天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編42話後編『モジュラージャックを届ける』

前回までのあらすじ
「ある日、腰越人材派遣センターの電話線が切断される、という事件が起こった。なにものかによる営業妨害なのか!どうなる腰越人材派遣センター一同!」

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「ただぁ〜いま!」
近所の電気屋からモジュラージャックを手に、正広が帰ってくる。
野長瀬は、口しか出さない奈緒美と由紀夫に指示されながら、シクシクと掃除をしていた。
「あっ!ひろちゃんっ!」
「正広、近寄るんじゃねぇぞ、ほこってるから、喘息がでる」
「まっ!ひろちゃん、大変!喘息がでちゃうわ!」
「・・・俺、喘息じゃないけど・・・・・」
しかしともかく、兄は弟の健康のため、近づけたくはないらしい。あっちいってな、と手で合図されて、正広は必要以上にデスクから離れる。
「それにしてもよくここまでほっといたわね」
「レイアウト変更とか、しなかった訳?」
「あら。完璧なレイアウトでスタートしたんですもの。必要ないじゃない」
おほほほほ!高らかに笑った奈緒美は、お茶!と正広に指示を出し、正広は、はぁい、と新茶を入れにいく。

「んで、どぉよ」
奈緒美、由紀夫、正広でちょいとしたティータイムをさんざん楽しんだのち、思い出したように野長瀬に声をかけると、夢中いなっていた野長瀬も、はっ!と顔を上げる。
「見てくださいっ!」
「わー!すごーい!」
デスクの裏は、すっかり綺麗になっていた。
「さすが、そのもの青き衣を纏って、だよな。腐海がすっかり綺麗に!」
「いやぁ、由紀夫ちゃん、そんなぁ!」
えへ!と照れる野長瀬を押しのけて、由紀夫はモジュラージャックを覗き込む。
「・・・切れてんな」
「あぁ、そうですね。ひろちゃんのと、典子ちゃんのと」
「なんでわざわざここだけ切ったのかしら」
「うーん・・・」

それぞれに思い当たる節がありすぎて全員で頭を抱える。
警察の手入れか・・・!はたまたヤクザか。
「でも、だからってわざわざこんなささいなイヤがらせしてくるか?」
「田村とかしそう」
「あいつだったらもっと悪質だよ。全部の回線、別の回線とかにつなぎ込んじゃって、1日中なり続けるようにするくらいのことするだろう」
由紀夫の言葉にそうだった、と全員がうなずく。
「でも・・・、これ切るの大変ですよ」
「なんで」
未だゴム手袋の野長瀬が言う。
「エプロンしててもこんなに汚れるのに」
野長瀬のブルーの背広はまだらなブルーグレーに変化していた。
「机の下からは?」
「ううん。この机、向こうが見えなくなってるんだよ」
正広がのぞきこんで確認する。ちゃんとしきられていて、デスクの裏は見えないようになっていた。
「じゃあ何か?ヤクザか警察か田村か稲垣医師かしらねーけど、わざわざ昨日の夜中にやってきて、この机を移動させて、モジュラージャックだけを切ったってのか?」

なぜ稲垣医師!?
とは誰も思わず、それもおかしい・・・と黙り込む。
「あ、でもさ!」
正広が手を上げた。
「机の上から切ったんじゃないの?」
「それだったら切られてるってすぐ解るでしょー、ひろちゃん」
「だから、引っ張って、なるべく下の方を切ったら解らない」
なるほどね、と由紀夫が電話線につながれてるモジュラーを手にする。
「もう下綺麗になっちゃったから実験できないけど、あの腐海の中からある程度の長さでてくりゃ切れるのか」
「机を動かした、よりは現実的よね」

ふむふむ。

と一同納得して、そして全員で、
「そーじゃねーだろー!!」
と突っ込みあう。
「そーじゃなくって、何でか!って事でしょー!」
「奈緒美、心当たりあんじゃねぇのぉ〜?なんか、どっかのおっちゃん騙したりとかしたんじゃねぇかぁ?」
「あー、気の弱い中年男性のしそうな復讐ですよねぇ〜・・・」
「こんな復讐いやよっ!大体、私の電話は無事なんでしょう!?」

