「なあ、これ食えるの?」 前を歩く八戒の袖を引っ張りながら悟空が指さしたのは、木の根本に生えて いるキノコの群れだった。 問われた八戒は少し首を傾げて答える。 「さあ、僕もあんまり知らないんですよね。」 「え?八戒も知らないことあるんだ。」 悟空が目を大きく見開いて驚いたような顔でそう言う。 八戒はといえば、そんな悟空の態度にただ苦笑する。 「買いかぶり過ぎですよ。僕もそう何でも知っている訳じゃないです。」 「そう…なんだ。」 「…そんなに意外ですか?」 「うん。」 まだどこか納得いかないといいたげな悟空の顔つきに、八戒はさらに苦笑を 深めるしかない。 「ああ、とりあえずそれ…悟浄に聞いてみるといいと思いますよ。」 「へ?悟浄に?」 なんで悟浄に聞くんだ?と言葉よりも雄弁な顔つきに、とうとう八戒は軽く 吹き出してしまう。 「なに?俺の噂してんの?」 少し離れた場所で煙草をふかしていた悟浄が、二人の会話の中に自分の名前が 出てきたのを聞きつけ寄ってくる。 「ああ、悟浄ちょっとこれ見てください。」 八戒がそう言いながら先程のキノコの群生を指で示すと、悟浄はその方向へ 首を向ける。 「キノコ?これが何だって?」 「食えるのかって八戒に聞いたら悟浄に聞けって。」 なんで八戒じゃなく悟浄に聞くんだ?と疑問符をたくさん頭上に浮かべたまま 悟空が簡潔に説明する。 「ふ〜ん。」 悟浄はひょいとキノコの群の前に腰を屈めると、一本をつみ取ってしげしげと 見つめる。 「これ、食えるぜ。煮ても焼いても旨いから少し取っていくか。」 「やたっ!」 食べ物が増えて単純に嬉しい悟空が、嬉々としてキノコを摘み始める。 樹の前にしゃがみ込んだ悟空とは反対に、立ち上がり煙草の箱をポケットから 取りだしながら悟浄が言う。 「小さいのは残しとけよ。」 「解った。」 素直に悟空は、大きいものだけを選んで取っていく。 軽くあたりを見渡した悟浄が、いくつかの食べられる山草とキノコを指し示 せば、悟空が真剣な顔でそれを聞いている。 顔を合わせればなにかと騒がしい二人だが、こういう時は別のようだ。 まるで兄弟のような風景に、八戒がくすりと小さく笑う。 「なに?」 「いえ、やっぱり悟浄は詳しいなあって。」 聞きとがめた悟浄が八戒に視線を向ければ、にこりと笑って答える。 そんな八戒のにこにこ笑顔に対し、口の端だけ器用に引き上げて独特の笑みを 浮かべた悟浄が言う。 「カイショウあるっしょ?」 「ええ、頼りがいがありますよ。アウトドア限定ですけど。」 「うわぁ八戒さんってばキビシイ。」 問われた八戒が少し意地悪そうな瞳で答えると、悟浄が大げさにがっくりと 肩を落として嘆いてみせる。 「なあ、どうやって見分けるんだ?」 一通り食料になりそうなキノコや野草を両手に一杯抱えた悟空が、戻ってくる なり好奇心いっぱいな顔つきで悟浄に尋ねる。 「あ、僕も後学までに知りたいです。」 八戒も悟空と同じく興味津々といった視線を悟浄に向ける。 悟空はともかく、八戒に自分が何かを教えるというのはかなり珍しい。 少し得意になって口を開きかけた悟浄は、意味ありげな笑みを浮かべて悟空の 抱えているキノコをひとつ手に取る。 「知らねぇのか?こうやって。」 悟浄はそう言いながら二人の目の前でキノコのかさを両手で引っ張り、ぴっと まっぷたつに裂いてみせる。 「きれいにふたつに裂けたら食えるんだぜ?」 ひらひらと二つに裂いたキノコを振りながら、悟浄がにやりと笑う。 「ふ〜ん。」 「へえ、そうなんですか。」 感心したような悟空の声に、八戒の台詞が重なる。 ちらりと視線を向けて悟浄はため息をつく。 ──絶対、こいつ今の信じたな…。── 悟浄は心の中で小さくため息をつく。 悟空はともかく、八戒まで今の話を信じるとは正直思ってはいなかった。 普段は鋭すぎるくらいに聡いのに、時折妙なところでころっと騙されるのだ。 「…っていうのは迷信だから信じるなよ。」 「メイシンって?」 ため息混じりに悟浄がそう言えば、悟空がすかさずそう聞いてくる。 「んな事はどうでもいいの。一番手っ取り早い見分け方教えてやるから、 おい猿、口開けろ。」 「さるって…むぐ…!」 抗議しようと悟空が口を開けた瞬間、悟浄が裂いたキノコの片割れをその口に 無理やり押し込む。 いきなり喉の奥までねじ込まれて、悟空は目を白黒させながらも必死で口の 中のキノコを飲み込もうとする。 「…人体実験、ですか。」 そんな悟空を苦笑混じりに見ながら八戒が言えば、悟浄は残ったキノコを放り 投げ、ポケットから煙草をとりだし口に銜えながら答える。 「いんやぁ、動物実験。」 「…はぁ。」 なんと感想を漏らしていいのか。 そんな顔で八戒はため息をついた。 *第3話 正しいキノコの見分け方 END* |
今回の全ての発端は、使い回しのビデオテープの中にキノコ取りの話が あったから。やっぱり山で山菜やキノコを取って、タケノコも掘って 鍋パーティー!…って、だからグルメな旅じゃないんだって。 ちなみに八戒よりも悟浄の方があちこち旅してる分だけ、こういうのに 詳しそうだな〜とか思っただけです。弱い根拠だ。(-.-;) |