天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編53話『目録を届ける』

<1999年11月13日>

由紀夫って、これでいくつになるのかなぁ・・・(笑)

yukio
 

溝口正広の身分は腰越人材派遣センターの「アルバイト」だ。
時給は800円で、本人としては結構破格だと思っている。
最近は、9時5時で働いていて、お昼休みが1時間あるから、7時間分で、1日5600円。二十日働いて112000円。
これが丸まるお小遣いになるので、正広の財布は基本的に豊かだった。
日頃、そんなに無駄遣いをする訳でもなく、それどころかスーパーのチラシを毎日細かくチェックして、安いものを見つけるのが嬉しかったりしたし、商店街で買い物するときは、にっこり笑顔でおまけをいただいてみたりもする。
そんな訳で、正広の銀行口座には、結構な額があったりする。

「うーん・・・」
そんな自分の通帳を眺めながら正広は考えていた。
これだけあったら、大抵のものは買えそうな気がする。
でも、なんでも買う訳にはいかないのだ。
ちょっとした中古車くらいなら即金で買えるほどお金を持っていても、なんでも買うわけにはいかない。
十代の少年が、ちょっと年の離れた高給取の兄に買う誕生日プレゼントとなったら、金額の多寡よりも考えなくてはならないことが多かった。

何せ、予算が多いからといって、ここで中古車なんぞを買おうもんなら、ぶん殴られるのは必至。
商品券なんぞは言語道断だし。いや、そりゃ当たり前だけど。
一体何がいいのかなぁ〜・・・。
由紀夫は、あまり物に執着をしない。正広が一緒に暮らしているからおかしなものがうちの中に増えるけれど、もし自分がいなかったら、この部屋もシンプルなまんまなんだろうなと思う。
由紀夫の誕生日まで後二週間になっているのだが、正広はまだプレゼントを決めかねていた。

その日、正広はデパートに来ていた。
プレゼントー、プレゼントー、と店内をめぐる。
『ていっても、デパートって女の人のものばっかりだよなー』
売り場の8割は女性用の商品だろう。紳士服売り場に、すべての男性用品が押し込められてる感じで、日曜日であっても、なんだか静かだ。
スーツや、ネクタイや、靴なんかがあるけれど、スーツなんかは、奈緒美が全部用意するし、しかもグッチだったりするから正広が割り込む余地はない。
『でも、買えるけど。お金ならあるけどね』
あるけど、スーツはやっぱり違うと思う。
つらーーっとフロアを端から端まで眺めて、どうも由紀夫にプレゼントしたいものがみつからなかった。
ブティックに行ってみたりもしたけど、どうも、どぉーーおも決まらない。

「正広」
「・・・えっ!?」
「エスニックだな」
プレゼントのことに熱中しすぎて、夕ご飯のお刺し身の上から、胡麻ドレッシングをかけていた正広だった。

「森先生ー」
定期検診の後、正広は主治医の森医師に尋ねた。
「先生ね、誕生日プレゼントにこれもらった!とかってあります?」
「誕生日プレゼント?んー、色々もらったけどー・・・、車とか?」
「くっ車っ!?」
「なかなかの美人だったけどね、どうしてももらって欲しいって言われて、仕方なくね」
車!?車を美人から!?誕生日に!?くっ、車っ!?
目を丸くしている正広に満足したように、森はカルテに何事かを記入して微笑む。
「今日も調子いいみたいだね」
けれど、正広の頭の中は、『車!?』でいっぱいだった。
まざまざと思い浮かぶ映像。
派手なスーツに、マフラーなんぞした森が、真っ赤なバラの花束持って、綺麗なおねいさん(もちろん懐かしのボディコン、ウェストまでの栗色の髪は大きなカール、ピンヒール)のウェストに腕なんか回しちゃって、そんで、もらったやっぱり真っ赤なポルシェなーんぞにエスコートしている映像がぐるぐる回る。
『森先生すごぉーーーいぃぃぃーーーー!』

もちろん正広は知らない。
森医師が美人の従姉妹(森医師に激似。ただし色白)から新車を買うからといってふっるい!軽自動車押し付けられたことなど。

車ー、車かぁー・・・。
帰り道、正広は考える。
そりゃ、ちょっとした中古車。後、やっすい新車を買うくらいのお金なら持ってるけど、そういう車は、多分由紀夫に似合わない。
由紀夫に似合う車って言えば。うーん・・・、なんだろなー。車、車・・・。俺だったらファンカーゴとか好き。後、Will vi可愛い。でも、兄ちゃんとWill viはちょっと違うか。・・・ちょっとどころじゃないか!
ファンカーゴはまだ似合うけど、でもやっぱりどーだろーなー。スポーツカーみたいに車高の低い車の方がいいかなー。それこそ、フェラーリーとか。
・・・グッチ来て、フェラーリってイタリア経済支えてるみたい・・・。
でもでも、もっとごっつい車もいいかも!ワイルドに!ハリアーとか?サーフとか??
・・・それはどう考えても買えないなー・・・。
それにうち車庫ないもんなー。
ビデオ屋完全に潰しちゃって車庫にしちゃえばいいのかな。でも、そんなお金もないし。
自分でやる?
ってそりゃ無理だよなぁ・・・・・・・。

