天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編46話前編『恨みます、が届いた』

今日の教訓
「1999、7の月がやってきた。あれは現代でいえば8月だという話もあるが、とにかくやってきた。明日何かが起こっても悔いのないよう、好きなことをして生きろ!私はそう思うのだった」

yukio
 

「に、兄ちゃん・・・・・・っ!」
その朝、由紀夫の耳に最初に飛び込んできたのは、震えている弟の声だった。
「・・・あ?」
「に、兄ちゃん、何、した、の・・・?」
「何したって・・・、なんだよ・・・」
まだ眠たかったので、寝返りをうち、毛布に潜り込みながら眠たげな声で答えると、ばさっ!と毛布をはがされた。
『何だよっ!』といおうとするより早く、正広が耳元で怒鳴る。
「何したんだよぉぉぉーーーーっ!!!!」

きぃーん、と耳鳴りがして、由紀夫はしばし悶絶した。

しかし、それだけでは終わらず、正広は由紀夫のグッチのシャツの胸元をつかんで、ぶんぶん揺さぶる。
「ねぇっ!何っ!?何したのっ!?どんな恨みをかってんのっ!?」
「うっ、恨みっ!?」
「ねぇ、兄ちゃんっ!」
「やめろぉ〜、ノーミソが、頭蓋骨から離れるぅ〜〜」
寝起きの体を力いっぱい揺さ振られ、うーん、と気を遠くさせながら由紀夫は弱々しく抵抗。
「そんなのいいからっ!起きてっ!来てぇっ!!」
脳が頭蓋骨から離れてもいいってのか!?
由紀夫はそう思ったが、何分寝起きがいい男なので、しぶしぶ起き上がって正広に引っ張られるがままについていく。
「み、見て・・・」
「あぁ・・・?・・・・・・・・・・・・・・・・・・んだ!?」
「なっ、何、これぇ!!」

外に通じるドアの内側。
ぺらっ、と紙が貼ってあった。そこに書いてある、超極太ゴシック文字は。

『恨みます』

「こわーーーーっ!!!」
「これ、何っ!ねぇ、兄ちゃんっ!兄ちゃん何したのっ!!」
「してねぇしてねぇっ!!」
「えーっ!?だって、兄ちゃん、なんか・・・、なんかしたんじゃないのぉ・・・?」
「なんかってなんだよぉ〜」
「なんか、って・・・。あの、なんか、女の子、とか」
「いや、確かにこーゆー事をするのは、女の仕業っぽいけど、そんなもん、恨まれるようなことはなんも・・・」
「してないぃ?」
「してねぇよっ!・・・あ」
「あるんだ!!あるんだぁ!!こんなことをされるほどの心当たりがあるんだぁぁ!!」
きゃーーっ!!と叫んでベッドに飛び込む正広。
「ねぇっっつてんだろっ!!」
「だって!だって今、心当たりありそーだったじゃーん!!」
「そっちじゃなくって!いいから戻ってこいっ!」
「やだぁ〜、恐いぃ〜」
「おまえ、何びびってんの」
「だってだってぇ!だって、『恨みます』だよぉ〜〜!?」
「やっぱりそっちか」
ドアの前に立ったまま、由紀夫はぽつん、とつぶやいた。
「え、何、何・・・?」
毛布にくるまった正広が、そぉ〜・・・っと顔を出す。
「何で、内側に張ってあんだよ」

『恨みます』の紙は、ドアの内側に貼ってある。
「その方がおかしいだろ」
「あ」
今度は正広がつぶやいた。
「え?」
「あ。それは、すいませぇん・・・」
「何が」
おずおず、と近寄ってきた正広は、ぺこん、と頭を下げる。
「鍵、かけてなかったみたいでぇす・・・」
「何おぅ!?」
確かに今、鍵はかかっていない。いないが、犯人が出ていってそのままになってるのかと思ったのに。
「ひろっ!」
「うっかりしてたんだもぉ〜〜ん!!」
「だったら、別に不思議でもなんでもないだろぉ!鍵がかかってないんだし!」
「いや、そぉなんだけどぉ〜」
首根っこを捕まれて、うらうらっ!とゆすられる正広は、ごめんなさい、ごめんなさいっと謝ったが。

