天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編48話後編『メッセンジャーを届ける』

前回までのあらすじらしきもの
「早坂由紀夫は今日も今日とて仕事をしていた。そしたらその自転車のよこっぱらにマウンテンバイクがつっこんできた。その男とは!!

yukio
 

「今いるのはここ。3丁目って言ったらここだから・・・」
「あぁ。じゃあ、こっちですねぇ?」
ばこん!!
由紀夫は思わず男をはたいたが、大袈裟なヘルメットの上だったので自分の手を傷めただけだった。
「バカか!どーしてこっちだよ!」
「あれ?」
地図を見ながら若い男は首を傾げる。
「だ、だって。こっちが上じゃないですかぁ」
「上ぇ?」
「上は北ですからね」
パチ、パチ、パチ、と由紀夫は拍手する。
「すげー、地図は上が北だって知ってんだぁ」
「知ってますよぅ、そんなの、常識じゃあないですかぁ」
若い男は、小柄でひょろっとしていた。そしてそのひょろっとした体を奇妙にくねらせる。
それが、胸を張っているのだと解るのに、ちょっとしたタイムラグが生じるほどだった。
「地図の上は北!」
「そうそう。地図の上は北。だから?」
「だから、こっちですよ、中央町3丁目」
びしぃ!と指さす男の腰に、軽く膝蹴りを入れる。
「なんで!」
「だって、地図の上が北だからぁ!」
「だから、北がどっちぃ?」
「こっち」
半泣きで、手元の地図を見る男の両腕をつかんで、ぐるっと180度反転させる。
「北はどっち?」
「こっち。・・・ありぃ?」
180度逆方向を指差して、男は不思議そうな顔になった。
「あ。そっかぁ」
「そーだろ。地図の上が北でも、おまえが北向いてるかどうかなんて解んねぇだろ!」
「なーるほどー!」

ぽん!と手を叩いた男は、ようやく自己紹介をする気になったらしい。
「林透と言いますぅ」
「あぁ、俺は早坂由紀夫」
「あー、『はや』と『はや』ですねぇ、似てますねぇ」
似てるか!?
「地図の上が来ただからといって、みてる方向が来たとは限らない。なるほどねー、勉強になるなぁ〜」
「あのな・・・」
「ということは、北は、えーっと。どっちだ?」
腕時計と太陽を見比べながら林は言い、え?こんな男にそんな技術が!?と思ったら、時計がデジタルだった。
「何がしたいんだ!おまえは!!」
「えっ!?なんか、こうやって北が解るんでしょう!?」
「一生かかっても解んねぇよ!おまえみたいなヤツは、人間用GPSを持ってた方が」
「持ってます」
「えぇっ!?」
しゅた!と取り出されたものは、確かに鉄腕dashなどでもおなじみの携帯用GPS。
「そんなもんがあるなら、なんで・・・」
使わないんだ?と尋ねようとしたら。
「使い方が解らなくって!」
「捨ててしまえ!!」

由紀夫の血管は切れそうだった。切れそうだったが、なんとかこらえる。なんとかこらえて、自らクールダウンに努めた。
「・・・おまえさぁ、この仕事、多分向いてないと思うよ」
「えー、でもやってみなきゃ解らないじゃないですかぁ〜」
「いや解る。俺は解るね。方向感覚の悪いヤツには、絶対無理。時間の無駄」
「じゃあ、早坂さんは方向感覚いいんですかぁ?」
「いいよ。むちゃくちゃいい。それに特殊能力もある」
えぇ〜?と疑わしい顔をしている林を見て、ムっとした由紀夫は、林に言った。
「じゃあ、その地図で、行きたい場所、おさえてみな」
「え?」
まるっこい指先は、ごく適当に地図上の一点を押さえる。
「そこな。そんで、出発点はここ。いいか?地図、ちゃんと見てろよ」

そして由紀夫は地図に背中を向けて、現在地から、ランダムに選ばれた場所までの道案内をすらすらとやってのけた。
「ここの信号を渡って、200mほど行ったところの信号を左。300mほどで三叉路になるから、一番左の道を選んで・・・」
必死になって地図をたどっていた林は、そのスピードについていけず途中で追跡を放棄。感動・・・!の視線を由紀夫の背中に向ける。
「で、ゴール、っと。おまえ見てねぇじゃん!」
「ししょーーー!!!」
ひし!と背中にだきつかれ、やめんか、とぽいっと捨てる。由紀夫は抱き着かれなれていたし、捨てなれてもいる。
「師匠!感動しました!師匠って人間GPSだったんですね!」
「おうよ。俺がカーナビだったら、道間違えねーぞー。天職はパリダカのナビ」
「すーごーい!!」
感動の面持ちで林は言った。キラキラと目を輝かせながら言った。
「弟子にしてください!」
「お断り」
「何でですかぁ〜!」
「弟子は取らない主義なんだ。うちは一子相伝でね」
「息子になりますからぁ〜〜」

