天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編52話後編『毛糸を届ける』

<前回までのあらすじ>

「雨の日に、毛糸を買ってきてくれと貴子から依頼された正広。貴子は、綺麗なマフラーを編んでいた。雨の中貴子のために毛糸を求めて走る正広!そのエネルギーの原動力は、貴子への愛なのか!どうなのか!正広!」

yukio
 

雨は夕方にはあがったが、正広は、結局会社を早退した。
なんだか恥ずかしくなってしまって、うちに帰って寝てしまう。胸がドキドキすると、心臓のドキドキと錯覚してしまって、具合が悪くなってしまって。
帰ってきた由紀夫は仰天したが、正広はなんでもないと首を振る。
「正広?なんでもないって」
「うん。なんでもないんだ・・・。今日、雨、あたっちゃって・・・・・・!兄ちゃんは?雨、大丈夫だった?」
「なんでもねぇに決まってんだろ。熱は?」
「ない。ほんと、大丈夫」
言いながらベッドに潜り込んでいく正広に、由紀夫はどーしたもんか、と腕組みをした。
腕組みはしたが、その腕をほどいて布団を引き剥がそうとはしなかった。

真っ昼間っから布団ひっかぶって眠ってしまい日もあるだろう。
そんな時には、好きなだけ眠ったらいいんだ。
青春って、何かと傷つきやすいものだから!

「兄ちゃぁ〜ん、それ、反則ぅ〜・・・」
「ん?寝てろ、寝てろ。青春は反抗だぞ?」

わざわざ小型扇風機でベッドを風下の状態において一人焼き肉(しかも炭火焼き)を楽しむ由紀夫だった。

俺ってダメなヤツかも・・・。
結局焼き肉を、しかもお腹いっぱい食べてしまった正広は、軽い自己嫌悪をお供に、外出した。
最近恒例になっているこの夕食後の外出は、行き先が決まっている。
「兄ちゃん、俺コンビニ行くけど、なんかいるもんあるー?」
と玄関で言うと、
「んー・・・、別にねーかなぁー・・・」
由紀夫の答えは色々。
それを受けて、正広はお財布片手にうちを出て、ぷらぷらとコンビにに行くのだ。

そしてタイミングがよければ、貴子とばったり会える。
いつもは、貴子の姿を見るのは嬉しかったけど、今日会っちゃったら、なんか、また心臓苦しくなったりして、うわ。どうしよう。
会いたいような、会いたくないような、うーん・・・・・・
と、考え込みながらコンビニに向かう角を曲がったところで、なにかにぶつかった。

そんな偶然!
と思ったが、それは貴子だった。
「貴子さん」
「あ。まさちゃんだぁ〜・・・、最近、よく会うね」
「そですね。どしたんですか?」
そりゃ貴子目当てで出かけてるんだから、会うよな、と思いながら正広は答える。貴子は、コンビニまで後20mというところで佇んでいた。
「んー。ちょっと気が重くなって」
「え?」
貴子の膝の上には、可愛らしい袋があり、細身のリボンで飾られている。そのリボンの端をいじいじといじりながら、貴子はコンビニを見ていた。
「まさちゃんさぁ」
「はい」
「あ、この女は自分に気があるなって、どうやって判断する?」
「えぇ???」
「他の人に比べて、どうも自分に親切だなって感じたりしたら、それはやっぱり好意があると思う、よねぇ?」
「あ、思い、ますけど・・・」
「でもそれが例えば、まぁ、まさちゃんまだ行かないだろうけど、えーと、飲み屋のおねえさんとかが親切にしてくれるのは、それはまた別でしょう?」
「・・・そう、でしょう、ねぇ」
正広の脳裏には、はっきり!と野長瀬が映っていた。彼はなんども飲み屋のおねいちゃんの言うことを信用して、その都度、力いっぱい痛い目にあっている。
「接客業の人がやることを、こう、個人として100%信じるってのは、ちょっと違うよ、ね?」
「服屋さんで、お似合いですよ!なんて言われるヤツとか?」
「あぁーーー!!あたしは結構なんでも似合うんだけど、あーきーらーかーに!似合ってないだろ!って人いるもんね!解った!帰る!」
「はいっ!?」
くる!っとその場でターンしたかのように小回りを利かして車椅子を反対に向けた。
「貴子さんっ?」
「接客業の人だもんね、そりゃそうよね!」
「え?え??貴子さん、ちょっと、あの訳解んないんですけどっ!」
「だからっ!接客業の人に親切にされたからって、それを真に受けるなってことよ!」
「接客業って・・・・・・・・・・・」
何、何!?と考えて、正広は一つの仮説を口にした。
「貴子さん、あのコンビニの店員さんが・・・」
「きゃーーーーーー!!!いーわーなーいーでぇーーー!いぃーーわぁーーなぁーーいぃぃーーでぇーーーーーー!!!」