と電話をとった奈緒美は、さっと表情を曇らせた。
「しゃ、社長・・・?」
奈緒美以上に顔色を失った野長瀬がおずおず、と近づくのに、ずい!と受話器を押し付ける。
「こ、これ・・・!」
「ウソ!」
「マジかよ、野長瀬!」
「いや、さっきは確かに繋がってたんですよ!通話音しましたもん!」
しかし今の電話は、うんでもなければ、すんでもない。ただじっと沈黙している。
「ど、どーゆー事っ!?」
「そのモジュラーが、今、切られたって事!?」
「きゃー!!ひろちゃん怖い〜っ!」
「兄ちゃん怖いぃ〜っ!」
「野長瀬さん怖いぃ〜っ!」
と、奈緒美が正広に、正広が由紀夫に、由紀夫が野長瀬にしがみつき、しかし、怖いっ!と眉を寄せ、うるんっとした瞳で野長瀬を下から見上げた由紀夫は、思わずどきっ!としている野長瀬を張り倒した。
「イター!」
「兄ちゃん何すんのー!」

「おまえか?」
「な、何が・・・?」
「兄ちゃん・・・?」

「奈緒美の電話が生きてるって言ったのは野長瀬だろ?あれが嘘だったら?」
兄の言葉に、正広はきょとん?と首を傾げる。
「奈緒美の電話も最初っから切れてたとしたらどうだ?」
「え、それって・・・」
「何も無理してよそから犯人みつけなくっても、野長瀬だったら簡単だろ?鍵は持ってる、事務所に人のいない時間は解ってる」
「な・・・っ!そ、そんな、由紀夫ちゃんっ!!」
「野長瀬さんっ!」
未だ兄にしがみついていた由紀夫が、ひしっ!と野長瀬の腕をつかむ。
「どーして言ってくれなかったのぉ!?」
「ひ、ひろちゃぁんっ!?」
「なんか辛いこととか、あったら・・・っ!俺っ、いつでも聞いたのにぃ〜っ!!」
「待って、待って、ひろちゃん、僕のこと犯人にしてるし」
「んまー!飼い犬に手を噛まれるとはこの事ね!」
「社長までー!!僕じゃないっすよー!!」
「犯人はいつだってそういうもんだ・・・」
どこから持ってきたんだ!?というトレンチコートにソフト帽を身につけた由紀夫が、ぽん、と野長瀬の肩を叩く。
「観念しろ。女房も泣いてるぜ・・・」
「あぁっ!智子ちゃん・・・っ!(注:野長瀬のペット、ミニウサギの智子。でかい。オス)」
「さ、行こう、か」
「の、野長瀬さぁんっ!!」
へたり込んでいる野長瀬を立ち上がらせ、前で組まれた手の上にコートをかけ・・・・・

「誰か止めろよ!」
「いや、どこまでいくのかなぁ〜って」
嘘涙を浮かべていた正広がけろっと立ち上がる。
「あら。野長瀬じゃないの?でも、野長瀬が疑わしいのよね。じゃあ、このモジュラージャックの代金、あんたの給料からひいとくわね」
「なんでぇ!」
「だって野長瀬、火元責任者じゃん」
訳の解らない理屈で押し切られ、モジュラージャック3本分(奈緒美の含め)の金額が、野長瀬の給料から天引きされることになった。

なぜ・・・?
お星様にいぢわるっ!
あたしが美人だから、おねえさまたちったら、いぢわるするんだわ!あたしがかわいいばっかりにっ!!

よよ、と泣き崩れる野長瀬を無視して、それにしても一体誰が・・・、と3人で頭を寄せているところに典子が帰ってきた。

「ただーいまー!・・・って、それ、何・・・?」

「それ?」
典子の声に、正広は自分の周りをきょろきょろした。3人は社長のデスクの前で円陣を組んでいて、それって言われるほどのものは・・・。
「あれ・・・?」
しかし正広はその小さな顔の中でひときわ印象の強い大きな目を真ん丸にした。
「落ちる、落ちる」
妙に落ち着いた口調で、由紀夫は正広の目の下に両手を差し出す。
「これって・・・、ハムスター・・・?」

ハムスターだった。
正広の足元に、後ろ足で立ったきょとんとした姿は、確かにハムスターだった。
「うっそ」
「なぁんでぇー!?」
奈緒美の大声に、ぴゅん!とハムスターは姿を消した。
「あぁ、いっちゃったぁ」
正広ががっかりしたように言い、ああ、と悪いことをしたって顔になった奈緒美は。

