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東京財団「朝鮮半島情勢の中長期展望と日本に関する研究プロジェクト」が「単独制裁で独裁者金正日に正しいメッセージを送れ」として平成17年2月14日に発表


単独制裁で独裁者金正日に正しいメッセージを送れ 平成17年2月14日

「研究の経過と総合的報告」平田隆太郎(プロジェクトリーダー)

東京財団「朝鮮半島情勢の中長期展望と日本に関する研究プロジェクト」では、北朝鮮を取り巻く国際環境の変化及び朝鮮半島情勢そのものも目が離せない状況にあるとの認識に立ち、日本の対応について研究をすすめてきた。研究結果については、韓国情勢、北朝鮮情勢、米国情勢、核・ミサイル開発、拉致問題等の地域やテーマを中心に2月中に論文を提出する予定である。本プロジェクト委員は下記の通り。

平田隆太郎(プロジェクトリーダー)
惠谷  治(ジャーナリスト)
島田 洋一(福井県立大学教授)
西岡  力(東京基督教大学教授)
李  英和(関西大学助教授)
安  明進(元亡命工作員)

平成16年12月8日に横田めぐみさんの遺骨と称するものが捏造であったことが判明したことに対し、北朝鮮への制裁の世論が高まるとともに、これに対し、

@経済制裁をするとミサイルが飛んでくるなど軍事報復される
A経済制裁は弱い立場にある北朝鮮人民を苦しめる
B経済制裁、単独制裁は効果がない
C単独制裁を発動すると国際社会から非難される

等の「神話」的言論が語られるようになった。そこで、本プロジェクトでは、「単独制裁で独裁者金正日に正しいメッセージを送れ」との共通テーマの下、上記の「神話」的言論に批判を加え、緊急提言を行うこととした。

なお、各提言は、全員が意見交換を行って作成したものであるが、執筆責任は各委員にある。
提言は次の5つである。

総合タイトル−単独制裁で独裁者金正日に正しいメッセージを送れ
提言1.制裁で北朝鮮の対日政策を変えよう(西岡 力)
提言2.制裁を発動してもミサイルは飛んでこない(惠谷 治)
提言3.制裁が北朝鮮人民を救う(李 英和)
提言4.米国を中心とした制裁論議(島田洋一)
提言5.金正日に正しいメッセージを送れ(平田隆太郎)

提言1.「制裁で北朝鮮の対日政策を変えよう」は、経済制裁は効果がない、単独制裁は効果がないとの「神話」を批判したもので、論点は以下の通り。
・単独制裁で韓中の拉致解決協力を引き出せる
・国連安保理決議に拉致を取り上げさせるステップになる
・制裁は北朝鮮の対日政策責任者を変えさせる効果がある
・ポスト金正日候補に拉致被害者を返さなければ経済協力はないことを伝える
・制裁は、日米同盟の維持発展にも効果がある

提言2.「制裁を発動してもミサイルは飛んでこない」は、制裁を発動すると、北朝鮮からミサイルが飛んでくる、軍事報復があるなどの「神話」を批判したもので、論点は以下の通り。
・日本向けのミサイル「ノドン」が100〜200基が配備されているが、小型核爆弾は完成していないと推定される。
・「ノドン」が日本に向けて発射されると、日米安保条約が即座に発動され、日本でも防衛出動が発動され、金正日政権が終焉するので、金正日は発射命令を下すことはできない。
・「ノドン」は、ナチス・ドイツのV2ロケットの改良型で火薬量も同じ1トンである。V2は1発あたり5人前後の死者を出す程度のもので、「ノドン」は金正日政権の命運をかけて発射するほどの核ミサイルではない。
・北朝鮮人民軍は南侵しない。北朝鮮の軍事的暴発はない。
・北朝鮮の卑劣なテロに屈しない覚悟をすればテロの危険が少なくなる。北朝鮮が仕掛けてくる心理戦に対処する気構えが必要である。
・国交正常化により経済協力資金が得られる期待があるため、拉致問題で謝罪した金正日がミサイル攻撃すれば、その努力が水泡に帰す。
・経済協力資金を払う用意があるという日本の世論がある限り、ミサイルは飛んでこない。

提言3.「制裁が北朝鮮人民を救う」は、経済制裁は弱い立場にある北朝鮮人民を苦しめるとの「神話」を批判したもので、論点は以下の通り。
・アサリなど北朝鮮産魚貝類の輸入停止は、独裁政権による飢餓輸出をやめさせ、極度の栄養失調(蛋白質不足)に陥っている児童や妊産婦を助ける人道的効果がある。
・無煙炭の輸入停止は、日常生活で深刻な燃料不足に悩む北朝鮮国民への「エネルギー支援」となる。
・送金禁止は朝鮮総連系の社会活動と教育活動を健全化して再生させる効果が期待される。
・特定船舶(とくに万景峰号)の入港禁止は、一般の在日朝鮮人の北朝鮮親戚訪問を北京経由の航空機ルートに切り替えさせ、訪問者の負担を軽減して利便性を高める人道的効果がある。

※「日本の単独制裁は国際社会の批判にさらされる」との「神話」に対し、
「米国を中心とした制裁論議」のタイトルを「日本の単独制裁を国際社会は許容する」にしたらどうでしょうか。

提言4.「日本の単独制裁を国際社会は許容する」は、単独制裁を発動すると国際社会から非難される、単独制裁は効果がない、日本が制裁すれば北朝鮮が6者協議に出なくなる、との「神話」を批判したもので、論点は以下の通り。
・北朝鮮を「悪の枢軸」と呼び、北朝鮮人権法を作ったアメリカは日本の制裁を支持する。
・まず日本が単独制裁を発動することが必要で、単独制裁には効果がある。
・日本が単独制裁を行わないと国際社会に誤ったメッセーを伝えてしまう。
・安保理決議を待つ必要はない。安保理決議を待つと、武器取引の禁止や国連からの支援プロジェクトの凍結が先行決議され、改正外為法や特定船舶入港禁止法の発動が難しくなる。
・北朝鮮が6者協議に出なければ、安保理で制裁論議をすればいい。
・アメリカの単独制裁がリビアを変えた。
・北朝鮮の核問題で国連決議案が採択される際、拉致問題を併記させるべき

