天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編50話後編『そういえばあの日は』

前回までのあらすじ

「奈緒美とジュリエット星川の友人にして香港マダムのれい子が登場。ルックスは、あぶない刑事の浅野温子でお願いします(笑)」

yukio
 

「ゆーきーおーちゃんっ!」
「はいっ?」
由紀夫はにっこりと振り向いた。
「どぉ?」
れい子は由紀夫以上の満面の笑顔でフィッティングルームから出てくる。由紀夫は、こめかみのあたりだけを小さくひきつらせ、しかし嘘のつける性格ではなかったので、正直な感想を述べた。
「派手、ですね・・・」
「でっしょー!?派手よねぇ〜!?」
しかしれい子はそれこそが聞きたかったセリフだったらしく、じゃあ、これいただくわぁ〜とご機嫌だ。
・・・まだ買うのか・・・・・・・・・

よく言われることだが、男は、女の買い物に付き合うのが嫌いだ。
悩んで、悩んで、時間がかかってしょうがないから、というのが一般的だが、れい子に関しては悩むことはなかった。
ただ、時間がかかる。
気がすむまで買い捲るからだ。

「あぁん、由紀夫ちゃん、重い?」
そんなれい子に付き合うことすでに3回目、
「重いです」
一流ブランドから、原宿のワゴンセールまでを駆け巡ったのも3回目。
その都度、山盛りの荷物を持たされた由紀夫は、にっこり笑顔で、正直に答えた。
「やだっ、由紀夫ちゃんったらっ!」
自分では、ビーズ細工のバック(原宿で購入、ねぎって800円)だけを持ったれい子は、そのバックでびし!びし!と由紀夫が殴った。

れい子がSMAPのコンサートチケットを持っていると聞き、溝口正広の誕生日を今更だが祝いたいチーム一同は、そのチケットを手に入れるため、れい子に付きまとった。
付きまとったが、すぐバレた。
SMAPのコンサートチケットを持っている、とれい子が言った途端、全員の態度が急変したのが原因だろう。まだまだ修行が足りなかった。
そしてれい子は、あげてもいいけど、由紀夫と遊びたいと言い出したのである。
遊ぶといっても、買い物と食事に付き合うくらいで、食事なんかは大人数でわいわい、という感じ。
荷物持ちだけで、楽といえば楽だなーと思っていた由紀夫だったが。

「おかえりなさいませ」
ホテルでフロントの女性がれい子を見て頭を下げる。
「あ、れい子にメッセージきてる?」
「いえ、ございませんが」
微笑みながら即答した彼女に、れい子は近寄る。
「ほんとぉに?」
「え?」
思わぬ反応に、あら?と手元や、端末を探るが、本当にれい子あてのメッセージはないらしい。
「やだっ、冗談よっ」
ほほほー、とおばちゃんのように(年齢的にはおばちゃんでも差し支えないれい子ではあるが)、べしべし彼女の腕を叩きながら、れい子はフロントを離れた。
「何かくる予定だったんですか?」
腕しびれるー・・・と思いながら由紀夫が尋ねると、れい子は、じっ、と由紀夫を見つめた。
エレベーターホールで、じっ、と見つめられ、由紀夫も逸らさなかったため、しばし見詰め合いは続いた。
その見詰め合いはにらみ合いに発展し、エレベータ内は異常な空気になる。
さらに、エグゼクティブフロアの廊下が異様な空気になり、そしてドアがあいてスィートルームに入った途端。

「何すんですかぁ!!!」

由紀夫は大量の品物ごと、ふかふかのカーペットに押し倒されていた。

「あ、さすがにここはイヤよね」
「ここじゃなくてもイヤです!」
由紀夫は起き上がろうとしたが、思いもよらぬ力で引きずられ、ベッドルームへ引きずり込まれそうになる。
「ちょ!ちょっと!ちょっとれい子さんっ!!」
これがまたうまい具合にひじの急所を押さえられてるものだから、うまく抵抗ができない。
開いた左手でソファの足につかまったら、
「そっちの方がいい?」
と言われる。
「そっちも、あっちも、どっちもないでしょーがぁーー!!」
「あっん、遠慮しないでぇ〜?」
れい子の細いひざが、由紀夫のすねを押さえつける。
「いてて・・・・・」
「だって、さっきの由紀夫ちゃんの情熱的な瞳・・・!あたし解ったの!あぁ!由紀夫ちゃんはあたしを愛しているのね・・・っ、って・・・!」
「ちーがーうーでーしょーー!!!」
「・・・ゆうこと聞きなさいよ」
「聞けることと聞けないこいとがあります。大体、何時だと思ってるんですか!」
「昼下がりの情事にはぴったりのじ・か・ん♪」

歌うような楽しげな口調で、楽しげな顔だった。
それが、買い物をしてる最中や、奈緒美やジュリエット星川と喋っている時のような顔だったら、『たすけてぇ〜、犯されるぅ〜(笑)』と遊べたが。
「れい子さん?どうしたんですか?」
右腕の急所と、左べんけいの泣き所を押さえられながらも、由紀夫は優しい声で尋ねた。
「なぁにが?」
「何で、泣きそうなんですか?」

