天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編49話前編『よっぱらいを運ぶ』

前回までのあらすじらしきもの
「自転車便が話題だ。ブーム前から自転車便の由紀夫だが、あくまでも届け屋を名乗る覚悟だった。覚悟ってそんな大袈裟な(笑)

yukio
 

大体において、人には「役割」というものがある。
人はTPOに合わせて、その役割を果たしていく。
その時、その場で割り振られたいろんな役割を自然にこなしていくのが、当たり前のことなのだろう。
しかし、いろんな役割といっても、同じシチュエーションなら、同じ役割をふられることがほとんど。
そんな訳で、飲み会の席における、酔っ払って暴れる役、酔っ払いの面倒を見る役、気にせず飲む役などは、めったな事では変わらない。
腰越人材派遣センターにおいても、酔っ払って暴れる一番役者は野長瀬であり、千秋であったし、面倒を見るのは正広や典子だったし、由紀夫はいつも気にせず飲んでいる。
酔っ払って暴れるグループに新規参入があったとしても、それ以外の役割はあまり変わらない。
のだが。

「なんか、今日結構人多いね」
その日に夕食を、早坂兄弟は外で食べた。軽く夏バテ気味の正広だったので、これは栄養のあるものを、と洋風お母さんの味の店、ってなところで、あっつい中、野菜たっぷりのシチューだの、グラタンだのをほくほく食べた帰り道。飲み屋街に差し掛かったところで、正広が言った。
「あぁ、平日なのにな」
時間は9時過ぎ。そろそろ最初の店から次の店に移る当たりなのか、道には、サラリーマンや、OLや、もっと若いのや、派手なお姉ちゃんや、お兄ちゃんやがたくさんいた。
「えっ、えっ、かえっちゃう、のぉ〜っ?」
その中でひときわ大きな声がした。
「ん?」
「あれぇ?」
振り返る早坂兄弟。
聞き覚えのある声の方向を見てみると、
「典子ちゃんだ」
典子が、友達の腕をつかんで、振り回している。

「だからぁ、今日は帰らなきゃいけないんだって言ったじゃーん!」
「だぁって、まだいいじゃなーい!」
「だーめーなの!ほら、あんたも帰りなよ?」
「えぇ〜、だってまだ9時だよぉ?」
「9時には帰るって言ったんだもん」
「彼にぃ?」
「そうそう、彼にっ」

そんな会話を聞きながら近寄った正広は、典子ちゃん!と声をかけた。
「あれっ?ひろちゃーん!由紀夫さんも!」
典子の友達の目の色が変わった。
「えっ?典子っ?」
「え?あぁ、会社の人ー、カッコいいでしょ」
「うん、カッコいいー!はじめまして〜」
「あーいいのいいの、彼のとこに帰る人は、挨拶なんかしないでー、それじゃーねー」
さっきまで彼女の腕をつかんでいた手を離し、ぐいぐいと背中を押す。
「ちょ、あ、あのっ!」
押されている友達は、由紀夫に向かって言った。
「あのっ!典子お願いしますー!結構飲んだんでー!」
「飲んでないってのー!もー、それじゃあねー!薄情モノー!」

そそくさと駅に向かった彼女を見送って、典子はしょうがないなぁ、とため息をつく。
「あぁ、どうもすみません。なんか、ラブラブなんですよ、彼女」
「ふーん。飲んでた?」
「はーい。ねぇ、行きません?」
まぁいいか、と気軽な気持ちで早坂兄弟はついていった。

典子がよく行くという店は、飲み屋というよりは、小料理屋で、料理が美味しかった。偶然居合わせた稲垣アニマルクリニックの稲垣医師、草なぎ助手と同じテーブルでうわー!と持ち上がり、ぎゃあぎゃあ騒いでいた時。

「に、兄ちゃん・・・!」
正広の手が、よそを向いていた由紀夫の腕を叩いた。
「あ?」
振り向いた由紀夫は、正広の指差す方角を見て、息をのんだ。
「の、典子っ?」
「典子ちゃんっ!?」
ついさっきまで。
ほんの30秒前まで、草なぎ助手に、リスザル飼うのって大変ですかぁ?などと聞いていた典子が!
お気に入りのすだち酒を、手酌どころか、瓶に直接口をつけて飲んでいる。
「ラッパ飲み!」
稲垣医師は手を叩いて喜んだ。
「豪快だねー!すだち酒とは言え、日本酒ラッパ飲み!男だねぇー!!」
典子が飲んでいるのは、1合入りのすだち酒(飲みやすいさわやかなお酒。徳島産)で、まぁ、中身は残り少なかったし、突発的で面白かったからひとしきりみんな笑って、次の1本を注文する。
「はーい、典子ちゃーん!」
ガン!として酒は飲まさないと由紀夫によって監視されている正広だったが、このすだち酒はちょっと舐めてみたことがある。
これくらいなら平気だよぅ、と、今日もちょっと狙いながら、典子についであげたのだが。
「え?あ、はい」
ガラスのぐい飲みは、一気に飲み干され、すぐに2杯目を要求される。
その2杯目もすぐに飲み干され、3杯目・・・
「っておまえ!わんこすだち酒か!」
由紀夫の言葉に典子は声を上げて楽しそうに笑った。
「そーだよ、駆け付け3杯じゃあるまいしさー」
すっかり兄の注目がすだち酒に来てしまい、ちっ、と心で舌打ちする正広だった。