近所の家の窓ガラスにヒビが入るんじゃなかろうかというほどの声だった。
そして正広の腕はびしびしびしぃぃ!!と叩かれまくった。

暗がりの中でも解るほど貴子の顔は赤くなり、負けずに赤くなった腕を抱えて、正広は小さな痛みを感じる。
恋心自覚から、5時間。
短い恋だった。

「・・・じゃあ、貴子さん、それの中身って、昼間の?」
「そーなんだけどぉ!そーなんだけど、なんかさぁ、どう思う?まさちゃんだったら、どう?朝電車で見るなー、くらいの女から、いっきなり、お誕生日おめでとうってプレゼント渡されたら。なんでそんなこと知ってんだよ!この女!って思わない?たとえ叶姉妹のようなゴージャス系でも!」
「叶姉妹だったらヤですけど・・・」
「あ、そうなの?えーと、じゃあ、フカキョンだったら?」
「フカキョン・・・。あのー、えと、ひょっとしたら俺よりおっきくなっちゃうかなーって気がするんで」
「ま!ガタイのいい女はダメだって言うのね!?じゃあ、藤原紀香もダメ」
「あの人は真剣にガタイいいですよね」
「いいよね。伊達に格闘好きを名乗ってないね、あの人は」
うーん・・・と二人で、藤原紀香の二の腕を思い浮かべてみたりする。
「そじゃなくって!だから、顔しか知らないような女から、いきなりお誕生日プレゼント、なんてゆってマフラーもらったらどうする!?ってゆってるの!でも、そのマフラーは、決して手編みじゃないのね。そんで持ってきた女は、えーーーーと、田中麗奈なの」
「なるほどー!」
「おっ!田中麗奈はいい?」
「そですねー、ポッキーのCMが妙に好きで」
「本上まなみとのやつとか?」
「うん、あれも好き」
「そっかそっか。だからね、その顔だけ知ってる田中麗奈が、誕生日おめでとうってプレゼントを持ってくるの。既製品のマフラーをね。どう?」
「嬉しい?」
「嬉しいかぁ〜・・・」
うーん、と貴子は腕組みをしてうなり声を上げる。
「それ、じゃー・・・ねぇ」
「はい」
「まさちゃんが、どっかのお店で働いてて、その店に、山田花子が来て、なんかで困ってたら助ける?」
「そりゃそうでしょー?」
「でもそれは店員さんだからよね?」
「それは・・・あの、どういうことで困ってるとかによっても違うし、そんなに明確に、店員の自分と、そうじゃない自分を区別はしてないと思いますけど」
「なるほどー・・・」

「貴子さん」
正広は言った。
「そんなね、仮定の話したってしょうがないですよ?俺はその人じゃないし、その人の気持ちや考えなんて、本人じゃなきゃ、解る訳ないじゃないですか」
「ぎゃーーー!!何それ!何この正論魔人!」
「魔、魔人って・・・」
「解ってるわよそんなことっ!でもさっ、聞かずにはいられない女心ってもんがあるのよ!そこには!」

と、側を、犬の散歩中の人が通り、貴子は口を閉じる。
怒ったような顔でうつむいて、その手元にあるマフラーを見下ろして、そのリボンの触れながら小さく呟く。
「あたし、こうやって車椅子に乗るのになって、まぁ、不便なことも色々あったけど、あーゆー商店街だから、助けても貰えるし、そんなにどうこうもなかったのね。それどころか、あのコンビニで、ちょっと男前の店員さんに親切にしてもらっちゃったりした日にゃあ、ちょっとラッキー!って思うほどだったんだけど・・・」
リボンがほどけそうになって、貴子は慌てて整え出す。
「でもやっぱり、好きです、とかゆっちゃうと、重いかなぁ・・・って、思うじゃない。あたしはかなり軽い、んだけど、車椅子含めちゃうと、結構行っちゃうんだな。電動だと特に」

