天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編46話後編『恨みます、が届いた』

前回のあらすじ
「正広の背後から襲いくる、視線の恐怖!果たして誰なのか!ハイミスのOLか!はたまた、危ないおじさんか!正広の貞操は守られるのか!!あほっぽさ120%(笑)!」

yukio
 

背中に微かに、けれど、しっかりと感じられる視線。
正広は、自分の心臓がかなりドキドキしているのを感じた。ドキドキがひどくなっていくのも。
兄ちゃぁぁぁ〜〜ん・・・!!
たぁすけてぇぇーーー!!とギュっと目をつぶった時、正広は突然口を押さえられた。
ぎゃああ!!!兄ちゃぁぁん!!!さよぉならぁぁぁ〜〜〜・・・・・・!
あまりの恐怖に意識が遠のきそうになった時。

「だぁ〜れだっ」

楽しそうなのんびりした声がした。

「・・・生理用品前にして、人の弟に何してんすか」
「あ、お兄さん」
「い・・・稲垣、先生・・・?」
「当たりぃ」
ぱっと手が離れ、振り向いたら白衣でニコニコしている稲垣医師と、すみません、すみませんっ、とぺこぺこ頭を下げている草なぎ助手がいた。
由紀夫も難しい顔で立っていて、こっちこっち、と手招きする。自分が立っていた場所が、確かに生理用品の棚の前だった事に気づいた正広は、そそくさとついていった。
「どれ使ってるの?」
「え?」
「随分悩んでるみたいだったから」
「あぁ、正広ねぇ、子供だからまだ来ないんですよねー」
「はい?」
「あれ。最近の子は発育いいはずなのに」
「・・・来る訳ないでしょー!!!」
セクハラ獣医師の言葉にうきー!となった正広に向かって、草なぎ助手がなおもぺこぺこ謝る。
「大体、草なぎ先生も人がいいのは解るけども、こういう暴走医師を止めるのもあなたの仕事でしょう?」
「すいません、すいません」
「失礼な。誰が暴走医師?私はね、暴走獣医師」
「やっぱり暴走してんじゃねぇか!」

稲垣医師は、病院の犬・猫たちのために魚のアラなどを貰いに来ていたところで、正広を見たのだった。
「なんだか随分頼りない背中してたから、どうしたのかなぁと思って」
「だったらその時普通に声かけてくださいよぅ」
「いや、万引きでもしてるんだったら、店員の目につかないところで諭してあげようと思って」
「んなことしませんってばっ!」

ぷんすか!と夕食の買い物をし、ぷりぷりとスーパーを出る正広に、由紀夫が声をかけた。
「・・・怪しいよな」
「えっ!?」
万引きごときで精神の高揚を求めようというほどバカじゃないやいっ!とぷんぷんしていた正広は、キツい声で兄に答える。
「稲垣医師」
「え?」
「入って来そうじゃねぇ?・・・隙間から」
「・・・は、入ってきそう・・・」
正広の脳裏には、閉められたドアの隙間から、するすると入ってくる稲垣医師の姿がまざまざと思い浮かべられた。
「あのスーパーで会ったこともないし」
「・・・そーいや、ないかなぁ・・・」

でも一体・・・!自分の何が稲垣医師を恨みに駆り立てているのか!いやそれとも、それは兄なのか!あぁ!!

「だから。何で、って理由を考えるな。この場合、重要なのは、どうやって入ってきてるか。それは誰かってことだから。それでな」
由紀夫は、肩から提げた大きな荷物を正広に見せた。
「何?」
「カメラ」

「いやーん、そんなぁ、夜のベッドを撮るつもりぃ〜!?」
「そうそう。それで、そのビデオを裏のルートで流して」
べしぃ!!
由紀夫は手にした取説を、正広の頭頂部を叩き付けた。
「ここまで撮るつもりはねぇよっ!ってゆーか、撮られて困るようなことがあんのか!」
「はっ!」
「『はっ!』ってなんだ『はっ!』って!」
ふざける弟に付き合いつつ、由紀夫は買ってきた小型ビデオカメラを寝室から、リビングが見える位置にセットする。当然、盗聴器が仕掛けられていなことはチェック済みだ。
「ここと、後、ドアが見える位置にセットするから」
「2つかぁ〜。すごい、兄ちゃん張り込んだね」
「ん。んで、ここが解決したら、奈緒美が田村に買わせる」
「さすが兄ちゃん!」

正広はやたらと楽しげにはしゃいでいたが、家に帰ってから、由紀夫の側から離れようとはしなかった。
安心できるはずのうちに、誰かが入ってきている不安をどうしても感じているようだった。

