天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編48話前編『メッセンジャーを届ける』

前回までのあらすじらしきもの
「早坂兄弟は、深夜テレビが好きだ。深夜テレビといっても、番組としてみるのは、キスいやとか、つよちゃん堂本舗とか、ぷっすまとか、そんな感じで、もっと遅い時間だとやっぱり通販なのだった。
そしてくだらないものを注文しては、兄に怒られる正広なのだった」

yukio
 

「こーゆのってさぁ、どこまでいくのかなぁ」
早坂兄弟、夜更かしの図であった。
ビールとジュースに、仙台みやげのササカマ(典子が突然なんでもない金曜日に休んで仙台に行ったのだった。何をしに?と聞くと、青葉城を見に、と訳の解らない寝言を言った)をちびちび齧りながら、すでに時間は2時前。
「そーだよなー。どこまでシェイプアップすんのかなぁ」
由紀夫はおねま用のグッチのシャツにボクサーパンツ、正広は由紀夫が絶対似合う!といって着せたじんべさん。床とソファに転がって、うにうにと深夜テレビを見ている。
画面では、無駄にマッチョな男たちが、嘘くさい笑顔で踊っている。
「アブフレックスとか、アブシェイプとか、アブトレーナーとかってのもあったよねー」
「奈緒美、イチイチ買ってっからな」
「えっ!そーなんだ!」
「買ってるよぉ。あいつ、通販好きじゃん」
シェイプアップグッズというのは、深夜の通販では目玉とも言える商品なもんだから、早坂兄弟のトークも自然ヒートアップしてくる。
「でも、あれ面白そうだよね。あの、浮かんでるヤツ!」
「あれな!でもあれどー考えても場所取りすぎだろ!」
「あ!兄ちゃん!あれ知ってる!?シェイプアップとは違うんだけどさ、あのね、乗るだけで・・・、なんだっけ・・・。健康になる?んだったか、やっぱり痩せるんだったか・・・」
「・・・何それ」
「なんかね、なんかね、変なの!こうやって、斜めのとこに立つんだよ!」
正広は手首で合わせた両手を広げて、一生懸命説明する。
「え?何?」
「だからぁ、ほら、こーゆー壁とかにかかとつけて立つじゃん!?」
立ち上がって壁に行き、ぴったりと背中とかかとをおしつける。
「そんで、爪先をあげんだよ。こーやってぇ・・・」
「って、あぶねって。爪先をあげるのか」
「その機械、機械じゃないか、なんかその商品には、坂がついてて、そこに足を置くと、かかとが、そう!あれ!アキレス腱伸ばしみたいに伸びて、背筋とかも伸びるんだって!」
体をグラグラさせながら爪先をあげようとしている弟のために、由紀夫は雑誌をつんでやった。
「・・・それって、そーやって、ここに雑誌でおけばどこでもできるって事じゃん?」
「ちがーう!これだと壁にくっついてっからちゃんと伸びてないんだよ!」
「・・・そんなのきかねーと思うぞぉ?」
「だって乗るだけでいいんだよ!?」
由紀夫がイマイチよく解らないという商品は、足を乗せる台だった。かかとを支えて、爪先を上げるスロープがついている。スロープの角度は自由に調整でき、背筋を伸ばし、体調まで整えられるというものだ。
「自分で作れるんじゃあ・・・?」
「だって、すごい重みにも耐えられるんだよぉ!?」
「・・・欲しいのか?」
「えっ!?」
「まさかもう注文した?」
ぶんぶんぶんぶんっ!!!
正広は首も手も力いっぱい振った。
「とんでもないっ!」
「別に何買おうとかまわねーけどさ、あんまばかげたもん買うなよな。あ!これとかさ!」

画面には、ニューヨークのオフィスといった場所で、びしっとスーツを着た金髪グラマー美女が、電話を片手に謎の棒を振っている場面が映っていた。
「ボディブレード・・・」
「これさー、ちょっと持ってみたいけど、19800円って、結構するよなー」
「そーだよねぇ」

そしていい加減に寝るか、ということで早坂兄弟は眠りについたのだった。

 