翌日、自分の定期検診を終えた正広は、白文鳥のしぃちゃんの定期検診のため、稲垣アニマルクリニックへ向かった。
幸い、いつも通りに悪い箇所は見つからず、よしよしと安心したところで、正広は切り出した。
「稲垣先生って、今までで一番すごい誕生日プレゼントって、なんでした?」
「今までで一番すごい誕生日プレゼント?」
何かなぁ、と宙を見詰めた稲垣医師は、ぽん、と手を叩いた。
「家」
「い、家ぇっっ!?」
「まぁ、僕の場合、後援者は後を断たないからね」
ふふっ、と稲垣医師は笑い、正広は絶句する。
誕生日に、家!?

しぃちゃんを肩に乗せて、フラフラと出ていく正広を見送った後、草g助手はため息をついた。
「なんで、先生はそーやって話をややこしくするんですかね」
「ややこしく?」
心の底から心外だ、という顔を稲垣医師はする。
「むしろ、単純に事実を述べただけじゃないか」
「先生が、当時にしても珍しい自宅出産で、長男として生まれたからには、このうちは将来おまえのものだよって言われた、というのを、『誕生日に家をもらった』とは言わないと思うんですけど・・・」
「いや、そのセリフを父親が言ったというのは、当時珍しかった8mmと、テープレコーダーにしっかり残ってるんだから間違いない!」
「嘘だなんて言ってないじゃないですか!」
「じゃあ、『誕生日に家をもらわなかった』って言えばいいのか?」
「そーじゃなくって・・・」
バカだ、バカだ、バカだ俺って・・・・・・・
稲垣医師にいちゃもんをつけたことを、草g助手は、深く、深く、深く後悔したが時すでに遅し。それから三日に渡って、草g助手の言葉は揚げ足を取られつづけたのだった。

『家!!』
そんなことは当然知らない正広は、しぃちゃんに耳を引っ張ってもらわないと道を間違えるほど驚いていた。
『誕生日に家を買ってくれる人って、それってそれって、パトロン!?』
まざまざと思い浮かぶ映像。
絨毯はふかふかで、そこにふかふかの白いスリッパがあって、レザーのソファに、ガウン姿の稲垣医師。膝の上にはペルシャ猫。片手にはブランデー。そぉして、バスルームからは、バスローブ姿のちょっと年上だけど、めっちゃ美人のおねいさんがぁぁぁーーーー!!!

「正広」
「えっ!?」
「それは・・・、何料理だ?」
正広は、湯豆腐の上からソースをかけていた。
「え。えーと・・・」
「うわっ!食うなよっ!」
「うわー!すっげぇまじぃ!兄ちゃん食べて、食べて!」
「なんでそんなもん!」
「いや、この違和感は、むしろ1度は食べといた方がいいくらいだよ!」
「いらねーよ!」
付け出汁のしみた湯豆腐に、ウスターソースはむちゃむちゃあわないので、気をつけた方がいいようだ。

家ね。
今の時給は、おそらく300円でも高いくらいだろうと思われる昼下がりの暇な時間、一人で留守番をしながら正広は考えた。
家なんか絶対買えない!
あったりまえじゃないか、どんなど田舎行ったって家なんか買える訳がない!
でも、自分たちで組み立てるログハウスとかは?
それなら基本的には材料費だけだから、買えないことはないと思うんだけど・・・。
でも、建てる場所がないじゃん。土地が。
土地!土地は買えないだろ、土地は!
一番高い土地って一坪いくらとかすんだろ。銀座だよね・・・。誰か一坪だけ買ったりしたら面白いのに。
そーいや、家って、自分で作っちゃう人いるよな。
聞いたことある、どっかの航空会社のえらいさんは、家とか、プールとか、自分で作っちゃったって。
・・・ってことは、あのビデオ屋を片づけて、そんで、そこにログハウス。
・・・いーみなぁーいじゃん!!
意味無し教から表彰されるくらい意味ないよ。建物の中にログハウスなんて!

そんなことをしているうちに、由紀夫の誕生日は目前まで迫ってきてしまった。
なのに、正広はまだ誕生日プレゼントが決められない。
何が欲しいって聞いても、なんでもいいと言われるだろうし、そもそも聞きたくはない。
むぅーーーーー・・・・・・・・!
そして思い余った正広は、勢いのままに尋ねていた。
「兄ちゃん、最近、好きなものって何っ?」
「はい?」
トイストーリーを見るか、ベイブを見るかの間で悩んでいた由紀夫が顔を上げる。
「最近?好きな物?」
「うん、なんか、趣味、とか」
「最近の趣味?」
「う、うん」
「趣味・・・。正広は?」
「どこでもいっしょ!」
「あぁ、なんか、ドラクエ発売伸びたってな」
「そーーーだよぉーーー!!もー!めっちゃめちゃ楽しみにしてたのにぃー!」
「野長瀬が、テレビ局の陰謀じゃねぇかって言ってた。年末に出たんじゃあ、年末年始のテレビ視聴率があがったりだって」
「・・・ありうるかも・・・・・・」
真剣に考え込んだ弟に笑いながら、ここはやっぱりベイブかな、とデッキにいれようとしたところで、
「いや!だから兄ちゃんはっ?」
「俺?ドラクエは別にどーでも・・・」
「そーじゃないじゃん!好きなものとか、趣味とか」
「趣味って、俺ほんとないけど、まぁ・・・。映画?」