綺麗にリボンを結び直し、貴子はそのマフラーを正広に差し出す。
「タグまでつけた特製マフラー。素人の手編みだとは解らせない質の高さが自慢です。だから彼女とかにも文句はつけられないけど、もらってくれない?」
あの綺麗な色を思い出した。
アイボリーとグリーンが優しかった。
「やですよ」
でも、正広は欲しくない。
「そんな、一目一目に貴子さんの想いがつまったようなマフラーしてて、貴子さんのこと、好きになっちゃったらどーすんですか。いりません」
「そんな!これを呪いのマフラーみたいに!」
「いや、貴子さんが精魂込めて編んでるんですから、それっくらいの威力はあると思いますよ?」

その時の貴子は、日頃の豪快さはどうしたんだろう、というくらい、しおらしげな顔をして、不安そうな表情で正広を見上げていた。
可愛いなぁ、と思う。
好きな人にマフラー編んで、渡せなくて、そんな貴子さんもすごい好き。
俺のことは、激しく眼中にないみたいだけど、でも、俺は好き。
一番好きなのは、元気な貴子さん。
「大体貴子さんだったら、好きにならなかったら、殺してしまえホトトギスタイプじゃないんですか?」
「あらま!それは誤解よ?あたしはね、好きにならないんだったら、させてみましょうホトドギスタイプなの」
と自分でいって、貴子はカリカリと頭をかいた。
「そうねぇ・・・。好きにならないんだったらなるまで待とうじゃないことは、確かねぇ・・・」

そして貴子は顔を上げる。
「モットーを忘れてたわ」
「モットー?」
「見る前に飛べ。たとえおっこちても、なんかまた新しいものが拾えるわ、多分ね」

ふふふ、と笑う貴子は、急に自信たっぷりで、不敵に見える。
きっとドキドキしてるだろうけど、そのドキドキごと楽しもうとしていた。
「そうですよ。もし彼女とかいても、その時はその時だし」
「あ、彼女はいないのね。親元で暮らしてて、昼間は大学、夜はコンビニ。草野球のチームに入っててピッチャーとかしてるの」
「・・・・・・・なんでそんなこと知ってんですか?」
「え?それくらい、レジで話ししない?」
「・・・・誕生日はどうやって調べたんですか?」
「話の最中に、うまいこと質問していくと、つるっと答えるでしょう?」
「・・・・・・・・・」
黙ってしまった正広に、貴子は駄目押しした。
「大丈夫だって!ちゃんと裏もとってあんのよ!学校も嘘ゆってないし、誕生日もホントだし」
「裏とったって・・・」
「まぁ、方法は色々とあんのよ、ふふふ・・・」

見る前に、ちゃんと準備をして、力いっぱい貴子は飛んだ。
新聞を片づけるため、店の外に出てきていた、正広も顔見知りの店員は、すごく嬉しい顔をして、さっそくユニフォームの上からマフラーをした。さわやか系男前の彼に、さわやかな暖かい色合いがやけに似合った。

でも、諦めた訳じゃないからな!
離れた場所からそれを見て、正広は思う。
俺はいつでも、貴子さんを車椅子ごと・・・!いや、電動はちょっと無理なんで、車椅子レースの軽量仕様のヤツ、くらいにしとこっかな、それごと抱き上げられるようになってるやるんだからな!
とりあえずプロテインを飲もう、とウィンダー・イン・ゼリープロテインを買うため、遠いコンビニに向かって歩き出した正広だった。


なんか腰の引けた話だったわ・・・!ひろちゃん!せっかくのこいばなだったのに、なんか腰がひけて!おちゃらけにしかできなかったの!ごめんねひろちゃん!ひろちゃんに世紀の恋はまだ早いの!お母さん、そぉ思うの(笑)!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!