天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?
『Gift番外編』
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ギフト番外編47話後編『オーストラリア旅行を届けたい』
前回のあらすじ
「早坂兄弟のうちに忍び込んでいたのは、なんと、由紀夫の父、岸和田であった。岸和田は、父の日に何もしてくれなかった息子たちを怨んでいたのだ!頭おかしいんか!岸和田(笑)!その頭がおかしい岸和田は、27時間テレビ愛は地球を救う、もとい!照れずに楽しく照れずに愛してのスーパーバスケに出るという野望を持っていたのだった!そして岸和田と四匹の小猫たちというラブリィな名前に、猫しっぽつきの可愛い衣装をきて、可愛いメイクまでされた由紀夫たちは、順当に勝ち上がりお台場フジテレビにやってきた!が!決勝戦を前に、岸和田が足をねんざしてしまったのだぁ!!」
「あ、ちっきしょ」
正直に正広は口にして、由紀夫は、「ちっ」と舌打ち。奈緒美は中指を立て、野長瀬は激しいジェスチャーで天を仰いだ。
「成功ー!1対1!」
「成功しやがったか・・・」
岸和田は笑った。
「こりゃ、次は決めなきゃなぁ」
「あったりめぇだろ?」
由紀夫たちは順番を変更する。奈緒美の後に由紀夫が入り、野長瀬、正広、そして最後に岸和田となった。
正広が緊張した顔になる。
「ちゃんと、投げますから」
「頼むよ」
「おまえ、左足で飛べよ」
「まぁ、ここで飛べれば、後右足がどうなったって、大した問題にはならないだろ」
由紀夫の言葉に気軽に答え、軽く右足を叩く。
にっと笑う顔に、由紀夫も笑い返した。
ほんの一瞬、笑顔が似ていた。
「さっき、岸和田さんがケガしちゃいましたねー、岸和田と四匹の小猫ちゃんチーム!ここで失敗しちゃうと、ちょっとやばーい感じ!それじゃあ、スタートっ!」
司会、中居正広の声を受けて、先頭の奈緒美は、緊張した表情で、じっとゴールとボールを見つめる。
「おい」
とん、と由紀夫の肩が、奈緒美の肩にぶつかる。
「俺を誰だと思ってる訳?」
振り向くと由紀夫がふふん、と笑っていた。
「早坂由紀夫」
「おまえのへなちょこボールくらい、拾えるっちゅーねん」
「へなちょこぉ?」
「へ・な・ちょ・こ。いいんだぜ、別に、あんなよぼよぼとは訳が違うから力いっぱい投げてくれたって」
「よぼよぼのよたよたでも耳は達者だぞぉ〜」
「キングof年寄りじゃねぇか!」
おら行け!と奈緒美の背中を押す。
笑いながら奈緒美は軽く走り出した。
ゆっくり走ってジャンプした奈緒美のボールは、けれどやっぱりへにゃへにゃで、由紀夫はワンハンドでキャッチし、そのままダンクしたいところをぐっとこらえて、丁寧にバックボードにぶつける。
真っ正面にきたボールを野長瀬が受け取り、ホっとした顔でボードに投げたが、この力が強すぎて正広の体勢が崩れる。
「う、わ・・・っ」
それでも、なんとかボールをつかんでボードに投げ返し、最後は岸和田だったのだが。
「あーっとざんねーん!!っおっ!?」
人間、そうそう簡単に踏み切り足を変えられるものでもなく、右足で踏み切った岸和田は、どうにかこうにかトランポリンまでは飛び、どうにかボールをつかんだものの、投げた方向はめちゃくちゃで、
「あー!すみませーん!」
野長瀬がすっとんで行ったが、司会、中居正広の方に飛んでいった。
「すみません、すみませんっ!」
米つきバッタのように謝る野長瀬の背中を踏まんばかりに、奈緒美も謝りに行き、しかしそれをぐっ!とこらえたよい子の正広は、兄とともにマットに倒れ込んだ岸和田を助けに行く。
「あぁ!大丈夫、大丈夫ー、でも、失ぱぁーい、残念でしたねぇ〜」
ニコっと笑顔で言われ、はぁっ!なんて可愛いんだ!中居正広くんってば!と感動する野長瀬と奈緒美。
そして由紀夫と正広と岸和田の方には。
「大丈夫ですか?」
岸和田が間違って投げてしまったボールを手にした木村拓哉がやってきた。
「え?あぁ、大丈夫です。てめぇ、後は寝たきり人生だと思えよ!」
「あぁぁ・・・、息子にぃ、息子に、折檻されるぅ、たぁすけてくださぁぁぁいぃぃ」
「やめろっ!じじぃっ!」
今にも木村拓哉にすがりつこうとしている岸和田の後頭部を、べしっ!と叩いて引き剥がす。正広は野長瀬の120倍米つきバッタと化してぺこぺこ謝りながら、木村拓哉の前から離れていく。