提言5.「金正日に正しいメッセージを送れ」は、小泉首相等の発言を取上げ、間違ったメッセージを送る限り、北朝鮮の対日政策は変わらず、拉致被害者の救出ができないとし、誤ったメッセージを送るだけでなく、伝えるべき時に沈黙したり、伝えるべきメッセージを送らないことも大きな問題であるとしたもので、論点は以下の通り。
・「間違ったメッセージ一覧表」を掲示
・平壌宣言違反を指摘すべき
・対日政策責任者に言い訳を与えるな
・戦後のトラウマを乗り越え毅然たる対応を


●「提言1.制裁で北朝鮮の対日政策を変えよう」西岡  力(東京基督教大学教授)

 拉致問題を理由にした対北朝鮮制裁について「効果がない」という人もいるが、けっしてそんなことはない。中国や韓国に拉致問題に協力させるためには、まず日本が制裁をかけなければならない。日本一国で北朝鮮が変わらないなら、中国や韓国に対して「拉致問題解決に協力してください。日本はもう制裁をしているのです」といえばいい。六者協議の場で拉致問題を出して、四カ国に「制裁をしましょう」と提案することもできる。

単独制裁で韓中の拉致解決協力を引き出せる
 韓国・中国は米国主導で対北朝鮮経済封鎖などが実施されることを避けたいので、金正日政権に対して核問題での譲歩を迫るべく様々な説得を行っているが、その際、多額の経済協力実施を材料としている。しかし、韓国・中国は自国が経済的に負担する用意はなく、日朝国交回復に伴う日本からの政府開発資金をあてにしている。日本が拉致を理由に単独制裁をかけるならば、韓国・中国は拉致問題が完全に解決しない限り資金を提供しないという日本の断固たる姿勢を理解し、核問題を巡る金正日に対する説得のなかに、拉致問題で日本を納得させうる対応をするようにという注文も追加でつけるようになる。いくら核問題で金正日が大きく譲歩しても、それだけでは日本は拉致を理由にした制裁を解除せず、資金を出さないから、結局、妥協は成立しないからだ。逆にいえば、そのような判断を韓国・中国政府にさせるためには、いま日本が拉致だけを理由にして制裁発動すること以上に、よい策はない。

国連安保理決議に拉致を取り上げさせるステップになる
さらに国連の安保理事会に諮って、拉致問題を理由に国際的な制裁をかけるように仕向けることも大切だ。アメリカはリビアによる旅客機爆破テロに対してまず自国で制裁をかけ、その上で国連の安保理に持ち込み国際的な制裁をかけた。日本もまず一国で制裁をかけることだ。自国でかけていなかったら、他国の協力は得られない。
 日本がすべきことがある。近い将来、国連の安保理事会で北朝鮮の核問題が議論される可能性が高い。そこで制裁決議が書かれる際に、日本は外交力を駆使し、その決議案のなかに「日本人、韓国人拉致被害者を全員帰さない限り経済制裁をつづける」という文言を入れる必要がある。そこには当然「北朝鮮が核開発をやめない限り経済制裁をつづける」と書かれるだろうが、拉致問題を併記させることが重要だ。
イラク戦争に関してアメリカの攻撃の根拠になった国連安保理決議1441号(2002年11月8日、中国ロシアも含む全会一致で成立)には「拉致」が入っている。「安保理はイラク政府がイラクによって不当に拘禁されたクウェート人や第三国国民を、送還あるいは消息確定に向け協力すべきとした(累次の)国連決議をないがしろにしてきたことを遺憾とする」と明確に書いてある。このようにクウェートの力でできたことを日本ができるか。国家としての日本の姿勢が問われる。そのためにはまず日本が単独で制裁をかけておくことが絶対不可欠だ。

制裁は北朝鮮の対日政策責任者を変えさせる効果がある
 制裁は、北朝鮮の内部に向けたメッセージでもある。今回、横田めぐみさんの遺骨が偽物であることがわかった。しかし北朝鮮の担当者は、2年かけて日本の鑑定能力を調べ、これならバレないと思ってめぐみさんの偽物の遺骨を出してきた。そのさい、これで拉致問題は終結しますと、金正日の決済を取っていることは間違いない。ところが、問題終結どころか日本は怒りで沸騰している。担当者は今必死で金正日に、「帝京大学の鑑定が捏造である、その証拠は小泉首相が怒りを表に出さず話し合いの継続を強調している」などと、弁解しているはずだ。このまま制裁発動がなされないなら、現在の担当者があらたな「死亡証拠」として、めぐみさんたちの危害を加えて遺骨などを作り出す危険性が高まる。
 日本が拉致だけを理由に単独制裁を発動すれば、金正日に日本の不退転の決意が明確に伝わり、担当者は間違いなく替えられる。これこそがチャンスで、ここで初めて「8人死亡、2人未入境」というシナリオを書いた人間とは別人物が担当者になる。
 新たな担当者は「どうすれば日本からお金をとって、経済制裁を解除させられるか」を考えることになる。このときおそらく「8人死亡、2人未入境」とされた10人を帰すことを考える可能性は高い。10人取り戻したら、次につながる情報が絶対に出てくる。それをどんどん北朝鮮につきつけ、全員を取り戻すまで闘いつづければよい。それには「現在の北朝鮮の担当者は失敗した」「日本はこの鑑定結果にまったく納得していない」ということを、まず金正日に教えなければならない。そのための経済制裁だ。

