天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編54話『シールを届ける』

『稲垣アニマルクリニックとは』
診察対象:犬、猫、小動物、鳥、爬虫類。メインの仕事は草g助手がやっている。評判はなかなかで、遠くからもやってくる患者さん多し。オーナー医師の稲垣医師目当ての奥様も少なくない(笑)

yukio
 

むっ!
稲垣アニマルクリニックの稲垣医師は、書類を見下ろしてぴきっ!とこめかみをひきつらせた。
なんということだ・・・!
「剛っ!」
「はいはーい」
「これなんだけど」
とんとん、と書類をペンでつつくと、はい?と覗き込んでくる。
「これの」

「せんせーーーい!!助けてぇーー!」

「えっ!?」

飛び込んで来たのは巨大な猫を抱いた近所の奥さん。
「どうしましたっ?」
「あの!赤ちゃんが!」
「あっ!た、大変っ!」
出産がうまくいっていないようで、草g助手は慌てて診察室に飛び込んで行った。

稲垣医師は受付に取り残され、むぅ、と眉間に皺を寄せつづけた。
こんなことは許されない・・・!
ぴしっ!と電話を取り上げて、ダイヤルを押す稲垣医師だった。

 

「ちーっす」
早坂由紀夫が稲垣アニマルクリニックにやってきたのは、それから30分後のことだった。
連絡を受けて、すぐさまダッシュすれば15分もあればつくのだが、由紀夫にはダッシュする気がなかった。
稲垣アニマルクリニックにはあまり関わりたくないと思っている。
今まで訳の解らない仕事をさせられてきたしな・・・。それでも来るんだから、偉いよ俺は・・・(『当たり前です!』by正広)
なーんて呟きながらドアを開けると、中は大騒ぎだった。

「いたーっ!」
「あーっ!先生大丈夫ですかぁー!」
「大丈夫、だけどっ!なんでこんな暴れるかなぁ!ミミちゃんはぁ!」
診察室の中から稲垣医師の声がする。口調は優しいがボリュームは相当大きかった。
「だって先生、ミミちゃん、お嬢様なんですから、しょうがないじゃないですかぁ〜」
「だから、ミミちゃんは、男の子だって!」

「お腹きらなきゃいけないと思うんです」
低いトーンの声は草g助手。
「やっぱり・・・!」
「体大きいですから、麻酔にも耐えられますし、子供たちもきっと大丈夫ですよ」
助手と呼ばれてはいるが、獣医師の資格はちゃんとあるし、実質働いているのは草g助手の方だと解っているため、女性の声も落ち着いていた。

「あの〜・・・」
由紀夫の声は、緊迫した様子らしい診察室には届かない。

「だからっ!ミミちゃん、噛まないのぉー!」
「あー!先生ごめんなさーい!でも先生にはまだ手加減してるのよ!ほら!私なんか、流血ばっかりで!」
「人間の怪我までは知りません!ミミちゃんっ!あーっ!剛!ミミちゃん、捕まえてーっ!」
「無理ですって!今、注射してるんですからっ!」
「吉田さん、お願いしますっ!」
「えっ!?あ、えっ?ネズミっ?」
「モルモットです!」

・・・何が起こってるんだろう・・・。
診察室の中では、逃げ出したモルモットを捕獲するための騒ぎが起こっているようだ。
手伝いに行くのはやぶさかでないが、ここで下手にドアを開けて、モルモットがそこから逃げ出したら・・・!

稲垣医師に何を言われるか解ったものじゃない。

由紀夫は静かに診察室の前を離れ、受付を何気なくながめ、そこに封筒とメモがあるのを見つけた。
『腰越人材派遣センター、早坂様』
そう書かれたメモには、神奈川県の住所と、女性の名前。
「この封筒を、この人に届けろってこと?・・・なんだろうなぁ・・・」
そして住所をみてうんざりする。
・・・・・・湯河原って・・・。

「それでは、お預かりしまぁー・・・す」
小さな声で挨拶して、モルモット騒動から離れようとする由紀夫の横っ腹に、乱暴に開いたドアから勢いよくつっこんできた子供がヒット。
「いって!」
「あっ!ごめんなさいっ!先生!俺今、小犬の足自転車でひいちゃって!せんせーっ!」

ばーん!

開けられたドアから、ダッシュしてくる巻毛モルモット。
「ドアしめてー!」
の声にはなんとか間に合い、待合室を走り回るモルモットを由紀夫も慌てて捕まえに走る。
「あ!お兄さん!こっちはいいから、それ!届けて!」
「え!?あ、でも、ほらこっち・・・!ってぇーーっ!!」
「だから言ったのにぃ!ミミちゃんは、狂暴モルモットなんだから!」
「先生、そんなぁ!ミミちゃんは嫁入り前なんですよぉ!」
「オスだっつってんでしょー!」

