天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?
『Gift番外編』
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ギフト番外編44話『傘を届け・・・?』
前回までのあらすじ
「腰越人材派遣センターで飼われることになったハムスターは、脱走壁があり、しかも脱走テクもあった。彼はぴかちゅうと名づけられたが、新たなあだながつくまで、もう少しである」
「あ、雨」
正広が一人で事務所で留守番をしていると、突然、雨が降り出した。
窓の外に目をやった正広は、
「うわー!!」
慌てて窓に走る。
それは、梅雨の雨、というよりも、夏のどしゃぶりといった感じで、正広は慌てて窓を閉める。
「ちょっとこれ、すごー」
ドラマみたいな激しい雨に、正広は目を点にした。
「これみんな大丈夫なわけぇ?」
えぐれ!アスファルト!みたいな勢いの雨を見下ろし、正広は事務所の人員がどこにいるのかに思いを馳せた。
まず、兄、早坂由紀夫は自転車にて届け物の仕事中。屋外にいる可能性90%。
社長、腰越奈緒美は、得意先周り。社用車のベンツで出かけていったから、屋外にいる可能性10%。
上司、野長瀬定幸は、いつもなら社長の運転手として出かけているはずだが、今日は別件で外出中。腰越人材派遣センターに登録している契約社員たちの元に書類を届けに行っているので、屋外にいる可能性50%。
先輩&同僚の、典子&千秋は、「銀行いってきまーす」と二人で出かけたので、ブティックめぐりか、喫茶店でお茶か、コンビにで立ち読みか・・・。屋外にいる可能性は30%。
「えーっと、どうしようかな、傘、何本かあるけど・・・」
奈緒美は大丈夫だとして、困ってるのは由紀夫だろう。何せ自転車だし。典子と千秋は、傘を買えるだろうし、後は野長瀬・・・。
「うーん・・・!」
これはどうしたもんか、と正広は考えた。
事務所にも傘はある。多分、野長瀬のものであろうビニール傘が何本か。
「今日は雨降るって感じじゃなかったしなぁ」
兄はどうしているだろう、と、正広は考える。
自転車だけど、雨が降ったらどっかで雨宿りしてるだろう。でも今日の仕事は全然簡単だったし、もうとっくに終わってるかな。
でも、まだ帰ってこないってことは、どっかで休んでんのかな。
喫茶店とか・・・、あ、いや、映画館かな。まだ雨降ってるの気づいてなかったりして。
どこの映画館かなぁ。
名画座か、ロードショーか・・・。あれ?ファントム・メナスってもうやってるんだっけ。まだ?催眠でも見てんのかな。いやー、でもあれは怖いよなー。俺も見ようかどうしようか考えちやうよなー。
兄ちゃんが見てきたら、なんか、またこわーい風に言うんだろうなぁ〜・・・。
あれって菅野美穂だから怖いんだろうな。あー、菅野美穂って言えば、恋の奇跡でも怖いしなぁ。
なんか他の番組で笑ってるの見ても、えっ、ホントに!?ホントに笑ってんのっ?って気になっちゃってさぁ〜・・・。
・・・なんだっけ。
あ、兄ちゃんだ、兄ちゃん。
そっか。映画な。ありうるな。
典子ちゃんは、そーいえばロッカーに傘持ってきてたよな。
なんかプラダだって!プラダの傘!でも見せてもらっても、プラダってマークが入ってなかったら、どこがどう?って言う普通の傘だったんだよねぇ。
あの傘があるから、典子ちゃんはわざわざ傘買わないと思うんだよね。
まぁ、この雨じゃあ、傘があっても外に出るのがイヤだろうから、やっぱり雨宿りだよね。
ん?でも、ワイドショー見たいって言ってたな・・・。
そろそろ2時が来るけど、迎えにいってあげたほうがいいのかなぁ・・・。
でも、俺が出かけちゃうと、ここが空っぽになっちゃってまずいよねぇ。
電話してみたらいいのか。
正広は、バックから携帯を取り出し、いきなり脱力した。
バッテリーあがってるし・・・。
あーもぉー!!ちゃんと手帳に移そうと思ったとこだったのにぃ!!わかんねーじゃん!典子ちゃんや千秋ちゃんの携帯ー!!
困ったなぁ〜・・・。
奈緒美さん帰ってきてくれないかなぁ・・・。
でも、典子ちゃんがワイドショーみたいってゆってるんで、奈緒美さん帰ってきてくださいって言うのは、100%間違ってるよな・・・。
んー、あ、そっか。夏になったら高校野球を流しっぱなしにしてる喫茶店もあるんだし、そんなとこに入ってるのかなぁ。
何飲んでるんだろ。
ダイエット中とかいいながら、パフェとか食べてたりして。
パフェねー・・・。あ、でもそろそろかき氷かなぁ。宇治金。いいよねぇ〜。
野長瀬さんは・・・。まぁ、大丈夫、とは思うんだけど、結構融通利かないって言うか、機転が利かないって言うか・・・。
ずぶぬれで歩いてたりしたらやだなぁ。
だって、野長瀬さん、今あんまりスーツないとかゆってて、ボーナスでたら、替えパンツ付きのスーツを買うんだーとかゆってたし。
これで、スーツ濡れちゃったら、また大変だよ、ローテーションが。
そだ。
おうちでドライクリーニング用の服が洗えるとかっての買ったってゆってたっけ。あれどうなんだろ。
試してはみたいけど、でもなぁ、グッチのスーツとかだったら、やっぱりちゃんとしたとこに出さないと、いくらなんでも怖いよなぁ。
そーいえば野長瀬さん、洗濯物とか干しっぱなしじゃないよねぇ・・・。ほんと急にこんな雨が降るなんてなぁ。降水確率、10%とかだったんだぜぇ?