「むーん」
奈緒美が難しい顔をして、実際に声に出して唸っている。
「何?」
ちょうどその時、奈緒美のデスクの前を通過した由紀夫が振り向いた。
「メッセンジャーねぇ」
「メッセンジャー?」
「そーゆー自転車便の映画ができちゃって、このままだと、腰越人材派遣センターへの荷物の依頼がますます増えちゃうわと思って」
「あ、それは嬉しい顔なんだ」
「あぁごめんなさい。美人って、表情に乏しいって言われることが多くって」
ほほ、と笑う奈緒美を放って、由紀夫は席につく。
「でも、由紀夫さんには、あの衣装似合わなさそう」
典子が言う。
「兄ちゃん?あ、あの映画の?」
「そうそう。あの自転車便の衣装って、似合わないでしょ?」
「あんまり、かなぁ」
正広もうなずく。
「由紀夫さんにはスーツでがんばって欲しいですよねー。いや、ラフなのもいいんだけど、やっぱりスーツぅ?」
「俺も兄ちゃんのスーツ好きぃー!」
「あたしも好きぃーーーっ!!!!」

突如事務所に飛び込んで来て、自分に飛びついてきた千秋を避け、由紀夫は仕事へと向かった。

 

そう言われてみると、自分と同じように自転車に乗ってる連中を多く見かけるようになった。前に、中居正広という男が自転車便の会社に勤めていた。今もやってるんだろうか。・・・多分やってるんだろうと思う。
由紀夫の場合は、一般的な自転車便とはちょっと違う。
速さはもとより、特殊な事情への対応が求められる仕事だ。
何気に気に入ってもいる。
仕事を終え、予定より早いし、どっか寄り道でもしてやろっかなー・・・、と信号待ちをしていた由紀夫は、青信号の方からやってくる自転車に気がついた。
派手なカラーリングのマウンテンバイクに、大袈裟なヘルメット、ミラーサングラス。いかにも!なサイクリングな衣装を見て、これぞ自転車便じゃん。と小さく笑う。
が。
「・・・妙に遅くねぇか・・・?」
逆にマウンテンバイクの達人なのか?と思わせるほどのスローペースで自転車は進んでいた。そのスピードでよく倒れないなという状況だったが、よたよたと、しかしゆっくりと道をわたってきた。
道を渡って、渡って、由紀夫の方に来て、まっすぐ来て、
「え・・・?」
じーっと見ていると、どんどんどんどん、由紀夫に近づいてきて。
「えっ?」
ゆっくりゆっくりでも、どんどん由紀夫に近づき、近づき、近づき・・・
「嘘ぉ!」

がっしゃん。

由紀夫の自転車の横っ腹につっこんだ。

「あれ?」
「あれじゃねぇよ!!!」

超スロー自転車に横っ腹に突っ込まれた由紀夫は、力いっぱい怒鳴りあげた。

 

「どこをどーやったら幼稚園児にも追い抜かれるスピードで走ってて、人の自転車に突っ込めるんだよっ!」
「あぁ、すいません、すいません・・・」
ゆっくり突っ込んできた男は、そのまま横倒しに倒れて、よたよた起き上がって由紀夫に謝る。
「そんで、その背中はどしたんだよ!」
宮本武蔵か!というように、背中には大袈裟な和風の袋に入れられた長い物体が斜めに背負われていた。
「あぁ、これ、お届ものなんですぅ・・・」
「届けもの?自転車便って普通書類とかじゃあ・・・」
「あぁ・・・、僕はこないだから、始めたんで・・・。なんでもやるんですぅ・・・」
「・・・だったらおまえ、事故らずにちゃんと届けろよ。自転車便ってのは、バイク便より早いってのがホントなんだろぉ?」
「そ、そぉなんですよ!自転車便はカッコいいんですよ!僕は映画を見て感動したんです!だから、僕も自転車便をしようと思ったんです!!」

・・・危ない人かなー・・・。
そういう雰囲気を感じて、それじゃあ、とその場を離れようとしたらば。
「あのっ!!」
腕をつかまれた。
丸い眼鏡の、ひょろっとした男だった。
「中央町3丁目とゆったら、どのあたりでしょう」
「・・・この先。まだ1kmはあるかな」
「1km・・・!」
絶望的な顔になって、男は地図を出してきた。
「ってことは、ここは、このあたりですか!?」
指差された場所を見て、由紀夫はめまいを覚えた。
「中央町3丁目はここ!現在地はこっち!」

彼の言う現在地と、本当の現在地の間には距離にして3km。目的地を軸にすれば、200度という微妙な角度がついていた。

このままでは永久に到着できないのではないか。
同じ自転車便の仲間として、由紀夫の背中に冷たい汗が落ちた。
面倒を見るしかないのか・・・
そしてその通りだった。

<つづく> 


メッセンジャー公開記念!ってまだ見てないんだけどね(笑)!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!