Days of my youth
もし私が造化の神であったなら、私は青春を人生の終わりに置いたであろう
−アナトール・フランス−
フランスの小説家が残した言葉だが、青春とは何にも代え難いものである。
また、それが過ぎ去ってからその大切さに気付くものでもある。
そして青春時代が過ぎ去った時、人は一つの終わりを受け止め大人になっていくのだろう。
俺の青春時代の思い出、それはブラウン管に映るある男との出会いだった。
その男は長身で酷く寡黙だった。しかし語らずとも、感じる者には彼が何を言っているのかが解った。
言葉ではない、もっと深く伝わるモノ。そんなモノを彼は発していたのかもしれない。
彼は奇妙な恰好をしていた。それは時の流れすら無視するかのように、常に変わる事なかった。
それでいて少しも新鮮味を失わないのは彼だから成せたモノなのだろう。
彼は常に相棒を連れていた。この相棒もまた、かなり変わっていた。
言葉らしいモノすら発せずに、ただ感情のまま動きまわる。それでいて憎めない愛敬があった。
そんな彼らが生み出すモノに俺は魅了された。それはまだ幼かった俺には魔法のように思えた。
常に無機質なモノに命を吹き込むが如く生み出されていくモノ達。
そして自らの手で生み出したものに、まるで子供のように歓喜する彼の姿。
それは俺だけでなく、同じ時代を生きた人間なら誰でも魅了されたに違いない。
俺は彼のようになりたかった。
語らずとも何かを伝える力。無から有を生み出す力。そして自らが生み出したモノに対する自信と愛情から
来ると思われる歓喜。そんなものに常に憧れていた。
時は流れ、俺も少しづつ大人になり、彼を見かけることも少なくなっていた。
それでも彼から受けた影響は常に俺の中に在りつづけ、決して色あせる事無かった。
そして時間を見つけては彼の姿をブラウン管に探しつづけた。
それは自らの根底にある魂の確認作業とも言えた。そんな日々の中、突然終わりは訪れた。
いつものように彼の映るブラウン管を俺は見つめていた。
そこには変わる事ない情景が映し出されていた。永遠に変わる事がないと思われた情景、
それは突然破られた。彼が喋り始めたのだった。
初めて聞いた彼の言葉、それは俺には酷く衝撃的だった。彼が喋るという事が信じられなかった。
しかし、それは全ての終焉を意味していることにすぐに気が付いた。
事実、彼の言葉は別れの言葉だった。
その言葉の中に俺は、永遠の不確実性と終焉から始まることの意味を見つけた。
変わらないモノなどない。ただ、終わりから始まる事もある。
そんな事を彼が伝えているような気がしていた。
彼が消えたブラウン管をしばらく見つめ、俺は静かに瞳を閉じた。
そしてひと雫の涙と共に、俺は一つの時代の終焉を噛み締めていた。
彼が残したモノはこれからも俺の根底に生きつづけるだろう。
ありがとう・・・のっぽさん。さようなら・・・ゴン太くん。
しど、高校生の春・・・青春時代の終焉だった。
−終わり−
追記・やっぱ「できるかな」は我が青春ナリ。
半分冗談、半分大マジ(笑)
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