由紀夫はすがりついてくる男を跳ね除け、
「また会うチャンスがあったらなぁ〜」
と捨てぜりふを残し、軽やかに自転車で消えて行った。
わずかに不安を残しながら。

「ただいまー」
「おっかえりなさいっ」
「・・・どしたの、おまえら」
帰ってきたら、腰越人材派遣センター一同は、メッセンジャーファッションに身を包んでいた。
「モニターの仕事が来ちゃったのよぉ」
「モニター?」
「モニターって言うか、宣伝ね。映画のキャンペーンをかねて、このカッコで、マウンテンバイクで、あちこち動けって言う仕事を引き受けたの。リアリティあると思わない?」
かーなーりー!無理のある奈緒美がポーズを決め、由紀夫はじっと無言になる。
「・・・なんで無言なのよ!」
「いやー・・・。着る人を選ぶファッションだなー、と思って」
「失礼ねぇーっ!!」

うきぃぃーー!!と騒ぐ奈緒美を野長瀬たちや正広が連れ出し、彼らは、宣伝部隊としての役目についた。
由紀夫は自ら志願して留守番役になった。
「兄ちゃん似合うのに」
と正広から言われ、
「あぁ、そりゃ似合うよ」
と答えたものの、あまり外に出たい気分ではなかったのだ。

それはなぜって。

腰越人材派遣センターが、中央町3丁目にあったからだった。

あの激烈方向感覚なし男が中央町3丁目に紛れ込むことができたとしたら、外をウロウロしている方が出会う確率が高い。そう思って事務所に残ることにしたのだが。

「お届けものでぇ〜〜すぅ〜」

気のぬけた声がして、由紀夫(とハムスター)しかいない事務所に入ってきたのは、見間違えようのない、林透その人だった。

「な・な・な・・・・!」
「あぁ!ししょー!!!僕には見えます!ししょーと僕の間に、運命の赤い糸があることがぁーーーー!!!」
「何しに来やがったぁ!」
「ししょーと再開するためですよぅ!あ、違った。そじゃないですよぅ!」
林は、背中に背負っていた袋をすらり!と取り出した。
「お届けものです!」
「・・・事務所に?」
「え?いや、えーっと。えーっと、腰越人材派遣センター内、溝口、正広、さん」
「正広ぉ?」
「はい。溝口、正広さんです。お渡しするんです。えっと、おられますか?」
「今出てるけど、だったら俺受け取っとくよ。弟だし」
「え!師匠のお兄さんなんですか?」
「俺が!俺が兄貴なの!」
「でも名前が・・・」
「イロイロと事情があってな」
「えぇ!?じゃあ、師匠は婿養子にいったんですねぇ!?」
「どーしてそーなんだよっ!!」
怒鳴りあげ、いいからそれを置いてとっとと帰れ、と言うが、本人に渡すまでは帰らないと林はがんばった。
「だって!僕の初仕事なんですからっ!」
「初仕事ったってさー・・・」

「ただいまー!」

そこへ帰ってきたのはもちろん正広だった。
「・・・どなた・・・?」
「あ。自転車便です。まだ名前は考え中なんですけど、溝口正広さんですか?」
「えぇ、そうです、けど・・・」
正広の目は、きょろん、と兄を見る。見られた由紀夫は大袈裟に肩をすくめてみせた。
「よかった!」
けれど、そんなことは気にせずに林が前に出て、正広の手に、細長い物体を置く。
「お約束の品です!あの、じゃ×ーるで」
「・・・あぁっ!!えぇ!?ご自分で持ってこられたんですか!?」
「自分で!?」
由紀夫が尋ねると、正広の顔色がなくなった。ざっと白くなり、そして青くなった。さりげなーく由紀夫に背中を向け、受け取った物を、体の前に隠そう、隠そうとして・・・・・・

「正広くん」
ぎくぅぅ!!
由紀夫の猫なで声に、正広は驚いた猫のように毛並みを逆立てた。
「それは一体、何なのかなぁ」
「え。えとぉぉぉ・・・」

「ボディブレードです」

しかしそんな兄弟の微妙な空気を察することなく、林は言った。

「買ったはいいけど、あんまり使わなかったから、個人売買の本に譲るって出したんですよぉ。そしたら溝口くんが。ね?」
「え、えへ・・・・・」
笑いかけられた正広は、ひきつった笑みを由紀夫に向ける。
「正広〜♪」
「はぁ〜い♪」
「使わなかったってことは効かなかったってことだろうがよーー!!!」
「だぁって欲しかったんだもぉぉぉーん!!!」

 

それ以来、林は由紀夫の前には姿を現さなかった。
いや、おそらくは、現せなかったのだろう。
あの日、彼が腰越人材派遣センターまえで到着できたのは、奇跡の一つだったに違いない。
映画、メッセンジャーを見て、自分も自転車便をしよう!と思い立った金持ちのボンボン林は、最初の荷物しか到着させることができず、今は、お母様のお使いで、おばあさまのところに、和菓子を届けたりしている。
・・・運転手つきの車で。

そして、正広がボンボン林から譲り受けたボディブレードは。
「野長瀬ー!!なんなのこの請求書はぁーーー!!!」
びしぃぃ!!しぃぃ、しぃぃ・・・・・!
腰越人材派遣センターの精神注入棒として活躍している。


メッセンジャー公開記念!って先週も書いたんだけど、まだ見てないんだけどね(笑)!先にノッティングヒルを見るかも(笑)

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!