天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?
『Gift番外編』
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ギフト番外編43話前編『ゴキブリホイホイを届ける』
前回までのあらすじ
「腰越人材派遣センターで飼われることになったハムスターは、今日もからから回し車を回している。そして相変わらず狂暴である。」
「きゃああーーーー!!!!」
その日の午後、悲鳴とともに、千明が腰越人材派遣センターに飛び込んできた。
「ちっ!千明ちゃんっ!?」
「どしたのよ、騒々しい」
「助けてぇ〜!!あっ!由紀夫っ!助けてぇ〜っ!!」
悲鳴を上げつつも、由紀夫がソファに座っていたのはしっかり見てとったらしく、一直線に走っていく。
「来んな」
由紀夫は千明の額に手をおいて腕を突っ張った。
「いやぁん、由紀夫ぉ〜っ」
額を押さえられたまま、じたばたじたばたする千明に正広が声をかける。
「ど、どしたの、千明ちゃん・・・」
「あぁん、ひろちゃぁ〜んっっ」
なおも由紀夫から離れようとはせず、器用の正広のほうに顔を向けた。
「ひろちゃんも助けてぇ〜っ!!」
「だから、どーしたのっ?」
「出たの・・・・・・・・・・・・」
「な、なにが・・・・・・・?」
「幽霊!?幽霊なんですかっ!?」
「嘘!幽霊っ!?」
「バカねぇ、お盆にはまだ早いわよ」
「いいじゃん、幽霊くらいださしてやんなよ。おまえにダマされて捨てられた男かなんかだろ?」
「千明ちゃん、結構罪作りしてるもんねぇ〜」
「あのぉーーーっ!!」
ぴょん!と由紀夫(の手)から離れた千明は、きーっ!と怒る。
「マシよぉ!幽霊だったら、いや・・・それも、やだけど・・・っ、でもっ、マシなのぉ〜〜っ!!」
幽霊の方がマシ!
腰越人材派遣センター一同は、さっ!と社長のデスクに集合し、いったいそれはなにかと話し合う。
「何?強盗とか?」
「千明んちに盗むのんなんかあんのかよ」
「人間性から持ち物まですべてチープだしねぇ」
「じゃあ、生きてる昔の男?あ、あれかなぁ、二股かけてたら鉢合わせした?」
「ちっ!千明ちゃんっ!二股なんてダメですよぅぅ!!」
「待ってよ。ねぇ。陰口なら、陰で言ってよ」
「あっ、いけないっ!陰口って本人に聞かれちゃったら、単なる悪口になっちゃうのよねぇ〜」
「人間性までチープってなにぃー!!二股って何ぃ〜っ!?あたしは、由紀夫一筋なんだからぁ〜っ!!」
きぃーっ!と叫ぶ千明を、正広が慌てて宥める。
「ね、何?何が出たの?」
親切な正広の言葉に、はっ!と千明の顔色が青ざめる。
「何で思い出させるのっ!?」
「えっ?」
「ひどいっ!せっかく忘れようと思ってるのにぃっ!ひろちゃん、あんまりよぉっ!!」
「待て」
由紀夫は、がん!といやんいやんっ!と頭をぷるぷる振ってる千明の頭上に、分厚い紳士録を落とした。
「落ち着けって」
「いったぁ〜〜いぃ〜〜!!」
「ゆ、由紀夫ちゃん、それ、首の骨に・・・、響くし・・・」
「いや、あんまり訳の解らない事言うから、ちょっとゆすった方がいいかなーと思って」
「痛い痛いぃ〜!!」
「痛かろうと、痛くなかろうといいけど、それで、いつ、どこで、何が、出たっての?」
さすがは有能経営者。報告の基本を押さえつつ、奈緒美が質問する。
「えっとぉ」
痛い、痛い、と頭頂部をすりすりしながら、千明は答えた。
「えっと、いつ?は、今、でぇ〜、どこ?えっと、あたしの部屋でぇ」
「何が?」
「きゃーーーー!!!!!」
口にするのもいやぁ〜〜っ!!!
