天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編43話後編『ゴキブリホイホイを届ける』

前回までのあらすじ
「腰越人材派遣センターで飼われることになったハムスターは、今日もからから回し車を回している。そして相変わらず狂暴である。」

yukio
 

「えぇぇーーーーー!!!!!!」

正広の悲鳴に、由紀夫は千明を押しのけてドアの中を覗き、除いた途端、180度ターンを決めて、
「べしっっ!!」
と音がするほど強く、千明の頭頂部を平手で叩いた。
「いったーい!」
「痛いじゃないっ!!おまえなぁ!なんだこれ!」

びしぃ!!と指差された方向を見て、なにぃ?と千明は首を傾げ、なにぃ?と由紀夫の顔を下から見上げる。
「なに?じゃねぇだろ!おまえ何も疑問感じねぇのか!?」
「なにが?あ。ちょっと散らかってるけどぉ、ほら、5月は連休があったでしょー?だから、燃えないゴミとかね、集めてくれなくってぇ、だからぁ」
「だからじゃねぇだろぉぉぉーーー!!!」

正広が呆然と立ち尽くす、狭いワンルームマンションの玄関は、半透明ビニール袋が溢れかえっていた。
ドアから一望できる部屋の中にも溢れかえっていた。
鮮やかでチープな洋服も、山盛りになっていた。
「あっ!いやーん!」
千明が慌てて隠そうとしたのは、窓際にかかっていた洗濯物(ラブリィかつゴージャスな下着類多数)だけだった。

「いやーん!じゃねぇ〜〜!!」

男兄弟の二人暮らしの割に、几帳面な弟のおかげもあってこざっぱりと生活している由紀夫にしてみれば、許せない状況だった。
「てめぇ〜っ!田村の方がまだ綺麗に住んでんじゃねぇかぁ〜〜っ!!」
「ひっどーい!!あそこまでひどくないもーん!!カーテンだって可愛いしぃ、明るいお部屋にしてるんだからぁ〜っ!」
「うるっせぇ!この部屋で、今までゴキブリが出なかった事に感謝しろっ!大体こんな部屋みたら正広が・・・!」
「ひろちゃんが・・・?」

二人の視線が正広に向けられる。
現在、千明は部屋の中にいて、由紀夫は玄関の外からぎゃあぎゃあ怒鳴っていて、正広は玄関の中のわずかな隙間に突っ立っていた。
そして部屋を見て驚愕の叫びをあげて以来、すべての動きを止めていたのだ。
「ひろちゃん・・・?」
固まっている正広に近づいた千明が、目の前で手をひらひらさせる。洗濯物を片付けるために正広を突き飛ばす勢いで飛び込んだ千明とは別人のようだ。

「ん?何の音?」

シュウシュウ、と微かな音がして、千明は辺りを見回す。

「やべぇ・・・」
由紀夫は小さく呟いた。
「ちょ、正広・・・っ」

かちんっ♪

その肩に手を置いた瞬間、軽やかなスイッチの音がした。

「兄ちゃんっ!ゴミ袋買ってきてっ!!」

『すざましく汚れている部屋を見ると、溝口正広は、お掃除戦士クリーンひろちゃんに変身してしまうのだ!!』

「千明ちゃん!窓開けてっ!」
「ひろちゃん!?」
「あぁーあ。知らねぇぞぉ。床に落ちてるもん、全部捨てられると思ってた方がいいからなぁ〜」
お掃除戦士クリーンひろちゃんの言いつけに従い、由紀夫はドアから離れようとしている。
ゆっくりとしまるドアの向こうから、「違うの!それは落ちてるんじゃなくって、置いてるの!違うのぉ〜〜っ!!」とかいう千明の絶叫が聞こえてきた。

 