ポスト金正日候補に拉致被害者を返さなければ経済協力はないことを伝える
 北朝鮮内部は、いつ何が起こるかわからない状態で、金正日に対する国民の支持は地に落ちている。仲間内だけの席では金正日のことを「あのやろう」と呼んでいるときく。とはいえお腹をすかしている人民が蜂起することはできないから、政変が起きるとすれば、軍隊か政治警察などの武力をもっている人たちが、金正日を暗殺したり逮捕するというかたちになるだろう。このとき一時的に治安が乱れ、大混乱が起きる可能性もある。そうなった場合、どのようにして拉致被害者を救出するかを考えておかなければならない。ここで重要なのが、ポスト金正日を狙う人々に、日本がどれぐらい拉致問題に本気なのかを教えておくことなのだ。
 現在のところ、拉致被害者が北朝鮮のどこにいるのか、われわれは把握していない。大混乱になったとき、自衛隊が救出に行けるのか、米軍に行ってもらうことができるのか、いずれにせよ居場所がわかっていることが第一で、情報を取るための努力は続けていく必要があるが、一方でポスト金正日として権力を狙う人々に「拉致被害者は重要な存在である」と認識させるようにしなければならない。
 すでに工作機関である「三号庁舎」の担当者は、日本が拉致問題で怒っていることに気づきはじめている。外交官もわかってきた。しかし軍の幹部や、国内の取締りをやっている政治警察の幹部はまだ知らないと思われる。過去に日本は、拉致被害者がいるのにコメを送ってきた。だから日本がそれほど怒っているとは思っていないのではないか。日本から食糧支援や経済支援を受けるには、拉致被害者全員を帰さなければならないのだと広く知らせる必要がある。そうなればいざ事が起こったとき、金正日政権を倒したグループは工作機関に命じて被害者を全員確保し、混乱のドタバタで流れ弾などに当たって死なれたりしないようにする。「彼らを確保していたら多額の経済支援につながるかもしれない。しかし死なせたら日本からお金が来ないどころか、自衛隊が攻めてくるかもしれない」。そう思わせることができれば、拉致被害者の安全は保障される。そのためにも日本が本気で怒っていることを伝えることが重要となる。

制裁は、日米同盟の維持発展にも効果がある
 ブッシュ大統領が2002年1月の一般教書演説で北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しで批判した。パキスタンから「北朝鮮は核開発を密かに続けている」という確実な証拠を握って圧力をかけた。
これで金正日は、このままでは1994年の半島危機が再来し、国連の安保理事会での制裁決議まで行き、あるいはアメリカによる先制攻撃さえありえると考え、日本と韓国をアメリカから引き離さなければ自分の体制は存続できないと危ぶんだ。そして小泉首相を呼び寄せ、拉致を認めるという博打まで打った。つまり米朝間の駆け引きに、小泉首相はエピソードとしてつき合わされたということにすぎず、被害者やその子供たちが戻ってきたのもアメリカの圧力があったからだ。
もう少し広い視野でみると、日本人を多数拉致していまだに全員を返さず全貌も明らかにしようとしないテロ政権が核を持とうとしている。そして韓国では親北派が勢力を伸ばし、左派政権が北朝鮮の味方につこうとしている。いまの日本には、白村江の戦いの後か、日露戦争の直前かというぐらいの国難が来ている。ただ、アメリカという超大国がブッシュ政権で金正日と対決する姿勢を持っていて、北が窮地に追い込まれている。ところが、制裁は効果がないなどという人達は、その全体状況を見ないで、日本は自分と北朝鮮の二国間のことだけを考え、北朝鮮という人権抑圧体制、テロ国家、圧政国家をどうするのか、朝鮮半島の安全保障をどう考えるのかはまったくアメリカ任せで他人事になっている。
 日本がいま拉致を理由に対北朝鮮制裁に踏み込むことは、ブッシュ政権と協力して金正日政権を処分する事業に積極的に参与する第1歩につながる。それなしには、日米同盟の維持強化も、日本の安全繁栄も危うくなる危機が目の前にある。


問題点
・11行長い(3ページにおさめる)
・単独制裁は効果がないとの批判に、代替輸入されてしまうから、というのが多く、これへの反論が必要。他の提言には不向きで、提言1で扱うしかない。

・「死亡」情報調査継続要請は危険


●「提言2.制裁を発動してもミサイルは飛んでこない」惠谷 治(ジャーナリスト)

1.ミサイル発射は金正日政権の終焉となる
 昨年年12月15日、北朝鮮外務省は「もし極右勢力の策動によって、朝鮮民主主義人民共和国に対する制裁がついに発動されるなら、我が方はそれを我が国に対する宣戦布告と見なし、強力な物理的方法によって即時に対応することになるであろう」という声明を発表した。 この声明の「強力な物理的方法」とはいったい何なのだろうか。
 周知の通り、北朝鮮は核開発とともにミサイル開発をおこなっている。
元来、ミサイルは命中精度が低いため、目標を外れても確実に破壊するため弾頭に巨大な爆発力のある核爆弾を搭載して、その欠陥をおぎなってきた。つまり、核弾頭とミサイルの開発は車の両輪のような関係であり、いずれが未完成でも「強力な物理的方法」とはいえないのである。
 韓国の軍事筋によれば、北朝鮮はすでに日本のほぼ全土を攻撃できる射程1300kmのミサイル「ノドン」を、100〜200基ほど実戦配備しているという。一方で、北朝鮮は長崎に投下された5tほどの核爆弾を数個保有していることはほぼ確実とみられている。しかし、ミサイルの弾頭に搭載する核弾頭は、1t以下の小型核爆弾でなければならず、これまでのところ北朝鮮は核弾頭を完成させているという情報はない。つまり、現在の北朝鮮は日本を攻撃できるミサイルを実戦配備していても、「核ミサイル」は配備していないと考えられる。
 合理的な思考ができる金正日は、核ミサイルが完成していない現在、日本に「ノドン」を発射することはできないと考えているだろう。というのも、ミサイルを日本に発射すれば、日米安保条約が即座に発動されることになる。そして、日本の世論も激昂して「防衛出動」が発令される。その結果、米軍の空爆が開始され、金正日独裁政権は終焉してしまう。そのことを一番怖れているのは金正日自身であり、金正日が発射命令を下すことはあり得ないのだ。
 しかし、何らかの特殊事情で「ノドン」が日本に向けて発射される可能性は完全には否定できない。
 現在、実戦配備されている「ノドン」には通常のTNT火薬が最大1t搭載されていると思われる。「ノドン」が発射され、日本に着弾したときの被害を予測する上で参考になるのが、ナチス・ドイツが第2次大戦末期に完成させた「V2」ロケットである。「ノドン」はソ連製「スカッド」ミサイルを改良したものだが、実は「スカッド」は「V2」ロケットを改良したもので、「V2」の弾頭には「ノドン」と同じくTNT火薬1tが積載されていた。
 ナチス・ドイツはイギリスに向け1944年11月から7か月間、「V2」ロケットを合計1115発発射し、うち517発がロンドンに命中した。その被害総数は死者2754人、負傷者6523人で、1発当たり平均の死者は5.3人、負傷者は12.6人という計算になる(Lesser Known Facts of WWII.、V2ロケット - infogogo.comによればイギリスには1402発が着弾し、うち1358発がロンドンという)。つまり、日本の都市部に着弾したとしても、5人前後の死者と10数人の負傷者がでると推測される。「ノドン」の命中精度は、100発発射すると50発が目標から半径2500m以内に着弾すると推定されている。つまり、例えば市谷を狙っても新宿と神田の間のどこかに、半数しか当たらないということである。このようなミサイルを怖れることこそが、金正日の思うつぼなのである。