 

「うっ、うっく、ひっ、うっうぅっ」
パウダールームには、大量の上質なタオルが置いてあったが、それらは次々とれい子によって消費された。
「お、っ、お、茶っ・・・っ」
途中、途中、水分補給しながらなので、涙が止まらない。
由紀夫は、れい子の隣で、ポットとタオルを傍らに置き、よしよしとれい子を宥めていた。
「れ、っ、れん、らくがっ、ない、のっ」
「連絡が?」
「うっ、んっ」
喋ろうとして、しゃくりあげ、また涙が出る。
「ず、っとっ、ない、のっ。やっぱし、やっぱしっ、若い子の方がっ、いいっ、んっっ、うぇぇ〜〜〜ん!!」
号泣。
ライオンが吠えてるかのごとき号泣だった。
これはしばらくつかいものにならん。ソファにつっぷしてなくれい子の背中を撫でながら、なんじゃこの惨状は・・・と濡れたタオルが撒き散らされた部屋の様子にうんざりする由紀夫だった。

奈緒美から聞いたところによると、れい子と奈緒美は、昔からの遊び友達で、れい子は香港に旅行中、現地のお金持ちといきなり結婚。そのまま香港にいついてしまったらしい。
連絡がこないのは、そのだんなさんからなんだろう。

れい子が子供みたいに泣きながら眠ってしまい、その濡れた目元は化粧が落ち、微かなくまが見えた。
無理して遊んでたのかな・・・。

見かけ通りに軽い体を抱き上げて、ベッドルームに運び、眠りを妨げないようにそっとベッドにおろす。おっと、ベッドカバーの上からおいちゃったよ、予備の毛布を、と立ち去ろうとした瞬間。
「かかったなぁ〜〜〜!!!」
「ぎゃーー!!!かにばさみぃー!!」
れい子の長い足が、後ろから由紀夫の体に巻き付いた。
「起きてたのかー!!」
「ふふふ!飛んで火にいるなんとやら!由紀夫ちゃん!覚悟しなさい!」
「覚悟しろって、ちょっとれい子さんっ!」
ふかふかのダブルベッドに引きずりこまれそうになりながら、由紀夫はなんとか抵抗する。
「あんた、結婚してんでしょー!?」
「関係ないねー!!どーせあっちだって若い子と浮気してるんだから、あたしもするのー!若い子と浮気ぃー!」
「はぁ!?」
何だと?と由紀夫の動きが止まったところで、れい子は微笑みながら言った。そっとマクラの下から取り出した封筒を見せて。
「言うこと聞いてくれないと、このチケットあげないから」
そして由紀夫も答えた。
「そのチケット、2枚で1万円ですよ。れい子さん、そんな安いんですか?」

「・・・安いわよ・・・」
ぽつん、とれい子は呟いた。
「もう、あたしなんか全然安いわー!!円なんか足元にも及ばないのよ!大暴落よぉー!!」
「れ、れい子さん?」
「あたしなんて、若くて綺麗しか取り柄がないんだものー!それがなくなっちゃったらおしまいよぉー!!」
「え?いや、れ、れい子さん・・・」
「だから、彼だって若くて綺麗な子と浮気をぅぅぅーーー!!!」
ベッドに身をなげてえぐえぐ泣くれい子の足から逃れ、やれやれ、と背筋を伸ばした由紀夫は、隣の部屋から大量にタオルを運び込む。
「れい子さんは、今でも若くて、綺麗ですよ」
「でももっと若くて、綺麗な子がいっぱいいるんだものー!!」
いや、そりゃそーだけど・・・。
「なんか、証拠とか、あるんですか?」
「浮気、のっ?」
「えぇ・・・」
「そんなのっ、ないけど・・・っ!でも、絶対もてるものっ!もうカッコいいんだものっ!お金もあるし、優しいしっ、ゆうっ、わく、されてるにっ、決まってるものっ!そうじゃなきゃっ、なんで連絡、もっ、してくれない、のっ!?」
「あなたも日本人なんだから、知ってるでしょう。女房が思うほど、亭主もてはせずって」
「そんなことないもんっ!いつも、ちゃんと連絡くれたのに・・・っ」
そしてれい子は、由紀夫の膝をよじ登ってきた。
「だから・・・、しよ・・・?浮気」
「だーめーでーすぅー」
「なぁんでぇ〜!!」
駄々をこねるれい子を、ベッドカバーの下に無理矢理押し込みながら、由紀夫はきっぱりと断る。
「れい子さんねぇ、大して好きでもない男とやったって、気持ちよくないですよ?」
「そんなことないもん。あたし、由紀夫ちゃん、好きだもんっ」
「だんなさんの方が好きでしょうが。もういいから、寝なさい。遊びすぎで寝不足なんですよ。ちゃんと寝ないと、あなたこう見えて奈緒美と同い年なんだから、きますよ」

奈緒美からの罵声が次元をこえてやってきたが、気にしない。

「由紀夫ちゃぁーーん」
「好きでもない男とやったらね、多分、ほぼ間違いなく、その分ブサイクになりますよ。老けますしね」
由紀夫の手にかかっていたれい子の手は、正直に元の位置に戻った。
「・・・若くて可愛いのだけが取り得なのに・・・。あの頃はよかったわ・・・。彼にはじめてであった、香港のあの熱い夏・・・!」
「何時ごろだったんですか?」
「3年前」

・・・・・・・・・・・・・今から3年前なら、今とも変わらないだろう・・・・・・・・・?

