天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?
『Gift番外編』
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ギフト番外編49話後編『よっぱらいを運ぶ』
前回までのあらすじらしきもの
「自転車便が話題だ。ブーム前から自転車便の由紀夫だが、あくまでも届け屋を名乗る覚悟だった。覚悟ってそんな大袈裟な(笑)」
小料理屋は、サーカス小屋か!という騒がしさ。
由紀夫たちにとって幸いなことは、その騒ぎは典子だけが引き起こしたものではないからだった。
しかし。
「すごいねー、すごいねぇ〜」
しゃっくりの間隔が長くあくようになった稲垣医師は再びご機嫌で、ノンキに手を叩きながら眺めている。
店のカウンターを占拠しているのは、出勤前のおねぇさんたち。
「ゴージャスぅ〜」
「じろじろ見て失礼ですよ・・・っ」
草なぎ助手は小さく注意したが、
「あぁら、いいのよぉ〜!」
腹に響くバスで返事され、草なぎ助手は、へへっ、と頭を下げる。
ゴージャスな衣装を身に着けたおねぇさんたちは、少なくとも生まれ落ちた時はおにぃさんだったらしく、横幅はある、声は低い、しかし甲高いトーンで喋る。
そのため、おねぇさんたちは、ただ楽しくお食事をし、ただ朗らかにお話をしているだけなのに、店内はサーカス小屋の雰囲気を持ってしまっているのだった。
「よかったねぇ・・・」
正広はしみじみと由紀夫に言った。
「そうだな・・・」
ぐったりとした由紀夫も答える。
典子は両手でガラスの器を持ち、そのなかの氷水をちびちびすすっていた。
その水がいつまでも減らないことで、正広は、もしかしたら吸って戻して、吸って戻してってしてる・・・・・・・?という疑惑まで持ってしまった。
いや、氷が溶けているんだと信じたいが。
その典子が、がん!と器をテーブルに置いた。
はっ!と立ち上がった由紀夫は、
「キャー・・・・・っ!!」
突如奇声を上げようとした典子の頭頂部を、ぺしん!と叩く。
「典子ちゃぁん!」
さっきから典子は叫んでいるのだ。それはしかし、かのおねぇさんたちの笑い声に隠れる程度だったし、由紀夫の頭頂部強打によって止まる程度のものだった。
のだが。
「キャーーーーッ!」
べしっっ!!
「・・・・・・・・・・・キャアーーーーーーーっっ!」
べしべしべしっ!!!
「の、典子ちゃん・・・・・・・・」
「5分おきになる目覚し時計みたい・・・・・・・・・・」
草なぎ助手が呆然と呟く。
しばし典子は叫びつづけた。
これはいかん!!
由紀夫はついに立ち上がった。
「正広!支払してこい!」
「はいっ!」
「えぇ〜〜、もぉ帰るのぉ〜〜?」
3つ椅子を並べた上に横になったまま稲垣医師が聞いた。
「まだ帰らないよねぇ〜、典子ちゃぁ〜ん」
稲垣医師と同じように椅子を並べた上に横になり、稲垣医師と寝たままあっちむいてホイを楽しんでいた典子も、いやいや、と首を振る。
「可愛い子ぶってんじゃねぇ!どーすんだ、この惨状!」
惨状であった。
典子と稲垣医師は椅子に寝ているが、その足元には、さまざまなものが落ちていた。
それは、さしみのつまであり、わさびであり、きゅうりのつけものであり、ナスのつけものであった。
5人しかいないのに、10も20もあったおしぼりの大半も落ちていた。
典子が投げたものであった。
「あぁ、典子ちゃん、手ぇべたべた・・・」
そのさしみのつまを笑いながらぶつけられたため、肩にまだ1本つまをつけたままの正広は、哀しい気持ちで典子の手を拭いてやっていた。
典子の手は、キムチを手掴みで食べたため、汚れている。
「兄ちゃん」
「ん?」
その正広の肩からさしみのつまを取ってやっていた由紀夫が返事をすると、正広は小さく微笑んだ。
「俺、今、ちょっとサリバン先生の気持ち・・・」
「ヘレンケラーかこいつ!」
こいつ、とうつ伏せになった典子の腰骨をぐりぐりと押しながら言うと、草なぎ助手がぽつんと言った。
「僕、比較的いつもそんな気持ちです」
そーでしょーねー。