そして15分後。

「典子ーっ!」
「典子ちゃぁーーんっ!!」
典子は、すだち酒の大瓶をラッパ飲みしていた。
「待てー!」
「あー!零れてる!零れてるって、典子ちゃんー!」
「あーあ。そのサマーセーター、アニエスでしょー?シミになっちゃうよー」
いたってノンキな声で稲垣医師はいい、草なぎ助手は、おろおろとお手ふきを差し出す。
「はー、おいちー」
「美味しいのは解ったから、それ離せってぇ!」
由紀夫が瓶に手をかけると、いやいやっ!と典子は体をよじり、その結果当然。
「・・・なんで、俺よ」
「あぁっ、兄ちゃんっ!」
由紀夫のスーツに、大量のすだち酒がかかった。
「もー、典子ちゃん、どーしたのー?大丈夫ー?」
せっせと兄のスーツを拭きながら、心配そうな正広の顔を見て、典子は一瞬顔を歪め・・・。
そして別の席からの笑い声に反応して、仰け反って笑った。
「もらい笑い・・・!」
稲垣医師はキラキラ輝く目で典子を見つめた。
それは、新しいおもちゃがショーウィンドーの中にあるのを見つけた子供のように、ある意味純粋で、ある意味まっすぐな目線だった。

そしてその純粋な探求心を持って典子に様々な実験をしかけた稲垣医師によって、店内は偉い騒ぎになった。
立ち上がろうとした典子がけっつまずいて倒れそうになったため、壊れたグラス2個。他の席のお客さんが誕生日だから、とおすそ分けでやってきたシャンパングラスを飲もうとして取り落とし破壊。店においてある店長が丹精こめて育てているグリーンの葉っぱが1枚、典子の歯形をつけられた。店の片隅にあったゴルフクラブのヘッドカバーでぬいぐるみ遊びをしていたのに、それを取り上げられた典子が奇声を(それはもう引き抜かれるマンドラゴラのごとき!)あげたため、従業員一名の鼓膜と、心臓に負担が。

「どうしよう!どうしようっ!!」
稲垣医師が苦しそうに言う。
「せ、先生!大丈夫ですかっ?」
草なぎ助手が側によると、稲垣医師はテーブルに突っ伏し、苦しい息の下から言った。
「面白すぎるっ!笑い過ぎて、胃の中が空気でぱんぱんって感じ!しっ、しかもっっ」
「どしたんですっ!」
「しゃ、しゃっくり、が・・・っ」
ひくっ!としゃっくりを起こして、くるちー!!と騒ぐ稲垣医師は心の底から楽しい笑顔を見せた。
「典子ちゃん、おもしろーい!」

その典子は。
「典子っ!ハウスっ!」
由紀夫によって躾られていた。
「このタイルから外に出るんじゃねぇっ!」
席を、酒瓶片手に立とうとしていた典子に由紀夫は言った。
その店の床はタイル張りになっていて、由紀夫たちのフロアでは、黒いタイルが引かれている。
その周りが淡いグレーなので、そこには出るな!と由紀夫に言われ、そんなこといったってぇ、と、ぶーっと膨れっつらをしながら、黒いタイルの場所をウロウロする。
「もー、なんだってんだよぉー・・・」
「典子ちゃぁん・・・」
そう言えば、典子が酔って訳の解らない行動に出たりするところなんか見たことがない。正広は心の底から心配だった。
あの典子ちゃんが!
あのお酒に強い典子ちゃんがこんなことになっちゃうだなんて・・・!
一体!一体何があったの!何があったんだよ!典子ちゃん!!

すだち酒を取り上げられ、口淋しくなったのか、すだち酒を冷やしていた氷入りの器から、融けた水と氷をすするように飲む、という野生的な典子を見ながら、正広は心を痛めていた。

「あーん、しゃっくりがとまらなーいっ、くるっ、く、くるしっ、しぃっっ、てのにっ!」

そして稲垣医師のしゃっくりはなかなか止まる様子がなかった(笑)。

<つづく>


他のネタを考えていたんですが、昨日の飲み会で、この典子の500倍ひどいよっぱらいを見たので、そっちをネタにしました(笑)手におえん!ということで、実の兄と会社の上司を呼びつけましたが、それでも彼女は激しく酔っ払いでした(笑)今日は会社でしぼられてることでしょう。
って以前に会社いけるのか!あの状態で(笑)

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!