「もぉっ、もぉ、びっくりしたぁっ!」
「似たような顔、顔」
「そりゃ似てるけどっ!顔だけの問題じゃないじゃんっ!びっくりしたぁっ!」
うひー!と興奮している正広に向かって、岸和田は言った。
「それもこれも、俺が足を怪我したからだぞぉー?感謝しろぉー?」
「うんっ、するぅー!」
「待て!論点が完全にずれてる!」
そう完全にずれていた。
相手チームは完璧なコンディションで2回目を成功させ、優勝、100万円、オーストラリア旅行は、あっさり岸和田と四匹の小猫ちゃんチームの前から消えた。
「悪かったなぁ・・・」
控え室で、微かな笑みを浮かべながらも、しんみりと岸和田は言った。
「そんな!だって、足悪いのに、ねぇ!」
正広の言葉に、3人はうなずいた。
「年寄りにしてはがんばったんじゃねぇ?」
由紀夫が言っていると、軽いノックの音がして、ドアが開いた。
奈緒美、野長瀬、正広が息をのむ。
そこにはいわゆるSMAPのツートップが立っていた。
「お疲れ様でした!最後残念でしたけど、盛り上げ大賞があったら優勝ですから!」
小さな司会者はそれだけ言って、それじゃあとその場を去り、木村拓哉もありがとうございました、と去ろうとしたが。
「ちょ、ちょっといいですか?」
岸和田が引き止める。
「私、今、海外に住んでいて、これが終わったらまた帰らなきゃいけないんですよ。なんで、最後にみんなで思い出を作りたくて・・・。つまり、写真撮りたいんですけど、一緒に入ってもらう訳にはいかないですかねぇ」
「えっ!」
正広、野長瀬、奈緒美の目がきらきらーん☆と輝く。
「あぁ、いっすよ」
はぁっ!木村拓哉と一緒に写真が撮れるなんて!おとぉさん!ありがとぉ!
おっきなお目々をキラキラさせながら正広は感動していた。
こうして、岸和田と四匹の小猫ちゃんの夏は終わった。
それじゃあな、と松葉杖をついた岸和田とは、駅で別れた。
成田まで行く!と正広はがんばったけれど、そこまではいいよと断られ、正広はしょんぼりと俯く。
「一人で大丈夫かなぁ・・・」
「大丈夫だって。別に怪我なんか大したことなかったし。いいんだよ、あんな無茶してうちに入ってきやがったんだから」
「そーだけどぉ。でも、楽しかったよねー」
「あぁ」
とうなずいた時。
由紀夫の頭の中で、何かの音がした。
そんなはずはない。
あの岸和田が、ただ楽しくスーパーバスケをやるためだけに日本に来るなんて考えられない。
何かある!!
とある地方都市。
山のふもとに、そのあたりの山を丸ごと持っている男が建てた、趣味の悪い豪邸があった。
「ほー!これは知っとる、知っとる!
「えぇ、まぁ、懇意にしてるんですが、もちろんご存知ですよね。キャッツの主力メンバーで」
「きゃっつの。きゃっつ。知っとるよ、知っとる」
その豪邸のリビングには、部屋中に毛足の長い絨毯が引かれ、おそろしく趣味の悪い皮張りの応接セットが置かれ、壁の絵も、灰皿も、何もかもに品がなかった。もちろん、壁には、鹿の頭がある。
「それから、SMAPの木村拓哉」
「知っとる、知っとる」
「こちらは、今一番人気のある女子アナですね。可愛いでしょう?」
「うん、うん、可愛いのぅ」
岸和田が鷹揚に笑った。
「もちろん、今度は一緒に連れてきますけれども。やっぱりこれだけ可愛いと、引く手あまたで仕事が忙しいんですねぇ」
そして、身を乗り出す。
「ただ、その忙しさにイヤ気がさしていて、まぁ、それでどこか別のところで仕事ができないかということで、私のところに相談に来まして」
「ふんふん。いかんのぅ。若いうちは働かんといかんぞ」
「もちろんです。ですから、こちらに新しいテレビ局ができるかもしれない、と言いましたら、新しいところで自分の力を試したいと言いましてね」
「それじゃあ、わしのテレビ局に来てくれるんかい!」
「社長さえよければ」
そして趣味の悪いオヤジは来るべき、自分の新テレビ局のことを思い、岸和田は、よくもまぁこんなバカな話に付き合うもんだな、とダマすのそっちのけで面白くなってきてしまい、高らかに笑い合った。
二人の意思が疎通することなど、5世紀先までありえない。
由紀夫の危惧は、もうちょっと先に現実のものになりそうだ。
風邪をひいたみたいー(笑)
ダメじゃん!!ダメダメじゃん!!