由紀夫と正広は深くうなずいた。
稲垣医師は、しゃっくりをしながら寝ていた。
ふにゃふにゃと頼りない稲垣医師を草なぎ助手ともどもタクシーに押し込み、由紀夫は典子をおんぶする。
典子が、友達からもらったという偽者ヴェルニを持つのは正広だ。
「兄ちゃん」
「んー?」
「典子ちゃん、大丈夫かなぁ」
「死にゃあしねーだろ。あのくらいで」
「そーじゃなくってぇっ」
由紀夫の、ちょっと後ろを歩いていた正広は、ててっと由紀夫の横に来る。はっ、と見ると、典子のスカートがかなり上までめくれあがっていたので、これはいかん!と引っ張りおろしてあげてから言った。
「典子ちゃん、こんな飲んで暴れることなんかなかったのにぃ」
「そうだよなぁ」
それは確かにおかしなことだった。
典子は基本的に酒に強い。かなりの量を飲んでもケロっとして、しゃきしゃき、野長瀬や千秋の面倒を見ていたりする。
「なんかね、最近ちょっと元気なかったんだぁ・・・」
昼間、典子といることの多い正広が言った。
典子と正広は、テレビのことからマンガのことから、なんだかんだなんだかんだよく喋ったし、典子は大抵機嫌がよかった。
「・・・彼、のことかなぁ・・・」
「彼ぇ?」
「典子ちゃん、なんか、彼と別れたとかって、前言ってて・・・」
正広よ。
そんな話を聞きながら由紀夫は思った。
女から恋愛の相談をされるってことは、次のターゲットに狙われているか、最初っから対象外のどっちかだぞ・・・。
そんな少々不憫な弟は、典子のことを心から心配していた。
「ほら、最初典子ちゃんにあった時、一緒にいた友達、彼が来るからダメってゆってたじゃん?俺さー、もしかして、それって、典子ちゃんの前彼!?とか思っちゃってさぁー!」
「えっ?そりゃおまえいくらなんでも」
「だって解んないじゃーん!それだったらさぁ、典子ちゃんがあんなに荒れたのも解るような気がするしぃ・・・」
正広は、眉間に皺を寄せ、辛い顔をする。
「典子ちゃん・・・」
ぎゅっとバックを持って、典子を見上げて言った。
「がんば・・・っ!」
早坂兄弟は、自宅に典子を連れて帰り、ベッドに寝かせた。
未だ、大きなダブルベッドの端と端で寝ているため、早坂家の寝具といえば、そのベッドか、ソファしかない。
「正広」
真剣な顔で由紀夫は正広の両肩に手を置いた。
「な、何?」
「兄ちゃん、おまえを信じてるからな」
「だから、何っ!?」
「酔っ払った女だからって、どーこーしてもいいなんて法律はないからなぁ〜なぁ〜・・・なぁ〜・・・・・・・・」
エコーをかけて後ずさっていく由紀夫を呆然と見送った正広は、ダッシュして兄の手をつかんだ。
「えっ!?待って!俺もベッドで寝るの!?」
「ソファで俺とおまえが寝るよりは現実的だろーが」
「そーだねー」
ソファは、ほんとに単なるソファのため、正広はこっくりうなずき。
「でも!!典子ちゃん女の子だよ!?」
「大丈夫、大丈夫。おまえも心は女子高生。だけども!!」
もう1度真剣な顔で由紀夫は言う。
「こんな近場であんあんやってたら、にーちゃん乱入するかもしれないから、気ぃつけてな」
「にーちゃーーーーーん!!!!」
その怒鳴り声は眠れるしーちゃんを目覚めさせ、慌てて飛び立ったしーちゃんを壁に激突させるのに十分なものだった。
そして典子も目を覚ました。
「う・・・・・・、き、もち・・・わる・・・・・っ」
「えっ!」
ベッドで大の字の典子に飛びよると、その右手が由紀夫、その左手が正広の腕をつかんだ。
「典子ちゃん?トイレ行く?大丈夫?典子ちゃん??」
「典子?おい、大丈夫か?典子」
赤い頬をぺしぺししても、聞こえてくるのは並以上に規則正しい寝息だけ。
「典子ぉ・・・?」
「・・・ひょっとして寝言ぉ・・・・?」
それくらい典子の寝顔に苦しさは感じられなかった。
「ま、いいから寝ろよ」
「うん・・・・・・・」
こくん、とうなずいた正広は、じたばたする兄を見て、目を見開いた。
「兄ちゃん?」
「ちょ、こいつ!手ぇはなさせろ!」
典子の右手は、由紀夫の右腕をがっちりつかんで離さないのだった。はっ!とみると正広の右腕も!