2.ミサイル試射はあっても軍事的暴発はあり得ない
 2000年6月の金大中大統領訪朝による南北頂上会談以降、韓国と北朝鮮の関係は劇的に変化した。朝鮮戦争以降、50年にも及ぶ北朝鮮の対南工作の成果によって、現在の韓国はまさに「赤化」寸前なのである。かつての南北会談で「ソウルを火の海にする」といった発言にとらわれ、朝鮮人民軍による「南侵」の可能性もあるという解説は噴飯ものである。今の韓国は金正日から見れば、わざわざ戦争などしなくても「赤化統一」できるほどの状況になっていることを知るべきである。南北衝突以外の軍事的暴発は考えられず、日本が制裁をおこなったとしても日本に対する軍事攻撃は、ミサイル発射と同様、日米安保条約の発動につながるためあり得ない。
 制裁を発動すると、もっとも可能性の高い北朝鮮の「対応」はミサイルの試射である。これが北朝鮮の主張する「強力な物理的方法」ではなかろうか。日朝平壌宣言で凍結していたミサイル実験を再開することは十分に考えられ、一度しか試射したことのない「ノドン」の実射実験をおこなうかもしれない。また、アメリカ向けのミサイル「テポドン」は開発途中であり、その試射も予想される。しかし、ミサイル実験に対して、日本が極度に反応する必要はないのである。
 制裁発動によって、日本海における日本の船舶や航空機に対する軍事的挑発という「対応」も考えられる。日本の漁船や民間機は北朝鮮の海空軍による威嚇を受ける可能性はあるものの、危害が及ぶことはないことを認識しておくべきである。さもなければ、金正日の術中にはまってしまうことになる。危害をくわえれば日米安保条約が発動されることを怖れているのは金正日であり、日本人が怖れる必要はない。
 しかしながら、もっとも警戒しなければならないのは、国内で発生する犯人の顔が見えないテロ事件である。しかし、日本人が北朝鮮による卑劣なテロには屈しないという覚悟があれば、テロの危険性は少なくなる。テロに過剰に反応するがゆえに、テロが効果的だとして頻発するからである。
 安明進委員は「日本には北朝鮮から送り込まれた数百人の工作員が潜伏しているが、彼らは金正日の虎の子的存在であり、その存在が発覚すればそれで終わりなので、金正日が工作員を使うのはよほどの危機的状況に陥った場合か、あるいは戦争に勝てるという計算があった場合だけである」と証言している。
 いずれにせよ、金正日が心理戦を仕掛けてくることは疑いなく、制裁が発動されれば、その心理戦に打ち勝つという気構えが必要である。

3.日本の最大の武器は経済力である
 現在の日本の世論は、拉致問題の解決を求めて経済制裁をすべきだと主張しているだけであって、日朝国交正常化交渉が成立すれば、金額は別としても経済協力金は払わなければならないと、大半の日本人は考えている。そうした日本に対してミサイル攻撃やテロを実行すれば、経済協力金を払う必要などないという世論が盛り上がることは疑いない。
 日本は戦争を放棄したため、宣戦布告することはできない。拉致被害者を救出するため特殊部隊を北朝鮮に送ることもできない。しかし、不況とはいえ未だに強力な経済力を維持しているのであり、日本の経済力はどんな場合にも「武器」になるということを再認識すべきである。
 金正日は日本からの経済支援を期待して、拉致問題を認め謝罪したのであり、経済協力金を払う用意があるという日本人をミサイル攻撃すれば、その努力が水泡に帰してしまうことは認識しているはずである。金正日政権に経済協力金を払う必要などないが、彼らが日本からカネが入ると信じている限り、日本を攻撃するというシナリオはあり得ないと考えられる。
 つまり、経済協力金を払う用意があるという日本の世論と経済力がある限り、ミサイルは飛んでこない。今の日本の世論自体が、日本の安全を保障しているということを忘れてはならない。


●「提言3.「制裁」が北朝鮮国民と在日朝鮮人を救う」李 英和(関西大学、RENK代表)