「ゴミ袋とー、後、クイックルワイパーとか適当に買ってきたけど」
「ありがとっ!じゃあ、あるんでしょ!?」
「なにが・・・?」
由紀夫が顔をあげて弟、ではなくて、お掃除戦士クリーンひろちゃんを見ると、お掃除戦士クリーンひろちゃんは、由紀夫にではなく、千明に向かって言っていた。
「うん。あるぅ〜」
「そんな便利なものがあるんだったら、どーして捨てにいかないの!でかける時に1個ずつ持ってけばいいことでしょお!?」
「そぉなんだけどぉ〜・・・」
「とにかく、どんどん出しちゃうのっ!」
お掃除戦士クリーンひろちゃんの声は、スピッツさながらに甲高い。キャンキャン言いながら、「兄ちゃんもそれもってってっ!」と玄関のゴミ袋を指差す。
「持ってけってぇ?」
「1階に、ゴミ置き場あるんだってっ!そこっ!」
「あーんっ!でも、ひろちゃんっ、捨てないっ?これ、捨てないっ!?」
千明は大量の洋服を胸の前で抱えて、イヤイヤする。
「捨てないからっ!とにかく兄ちゃんが入るだけのスペースもないでしょぉー!?」
「それは大げさよぉ、ねぇ由紀夫ぉ」
「スペースがあっても入りたかねぇ」
「ひどぉいぃ〜〜っ!!」

しかし千明の怒りも、お掃除戦士クリーンひろちゃんの前では無力だった。
とっとと行けぇい!と蹴り出された千明は、ぐすぐす言いながらゴミ袋を両手に下りていく。由紀夫も大人しくそれについていった。
「由紀夫ぉ、優しいのねぇ・・・」
「いや、とっととすまさないと、正広あのまんまだしな」
「ブラコーン!!!」

しかし。
お掃除戦士クリーンひろちゃんはおっそろしかった。
「1年着なかったら、これからも着ないよ!」
「えぇ〜〜!?着るもぉん、着るもぉん〜〜!」
「でも、俺、千明ちゃんがそれ着てるの、ずっと見たことないもん!」
洋服の山を守ろうとする千明に、着ないものは捨てよう!とする正広。ぎゃー!!と騒いでいる声を聞きながら、由紀夫はちゃっちゃとごみを捨てていく。
「じゃさ、じゃさ、こっちのクローゼットの中見は?着ないもんあるでしょっ?」
「う。えと」
「だって、千明ちゃんの体、1つでしょー?そんなにいっぺんに洋服着られないじゃん!」
「そだけどっ、でもぉっ、でも、これ好きだしぃ、あっ、これもぉ。だってこれ、似合うでしょぉ〜!?」
「でも、置く場所ないじゃんかぁ!」

明らかにゴミだろう、というものをゴミ袋につめつつ、由紀夫は、さすがはお掃除戦士クリーンひろちゃん、と思う。
いつぞやのお正月に、きっちりした掃除を習って以来、正広は掃除についてのエキスパートになりつつあった。
さらに、奥さん雑誌の収納特集は正広のお気に入りテーマで、実践したくてしょうがないと思っているのも知っている。
しかし、由紀夫と正広のうちは、意外とものがなくて、収納!!とこだわらなくてもそこそこすっきり暮らせている。あぁ、すき間家具!とか、収納の裏技!とか、やってみたくてしょうがなかったお掃除戦士クリーンひろちゃんは、ついに戦場を見つけたぜ!という気持ちで、うきうきわくわくしてして(本当は田村のところを綺麗にしたいと思っていた。でも、ちょっぴり怖かったため断念(笑))

「とにかく、捨てなきゃ!!」
「えーっ、えぇ〜っ」
「だって、これ、すそほつれてし、これシミついてるよ?直すの?ねぇ、直すの??」
「な、直すぅ・・・」
「じゃあ、クリーニングだね?」
「え。うん」
こうして、ごみ袋なんだか、クリーニングの服が入ってるんだか解らない袋が増えていく。
「おまえんち、服とゴミしかねぇのかぁ?」
「えー、アクセサリーもあるもぉーん」
「ってこれか?」
「あーっ!どこにあったのぉー!!」
それは絡まりあったネックレス、ペンダント、ブレスレット、アンクレットなどの固まりだった。
「ん?ここ」
別にどこ、ということもない、床の上。
「イヤーん!探してたのぉー!でも、なんで絡まってんのよぉー!」
「勝手に絡まったりはしねぇだろ!」
よいしょ、よいしょ、と絡まりをほどこうとしている千明の襟首をお掃除戦士クリーンひろちゃんがつかむ。そのまま、ずるずる、とちっちゃなキッチンに引きずっていく。
「千明ちゃん」
「なっ、なにっ?」
「洗おう」
「はぁ〜い・・・」
自炊はしないから、台所はそんなには汚れてはいなかったけれど、コップとかが山盛りになっていた。