「典子ちゃーん!離してー!」
しかし万力のごとき力でしめつける典子に負け、ダブルベッドはトリプルで使用される羽目に陥ったのだった。
ちちちち・ちゅん
古今東西、朝の表現といえばこれ。これまちがいなし。
典子はさわやかに目覚めた。
うーん、よく寝たぁー、お日様まぶしー、今日はいい天気ねー、と寝返りを打ち、ふとみると。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
こんな男前が私のベッドに。
コンタクトいれっぱなしのぼやけた視界の中に、髪の長い、鼻筋の通った男前がいた。
あれ?ともう一度寝返りを打つと、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
こんな可愛い子ちゃんが私のベッドに。
コンタクトいれっぱなしのぼやけた視界の中に、長いまつげの、茶髪の男の子がいた。
「って、ひろちゃん!?えっ!?じゃあ、由紀夫さんっ!?」
「典子っ?」
「典子ちゃん!!」
典子の声に跳ね起きた二人を交互に見回し、典子は言った。
「うちのベッドで何してるんですぅ!?」
左右から激しいつっこみを受けたのは言うまでもない。
「典子ちゃん、なんかあったの・・・?」
朝ご飯を食べながら正広が聞く。
典子は、ほとんど初体験の二日酔いに苦しみながら、首をひねった。
「何、って・・・?」
「なんか。なんだろ、対人関係の、その・・・・・」
「対人・・・・。いや、別に〜・・・会社の人間関係は良好だし、彼とはラブラブだしぃ〜」
「えっ!?」
正広は由紀夫に睨まれて首を竦める。
「でも、どーしちゃったんだろ、あたしー・・・・・・・・」
昨日の自分の記憶は、実は、由紀夫たちと出会ったところまでで消えていた。そこからの騒ぎを聞かされて、由紀夫はともかく(なぜ!)正広がそんな嘘とつくとは思えず、内心激しいショックを受けている。
「うーん・・・・・・」
と、頭痛薬を取り出す。
昨日の夜もちょっと具合が悪く、この薬を飲んだんだけど・・・
「あ!ひょっとして・・・・・・・」
「あ、おまえその薬って・・・・・・・」
「あ。お酒で飲んだら、まずいやつ?」
アルコールと飲んでOKって薬はあんまないだろう!!!
「痛い痛い痛いぃーー!!」
両方のこめかみを思いっきりげんこつでぐりぐりされて悶絶する典子だった。
「稲垣先生!」
「・・・・・・・・・・・・」
「稲垣先生!診察のお時間です!稲垣先生ぃーーーー!!!!!」
草なぎ助手はドアの外で叫んでいたが、イナガキアニマルクリニックのドアは硬く閉ざされ、オーナーの姿は寝室から現われることはなかった。
「青空診療か・・・」
がんばれ草なぎ助手!
負けるな草なぎ助手!
このネタ元のよっぱらいは、何の理由もなく暴れたそうです。彼女が言うには、春先に変態が現われるように、季節の変わり目というのは人間をおかしくする。だから暴れた。
って理由になるかい!!!
皆様もお酒には気をつけて(笑)