1. 北朝鮮産魚介類の輸入停止で北朝鮮の子どもと妊産婦を救え
 北朝鮮政府による魚介類輸出は典型的な「飢餓輸出」(Starvation Export)である。外貨不足を補うために国民の食糧を取り上げて輸出するという貿易に名を借りた非人道的行為である。これを停止させることは、「経済制裁」よりも「人道的措置」と呼ぶのがふさわしい。同時に、飢餓輸出の根絶は国際社会の責務でもある。とりわけ輸入国(日本政府)は、輸出国(北朝鮮政府)と並んで、相手国の国民(北朝鮮国民)に対する責任(人道上の罪)を負う立場にある。言い換えれば、人道上の罪で両国政府は「共犯関係」に立つ。したがって、輸入国(日本政府)は飢餓輸出を停止させる(輸入禁止する)措置を緊急に講ずる責務がある。
通常、食糧需給の逼迫した国の食糧輸出は、貿易を通じた食糧品の交換で自国への供給量の増大を企図するものである(例えばコメ1kgを輸出して半額のトウモロコシ2kgを輸入する)。このような場合は「飢餓輸出」と呼ばない。ところが北朝鮮の魚介類輸出は食糧生産が減少し、食糧導入量(援助+輸入)も減少するなかで輸出が強行されてきた。その輸出代金は主に北朝鮮軍と軍需産業、および特殊単位(特殊工作・情報機関)の収入とされてきた。このことは、RENKが昨年入手した北朝鮮内閣の公文書からも明らかである(「財政省指示第72号 水産資源増殖場使用料納付規定細則」04年9月23日)。特記すべきは、300万人以上(総人口の10%以上)の犠牲者を出した大飢饉(1996年〜98年)の最中にも、従来どおりの規模で魚介類輸出をした事実である。
飢餓輸出が始まる70年代中盤から、北朝鮮国民の間で栄養不良、とりわけ蛋白質不足が深刻な問題となってきた。それまでは、北朝鮮の子供たちは、チューインガムの代わりに棒鱈の裂き身をポケットに入れて食べたほど、豊富に魚介類を摂取できた。ところが、飢餓輸出の進行とともに、栄養不良のせいで子供たちの発育不良が年々進む。そのあげくが上記した90年代の大飢饉発生である。国民の飢餓状態は2000年頃から一時軟化傾向を示したが、昨年より再び悪化しはじめ、最近では飢饉再発が真剣に憂慮される。昨年、「155cm以上、45kg以上」へと入隊基準(17歳標準)が下げられた事実は問題の深刻さを十分にうかがわせる。最近、世界保健機構(WHO)や医療NGOが、北朝鮮における妊婦の流産増加や妊娠可能期女性の不妊症増加に警告を発している。これも蛋白質をはじめとする深刻な栄養失調のせいである。筆者の北朝鮮留学(91年)の際にも、「一度でいいから生臭いものを食べたい」という妊婦の哀訴の声が聞かれた。
大量に輸入する国がなければ、飢餓輸出は成立しない。北朝鮮魚介類の輸入国の筆頭は日本である。北朝鮮当局は、72年頃から魚介類輸出を急激に増やし始めた。北朝鮮が債務不履行問題で事実上の「破産国家」となる82年から現在まで、主力輸出品の座を占める(輸出品目の第1〜2位)。輸出先の筆頭は日本である。なお、2003年度の北朝鮮産魚介類(アサリ、ズワイガニ、ウニの三品目)が日本の対北朝鮮輸入に占める比重は全体の約33%(約66億円)である。日本は飢餓の国=北朝鮮から30年以上にもわたって漫然と魚介類を輸入し続けてきた。この恥ずべき事実をいまこそ真剣に反省し、日本政府は北朝鮮産魚介類の輸入を停止すべきである。同時に、原産地表記の徹底を含め、近隣諸国からの迂回輸出を阻止する強力な監視体制をつくるべきである。
北朝鮮産魚介類の輸入停止や不買運動はけっして北朝鮮国民に打撃を与えない。むしろ輸入を続けることのほうが深刻な打撃を与えることになる。北朝鮮産魚介類を買って食べることは、北朝鮮の子供たちの健康を食べてしまうことであり、北朝鮮でこれから生まれようとする新しい生命の芽を摘み取ることになる。輸入停止と不買運動は、北朝鮮軍部をはじめとする独裁機関に対するピンポイントで直撃する経済制裁となる。同時に、飢餓と栄養失調に苦しむ北朝鮮国民への強力な人道支援となる。いまこそ輸入停止と不買運動で、北朝鮮で採れる栄養豊富な魚と貝を、北朝鮮の子供たちと妊産婦に返してあげよう。

2. 万景峰号入港禁止は親族訪問の負担軽減と利便性向上を実現する。
 北朝鮮政府と朝鮮総連は万景峰号の入港禁止問題に関して「重大な人権侵害にあたる」と声高に主張する。これに同調する日本のマスコミや識者も一部に見られる。その論拠は次の一点に尽きる。万景峰号の運航が「人道主義的事業」であり、その運航停止によって「唯一の親族訪問のルートが閉ざされる」というものである。しかし、入港禁止は、「重大な人権侵害」に当たるどころか、新たな親族訪問ルートを拓くことで多大な人道上の貢献を果たす役割が期待される。
 万景峰号が「唯一の親族訪問のルート」なっているのは、日本政府ではなく、北朝鮮政府と朝鮮総連による措置のせいである。親族訪問に使えるルートは他にもある。北京経由での飛行機便ルートである。朝鮮総連の幹部や商工人は主に航空機ルートで北朝鮮に入国している。実際、有力なコネを持つ一部の在日朝鮮人は、親族訪問の際、復路に飛行機を使う特権を認められている。これが「特権」となるのは、航空機ルートは費用が妥当で、なおかつ快適性と利便性が高いからである。したがって親族訪問の在日朝鮮人の大半が飛行機の利用を望んでいる。しかし北朝鮮政府と朝鮮総連はこれを認めない原則を今日まで固守している。
 その理由は二つに大別できる。ひとつは、密室状態の万景峰号以外では親族訪問の在日朝鮮を完全統制できないこと。航空便では外国人や他団体の在日韓国・朝鮮人との接触を完全に禁止するのが不可能なせいである。同時に、往路と復路の両方で北京その他の諸外国でトランジットの必要性が生じ、この場合も緘口令や禁足措置などの統制が利かないせいである。もうひとつの理由は、航空便ルートを許可すれば、万景峰号の運航が経済的にも政治的にも困難になること。親族訪問業務を独占することではじめて、船便としては高額の料金設定が可能となる。また、高収益と人道事業の看板を利用して貨物輸送や船内指導などの政治工作活動を実施する定期運航が保障される。
 万景峰号の運航が停止されれば、北朝鮮政府と朝鮮総連は親族訪問で飛行機便ルートを認める措置を必然的に取る。そうなれば、親族訪問の在日朝鮮人は貨客船での長旅の肉体的苦痛から解放され、高速大量輸送の飛行機のおかげで利便性が大いに高まる。その結果、親族訪問の機会が増す効果も生まれる。また、親族訪問の目的とは無関係な言動統制と監視の心理的圧迫が軽減される。以上、人道的観点からも、万景峰号の運航停止措置は総じて効果的で副作用がない。