「いや!ちょっと待ってよっ!」
その兄の手を振り解いて言った。
「どこの世界に、ただドアが開いてるからって、あんなもん貼ってく人がいんだよっ!」
びしぃっ!と『恨みます』と指差され、由紀夫もそりゃそうだ、と納得する。
「なるほど。んでも、俺、心当たりねーよ?」
「えぇ〜・・・?兄ちゃんならあるでしょぉ!仕事先であった人とか、遊びにいった時に会った人とか!」
「ないっ!それより、正広くんはどーなのよ。ん?入院中に約束した子とかいないの?『俺は、退院するけど、きっとお見舞いにくるからね、がんばってね!』なーんて約束したのに、自分は退院しちゃったもんだから、ついつい浮かれてすっかりそんな子のことは忘れてしまい、そして彼女は悲しみのうちに亡くなって、その魂がぁ!!」
「やぁめぇてぇぇぇ〜〜〜!!!」
昨今のホラーブームにすっかりやられている正広は、ひぃぃーー!!と耳をふさいでしゃがんでしまったが、はっ!と立ち上がった。
「俺!今でも通院してるでしょー!!」
「あ、そっか。んじゃ、ハイミスの看護婦かなんかに手ぇ出した?」
「手ぇ出されることはあっても、手ぇ出すことはない」
「・・・正広くん、変わった・・・っ」

そんなの兄ちゃんの知ってる正広くんじゃないっ!!とソファに身を投げて、よよよ、と嘆いていると。
「あ、携帯?」
「鳴ってる鳴ってる!」
ぱたぱたっ!と走った正広が、由紀夫に携帯を渡す。はいはーいと出てみると。

『まさかと思うけど、今日、朝一で仕事ってのがあったのを忘れてる訳じゃあないわよねぇ』

静かに、低く、奈緒美の声がした。

「あったり前じゃん、もうつくよ、今運転中、あぶねぇから、じゃな」
プチ。
「やっべーーーっ!!!」
「急いでぇぇー!!」

 

そしてその日の夕方、一日まじめに働いた早坂兄弟は、働いたなぁ〜、という満足感を持って家に帰ってきて。

脱力した。

「そ、そーだった・・・」
「これ、忘れてたぜ・・・」

朝と寸分変わらぬ場所に、『恨みます』の張り紙。
「とりあえずはがして・・・、あ、待て待て、指紋取ってやれ」
「指紋?」
普通にはがそうとしていた正広が振り返る。
「道具あるから取れるよ。なんか、だから・・・どーやってはがすかな・・・。とりあえず手袋して・・・」
「手袋!あのー、俺、千秋ちゃんからもらったうさぎさんのミトンしかないんだけど・・・」
「可愛いのがお似合いねー、正広くんはね〜♪」
「兄ちゃん、ミトンもらえなかったからって拗ねんなよ」
「ふんっ、どーせあたしは、ミトンなんて似合いませんよっ!」
しかし奈緒美からもらった、高級イタリア製オーダーメイド皮手袋をして、よいしょ、と張り紙をはがす。
「別に、普通の紙だな」
「ワープロか・・・、パソコンかもしれないけど、よくある印刷だよね」
「指紋、指紋っ、と」
「・・・でも、出てきたって、それが誰の指紋か解らないんじゃないの?」
「解るよ。田村がいるし」
「なるほど!」

が。

「指紋がでねぇ・・・」
「え?」
「普通、このテープのとこには、指の跡が残るだろ?それもない」
「・・・ってことは?」
「犯人は、この蒸し暑いのに、皮の手袋をしていたに違いない」
「なんで?」
「ひろちゃんの、可愛い可愛い、うさぎちゃんのミトンっ!みたいに毛糸のものとか、後、よくある布の手袋とか、あぁいうヤツなら、糸屑みたいなのがつくだろ、多分」
「・・・そんなにほしいんだったら、あげようか?うさぎのミトン」
「いらないっ!そんなのいらないもんっ!じゃなくってぇ、つまり、指紋を残したくないって事で・・・・・・・・」
「兄ちゃん?」
「・・・うち、現金置いてたっけ」
「現金?あ、財布くらいじゃない?」
「なんか取られたもんないか!?」

きょとん、とした正広だったが、「あぁーーーーー!!!」と声をあげて、あっちこっち探し始める。
「ゲームあるでしょ!ビデオもある、テレビOK!電話も平気だし、PHSは、PHS・・・はバックか!」
由紀夫も、とりあえず心当たりのある書類とかを見るが、何がなくなってる訳でもなく、通帳とハンコもいっしょに見つかった。
「別に、ない、なぁ・・・」
「何がないの!?」
「いやいや、なくなってるものがない」

そう。
早坂家から盗られたものは何もなかった。
「わざわざ入ってきて、この紙だけ貼って帰っていったってことか・・・」
「こわー・・・」
「とにかく、ちゃんと鍵かけて。それと、あのチェーンもして」
「そーだよねぇ、そーだよねぇ!!」

「鍵よし!」
「チェーンよし!」
「「おやすみなさい!!」

その夜、脅えながら眠りに就いた早坂兄弟だったが、翌朝先に目を覚ました由紀夫は、これを正広に告げるべきかどうか、しばし悩んだ。

鍵も、チェーンもそのままなのに、テーブルの上に、『恨みます』の紙が貼ってあった。

<つづく>


田村ネタ(笑)ぷぷぅ。どうなっちゃうの!早坂兄弟(笑)!!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!