 

「レイコ!」
呆然とした由紀夫の背中から、甲高い悲鳴のような声がした。
「ダーリン!」
「レイコ!探したよ!」
「ダーリン!きてくれたのね!!」
由紀夫を押しのけて入ってきた男は、れい子と、ひし!と抱き合う。
「急いで仕事を終えてきたのに、君がいつものホテルにいないから、僕は、東京中のホテルを1軒、1軒、しらみつぶしに・・・!」

ホテルが違うんじゃあ連絡のしようあるかーい!!

「だって、だって、あなたが浮気してると思って・・・っ。あたしみたいなおばさん、あなたにふさわしくないっ!あなたには、もっと若くて、もっと綺麗な子が!」
「何を言うんだ、レイコ!君のように、若くて魅力的で綺麗な女性がいるかい!?」

あーもー、好きにしてくれー・・・・・・・・。

由紀夫はそろそろとフェイドアウトしようとした。その途端。
「あ!由紀夫ちゃん!」
その声に、夫に、妻の寝室にいた別の男の存在を知らしめるんじゃない!!とびくっ!となる由紀夫。
「これ、持ってって」
「え?これ、チケット・・・」
「あたし、多分行ってる場合じゃないからぁ〜」

その日は9月25日。確かに、翌日の昼間に、ノンキにコンサートに行ってる場合じゃないだろう。

お礼もそこそこに由紀夫は部屋を出て、ぐったりとドアにもたれかかった。
香港人の好みって解らないけど・・・・・・・・。あのダーリンが、そんなにモテるとは思えないんだけど・・・・・・・・・。
れい子のダーリン=伊集院光の体型+アホの坂田師匠のルックス。派手なんだか、地味なんだか(笑)
「恋は思案の外なんだな・・・・・・・・・・・・・・。多分、な・・・・・・・・・・・・・」

 

「兄ちゃん!兄ちゃん、兄ちゃん!」
「あーもー解ってるよ!立ちゃいいんだろ!立ちゃ!!」
スタンド席の最前列で、ひときわ異彩を放った早坂兄弟。
正広は、あまりに嬉しくて、1度具合を悪くしたくらいだったが、気合で立ち直った。やばいから!と言われても、絶対に席を離れず、はしゃぎまくる。
由紀夫も、最後になって、一番後ろまでやってきたメンバーに手を振られ、え?俺?と振り返すという珍しい経験をした。
最後の挨拶で、正広も思わず涙ぐみ、楽しいコンサートは終了した。

「カッコよかったぁぁーーー!!!!」
「うんうん」
「兄ちゃん、手ぇ振られてたでしょー!!中居くんにー!」
「ん?だって、中居は目が悪いから分からないとかゆってなかったか?」
「でも最前だったんだもん。解るよ、いくらなんでもー」
いいな、いいなー、と浮かれる正広をタクシーに乗せ、今度は横浜駅に向かう。

そして、横浜駅前のスパでは。

「お疲れ様ー!コンサートどうだった!?」
奈緒美以下、腰越人材派遣センターご一行様が勢揃いしていた。
「奈緒美さーん!すっごいよかったですー!あのね、あのね!」
「まぁ、いいからひろちゃん、座って」
このスパでは、宴会とスパコースがあり、宴会した後、ハダカのお付き合いもできてしまうのだった。
「みなさん、どしたんですかー?えー?何ー?」
舞い上がってる正広はグラスをもたされ、何?何??と首を傾げている。
「それじゃあ、由紀夫」
「え?俺?」
「じゃあ、あたしがしましょ」
由紀夫の抵抗を素直に受け止め、奈緒美が挨拶する。
「ひろちゃん、とっても遅くなっちゃったけど、お誕生日おめでとう」
「・・・ありがとうございますぅ・・・。これ、って、俺の!?」
「そうよぉ、ひろちゃんのパーティなの!でもね、大丈夫!もうすぐ、ひろちゃんの誕生日がくるから!」
ジュリエット星川が、時計を見ながら言う。
「まだちょっと早いけど、後2時間もすればね」

9月27日は、旧暦8月18日なのだった。

その日は、たらふく食べたのち、男女に分れてスパを楽しみ、休憩室で寝たあげく。

月曜日の腰越人材派遣センターは、昼過ぎまで、無人のままだった。
なお、その時、れい子が、ふくれっつらでドアの前に座っていた。ダーリンは再び仕事で香港に戻ったらしい。
今度はひろちゃんと遊ぶ!と堅く心に決めているれい子から、正広を守れるのか!がんばれ由紀夫!!


旧暦8月18日が9月27日だと知った時にはなんか嬉しかったね・・・(笑)中居くん、由紀夫のこと解って手ぇふったのかなぁ〜(笑)

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!