天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編52話中編『毛糸を届ける』

<前回までのあらすじ>

「GLAYの生ラジオが聞きたいと正広は思っていたが、ラジカセの電源ケーブルが壊れているのか、ラジカセが動かない。乾電池ならうごくはずだ!と出かけた夜の街角で、貴子という車椅子の女性と出会った。その貴子と、貴子の住む商店街の人々に、どんどんひかれている正広だった」

yukio
 

「はい、腰越人材派遣センターです」
『あ!よかった、まさちゃーん!あたしー!』
「貴子さん?」

貴子から電話がかかってきたのは、由紀夫と正広があの商店街に遊びに行ってから三週間ほどたった雨の日だった。
それからも正広は何度か貴子と会っていた。
わざわざ商店街まで行ったこともあったけれど、家の側のコンビニで偶然会うこともある。
けれど、貴子が電話をかけてくるのは初めてだった。

「こんにちは。どうかしたんですか?」
『お仕事を頼みたいの〜』
「仕事?」
『届け屋の社長兄さんにぃ〜』
「届けものですか」
『大至急〜なのぉ〜』
しかし正広の前、由紀夫のデスクは空だった。
他の仕事で出かけており、帰社、もしくは直帰するのは8時過ぎの予定。
なのにまだ時間は2時。
さらに事務所内を見てみると、斜め前には暇そーに通販雑誌のカタログを眺めている典子がいて、背中合わせに、暇そーアニファ(小動物中心ペット雑誌)を眺めている野長瀬がいる。
社長の奈緒美は接待ゴルフ(しかも珍しく接待される側)で出かけており、事務所ないはお昼過ぎのまったりとした空気に包まれていた。

これなら大丈夫。
小さくうなずいた正広は貴子に行った。
「僕でもよかったらすぐ行けますけど・・・」
『あ!まさちゃん来てくれる!?うわー!ごめんねー!ありがとー!』
明るい貴子の声に、明るく答えて、正広は外出することを暇そーな二人に告げた。

「こんにちはー!」
「いらっしゃーい!上がって上がって!」
呼ばれるがままにリビングに入った。ら。
「貴子さん!?」
「あっ!今、すげぇ意外って思ったでしょお!すげぇ意外ってぇぇ!!」
「えっ?あ、いやいや」
真剣な表情の貴子が手にしているのは編み棒であり、編んでいるのは、
「それはマフラーですか?」
「そうそう。あたしねぇ、真っ直ぐ編むのだけはすっごいうまいのよ!ちょっと見て見て!」
「あ、ほんとだ・・・・」
マフラーの長さはかなりのものなのに、機械編のように端が綺麗に揃っている。
「増やし目とか、減らし目とかは苦手なんだけどね、もうこの幅!って決めちゃったら、そこからはずれないよー!」
「すごいですねぇ!」
「でしょ!?ちょっとほれぼれしちゃうわよ。見て!この美しい編み目!」
自慢するだけのことはあるなぁ、と正広は思った。店で売ってるものみたいだと。
そのマフラーは、綺麗なグリーンとアイボリーで編まれていた。柔らかい色合いで、肌触りもよくて、ちょっと撫でてみたりもする。
「暖かいのよー」
「うん。すごい暖かそう」
その間も貴子の手はちゃきちゃきと動いていて、そして突然叫んだ。

「あーーー!!!そうじゃないのよー!!まさちゃんに来てもらったのわぁーー!!」
「あ!そうだ!届けもの!なんですか?」
「あのねぇ」
言いずらそうに貴子はもじもじした。
「これと同じ毛糸を探して欲しいの・・・」
「これと?」
貴子が編んでいるグリーンの毛糸を見せる。
「これの、アイボリーのが欲しいのね。でも、これ貰いものの毛糸なの。だから、毛糸の種類は分かるんだけど、どこで売ってるかが解らないのよ」
「はぁ・・・。これのアイボリーを買ってくればいいんですね?」
毛糸をまとめていた用紙を見る。
当然、正広が聞いたこともない毛糸の種類と色番号が書いてあった。
「あたしが行けばいいんだけど、雨降ってるし、近所の店じゃなかったら、ちょーっと大変なのね。段差くらいならなんでもないんだけど、階段は上れないし」
「うん。大丈夫です。探してきます。大至急ですよね」
「・・・できれば」
「はい。見習いですけど、これでも一応届け屋なんで」
ぴしっ!と敬礼して、正広は笑った。
「最後の毛糸玉がなくなるまでに!」
「よろしく頼む!」
貴子もふざけて敬礼を返し、正広は雨の中飛び出した。

まず商店街の中の小さな手芸店に入ったが、貴子が探している毛糸はおいていなかった。お店のおばちゃんが、お茶飲むか、お菓子食べるかとうるさいのを振り切って、その毛糸のことを聞いたら、かなり新しいメーカーのものなので、大手の手芸店じゃないと置いていないんじゃあないか、とのことだった。
まさか、手芸店で他の手芸店ってどこにありますか?と聞くのもはばかられた正広は、田村に電話を入れる。