「これで、誰が何をやってるのか解るはず・・・!こうなると、今晩来い!って感じになるな」
「なるね・・・!」

夕食は焼き肉にしたので、特になんの準備もなく、焼くだけ焼いて、食べるだけ食べて、片づけて。テレビも見たし、ゲームもしたけど、お風呂に入って髪を洗うのが恐かったので、正広は、ドアの外に由紀夫にいてもらって、喋ってもらった。
なんでこんなことを・・・、と思いながら、
「だって!だって、目ぇつぶってんのに、後ろで、コトン、とかゆったら恐いじゃん!」
だの、
「鏡見て誰かいたらどーするの!」
だの言われて無理に連れてこられている。
鏡見て誰かがいた分には、自分でもどうしようもないけど?とは思ったが。
「それでー?それで兄ちゃん、どーしたのぉー!?」
風呂場のタイルに声を反響させ、大きな声で正広が聞いてくる。
「それでぇ、ちょっとカチーンと来たから、どーしてやろっかなぁーと思って、ルーレットって自分が出したいとこに玉落とせるの知ってる?」
「嘘ぉ!」
しばし過去のいかさま話に華が咲いた。

「それでは」
「はい・・・」
寝支度を整えた早坂兄弟は、神妙な顔でベッドの上にいた。
「ビデオセットして、明かり消します。普通に寝てください」
「あ、うん」
ドキドキして眠れるかしら、と正広は胸元を押さえる。
「あれあれぇ?正広ちゃんは、どきどきしてまちゅかぁ?あったかぁい、ミルクのむのむしまちゅぅ〜?」
「ちまちぇん!」
ぷんっ!と布団に入って、寝なきゃ、寝なきゃ、と目を閉じる。

寝なきゃと思えば思うほど、寝られない自分、というものを自覚してはいたけれど。

由紀夫が寝ているのかどうかは解らなかったけれど、正広の神経は、寝ても起きてもいない、不思議な場所にいた。
多分、これって金縛りの状態なんだろうと思う。
意識は、ある程度あるけれど、体は動かない気がする。
こんな時に、もし、すぅ、っと、誰かが上を通っていったらどうしよう・・・。
するっと窓が開いて、何かが、すぅっと・・・。
そんなことが起きたら、叫んで、兄ちゃんを起こさなきゃいけない。つかまえなきゃ。でも、そんな飛ぶようなものを捕まえられたりできるんだろうか。

かちん。

微かな音がした。
金属同士がぶつかるような音。
はっ!と正広の意識がはっきりする。はっきりするけれど、まだ体への神経が起きてこない。
暗闇の中、ドアをじっと見ていると。
チェーンをしたままのドアが、ゆっくりと、内側に開くのが見えた。

『うっそぉぉ!!!!』

寝る前に二人して、指差し確認もした。
「チェーンよし!」
「よし!」
ぐいぐい引っ張りもした。
なのに、そのチェーンもそのままに、ドアが開くなんて、一体どぉしてぇぇ!!!!
あぁ!いっそこのまま気絶したいぃ!!!

一体どんな魔物が入ってくるのか。
昔懐かしい口裂け女のようなのか、それとも丑の刻参りの装束を纏っているのか、それとも、もっと訳の解らない、ガスのような地球外生命体・・・・・!!!

 

と。明かりがついた。
「てめぇ・・・」
由紀夫の低い声がする。
「こんなとこで何してんだよっ!!」
ようやく体が動いた正広もがばっ!とおきあがり、悪い目でじっとドアを見て。

「お父さん・・・?」

と呟いた。

「久しぶりっ」
悪びれない様子で、
岸和田裕二郎が手を振った。

 

「何してんの・・・?」
「いや、ちょっと怨んでいたもんで・・・」
テーブルに座った岸和田の前に、由紀夫と正広が立つ。
「しかも、何このドアの開け方!」
「盲点だろ」
「あぁ!確かに盲点だったよ!ドアのちょうつがい外して入ってくるなんてなぁ!」
へへへ、と得意気に岸和田は笑う。
そして、今日も用意していた「怨みます」の紙を出してくる。
「何だってんだよ、一体何を怨んでる訳ぇ!?」
「えっ!おまえたち、お父さんを見ても解らんか!?」
「若さを妬まれたってしらねぇし!」
「ばぁか、おまえらごときの若さが羨ましい訳ないだろ」
ふふん、と偉そうにしながら、怨みますの紙をなおもぴらぴらさせる。
「だったらなんだよ!」
「だから、お父さんがこうやって来ているのに!」

そこで、正広が手を叩いた。

「父の日だ」

「父の日ぃ!?」
「そうだよ!なんだおまえら!たった一人のお父さんに、父の日にプレゼントの一つ、いや、メッセージの一つもよこせないかな!!」
なぁひろちゃん!!と詰め寄られ、いや!父の日だって解ってたんですけど、どうやって連絡つけていいか解らなくって!と正広は首を振り、そうか!ひろちゃんはいい子だ!と抱きしめられる。

由紀夫は!?と期待に輝く顔で聞かれた由紀夫は。
そんなことのために、こんなことまでするバカな父親に、一体何をどーしてやればいいのか解らなくなったので、思考停止。とりあえず寝た。
あんまりうるさいから、3人川の字にまでなって寝た。

起きたら面倒くさい事になりそー・・・。

そしてその由紀夫の危惧は現実のものとなった。


そんな訳で父の日に何もしてくれなかったことを怨んだ岸和田でした(笑)ぷぷぅ(笑)

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!