そう、今しもビデオを見ようとしていたところだったのだから。
「それって、昔から?」
「溝口の時は見てる暇なかったな。早坂になってから。でも、今でもあれこれ見るし」
「兄ちゃん、映画館にも行くよね」
「行く行く。ハリウッド超大作なんてのは、劇場で見た方が面白い。ビデオになって家の小さい画面で見ると、妙につまんなく感じたりするからな」
由紀夫の映画好きは、ジャンルを問わずだった。とにかく、なんでも見に行くし、なんでも借りてくる。
「兄ちゃん、映画が好きなんだね」
「そうかな」
そしてその夜は、二人してベイブを楽しんだのだった。

決めた・・・!
正広の心はついに決まった。
ただしこのプレゼントは、由紀夫の許可がいる。第1弾プレゼントを拒否されたときのために、第2弾プレゼントも準備。
ただし、両者とも、目録だけ。
できあがった目録を、大袈裟な袋にいれ、水引までつけて、正広は満足そうに微笑んだ。

「にーーちゃんっ!」
11月13日土曜日になった瞬間、正広は大声を上げた。
「何だっ!」
すぐ側で大声を上げられて、由紀夫は耳をふさぐ。
「お誕生日おめでとう!これがプレゼント第1案ですっ!」
「第1案・・・?」
巨大な金封(鶴亀の豪華な水引つき。これに入れられる金額は、最低でも15万程度)を渡されて、由紀夫はとまどう。
「開けて開けて!それね、兄ちゃんのOKが出ないと、あげられないの!」
鶴亀を取り、中を開けると、巻き紙が入っている。たどたどしい筆文字は、こう書いてあった。

「『溝口正広といく映画の都ハリウッドツアー・・・、2000年をアメリカで迎えよう』・・・。え?」
「おめでとおございますっ!こちらの商品は、早坂由紀夫様のためだけに企画された商品で、なんと、費用は無料でございますっ!」
「無料!?なんだ!?おまえ、なんか当てたか!?」
そうだ!航空券当てたってことにすりゃいいんだ!
回転早く、その線で押し切れ!と思ったら、それより早く言われた。
「まさか、おまえが自分で出すって言うんじゃないよな?」
「えっ」
押し切ろう!と思っていたのだが、由紀夫の目は、どうもそれを許してくれそうもなかった。
「えーっと。あの。誕生日だから、プレゼント、だし・・・」

正広は、海外旅行なんていう派手なプレゼントをどーん!と用意した。由紀夫さえOKを出してくれたら、すぐさま、チケットやホテルを押さえられるだけの準備もしてある。
奈緒美にだって、年末年始の予定としてひっそり申請をしてるのだ。
「でも、おこづかいは自分持ち・・・」
「正広くーん。いやいや、嬉しいけども、それに黙って「うん」とは言えないだろ」
「なんでぇ?今安いんだよっ?航空券とホテルだけっていったら、東京のホテルで年末年始するよりひょっとしたら安いかもよっ?」
「だから、旅行は行きます。もう休みも申請してあるらしいし」
「うん」
「プレゼントもしてもらいます」
「ほんとっ!?」
「ほんとほんと。その代わり」
「その代わり?」
「保護者として、正広の分は俺が出す」

「いーみなーいじゃーーーん!!!」

しかし由紀夫はガン!として譲らなかったので、仕方なく、第2案も発動させることにした。
翌日、由紀夫にプレゼントされた第2案は、ポータブルDVDに、名画DVDセット。
「うわ!すげー!ありがとー!・・・って、おまえ、これ・・・」
「あっ!そっちに紛れてたかっ!」
正広がこっそり見ようと思っていた、SMAPライブ「ス」のDVDだった。

「まー、それにしても、兄ちゃんは驚いたよ」
「驚いたっ?驚いたっ?」
「驚いた。まさかそんなプレゼントを用意してくるとは・・・」
「へへー、まぁ、任せてよ。俺がばっちり!添乗員してあげるっからっ!」

そんな訳で、早坂兄弟は、2000年をアメリカで迎えることとなった。
どうなる!2000年問題(笑)!


そんな訳で二人はアメリカへ!紅白が心配だけど、大丈夫だよ、ひろちゃん。アメリカでもきっと見られるよ(笑)ビデオとっとくし(笑)

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!