まぁ、でもうちは洗濯物なんかも干してきてないし・・・・・・
でっ、でも、窓開けっぱなしだぁ!!
どーしよー!!あそこの窓開いてたら、ベッドびしょぬれじゃん!?うわー!!うっそぉ!!やばいやばい!帰らなきゃ!
え?いや、あっちは大きすぎるから、しーちゃんの方の窓にしたんだっけ・・・。
にしたってしーちゃん危険じゃん!うわー!バカバカ!
やっばーい!!
立ちあがってオロオロしていると、ぽん、と靴の上に何かが落ちた。
「ん?」
足元を見ると。
『だんな、どーかしたんですかい?』
「あー!ぴかちゅうー!何してんだよぉー!!」
ハムスター→ねずみ→ねずみポケモン→ぴかちゅう、というあまりに解りやすい図式から、ぴかちゅう、と呼ばれているハムスターが、正広を見上げていた。
「どっから逃げてくんだよぉ!」
『何いってんでやんすか、おれっちは、風の向くまま、気が向くままの、気軽な稼業ですぜ』
そしててててー!とデスクの下に消えていくぴかちゅう。
「ぴかちゅう〜!」
ハムスターは逃げるもの、というのを地で行く脱走名人のぴかちゅうであった。
別名、引田ぴかちゅう。
しかし引田ぴかちゅうは食い意地も相当はっているので、山積ひまわりのタネ攻撃で見事捕獲、ケージの中に放りこんで、鍵までかける。
彼らは、上からかぶせるタイプのケージ自体をもちあげて、引田ぴかちゅうが脱出している事をまだしらない。
「あーもー!無駄な時間をっ!」
どーしよーどーしよ!
あ!兄ちゃんの携帯は解る!兄ちゃんに電話して、家の方を見に行ってもらえばいいんじゃん!でも雨降ってるし!あ、そか、タクシーで!タクシーチケットもあるし!
って、兄ちゃん今持ってんのかな。いや、いざとなったら、こっちによってもらえればいいんだな!うん、そうだよ!
「でもなー!映画見てるんだったら、携帯切ってるかぁ〜!」
「・・・誰が」
「え?兄ちゃん」
振り向くと、上から下までずぶぬれの、水もしたたりまくって、カーペットに巨大な水溜りを作っているいい男、早坂由紀夫がいた。
「あれっ?兄ちゃん映画じゃあ?」
「なんで映画なんか見てんだよ!それよりタオルっ!」
「あーっ!!はいっ!」
ダッシュしようとしたら、「たぁすぅけぇてぇ!!!」と甲高い悲鳴がした。
「えっ!?」
「もー!びしょぬれぇー!!」
「典子ちゃん、千秋ちゃん!」
「あっ!由紀夫ぉ〜、ねぇ、あっためてぇ〜っ!」
「冷てぇ、寄んなっ」
「あれぇ?喫茶店じゃあ?」
「喫茶店?」
「正広!いいからタオルって!」
「あーそうだったぁー!!」
3人にタオルを渡して、ドライヤーを渡して。
「うわーん、タオル足りないー!」
「おまえら、シャワー入ってこい!」
千秋と典子に由紀夫が言い、正広も、早く早く、と二人をシャワールームに押し込んだ。
「由紀夫も一緒でいいわよぉー!」
千秋の叫び声は無視される(笑)
「兄ちゃん、もーちょっと待ってねっ!」
スーツを引き剥がしつつ、由紀夫を給湯室に誘導。
「お湯でるから!」
「俺は貧乏下宿生か」
長い髪から水滴をこぼしながら由紀夫は笑った。
「たぁだぁいぃまぁ〜」
「うわー!来たぁー!」
当然ずぶぬれの野長瀬で、こっちはシャワールームに押し入ろうとして殴られる。
そして。
「傘、持っていこうかとは思ったんだよねー・・・」
とつぶやいた正広が、
「だったら持ってこい!!」
と、全方向から怒鳴られたことは言うまでもない。
なお、ホテルの地下駐車場に車を入れ、ホテルのティールームで、おほほほほ、と談笑していた腰越奈緒美だけが、雨の被害を一切うけなかった事と、案の定しーちゃん側の窓が開いていたため、しーちゃんの鳥かごがずぶぬれになっていたことをお知らせしておく。
部屋の中を自由に動けるため、しーちゃんに被害がなかった事が不幸中の幸いであった。
<腰越人材派遣センター新社則>
梅雨の時期の外出は、雨具持参のこと。
梅雨入り宣言がなされたとたん、ぴーかんで、日本一熱くなる香川県。今朝の天気予報でも、予想最高気温が沖縄と同じ!どななってんねん!香川県!また水不足か!!県庁の、渇水対策本部、という文字を見るたびに、何を対策してるんかゆーてみぃ!!という気持ちになるのであった(笑)
てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!