3. 完全な監視活動を欠いた人道援助はかえって北朝鮮国民を苦しめる。
 先ごろ米国で可決・成立した米国「北朝鮮人権法」は、将来ありうるべき制裁措置から人道援助を除外している。「食糧を武器に使わない」という米国流の良心と理念である。しかし、これにも条件が付く。「援助物資はきちんと配達、分配、監視されるべき」であり、「それが政治的報酬や圧制の手段となってはならない」(第2条202項)と。
だが、日本を含む国際社会の対北人道支援は、まともに「配達、分配、監視」されず「政治的報酬や圧制の手段」と化している。現状の援助は、米国流の良心と理念に照らしても、無効であり有害ですらある。この現状が根本的に改善されないかぎり、人道援助は即刻中断されるべきである。
95年以来、食糧であれ医療品であれ、実施継続されてきた人道援助物資は大規模に横流しされ、年を追うごとに横流しの構造が組織的かつ体系化してきている。RENKによって03年8月の一般市場(旧ヤミ市場)横流しのビデオ映像(03年8月撮影)が初めて公表され、04年7月の映像も近日中に公表が予定されている。さらに韓国の仏教系NGO(良き友達)が北朝鮮当局の定めた物資横取りの仕組みを詳細に暴露した。援助物資の引き渡し先は、50%が軍隊、10%が軍需産業、10%が戦略企業(一級企業所)、そして残り50%が糧政事業所(国営食糧卸売り業者)という原則が立てられている。糧政事業所は安価(国定価格)で穀物を国民に供給する建前だが、実際には行政、党、検察、秘密警察、一般警察の順番で供給され、一般国民には事実上販売していない。さらに、上記の横取り先の幹部が物資を一般市場に横流し(高値で転売)する。人道援助食糧は無償で住民に分配されるべきであり、国定価格であれ決して売られるべきものではない。ましてやコメ1kgが庶民の給料の5分の1で売られるなど、人道に対する犯罪というべきである。
に引き渡される。  


●「提言4.日本の単独制裁こそが「北朝鮮問題」を打開する」島田洋一(福井県立大学教授)

1.制裁は「道義的声明」だ
 ブッシュ米大統領は、4年前の就任直後、キューバ・カストロ政権への制裁継続に関し、「制裁は単なる政策手段ではない。それは道義的声明(moral statement)だ」と述べた。名言といえる。
 日本が北朝鮮に経済制裁を掛け、その分、中国や韓国が穴埋めに走るなら、誰が北のテロ犯罪集団を支えているか、はっきりする。そして、少なくとも日本は支えていないということも明確になる。道義的明快さ(moral clarity)を追求すべき時には、はっきり追求せねばならない。でなければ、その社会は根腐れする。金正日体制は、矯正不可能な悪(evil)、子供の目でも間違いようのない絶対的な悪である。
 この期に及んでまだ、「人生いろいろ、国家もいろいろ」、相手の真意を確かめて、ねばり強く、話し合いでと、制裁を先送りし続けるなら、われわれの世代は、子や孫の世代から軽蔑されるだろう。
 制裁の正確な「効果」など、誰にも測りきれない。意外な波及効果も生じてこよう。金正日の周囲における心理的動揺といった数字や形に表れない部分も重要である。
「道義的声明」としてまず単独制裁を実行し、状況に応じて、さらに追加方策、国際的働きかけ等を通じ効果を高めていく、というのが健全かつ常識的な対応であろう。

2.まず日本の単独制裁、安保理決議は補完的圧力
 まず独自に制裁を行い、その上で、国際社会にも協力を求めるというのが、日本外交にとって筋である。多数の拉致被害者を出し、北のミサイルの最大標的でもある日本が、いつまでも経済的締め付けというカードを使わないなら、問題の深刻さについて誤ったメッセージを発し、日本の外交力を弱めることになろう。
 日本政府は、北朝鮮に拉致被害者の解放や強制収容所の解体、大量破壊兵器の廃棄を求める安保理制裁決議を実現すべく、積極的に動かねばならない。
 ただし、安保理決議が通るのを待って、その枠内で日本も制裁すべきという一部宥和主義者の議論は、明らかな先送り論であって、強く斥けねばならない。
 安保理を舞台にした本格的な制裁論議は、6者協議に見切りが付けられてからになるから、どんなに早くとも、2、3か月先になる。しかも、中国やロシアは、「まず北朝鮮に自制を促す議長声明辺りから」といった悠長な国連ペースを押し出してくるだろう。
 また、1994年に米政府が用意した対北制裁決議案でも、第一段階の柱は武器取引の禁止や国連からの支援プロジェクトの凍結で、貿易の全面停止は含まれていない。これは、あくまで「限定的な」制裁決議なら、拒否権を発動せず棄権に回るという中国政府の意向などに配慮した結果である。
 つまり、安保理決議に合わせて日本も制裁を実施するということになれば、予見しうる将来、入港禁止などの制裁措置は取れなくなる。
 加盟国全体に拘束力が及ぶ安保理決議は、日本として追求すべきだが、しかしそれに歩調を合わせてはならない。あくまで国家意思の発動としての単独制裁が先にあり、安保理の制裁は補完的圧力と捉えるべきである。
 単独制裁を実施し、日米豪などを中心とした対北締め付け有志連合の拡大に努めつつ、安保理では、まず武器禁輸などに限定した制裁決議の成立を目指すというのが、現実的な方針だろう。中国の拒否権に対しては、漫然と説得を続けるのではなく、ある段階で踏み絵を踏ませる、反対するなら誰がつぶしたかだけは明らかにしておくという姿勢で臨むことも重要だ。

3.国連も「経済制裁」の対象だ
 日本が「経済制裁」の実施で圧力を掛けられる対象は北朝鮮以外にもある。例えば国連である。
 米国「北朝鮮人権法」の民間側推進母体「北朝鮮自由連合」副委員長ナム・シヌは次のように主張している(関係諸方面宛の電子メール、05年1月15日付)。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、北京に漫然と腰を下ろし、実際上何もしていない。ただサラリーを受け取っているだけである。(中略)北朝鮮難民の悲惨な状況を横目にしつつ、無為を決め込む彼らへの抗議の印として、UNHCRへの資金供与をカットするよう、アメリカと日本の議員たちに要請の手紙を出すべきだ。

