天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

第7話『栄養たっぷりの料理を届ける』

めっちゃ短い前回までの話。

「腰越人材派遣センター関連グループの社員旅行は無事に終了。残暑厳しい中、一同、仕事に励み出したのだが」さて何が起こったのか(笑)

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今日の由紀夫ちゃんのお仕事

その1.届け物「えいようたっぷりの料理」届け先「腰越奈緒美」

9月。暦の上では秋とは言え、残暑はまだまだもちろん厳しい。それゆえ、腰越人材派遣センターでは、かなりがんがんクーラーがきいていた。そういう意味では、奈緒美はケチではない。ついでに、冷え性でもない。
「えーと、ひろちゃん、こっちFAXね。それから、これは3部ずつコピーして、この名刺のとこに送ってくれる?」
「はーい」
今、そんな涼しい事務所にいるのは、奈緒美と正広だけだった。由紀夫は届け屋の仕事、野長瀬は営業、さらに典子が有休取得。そんな訳で、典子のアシスタントという身分の正広は、奈緒美の指示で細々とした仕事に励んでいた。
「こっちがコピーで、こっちがFAX…。あれ…。ねぇ、奈緒美さーん」
「何?」
「これって、7?1?」
奈緒美の字は、別に汚い訳ではないが、1と7の区別がつきにくい。
「え?どれ?」

奈緒美は何気なく立ち上がり、正広に近寄ろうとした。
その途端、世界が色を失ったような気がして、足元がふらつく。
「あら?」
「え?」
正広と奈緒美の間は、2・3mほどあいていて、そこに奈緒美が倒れた。
「…。…な、奈緒美さんっ…?」
FAXの番号が、と思って振り返り、立ち上がったはずの奈緒美が自分の足元に倒れている…。
「だ!大丈夫ですかぁ!?」
つまづいて転んだのか!?と奈緒美の側に慌てて膝をついた。
「奈緒美さん…?…あ!ど、どしちゃったんです!?」
ここに至って、ようやく正広は奈緒美の意識がない事に気がつく。

何が起こったんだ!?
正広の頭は一瞬にして、真っ白になった。

が。
長期入院経験のある正広は、とにかく医者が必要だ!と我に帰る。兄や野長瀬に連絡するのはその後!

ゆっくりと意識が戻って来て、奈緒美は目を開ける。頭がぐらぐらして、何で揺れてんだ?と思ったら。
「…ダッコちゃん?」
やたらとまつげの長いダッコちゃんが、目の前に…。
「誰がダッコちゃんですか!」
「あ!奈緒美さん!大丈夫ですか?」
「大丈夫って…。どしたの、あたし?」
「夏バテと、過労と、貧血と、夏風邪ですねぇ」
「なんで、事務所にダッコちゃんがいるの?」
「森です!」
「しょうがないよ、森先生―。どーしてそんな真っ黒になってんのぉ?」
奈緒美が横になっているソファの横に椅子を持ってきて座ってる森に、正広はケラケラ笑いながら尋ねる。
「…地黒だからだよ」
こめかみをひきつらせながら、にーっこりと森医師は笑った。

夏の疲れがひっそり溜まっていたのか、年(禁句)なのか。ソファに横になっていても、奈緒美のめまいは収まらない。
「あの、俺だけじゃあれですけど…。でも、もう、野長瀬さんも、兄ちゃんも、帰ってくると思うし、留守番だけだったらできますから」
「んー…」
「そうですよ。俺、車あるから送りますし」
とりあえず、やれる事はやったという森医師が言う。
「ん?先生、どんな車に?」
「社長さんがお好きなような車じゃないですけど」
「ポルシェだよ」
「あらっ!送っていただけますぅー?」