来てぇぇ〜〜っ!!!
正広の手をがしっ!とつかみ、千明は風のようなスピードで腰越人材派遣センターを飛び出していった。
溝口正広は、腰越人材派遣センターで一番人質に取るべき人間である。本人の抵抗は少なく、心配してついてくる人間が多い。
その際、後にボコボコにされる恐れは多分について回るが、千明はそこまで頭が回るような女ではなかった。
「たぁすぅけぇてぇ〜〜・・・・・っ」
か細い悲鳴をあげている正広の手をつかんだまま、とにかくダッシュしつづけ、自分の部屋の前までやってきた。
「やーん!ひろちゃん、大丈夫ぅ〜っ?」
ぱっ!と振り向くと、正広は、ちょっと顔を紅くはしていたが、特に息切れを起こしているようでもない。
「あれ。ひろちゃん、ずいぶん丈夫になったんだね?」
「うん。あの、まぁ、あれくらいのスピードだったら・・・」
「遅い!」
正広の後ろに、こっちも平然とした由紀夫がいる。
「おまえは、いもむしか!?幼稚園児だってもっとまともに走るだろ!」
「えぇ〜?」
自分では、かもしかのように走っていたつもりの千明はぶーとふくれるが、由紀夫もちゃんと来てくれたのが嬉しくてしょうがない。
「それで、千明ちゃん、部屋に何が出るって?」
「あぁんっ!口になんかできないぃーっ!」
「千明ちゃんしっかりぃ!!」
「いるのよぅ!!」
「だから、何が!」
「あの・・・、黒いヤツが・・・っ!!」
「黒いヤツ?」
「森医師?」
正広は自分の発想にケラケラ笑い、
「森医師がいたんだったら、別にいいんじゃねぇのぉ〜?」
「森医師だったらいいわよぉ!!」
だから一体何!?
早坂兄弟に詰め寄られ、くっ、と千明は唇を噛む。
「黒くて・・・っ、そして・・・っ!!飛ぶのよぉぉぉーーーー!!!」
「なんだ、ごきぶり?」
「言わないでっ!!」
「ごきぶりっておまえ、どんな部屋に住んでんだよぉ!」
千明の今の部屋は、そこそここぎれいな、ワンルームマンションの5階である。
「その名前を出さないでぇ〜〜っ!高いとこにはこないって聞いたのにぃぃ〜〜っ!!」
「と、とにかく、退治しなきゃ・・・」
「ばーか、正広、ほっとけってぇ」
「由紀夫ぉ!」
「あのな?女が一人、強く、凛々しく、たくましく生きていくって言うのは、そういう事態にも対応できるって事が必要条件だから。な?」
それじゃ、と正広の肩を押して帰ろうとした由紀夫の背中に、ひしっ!と千明がすがりつく。
「あたし!一人なんかじゃ生きてけない、ダメな女でいいもんっ!」
「あぁ〜のぉ〜なぁ〜・・・!」
サンダルの爪先をずるずる引き摺りつつ、背中にから肩にまでおぶさってこようとする千明を、由紀夫は払い落とそうとする。
「まぁまぁ、兄ちゃん」
ここは自分が大人にならなきゃ!
間に入ったのが正広だった。
「ゴキブリホイホイでも買ってくればいいじゃん。ね?大丈夫だよね、千明ちゃん?」
「いや。この部屋に一人で入るのがいやっ!だって、玄関にいたらどーすんの!?」
「おかえりなさぁ〜いって三つ指ついてお迎えしてくれんのか」
「いやー!!そんなの、いやぁぁ〜〜!!」
これはもう、中に入るしかないのか・・・!
諦めた正広は、千明から鍵を受け取った。鍵をあけ、ドアノブをひねり、静かにドアをあけた正広は驚愕した。
「えぇぇーーーーー!!!!!!」
<つづく>
なっ!なにがあったの!千明の部屋で何が!?大丈夫!大丈夫なの!?ひろちゃん!!!
てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!