 町村信孝外相は、たびたび「日本は国連分担金の二割を負担しているのだから、もっと日本の声が国連に反映されてよい」と発言している。が、声が反映されない以上、資金提供額を減らすという“国連に対する経済制裁”も打ち出さなければ、単に聞き流されて終わりである。
 有害無益な活動を繰り返している機関も多く、国連は本格的なレジーム・チェンジが必要だが、それを妨げている要因の一つが、黙って大金を出し続ける日本のような国の存在である。
 日本政府はまず、UNHCRに対し、期限を切って、難民認定に関する争いを仲裁要求権の行使によって法的処理の場に持ち込むよう促し(中国とUNHCRの協定に、国際司法裁判所長官による裁定など具体的手続きが規定されている。ところが、UNHCRは「友好的な話し合い」の段階を出ようとしない)、動かないなら資金供与を凍結する、また、日本の要求にもかかわらず、対北朝鮮制裁決議に安保理がいつまでも踏み出さないなら、国連分担金全般を大幅に見直すといった姿勢を明確にすべきだ。
 ところが実際には、安保理常任理事国入りに賛成してもらうため、一層各方面にカネをばらまこう、拒否権をもつ中国を刺激する言動は控えよう、といったまったく逆の動きが見られる。
 そもそも、拒否権付きの常任理事国を増やすという決定が国連で行われる可能性は、はっきりいってゼロである。拒否権なしの「常任理事国」なら、単に「任期のない非常任理事国」に過ぎず、その程度のステータスを得るため、各方面に遠慮し、カネを出し続けるというのは、愚かという他ない。

4.日本の決意が、アメリカの「意向」を決める
 昨年前半、リビアが米英の要求を入れ、大量破壊兵器関連施設の解体、海外搬出を一気に進めたが、この間リビアは、パンナム機爆破テロ(1988年)などで、アメリカから制裁を受け、安保理の制裁決議も課せられた状態にあった。アメリカの単独制裁は現在も続いている。テロや人権で制裁に訴えると、核問題の解決を妨げるという議論は、この例に照らしても根拠がない。
 日本は北朝鮮問題の解決を急がねばならない。そのためには、アメリカの動きを待つという姿勢ではなく、米側が納得せざるを得ないような行動によって、せかしていくことも必要だ。
 北朝鮮が、日本の制裁に対抗してミサイル発射実験をするというなら、特に止めにかかる必要はない。米国内の対北強硬派は、世論が喚起される事態をむしろ歓迎するだろう。実験が成功するなら、日米の側としてもデータが取れるし、失敗すれば、その分、金正日の権威が失墜する。
 日本の国益に照らして、「北朝鮮がミサイル発射実験をするかも知れないから、拉致問題での制裁を控える」というのは、成り立ち得ない議論だ。
 日本の制裁発動に対するアメリカの「意向」というのは、所与としてあるものではない。日本がどこまで真剣かによって、当然米側の対応も違ってくる。日本が真剣であればあるほど、中国や韓国が、ましてや北朝鮮が何を言おうが、ここは本腰を入れて日本をバック・アップせねばならないと考える人々が勢いを得るだろう。特にブッシュ政権についてはそういえる。
 重要なのは、第三者的に「米側の意向」を云々することではなく、国家として制裁を発動するという意思を、日本自らがしっかり固めていくことだ。


●「提言5.金正日に正しいメッセージを送れ」平田隆太郎(プロジェクトリーダー)

1.平壌宣言違反を指摘すべき
平成16年5月22日、小泉首相は、日朝首脳会談の場で金正日に、「平壌宣言を順守していくかぎり日本は制裁措置を発動しない」と述べた。この発言は、日本は「8人死亡、2人未入境」との北朝鮮側の拉致問題解決のシナリオを受け入れ、国交正常化交渉に踏み込む用意がある、との誤解を与えかねない発言だった。被害者家族は、拉致救出運動がこれで終わりになると強い危機感を抱いた。
その直後の、6月22日、小泉首相は、「金正日総書記とのどがかれるほど米国とデュエットしたいと熱望していた」、とシーアイランド・サミットの際の日米首脳会談でブッシュ大統領に伝えた。北朝鮮は米朝二国間協議を熱望しており、金正日の希望をブッシュ大統領に取り持ったのである。この発言は、日本が北朝鮮のメッセンジャーを務めることで、北朝鮮の対日政策を受け入れているとの誤解を与えるものだ。ブッシュ大統領は、無表情で「あいつらは駄目だ。信用できない」と一蹴した。

小泉首相等の間違ったメッセージ
16.05.22 平壌宣言を順守していくかぎり、日本は制裁措置を発動しない(金正日に、日朝首脳会談)
16.06.08 金正日総書記は「のどがかれるほど米国とデュエットしたい」と熱望していた(日米首脳会談、ブッシュ大統領に)
16.07.21 日朝平壌宣言が履行されれば1年以内の国交正常化も可能(日韓首脳会談で盧武鉉大統領に)
16.11.15 北朝鮮側の努力のあとはうかがえる(第3回実務者協議、首相)
16.11.15 今の段階で経済制裁は考えていない(第3回実務者協議、細田官房長官)
16.11.17 将来の国交正常化に向けた一つの段階とみている(第3回実務者協議について(民主党の岡田代表との党首討論)
16.12.08 調査が虚偽であったと断じざるを得ず、日朝平壌宣言の精神に反することは明らか(鑑定結果判明で北朝鮮に通告)
16.12.08 対話と圧力だから、両面を考えていかなければならない。拉致被害者家族のためにも交渉を打ち切ってはいけない(鑑定結果判明で首相)
16.12.24 経済制裁については「あらゆる選択肢を残しておきたい(首相)
17.01.26 今後も引き続きこのような対応に終始する場合には、厳しい対応の可能性を検討(外務報道官)

