天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編55話前編『338838を届ける』

『腰越人材派遣センターーにおける福利厚生』
さまざまなサークル活動を通じ、仲間同士の連帯感を深めています。入社したあなたが中心になって、新しいサークルを企画してみては?きっと、仕事だけでは解らない、仲間たちの素敵な一面がもっと見えてくるはず!(腰越人材派遣センター、リクルート資料より)

yukio
 

『年末ジャンボぉっ、宝くじっ♪』

「もう発売かぁ・・・」
腰越人材派遣センターには、様々な合法・非合法(?)組織があったが、それなりの人数を要するのが「宝くじ愛好会」だった。
「あ、この日曜日だ!買いにいかなきゃー!」
テレビのCMを見て明るい声をあげた典子は宝くじ愛好会のマスコットガールであり、
「どこ行きましょうかぁ」
と尋ねた正広はマスコットボーイ兼会計。
「ひろちゃん!それより金策に走らないと!」
険しい顔で立ち上がった野長瀬が会長に決まっている。

「にーいちゃんっ!」
一仕事して帰ってきた由紀夫に正広が飛びついた。
「なっ、なんだっ?」
「おっかえりなさいっ!寒かったでしょぉ?」
ほらこんなにつめたーい!とコートの袖をつかんだまま正広が言う。
しかし、言われている由紀夫は、実際のところ、そんなに寒くはなかった。カシミアのコートにカシミアのマフラーをして、カーフスキンの手袋をしてれば、大して寒くはなかったりする。
「由紀夫さん、お疲れ様ですぅ〜、ウィンナコーーヒーなんていれてみましたぁ!」
「えっ?」
「ささ、あったかいところへどうぞっ!」
正広にコート、マフラーを引き剥がされ、手袋をぐずぐずと外しながら、由紀夫は奥のソファに向かう。エアコン直撃の場所だった。
「なんだよおまえら」
ソファに座って野長瀬を睨みあげると、野長瀬は満面の笑顔をわずかにひきつらせる。
「何って!疲れて帰ってきた由紀夫さんをねぎらってるじゃあありませんかぁ〜!」
「そうですよっ!はい、おコーヒー。何か召し上がりたいものございますぅ〜?」

『年末ジャンボぉっ、宝くじっ♪』

そのタイミングでテレビはそう言った。
「・・・宝くじか」
「今度こそ!今度こそ当たりますって!」
「そうだよ兄ちゃん!あたるよ!大丈夫!」
「3億あてましょうよ!由紀夫さん!」

由紀夫はサマージャンボの時にもこの3人に詰め寄られ、正広の嘘泣きに3000円巻き上げられたあげくに、300円しか戻ってこなかった過去を持つ。
「当たらねぇって!聞いたことねぇだろ?当たったヤツの話!」
「あるある!あのね、あたしの友達の会社の、支店にいるんだって!でも、まだ仕事してるって・・・」
「え!?それじゃあ3億じゃないんじゃあ・・・」
「ちょっと前の話だしねぇー」
そんな宝くじ愛好会の情報交換を眺めながらウィンナコーヒーをすする由紀夫は、バックから写真だの、資料だのを出して、片づけ始める。
「あ、兄ちゃん、そんなの俺するから」
「してもらっても宝くじはかわねーぞ」
「えー!なぁんでぇぇーーーっ!!」
耳の側での大声に、キーン!!と耳鳴りを覚えながら由紀夫は首を振る。
「だってあたらねぇじゃん!」
「あのねぇ、買わなかったら100%当たらないの!まずは買わなきゃ!」
「そうですよ、由紀夫ちゃん。まず、勇気を出して最初の一歩を踏み出す!すべてはそこから始まるんですから!」

「うるっさいわよっ!」

「あ、奈緒美さんっ!」
「社長!おかえりなさいませ!」
「社長!ただいま、ティーロワイヤルのご用意をっ!」

小金持ち由紀夫に取り付いていた3匹は、大スポンサー様に飛び移った。
「寒かったでしょぉ〜?今日、なんか、雪でも降りそうですよねー」
と由紀夫と同じパターンで話しかける正広だが、毛皮のコートを着てベンツに乗っている奈緒美が寒い訳がない。
「雪はでも、ほんとに降るかもね」
奈緒美は外を見ながら答えた。どんよりと、重たい雲がたれこめている。
「おまたせしましたっ!ティーロワイヤルですっ!」
「ありがと。えーと、電話とかは・・・」
「はいっ!こちらにメモで!」
「あぁ、これね・・・。・・・・・・・・何してんの?」