しぶしぶ洗う千明のそばで、何気なく流しの下にある棚をあけたお掃除戦士クリーンひろちゃんは、声もなく硬直した。
急にシーン、となったため、由紀夫も千明もお掃除戦士クリーンひろちゃんの方を見る。
「に・・・にい、ちゃ・・・」
「どした?」
ん?とのぞいてみた千明も凍り付き、おいおい、と最後にやってきた由紀夫も固まった。

何やら、食品の入っていたらしき袋の中に、ゴマ粒くらいの小さな黒いなにかがうごうごと。

『お掃除戦士クリーンひろちゃんの弱点は虫だ!虫を見ると、お掃除戦士クリーンひろちゃんは、溝口正広にもどってしまうぞ!』

3人は、棚を見つめたまましばし硬直し、「いやぁぁーーーっ!!!」という千明の悲鳴で、全員部屋の隅に逃げ出す。
「いやっいやぁんっ!!気持ち悪いぃ〜〜っ!!」
「なにあれ!なにあれぇっ!にいちゃぁんっ!!」
左右からしがみつかれ、やだーやだぁっ!!と叫ばれる由紀夫。その由紀夫の表情も硬く、やや白かった。
「・・・気持ちわりぃ・・・」
「殺虫剤っ、殺虫剤っ!」
「待て!そもそもここごきぶりがいるんだよな!」
「そう!そうよ!あいつらもいるんじゃない!!」
「一気にやんなきゃ・・・!」

足で棚を閉めた由紀夫は、絶対離れないっ!としがみつく二人をつれて外に出る。
「兄ちゃん、どーすんのっ?」

そりゃ霧の殺虫剤で部屋中の虫をせん滅するのだった。

 

「あんたたち、今日仕事だって解ってんの?」
2・3時間は放置しておかなきゃいけないので、腰越人材派遣センターにもどってきた3人は、ぐったりとしながら奈緒美のお説教を聞いた。
「だって・・・」
「いやー、あの部屋、奈緒美がみたら、トラック呼んだね。トラック。もう一気に全部捨てるって感じだった」
「しかも虫までいたって?」
「なんかさぁ、ちっちゃな虫でさぁ・・・」
思い出して3人の顔色は悪くなる。
「ちっちゃな虫で、それが、なんか大量にうじゃうじゃと・・・」
「うわ・・・」
聞いてる野長瀬や典子もつらーい顔になるが、奈緒美はけろっと言った。
「コクゾウムシとか?」
「なにそれ」
「お米とかにつく虫よ。ちゃんと密封容器にいれてないからそんなことになるんでしょう?」
「んなこといわれてもぉ・・・」

「ま、さ、千明ちゃん」
溝口正広にもどってしまった元お掃除戦士クリーンひろちゃんは、千明にコンビニ袋を手渡す。
「なに?」
「これ、あげる。後、がんばってね」
「え、がんばって、って、なに?」
「後始末がんばれよって事」
「後始末?」
「殺虫剤かけてんだぞ?虫死ぬだろ?その死体はおまえ片付けなきゃ」
「・・・嘘!!ひろちゃん手伝ってくれないのぉ!?」
「俺、虫だめだもぉん!!」
「由紀夫ぉ!」
「俺も、虫ダメだもぉ〜ん」
いやぁーー!!!
『これからはこれを使ってね』、という元お掃除戦士クリーンひろちゃんの心尽くし、ゴキブリホイホイを胸に抱き、叫ぶしかない千明だった。

御愁傷様。


うちにも虫が出るんでねぇ・・・。あぁ、お掃除戦士クリーンひろちゃん!来て!うちにも来て!でも虫の始末はしてくれないのか!ちぃっ!!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!

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