は静かに目を閉じる。
自分に全てをゆだねてくれる、八戒のそんな表情に満たされながら
ゆっくりと悟浄は唇を重ねた。


*END*






悟浄の誕生日ということで。ゲロ甘でラブラブ?
タイトル解りにくい気がする…ネーミングセンスが欲しい。うん。
最初は、この話の一年前というのをせっせと書いていたのですが…。
書いても書いても…終らない。(-.-;)
誕生日に間に合いそうにもないので、とりあえず結末からいきました。
ところで長文って連載形式がいいのかな、それとも一括がいいのかな。
みなさま、どっちがよいですか?



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