一体、巻毛モルモットのミミちゃんは何をしたんだ・・・。
そんな騒ぎから逃れ、由紀夫はもう一度渡された住所を眺める。
「田舎だなー・・・」
ポツリと呟いた。

しかし、田舎であろうと、遠かろうと、届け屋早坂由紀夫には関係ない。預けられた荷物は必ず届ける。
それが由紀夫の仕事だった。

仕事だったが、電車とバスを乗り継いでいくのは、あんまりカッコよくないかも・・・。とも思った。

そうして到着したのは、バス停を降りてから、20分ほど歩いたところにある一軒家。
山の中によく似合う、平屋の日本建築だった。
低い生け垣の中は、綺麗に整えられた庭がある。呼び鈴などはなさそうなので、庭に足を踏み入れたところ。
「うわっ!」
いきなり登場したドーベルマンに威嚇された。
「違う違う!泥棒じゃないから!」
両手を挙げ、そして右手では、預かってきた封筒をひらひらさせながら由紀夫は声をあげる。
「あのー!この子の飼い主さん、いませんかーっ!」
「はい?」
からから、と懐かしい音をさせながら目の前の引き戸が開き、なかから初老のおば様が登場された。
「あら。ごめんなさいね、これ、ダメよ、チビちゃん」
『チビちゃん!このドーベルマンがチビちゃんてか!』
しかし本当にチビちゃんらしく、そう呼ばれた大きなドーベルマンは、さっと飼い主の女性の元に近寄った。
「うちに何か?」
まぁるい雰囲気の優しい声で問い掛けられ、両手を挙げたままだった由紀夫は、そうだ、と封筒を差し出す。
「福田寿美子さんですか?」
「えぇそうです」
「稲垣アニマルクリニックから、届けものです」

白い封筒は、福田寿美子の手の中に渡った。
日本版サンタクロースのような、リンゴのほっぺをした彼女は、何かしら!と目をキラキラさせながら封筒を開ける。
「まぁ!」
「え?」
たかだか封筒一枚の分際で、自分を湯河原にまで来させたものの正体が知りたくて、由紀夫はそれを覗き込む。
「可愛い!」
「可愛い?」
福田寿美子が持っているのは、ごく小さなもの。そう、まるで、小さなスケジュールシールくらいの・・・・・・・・

「ってシール!?」
「ほら、ご覧になって!可愛いでしょう?うちのチビちゃんのシール!」
それは無表情なドーベルマン、チビちゃんのシールだった。1cm角に満たないほどのシールが一枚。
「先生ったら、チビちゃんのシールも作ってくださってたのね!」
ウキウキと少女のように喜びながら、一度うちに入った福田寿美子は、カードを手に戻ってくる。
「診察券に貼るシールなんですよ。これね、20枚たまったら、健康診断が無料で受けられるんです」
福田チビちゃんの診察券には、すでに19枚の、さまざまな犬のシールが貼られていた。20枚目が、本犬、福田チビちゃんシール。
「チビちゃん、よかったわねぇ、また稲垣先生や草g先生に会えますよぉ?」

果たして動物は、動物病院の先生に会いたいものなのだろうか?

 

「あ!お兄さん!」
稲垣アニマルクリニックに由紀夫が顔を出したのは、7時を回ろうかという時間だった。
あの後、福田寿美子、チビファミリーに歓待されまくり、あやうく天然温泉にまで入れられるところを逃げてきている。
「ちょっと見てよこれ!どぉ思う?」
稲垣医師は、草g助手に手当てをしてもらっているところ。
「先生、動かないでください」
「だって、見てよこれ!穴開いてるよ、穴!」
ただし、手は傷だらけになっていて、血もにじんでいるが、人様から手当てしてもらわなきゃいけないほどではなさそうだが。
「穴があいてんのは、稲垣先生の脳なんじゃあ?」
「何で?」
「なんでシール1枚のために、人を湯河原までやるよ!」
「えっ!?」
草g助手が驚いた。
「だって、昨日福田さんにシール渡すの忘れたんだからしょうがないじゃないか。自信作だったのに!」
「あのチビちゃんシール!」
「だから、そんなもん、郵送すりゃあよかったんだよ!80円ですむだろうが!」
早坂由紀夫の仕事代は、その能力、プライドに合わせたように高い。
「そうですよ!僕が出しておきましたのに!」
「でも手紙は大変なんだよ!住所書いて、手紙書いて、切手貼って、糊付けして、ポストまで出しに行かなきゃいけないじゃないか!それに今日中につかない!急いでたんだ!」
「何で!」
「だから自信作なんだって。見て欲しいだろ?」

頭いたーい。

由紀夫と草g助手は頭を抱えた。

「とりあえず、こちら請求書です」
一瞬早く立ち直った由紀夫は、草g助手に請求書を渡す。
「お友達割引で安くしてね、お兄さん」
手がいたーい、手がいたーい、と両手をひらひらさせている稲垣医師に言われ、「友達じゃないから割引いたしません」と答えた。

「猫、大丈夫だったんですか?」
「えぇ。元気な子猫ちゃんたちが、8匹も!」
「小犬も」
「大丈夫でした。骨にも異常なかったし」

「いたーーーい!!!」

玄関先で世間話をしていると、診察室から稲垣医師の怒鳴り声がしたため、それじゃあ、と草g助手は頭を下げて診察室に戻る。
由紀夫は稲垣アニマルクリニックを出て、自転車にまたがった。
診察20回で、健康診断無料って・・ってことは、ひょっとしてうちのしーちゃんもあんな鳥シール満載の診察券を持ってるってことだろうか??

正広に見せてもらおうと思った由紀夫だった。

「そーいや、ミミちゃんは、どうしたんだ?」


ミミちゃん、どうしたんだろう。ミミちゃんはでも狂暴なんだね。うちの拓哉さんとどっちが狂暴(笑)?ドーベルマンのチビちゃんは、ステラ桃様のネタです(笑)でも小犬のドーベルマンは、やっぱり可愛い。ドーベルマンでも小犬は十分に可愛い(笑)

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!