いいとこのボンボンで、頭もよくて、金もあって、女の子にやたらとモテて、生まれ育ちが上品なんで、性格にイヤミなとこがなくて、おっとりとしてて、かなり無邪気で、やたらとスマートな森医師のポルシェで部屋まで送ってもらい、奈緒美はかなり広い寝室のベッドに倒れる。
車に乗っている間から続いていためまいは、収まる気配もない。
何だか不安になるもんだなぁ…。ぼんやりと奈緒美は思う。風邪薬は事務所で飲まされていて、トロトロと眠気が訪れる。
動くのも鬱陶しく、派手なスーツを着たまま、奈緒美は横になっていた。

うつ伏せになっている背中に、何かがかけられる。
変に懐かしい思いがして、ふと目を開けると。
「…あ、起きた」
「…由紀夫…?」
「そう。ちょっと勝手に上がらせてもらったけど…」
低い、静かな声で由紀夫はいい、奈緒美にタオルケットをかける。
「女が見つからなくって」
「え?届け先?」
今日、由紀夫が荷物を届けるのは女性だったはず!と奈緒美は顔を上げようとする。
「いや、そじゃなくて」
急に頭を上げると、視界がぐらつき、そのまま横倒しになるのに、由紀夫は呆れたような顔になった。
「典子休みだろ?千明のPHS圏外だろ?星川は、出かけたっきり連絡つかなくって、菊江はその連絡待ち」
「…だから?」
「いや、だからぁ」
ベッドの横に突っ立っていた由紀夫は、どうも奈緒美が顔を上げているのが辛そうに見えたのか、そこにしゃがみこんで目線を合わせる。
「具合悪いんだろ?」
「…あぁ、そう」
「女手があった方がいいだろ?」
「…いや、それは…」

一体何年一人暮らしをしてると思ってるんだろう。ちょっと不思議な気持ちで、奈緒美は由紀夫を見る。
「ちゃんと着替えたら?起きられる?」
「あぁ…」
グググっと腕を突っ張って、体を起こす。
「うー…」
さりげなく由紀夫が奈緒美の腕を取って、ベッドに座らせた。
「ちょっと、届けもん持ってくるな」
起き上がっただけでくらくらする。とりあえず…、化粧落として…、着替えて…。うー…。
この辺りは女の本能で、ざっと化粧を落として、部屋にアールヌーボーな部屋に不釣り合いなジャージ姿になった奈緒美は、もぞもぞとベッドにもぐりこむ。どうも熱が上がってる気がした。

小さなノックの音がして、そっとドアが開く。
由紀夫が近づいてくる気配がした。
「…何…?」
「届け物」
ふんわりといい匂いがする。
「クスリの時間だけど、すきっ腹に飲むのよくないから」
もちろん奈緒美宅には、ベッドにおけるテーブルがある。由紀夫はベッドにそれをセットして、その上に深いカップを置いた。
「ちょっと起きられる?」
「ん…」
背中にクッションをがんがん置かれ、奈緒美はベッドに起き上がる。
「これ?」
綺麗なグリーンのスープを見下ろして聞くと、スプーンを渡しながら由紀夫が答える。
「正広が作ったヤツ。あいつ野菜嫌いなんだけど、作るのに抵抗はないらしくって。ジャガイモと、アスパラと…、なんだっけ、やたらと入ってるぜ。栄養満点」
腰越人材派遣センターには、結構ちゃんとしたキッチンがあり、正広はそこで料理を教えてもらっていた。
「ありがと…」
「飲み物いる?ジュースとか」
「ワ…」
「酒はダメ」
「なぁんでぇー」
「頭痛ひどくなるに決まってんだろ?おまえ、自分の酒癖解ってんのかよ!」
きっぱりと言った、由紀夫が持ってきたのは、ミルクたっぷりの温かい紅茶。
酒好きの奈緒美はぶーぶー言いながらそれを受け取り、とたんに嬉しそうな顔になった。
「いい香りぃー」
「香り付けだけな」
ブランデーの香りが微かにする紅茶を舐め、正広のスープを口にする。
「あ、美味し…」
「だろ」
別に自分が作った訳でもないのに、偉そうに由紀夫は胸を張る。
「お代わりあるから。後―、野長瀬からも、おかずを預かって来てて…。あー、でもなぁ」
「何?」
野長瀬もなにげで料理はうまい。
「…肉関係だから、今はちょっとキッツイかも」
「肉?」
「スタミナつけなきゃって、やったらスパイシーなヤツ作ってたけど」
「…あいつってバカ?」
「一応止めたんだけどさ、社長はこれがお好きなんですっ!って」
・・・そりゃ、好きだけど…。この喉の痛みの中、スパイシーな肉ってのは…。