「いっちゃったじゃないわよー!このままじゃ、あいつ!何噛むかしれないじゃないのー!」
「あ!今のハムスターが噛み切ったんだ!」
「正広・・・、おまえって・・・」

こうして腰越人材派遣センターの大掃除が始まった。いつもの大掃除より大変だ。
こう見えて、情に篤い腰越人材派遣センター一同。万が一にもハムスターをふんではいけないと、すり足で移動中。
「どこから入ってきたんだよ、あのハムスター!」
「ねー、ここ2階なのに!」
「あら?ねずみなんてどこからでも入ってくるんじゃないのぉ?」
「でもうち、1階からあがれるような場所あったっけぇ?」
しかし、方法が分からなくても、確かにハムスターはいるのだ。
「うー・・・、ちょっと野長瀬!ねずみって何がすきなのよ、ねずみって!」
「え?知りませんよ。僕は智子ちゃんのことしか解らないんですから!」
「しーちゃんは小松菜が好きだよ、兄ちゃん」
「うさぎの方がまだ近ぇーだろ!」
「えーと、えーと」
「もういい。正広、稲垣医師に電話。ハムスターの好物聞け」
「はーい!って電話がっ!」
「PHS持ってんだろ!」

稲垣医師からのアドバイスに従い、齧られてはまずいものを避難させ、静かにして、部屋の隅に食べ物を積み重ねる。
ひまわりの種が好物だそうなので、それが山積み。
台湾料理とかで出てくる、かぼちゃの種って美味しいよね、と正広はひっそり思ったりしながら、じっとあたりをうかがった。

5分、10分、20分・・・・・・・・・。

「・・・こねぇじゃん・・・っ!」
「もぉいないんですかねぇ・・・」
「なんか、可愛かったのになー、また見たいのにぃー・・・」
全員、なぜか机の影にしゃがんでいて、じっとひま種の山を見ていたのだが、正広はその端っこにいた。
床についた手のそばに、何かを感じて、ん?と見ると。

「!」

正広の手の横で、みんなと同じ方向を、そのハムスターが見ているではないか!
声を出さないように、隣の兄の袖を引っ張る。
「ん?」
と振り向いた由紀夫も声を出さずに驚いた。
さらに隣にいた典子に、入れ物!とジェスチャーでつげ、ここで動いたら危険だ!と判断した典子が野長瀬にジェスチャーをつなぎ、奈緒美にたどり着く。
そして奈緒美が持ってきたのは、バインダーだった。

ちげーだろーっ!!」

声にならない声をあげた由紀夫だったが、正広はそのバインダーを山形に広げ、はっし!とハムスターの上に被せた。
あ、うん、の呼吸で、由紀夫の手が出入り口を塞ぐ。
「入れ物だよ、入れ物!なんかあんだろ!」
そして持ってこられる、タッパー、ごみ箱、ペンスタンド。
「おまえら舐めてんのか!せめて鍋くらいのサイズにしとけよ!」

そして、捕獲されたハムスターはパイレックスのボールにいられれて、つるつる滑っている。

「どっからはいって来たのかしら〜・・・」

可愛いー!きゃー!!と叫んでいる、心は女子高生の典子と正広を覗く3人が頭を突き合わせる。
「まぁ、でもさ。モジュラージャック3本と比べたら、ハムスター1匹の方が高いんじゃねぇの?よくしんねーけど」
「あらー、野長瀬得したわねぇ」
「え?」
「だから、あのハムスターは、あんたにあげるって言ってんの。責任もってつれて帰ってね」
「えぇ!?だって、うちには智子ちゃんが!智子ちゃんが誤解するじゃないですか!僕は智子ちゃん一筋なんですよ!?」
「えー!兄ちゃぁん!うちで飼おうよー!」
「嘘ー!あたしも飼いたいー!!」

 

その後、腰越人材派遣センターで飼われる事になる、モジュラージャック3本分の値打ちのある破壊ハムスターが、洗濯機のコードをも噛み千切っていたことを、まだ誰も知らない・・・。


まぁ、ハムスターネタもつかっとかななって事で。ちなみに今回のギフトで、ついに100回になりました!いえーい!100週間〜!おめでとー私ぃ〜(笑)!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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