もどる


空を見ていた。
午後を少しすぎた冬の空には、ぽつり、ぽつりと雲が浮かんでいる。
「なにみてんだ?」横で友人が何げに問い掛ける。
「いや、雲が流れてるなぁって」
あまり、人に自慢できるような人間じゃないな、と自嘲気味に自分をふりかえる。
思えば、いつも何かに甘え、言い訳してたようにも思う。
「そんなことないって」友人はそういってくれる。
誰かを守ろうなんて、そう思いながら、自分の足元すら見ていなかった。
僕が僕だったことを忘れるのに、時の流れは容赦なかった。
煙草に火を付ける。煙が円を描きながら、空に消えてゆく。
懐かしい感じと一緒に、何か不安な寂しさがやってくる。
いいわけばかり先走って、誰かを傷つけた。言葉は、我侭に心を踏みにじっていった。
少し寂しげな冬の青空に、何羽かの鳥達が小さな影を落としていく。
一羽はぐれた鳥が、二、三度振り返るようにはばたきながら、また皆のもとに帰っていく。
僕達は、鳥にはなれない。こらえきれないものが込上げてくる。
「あったかいコーヒーでも、飲みにいくか」
「・・・そうだな」
空にはただゆっくりと雲が流れていた。
午後の日差しは、少し冷たく、少し、あたたかかった。


飯を食っている。独りで、旨くもない飯を。
もそもそと顎を動かしながら、何故、飯を食ってんだろうと考えてみる。
当たり前だ。生きるためだろ?
で、また考える。旨くもない飯を食うのが、生きるためなのか?
だったら、旨い飯ってのはなんだろう。
ここまで考えて、やっと当たり前のことに気が付いた。
気が付いたけど、やっぱり独りで飯を食ってる自分にも気が付いた。
あまり考えすぎると、消化に良くないと思い、とりあえずテレビをつけて食ってみた。
やっぱり旨くなかった。
旨い飯を食いたいな・・・
また、懲りずに考え始めていた。


特に予定なんかない。
昼ごろに目覚めた、ある週末のこと。もぞもぞとベッドから抜け出し、煙草に火を付ける。ぼんやりとした頭で、カーテンを引いてみる。外はいい天気だ。
(今日はどうしようか)全ては自分の時間だ。だけど、何をしようとも思いつかない。
 窓に切り取られた空を見ているうちに、昼間っから体をもてあましてる自分を見付ける。部屋の片付けでもしようか、洗濯でもしようか・・・
 気ままに過ごすには、何かが足りない。遠い感覚が拭いきれない。誰も、何も、応えてくれない。
 (何考えてんだ)なんとか着替えて、外に出る。車のキーを回し、あてもなく走りだす。
 コンビニでパンなんかを買い、公園にいってみる。昼間なのに、不思議なほど人がいない。適当に腰をおろし、パンを食べてると、大きな雲が太陽をさえぎった。少し、寒い。
 缶コーヒーを買う。冷えた手のひらで転がしていると、だんだんと冷めてきた。
 いつ頃から、こんなふうに感じるようになったんだろう。結構、気ままにやってきたはずなのに。
 ただ、そこに在るだけでは許せなくなる。求めれば孤独を感じる。考えなくてもいいこと、知らなくてもいいことを考えすぎたのかもしれない。気が付けば、独りになってしまった。
 生きてゆくのに、資格なんかは求められない。ただ、生きていくしかない。それだけのことなのに、どうして俺はここにいるんだろう。
 ここからどこにゆこう。あてなんか見つからない。
 今はただ、俺に、還りたい。