2杯のスープと紅茶をたいらげた奈緒美に、由紀夫は、さっきよりもうちょっと香りのいい紅茶、それに水と薬を持ってくる。自分用にコーヒーも持っていて、ベッドの側に座り込んだ。
「はい、薬」
「ん」

「俺、久しぶりだよな、ここ来んの」
「あぁ。…そうねぇ」
由紀夫がクロゼットから生まれた頃、この部屋に住んでいた事があった。
「相変わらず、金かかった部屋だよな」
「あら。だって、あたしに相応しいものを集めたら、こうなっちゃうのよ」
「はいはい。あー、熱上がってるみたいだな、寝た方がいい、寝た方が」
わざと真剣な顔で、でもおどけたように、額に手を当て、ベッドの上のテーブルをどける。
「誰かと早めに交代するけど、とりあえずリビングの方にいるから。なんかあったら…」
「交代?」
「だから、女手の方がいいだろっつってんの」
いや、別に…。
そう言おうと思ったのだが、解熱剤がおっそろしい勢いで眠りを誘い出す。
「う…」
由紀夫の手が、奈緒美の背中のクッションを取り除く。
「おやすみ」
小さな声がして、寝室から人の気配は消えた。

『おやすみ』
と、ここ最近言われてないかも、と奈緒美はぼんやりする意識の中で思った。一人暮らしだし、そーいえば最近彼氏いない歴更新中だし。
一人暮らしは楽で、楽しくて、何の不自由もないけど、めったに病気をしないだけに、こんな時、少し困る。
女手じゃなくても、人手が欲しかったり。
昔は、一人になりたくて、なりたくてしょうがなかったのにねぇ…。

奈緒美は、6人兄弟の長女で、田舎のどでかい家では、両親、兄弟、祖父母、おじ、おば、従兄弟などなど、17人が一緒にくらしていた。当然、個室などある訳もなく、全員が労働力の農家で、忙しい大人たちに変わって、家を切り盛りしてきたのが子供たちの中で一番の年長である奈緒美。
面倒見がよくしっかりものなのは、数十年(数にあてはまるのが、2なんだか、3なんだか…)前からのこと。
寝る時もうるさくて、ぐっすり眠れたためしがない。あの子は、なんかっちゃあ寝言言ってたし、そうだ!寝相悪いのもいたぁ。

熱が高いなぁ、と思いながら、そんなに苦しくないのが救い。
昔の夢をトロトロと見ながら、奈緒美はずっと浅い眠りの中にいた。

額に、冷たい手がある。
14歳の奈緒美が珍しく風邪を引いて部屋のすみで寝てると、いつもいたずらばかりして奈緒美をてこずらせていた4歳の弟が、神妙な顔で側に座り、小さな手を彼女の額においていた。
「気持ちいい…」
そう奈緒美が言うと、にこっと嬉しそうに笑い、パタパタっと部屋を出て行く。もう看病ごっこにも飽きたか、と思っていると、また駆け戻って来て、額に手を。
「冷たーっ!」
「雪、つもってるよ、姉ちゃん」
言われて弟の手を見ると、小さな手が真っ赤になっている。雪の中にいれたらしいその冷たい手を、奈緒美は布団の中に入れてやる。
「バカだね、あんたは。あんたが風邪引くでしょ?」
あの頃、あんなに可愛かった弟は、今、今―…。え?あいつは学校の先生でしょ?あれ、家で農家?いや、あれは3人目の妹のダンナで。えーと…。
どこにいても人の気配がして、うるさい、うるさいと思ってたけど…、あーゆーのもなんか楽しかったかなぁ…。