『手芸店〜〜?』
「はい。うちの近所で、どっかありませんか?」
『俺は、リリアンが好きだったけどなぁ〜』
「りりあん??」
『えっ、リリアン知らないか!?』
「はぁ・・・。りりあん・・・?」
『リリアンってのは、こう、6つくらいの突起があって、そこに糸をぐるっとかけて、編んでいくやつだよ』
「・・・・・・・・・」
正広にはさっぱり解らなかった。解らないのに田村は自分にしか解らないような方法でりりあんとは、という説明をし続け、そして唐突にいった。
『隣の駅ビルだな』
「え?」
『駅ビルの3階に結構大きいのが入ってる』
最寄り駅の隣の駅名をいわれ、正広はありがとうございました、と丁重に言ってPHSを切った。
そして思った。
『りりあんってのがあったら、お礼に買って行こう』と。

手芸店は、メルヘンとロマンティックのパラダイス。

その手芸店についた正広は、力いっぱい圧倒された。
これでもか!!と押し出しの強い壁一面のパッチワーク。白木にステンシル、お人形に、編ぐるみ、山ほどの布地に、テディベア。
「むぅ・・・」
時節柄、毛糸のところには何人もの女性がおり、あれこれ選んでいる。その棚に陳列された毛糸の数たるや!
『世の中に手編みの種はつきまじ・・・!』
解ったような解らないようなことを呟きながら、端から丁寧かつ迅速にラベルを見ていく。

それにしても毛糸の種類というのはこんなに多いのか!といちいち驚いていた正広は、ついに手元のラベルと同じラベルをつけている毛糸を発見!
やた!と1つだけあったアイボリーに手を出すと、まったく同時に、別の手がそれをつかんだ。
「えっ!?」
「あっ!」
それは、制服姿のOLだった。二人は、それぞれがつかんだ毛糸と、触れ合う指先を見詰めてしばし固まる。
「あの・・・」
困ったような声のOLに、正広は大きく頭を下げた。
「これ!お願いします!病気の姉が、どうしてもこの毛糸でマフラーを編みたいって!」
「えっ、あ、そ、そうなんですか・・・?」
おずおずと手を離したOLに、ありがとうございます!ともう1度頭を下げ、正広はレジに急ぐ。
その華奢な後ろ姿を見送って、OLは、ほぉ、とため息をついた。
そのOLは、銀行にお使いのついでに、ぷらっと遊んでいただけだったのだが、思いもよらぬ場所で、可愛い男の子と会えて大変満足していた。
長い付合いの男にセーターでも編んであげようかしら、という気分はすでにふっとんでいる。
だって、欲しい毛糸がないんだもーん!
それに今の子の方がずっと可愛いんだもーん!

そんな風に、一人の男が彼女から手編みのセーターをもらうはずだったという運命を変えてしまったことなんか、さっぱり気づいていない正広は、雨の中、たったか走っていた。
雨足は徐々に強くなり、ちらりと自転車でがんばっているであろう兄の事を心配もしつつ、毛糸を濡らさないように傘はどうしても前方に傾けるようになる。
「遅くなりましたぁ!」
なので、貴子のうちの玄関で声をあげた時には、背中側びしょぬれだった。
「すごーい!」
軽やかな車椅子さばきで貴子が玄関に現われ、慌てて方向転換する。
「貴子さん?」
「まさちゃんびしょぬれ!!ちょっと待ってね!えーっと!いいや、もう上がって上がって!入って、すぐ左がお風呂だから!」
そう言われても、確かに自分の体がびしょぬれなのは解っているから、どーしたもんかなぁ、と玄関で突っ立っていると、帰ってきた貴子が呆れた顔をした。
「まさか、左と右が解らない訳じゃないわよね?そもそも、右は壁だし」
「あ、はい。でも・・・」
「だめよぉ、ぼっちゃんに風邪なんかひかせたら、お兄さんに殴られちゃう!」
「殴りませんよ・・・」
「じゃあ、蹴られちゃう。ほら、早く入って」
持ってきてくれたタオルを正広に放り投げ、貴子は広いバスルームに入った。

「すごー!」
「すごいでしょ。ちょっと自慢のバスルームよーん!」
貴子が一人でも不自由しないように、リフトはついてるわ、ジャグジーになってるわ、広いわ、観葉植物置いてあるわ、天窓つきだわ。
「なんですかこれ・・・」
「いいから早く早く!」
お湯をはりながら、貴子は設備の説明を一通りした。
「まぁ、天窓を開けるのは今日はやめといた方がいいわ。雨降ってるから」
「解ってますよ。それより、毛糸・・・」
濡れないように、パーカーの中にいれていた毛糸を渡すと、貴子は嬉しそうに笑った。

それがあんまり嬉しそうで、正広はドキドキした。

あれ。

もしかして・・・。

温かい泡風呂につかりながら正広は思う。
どうしよう。
貴子さんのこと・・・。

ぶくぶくぶく・・・・・・・・・。お風呂に沈み込みながら、赤い顔を押さえた。

『好き、かも・・・』

<つづく>


おーーー!そうなのかひろちゃーん!!!って、書いてるヤツがなにをゆってるんだか(笑)あ、ひろちゃんったらひどい。リリアンさがしてやってないじゃん、田村に(笑)!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!

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