その翌月行われた日韓首脳会談で、小泉首相は盧武鉉大統領に、「日朝平壌宣言が履行されれば1年以内の国交正常化も可能」と述べた。日朝首脳会談以降の一連の発言を北朝鮮側から見れば、日本は北朝鮮が日朝平壌宣言に違反しているとは考えていない、と受け取れる。そして、「8人死亡、2人未入境」との北朝鮮側の拉致問題解決のシナリオを日本が受け入れ、国交正常化交渉に踏み込む用意があると判断し、後は曽我ひとみさん家族の処理だけだと受け取ることになる。
平壌宣言で北朝鮮は、「関連するすべての国際的合意を順守する」と約束したが、翌10月、米国ケリー国務次官補が訪朝した際、北朝鮮は濃縮ウランの核開発を行っていることを認めた。また、北朝鮮は平成15年1月にNTP条約(核拡散防止条約)を脱退すると宣言した。いずれも平壌宣言違反である。米国のパウエル国務長官は、平成14年10月28日、欧州記者団とのインタビューで、「北朝鮮は、ほんの数週間前に小泉首相と金正日主席がサインしたばかりの平壌宣言にさえ違反した」と述べた。日米首脳の認識はこれほど食い違っている。日本は平壌宣言違反を指摘し、「いつでも経済制裁を発動できる」と公表すべきである。

2.対日政策責任者に言い訳を与えるな
平成16年11月の第3回実務者協議の中で北朝鮮側は、2年前の小泉訪朝の際に提供された8人の死亡診断書、1名の患者死亡台帳が捏造であったことを認めた。このことが代表団より報告された時点で日本政府は、拉致問題解決を含め、「日朝間に存在する諸般の問題に誠意を持って臨む」ことを約束した北朝鮮に対し、「日朝平壌宣言が遵守されていない」として強い意思を表明すべきであった。しかし、小泉首相は、「北朝鮮側の努力のあとはうかがえる」として、経済制裁などの強硬措置はとらず、実務者協議の継続を示唆した。また、細田官房長官は、「今の段階で経済制裁は考えていない」と述べた。これらのメッセージは北朝鮮に従来の対日政策を変えなくてもよいとの誤解を抱かせることになり、北朝鮮の対日政策責任者に言い訳を与え、続投を支持する結果となる。
12月8日、第3回日朝実務者協議で北朝鮮が出してきた物証の中で最も核心的な物証とされた「骨」について、「骨は横田めぐみさんとは別人のもの」との鑑定結果が公表された。この結果を受け、わが国政府は、12月8日、在北京日本大使館から北朝鮮に対し、「調査が虚偽であったと断じざるを得ず、日朝平壌宣言の精神に反することは明らか」と電話で抗議した。日本は、「平壌宣言に反する」と伝えず、平壌宣言の「精神」に反すると曖昧な表現を使い、北朝鮮への厳しい非難を避けた。これも誤解を与えるメッセージである。さらに、小泉首相は、経済制裁の発動について「対話と圧力だから、両面を考えていかなければならない。拉致被害者家族のためにも交渉を打ち切ってはいけない」と述べ、被害者家族の制裁要請を敢えて誤解し、政治決断を回避した。この時点で、小泉首相は、「日朝平壌宣言はもはや無効である」、「すべての生存者を返せ」と伝えるべきであった。誤ったメッセージを送るだけでなく、伝えるべき時に沈黙したり、伝えるべきメッセージを送らないことも大きな問題である。

3.トラウマを乗り越え毅然たる対応を
12月24日、政府は、「『8人死亡、2人未入国』との説明を裏付けるものは皆無だった。全く受け入れられない」とする精査結果を発表した。小泉首相は、精査結果について「極めて遺憾」としつつ、経済制裁については「あらゆる選択肢を残しておきたい」としか述べなかった。世論においては、日本と日本人を侮辱するこのような北朝鮮の対応に、もはや対話の選択肢はなしとして、制裁論が噴出した。多数意見に支持されずとも、国益と信じて敢えて官邸が毅然たる態度を貫くべき時もあるが、本件は世論無視の官邸外交と言わざるをえない。
平成17年1月25日午後、1か月沈黙を続けていた北朝鮮が、北京の大使館ルートを通して、拉致被害者の再調査結果への日本の抗議に対する回答を伝えてきた。北朝鮮は1月24日に、「日本の遺骨鑑定結果は徹底した捏造」、「責任ある者を厳重に処罰すべき」等と「備忘録」なるものを公表していたが、その文書を伝達するとともに、「遺骨」の返還要求を行った。翌日26日、高島外務報道官は、「今後も引き続きこのような対応に終始する場合には」、と前提条件をつけ、「厳しい対応」の可能性についてより具体的な検討を行う、と述べた。この前提条件も、日本が北朝鮮の不誠実な対応を許容するとのメッセージとなる。
平成17年2月2日、衆議院予算委員会で、鳩山由紀夫民主党議員が、北朝鮮が「鑑定結果は(日本の)捏造」とし、「また2週間前の労働新聞で金正日は、日本帝国主義は100年の敵、と言っているのに日本はなぜか沈黙していると見られている」と質問したのに対し、小泉首相は「粘り強く、関係各国にも働きかけながら、拉致の問題も含めて正常化に努力していかなければならない」と答弁した。小泉首相が繰り返し「正常化(交渉)」に言及することで、北朝鮮は「小泉は大丈夫」と思い続けることになる。

日本は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」できない時にどのように対応すべきか、「国際紛争を解決する手段」としての「武力を放棄」する代わりに、どのような解決手段をとるべきかにつき、思考を停止してきた。しかし、話合いでは解決できない相手だと日本人は認識した。今こそ小泉首相は、現実を直視し、戦後のトラウマを乗り越え、粛々と制裁を発動すべきだ。制裁を通じて、日本人が拉致問題に対する北朝鮮の不誠実な対応に激怒し、拉致被害者の早期返還を要求していると、正しいメッセージを送ることが求められている。逆に、小泉首相が本気で国交正常化を考えているのならば、なぜテロ国家・金正日政権と国交正常化しなければならないのか、その理由を公表すべきである。


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