ん?んん?
「冷たい…」
「あ…、ごめんなさい…」
控えめな、小さな、小さな声。息だけで話してるような。
「起こしちゃって…。ちょっと、ひえぴたを…」
額に張ろうとして、失敗したらしい。
「どしたの…?何時?」
「もう夜です。10時」
「あんたこんな時間まで起きてちゃダメでしょう?」
「え?」
「え?」
ふと目を開けると、正広の小さな顔があった。
「ひろちゃん!」
「はい…。いくら俺でも、10時には寝ませんけど…」

夢と現実がごっちゃになって、何がどうだかよく解らない奈緒美に、正広は体温計を手渡した。
「おなかすいてませんか?」
「…そーいや…」
「雑炊の準備してるんですけど」
「ありがと。いただこうかな」
「はーい」
にっこり笑い、正広は部屋を出た。

「すごーい。ひろちゃん、料理、上手くなったわねぇ」
きのこ、野菜、満載の雑炊に、ちょっとしたおかずの数々がベッドに並ぶと、妙にすっきりと目が覚めた奈緒美が次々箸をつける。
「でも、俺が作ったの、雑炊と、後、おひたしとくらいでー…」
「そうなの?」
「ほとんど野長瀬さんが」
「げ。じゃあ、スパイシーな?」
「ううん、大丈夫」
手を振りながら、正広は笑う。
「兄ちゃんが文句言ってたから」
「熱のある人間にねぇ、そんなスパイシーなものねぇ」
奈緒美も笑った。

奈緒美がぽつぽつと昔の話をし、正広も、由紀夫の思い出話などをして、二人だけの静かな時間が流れていた時、突然、けたたましい音がした。
「奈緒美さぁーん!」
「げ」
「千明ちゃんだぁー」
バタバタと派手な足音をさせながら、千明が寝室に飛び込んで来る。
「もう、奈緒美さんが、病気でって聞いてぇー!大丈夫ぅー?」
「うるっせんだよ!黙れ」
ベッドに飛び乗り、奈緒美の腕にすがりついた千明の首根っこを、後から入ってきた由紀夫がつかむ。猫の子でもつまみ出すように、ベッドから引き離した。
「いやぁーん、せっかく来たのにぃー!」

「社長!」
「野長瀬ぇ?」
「見つけました!見つけましたよ!ジュリエットさん!」
「あんた!鬼の霍乱だってぇ!?」
「誰が鬼よ!誰が!」
「だから、おめぇらもうるせってばよ!」
二人きりの静かだった寝室に、いきなり3倍の6人が入り、それぞれが口々に喋り出す。

うるさいおばちゃんに、能無しの従兄弟。可愛い甥っ子や、姪っ子たち。
しょせん、自分は大家族の面倒をみる立場から逃れられないのかもしれない…。雑炊の後でのんだ薬の力で、うるささにもめげず、奈緒美は眠りにつく。うるさくても、うっとうしくないのが家族の声だな、と思いながら。

「…温泉…」
奈緒美の声で、あーだこーだ喋ってた5人がピタっと黙る。
「行こうー…」
「聞いた…?」
星川が、小さな声でいい、全員が首を縦におる。
「あいつが行こうって言ったんだから、あいつのおごりよねぇ」
「そ…それは…。こないだ社員旅行にいったばっかりですし…」
「だから、腰越奈緒美本人のさ」
「えー、奈緒美さんのおごりぃー!あたし、いくぅー」
「冬がいいですね、冬!日本海!」
「雪!」
正広も嬉しそうになる。
「俺、雪みたいー!」
「雪見酒、雪見酒!」
野長瀬も騒ぎ出す。

と言ったわけで日本海にほどちかい温泉地に実家のある奈緒美は、そんな寝言一つで、今の家族たちを全員連れていかなくてはいけない羽目に陥ってしまったのだが。
彼女は、まだそれを知らない。

<つづく>

私の願望。由紀夫に看病されたぁーい!でも部屋汚いから、ホテルでおねがーい(笑)!!

次回、来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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