「ピィ」 「もうちょっと待ってくださいね、ジープ。」 荷物の上に乗ったまま、食事を始めた皆の様子を見ていたジープが、ぱさっ とかすかな羽音と共に地面に着地すると、よたよたと八戒のそばへ寄る。 八戒は、小皿の上に焼いた魚をほぐしながら入れていく。 「まだ熱いですね。少し冷まさないと。」 お腹が空いたらしく、しきりに八戒の手元とその横顔を交互に見るジープに 優しく笑いかけると、八戒は小皿のほぐし身をふうふうと吹いてやる。 「いーなぁ。」 感心するほどのスピードで焼き魚を平らげていた悟空が、ふと手を止めその 光景を見つめながらぽつりと言う。 「はぁ?」 「え?」 悟浄と八戒は思わず悟空を振り返り、三蔵は無言でビールを口に運ぶ。 何も聞こえなかったとでもいうような態度で。 当の悟空はといえば、皆の反応に驚いたようにきょとんとした顔をする。 「あれ?俺ヘンなこと言った?」 「いーなぁって、お前もお子ちゃまみたいに熱いからふうふうして 欲しいって言うんじゃないだろうな。」 「ピイ!」 さも呆れたといわんばかりの口調で悟浄がそう言えば、バサッと両の翼を その場で大きく羽ばたかせ、鋭い声でジープが鳴く。 「悟浄、ジープが抗議していますよ。自分は子供じゃないって。」 苦笑まじりに、八戒がジープの言葉を代弁する。 そしてほぐし終わった魚の骨を取り除き、その小皿をジープの前へ置けば、 ジープは威嚇するように広げていた翼を閉じ、細い首を皿の中へと伸ばす。 「そいつは動物だからいーの。ああ、そういやぁ猿も動物か。」 「だーかーらぁ!俺は猿じゃないって…。」 小馬鹿にするような口調で悟浄がからかえば、かちんときた悟空がすぐさま 噛みつくように言い返す。 が、それは単に悟浄の思うつぼでしかなかった。 ニヤリと一段と悟空の神経を逆なでするような笑みを口許に浮かべると、 悟浄が背の高さを違いを強調するかのように、上から覗き込みながら言う。 「猿じゃなったら何だ?犬か?キジか?」 「なんだよ、それ!」 桃太郎の家来ですか…とのんびりと心の中で呟きながら、悟浄と悟空の低次元 な言い合いをきれいに無視して、八戒は焼き冷ましたキノコをひとつジープの 小皿に入れる。 「はいはい。それくらいにしないと怒りますよ?」 徐々にヒートアップする口ゲンカに、八戒が頃合いを見てぱんぱんと手を叩き ながら分け入る。 「「え?八戒が?」」 「いえ、三蔵が。」 ぎくり、といった顔つきで二人そろって同じ顔つきで同じ台詞を言えば、 のほほんとキノコを口に運ぶ八戒の隣で、三蔵がチャキと愛銃の安全装置を 外す音が聞こえる。 「メシぐらい静かにくえんのか、てめぇら。」 「いやん、食事中に銃ぶっぱなすのって行儀悪いわよん。」 怒りで逆に静かになった声で三蔵がそう言えば、悟浄がすかさずおネエ言葉で からかいを入れる。 とたん、三蔵のこめかみにぴく、と三差路が浮かび上がる。 「……。」 ガウン、ガウン! 「うわっ!」 「ちっ。」 悟浄の声と、三蔵の舌打ちの音が銃声に重なる。 三蔵が引き金を引く瞬間に、慌てて悟浄はその銃口から体を反らせるが、 耳元と頭のてっぺんを銃弾が掠めていく感覚だけは残る。 「って、誰が一番うるさいって言うんだ、ああっ?」 「てめえだ、てめえ以外誰がいる。」 三蔵を睨み付けながら悟浄が大きく腕を振って抗議すれば、三蔵は射殺さん ばかりの視線を向けて言い放つ。 喧々囂々と言い合うふたりをよそ目に、八戒は悟空に問いかける。 「いいなぁって、何がです?」 「うーん、なんかそう聞かれると自分でもよくわかんないけど、ジープと 八戒見てたらいいなぁって思って。」 俺ヘンかなぁ、と小首を傾げる悟空に、小さく八戒は笑う。 「ヘンじゃないですよ。僕とジープが仲良くしていたのが良かったって、 そういう事でしょう?」 「うん、そう…なのかも。」 優しく尋ねられて、悟空は懸命に自分の気持ちを追おうとする。 そんな先生と生徒なふたりの背後で、なおも残り二人の戦いは白熱していく。 「だいたい何でボウズのお前が肉や魚食ってんだよ?」 「ふん、俺の勝手だ。」 今更、といえば今更な内容ではあるが、悟浄が至極まっとうな抗議をする。 が、やはりそんな事くらいで傲岸不遜を地で行く三蔵は動じたりしない。 「けっ、鬼畜生臭ボーズ。」 「…死にたいか?」 チャキと撃鉄を起こせば、悟浄はにやりとふてぶてしい顔で嘲笑う。 そんな背後でまき起こる喧噪などどこ吹く風で、八戒と悟空は実にほのぼの とした空気を作り出していた。 「うらやましがる事なんてないですよ。だって僕もジープも 悟空が大好きですから。」 ねえ、ジープ。と肩に乗っているジープにそう話しかければ、キュと小さく 応じるようにひと声鳴き、ジープは細い首を伸ばし悟空の頬をぺろと舐める。 「俺もジープと八戒大好きだぜ!」 「ありがとう、悟空。」 満面の笑顔で悟空にそう言われて、八戒が嬉しそうに微笑む。 「…って、止めろよお前ら。」 銃弾を避けながら悟浄が二人に抗議すれば、八戒がにっこりと微笑んで言う。 「あれ?止めて欲しかったんですか?」 「はっかい?」 「僕はてっきり、三蔵と二人で仲良く遊んでるのかと思っちゃいました。」 「………。」 笑顔が寒い。 見た目は普通のにこにこ笑顔なのに、なんでこんなに寒く感じるのだろう。 常々不思議に思う事ではあるが、それを追求する勇気も気力も今の段階では 沸いては来ない。 「…ちっ。」 同じ事を感じたらしい三蔵が、小さく舌打ちをすると残ったビールを飲み始め 悟浄は煙草を吸い始めるしかなかった。 *第5話 食事は楽しく END* |
ほのぼの〜。園児と保父さんの会話。 たぶん、これが彼らのいつもの食事風景なんだろうなぁ。 楽しいといえば楽しいけど、やかましいといえばやかましい。 そしてやっぱり、八戒さんてば最強?(笑) |