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『必殺技の恋&重なる恋』

2011/2/11


【その4】

「まぁ、普通は浮気の証拠をつかんで、離婚交渉を有利に進めたりするもんですけどね」
「…」
「その気があったら、もうやってますね」
そうして、またもやこの人はほんとにいいとこのサラリーマンだったのかね、という凶悪な顔に。
「リストラされただんなさんの分も働こうとして、派遣会社にも登録して、健気ですよね。でも」
ポケットから、写真を出して中居の前に置く。
「そういうとこが好きなんじゃないんですよね」

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病院からの帰り道、スーパーで買い物をした奥さんの写真。夕方の街並みに、少しさびしげな横顔。
「そして、この後、奥さんはすっ転びました」
それはもう、見事な転倒だった。片手にバック、片手に買い物したスーパーのバックを持ったまま、何にもないところで、急につっかかって、ほぼ顔面から地面に。
しかし、
『いったーい!』
と、おでこを押えて起きあがった奥さんは。
「可愛かったですねぇ。薄倖な人妻かと思ってたら、ドジっ娘だったんですね」
「どんくさいんだよ」
「そのどんくささが可愛くてしょうがない」
「はぁ?」
もう一枚、写真を出した。
「こういう顔もできるんですねぇ」
夕方の、綺麗な夕日を浴びて、楽しそうに笑っている中居の写真。
目が、きゅっと細くなり、いつもへの字の口が、綺麗に口角が上がって。
「覚えてます?これ、奥さんがすっ転んだ時の」
「バカにしてんだよ」
「えーーーー!」
その写真を自分の目の前にくっつけて大げさに驚く。
「バカにした顔じゃないでしょこれーー!」
生まれたての子犬や、子猫を見た時なみの笑顔の写真を、これ!これ!と、今度は中居の顔にくっつけていった。
「やーめーろー」
「こんなドジっ娘、いくら転んでも大丈夫なように、ふかふかした絨毯の家に住まわせてやりたかったですよね」
すでに手放してしまったマンションは、そういう部屋だったという(不動産屋にて確認済み)。
「そんなドジっ娘で、リストラされた後弟のマンションに転がりこんで、パチンコ三昧のだんなのために、せっせと働いてねぇ。リストラされてマンションなくなったからって、転がり込んできた、兄貴や兄嫁を大事にしてくれる義理の弟にくらっと来たくらい、いいじゃないですか」

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「バカにしてんのか!」
「バカにしてますよ?」

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もこもこファーフードつきコートの胸倉を掴まれるが、引っ張り上げられたまま、顎をあげての、下眼づかいで言った。
「誰だってするでしょ。中居自身も、バカにしてるでしょ、自分のこと」
どん!とソファにつき飛ばされる。中居は、憮然の五十乗くらいの空気をまとい、苦虫百匹噛みつぶしたような顔で、ソファも折れよ!という勢いで座った。
あったかいばかりで、大したコートではないけど、ぽんぽん、と胸元をはたく。まだ顎を上げて、下眼づかいで。
「義理の姉と不倫したって弟さんから小遣いせびって、パチンコして、負けて、つまんない顔して。それくらいだったら、やった金づるできた!これで楽に暮らせる!ってニヤニヤパチンコしてるヤツの方がマシですよ」
「…じゃあどうしろって言うんだ」
「離婚されたくないんでしょ?だったら、まず、人気者で、魅力的、かつ有能な弟さんから引き離すためにも、二人で暮らす。知り合いの不動産屋紹介しましょ。少々訳ありながらもコストパフォーマンス抜群な物件を色々知ってます。この事務所とかね」
「寒ぃよ!」
「人が住む家はここまで寒くないですよ!多分。とはいえ、先立つものはお金。仕事が必要ですよね?」
「そりゃあ…」
「ということで、うちの事務所が、中居を雇いましょう。とりあえず時給1030円で」
「やすっっ!」
「研修期間よりは上がってますよ。人を雇ったことないから雇い方よく知りませんけど、調べときます。社保とかなんとかいるんですよね」
「そんな、おまえ適当な!」
「ていうか、すぐ働いて欲しいんですよね」
はい立って、はい立って、と中居を立たせる。
「この写真」
中居が、ペン型デジカメで撮った、一昨日の四時半の写真を渡す。
「これ?何だよ、さっきから」
「この写真、奥さんはちゃんと映ってない。でも、これを撮ったのがなんでか解ります?」
「んー??なんか、…気になって…?」
夕方の商店街、人がたくさん映っている。
「あっ!」
「そう。この子。今、うちが探している家出少女です」
「俺、すげえ!」
その人ごみの中に、男と手をつないで歩いている家出少女がいた。
「一度見ただけの人の顔を延々覚えている粘着気質!中居は探偵に向いてます!」
ぽん!と肩を叩くと、ぺしっ!と払い落された。
「褒めてないっ」
「奥さんと弟さんのことを延々覚えてる粘着気質は、仕事の方に向けるといいですよ」
反対側の肩を叩き、またぺしっ!と払い落される。
「探してくる」
この、粘着気質な時給1030円の探偵がいれば、あの家出少女が見つかるのは時間の問題だろう。

**********************

「忙しくなるなぁ〜」
妻を養う夫を養うことになり、急に経営者としての自覚が芽生えきたとある昼下がり。意味なく窓辺によって、ブラインドをがしゃっ!とやる俺だった。


あー、適当に終わったー(笑)


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