奈緒美は自分のデスクを取り巻いてる3人を見上げて不審気な顔になる。
マスコットボーイ、マスコットガールらは、真ん中にいる会長の顔をじっと見詰めた。
「あのですね、社長」

『年末ジャンボぉっ、宝くじっ♪』

この時期、一体何度かかってるか解らないCMがまたまた流れた。

「宝くじなんて買わないってゆってるでしょー!!」
「だって社長!何いってんですか!夢を買いましょうよ!夢を!」
「夢なんかいらないの!どーして、3000円が300円になるのを我慢できるのよ!あんたたちはっ!」
奈緒美も前回宝くじ愛好会発足記念として3000円を巻き上げられ、300円しか戻ってこなかった。当然、はらわた煮えくり返る思いをしたのだ。
「1度じゃ無理なんですって!1度目、2度目はご挨拶!宝くじの神様に、新参者ですが、どうかこれからよろしくね!というご挨拶なんですよ!人と人のお付合いってそうやって段階をおって、親しくなっていくものでしょう?宝くじとのお付合いも、そのように長い時間をかけ、じっくり腰を据えてあたらないと!」
「据えたくないわねっ!」
「も、しゃちょぉー!!」

といったところで、電話がなった。

「はいっ、腰越人材派遣センターですっ」
怒り狂っていても、電話での奈緒美は別人の声で喋る。
「はい、あらっ、先生?いやだ、お久しぶりじゃあございません?えぇ。あら、ほほ、えぇ、そうですの。まぁ、本当に?いやだわぁ〜」
満面の笑顔でにこやかに喋りつづける奈緒美から、宝くじ愛好会の面々は離れていく。電話は長そうだった。
ここは、小金持ち由紀夫に再度プッシュを・・・・
「だから、買わないってゆってんのに」
しようとする間もなくブロックされた。
「イタリアのブロックみたいね・・・!」
「お!典子ちゃんも見てるのか!ワールドカップバレー!」
「ううん。適当にゆってみただけ」
できれば会場まで見にに行きたいと思うほど熱中している野長瀬はおいていかれる。
「野長瀬さん・・・!」
その野長瀬の肩を正広が叩いた。
「3億当たれば、本場でみられますよ・・・!」
バレーの本場がどこかは知らない正広だったが、本場でみられるはず!と確信していた。

「えぇ。・・・はい。338838?はい。この番号で?えぇ。そりゃあもう、先生のためですもの。もちろんですわ!えぇ、今日中に、はい、承知いたしました。ごめんください」

にこやかに、丁寧に、見えない相手にお辞儀までした奈緒美は、そっと静かに受話器を下ろし。
「バッカじゃないのぉっっ!?」
吠えた。
吠えた!吠えた!と正広らが騒ぐ間にも、ちょっと口にするのははばかられるような悪口を並べ立て、まだ熱いカフェロワイヤルを一気に煽って、あちぃー!!と怒りの炎に油を自ら注いだ。
「奈緒美・・・?」
「腹が立つぅーーー!!ほんと!ほんっとに政治家ってバカばっかりね!」
「今の政治家?」
「そうよっ。あーもー、なんて言うのかなぁ、仕事はいいけど、もうちょっとマシなことに頭使って欲しいわよねぇ!ちょっと!ほらそこの!宝くじ3人組!」
「宝くじ愛好会ですよぉ、社長〜」
「なんだっていいからきなさいっ!」
厳しく呼び付けられ宝くじ愛好会一同がデスクの前に並ぶ。
「この番号の宝くじ、買ってきて」
「え?この番号って、これですか?」
「338838・・・」
正広が呟くと、由紀夫の眉間に皺が寄る。
「何この番号。いかにも当たらなさそうな嘘くさい番号じゃない?」
「そうですよね。3と8しかないなんて・・・。あ!ひょっとして政治家だから、当たりくじの番号知ってるんですか!?」
「俺それみたことある!富くじの番号は、最初っから決められてるんだよ!」
「・・・正広、それは時代劇だから・・・」
「あのねぇ、そんな確実にお金が入る話だったら、あたしだって一口噛むに決まってるでしょう?」
呆れ果てた顔で、奈緒美は椅子にふんぞりかえる。
「占いですってぇ〜」
「占い?」
「風水と、なんかと?星座占いとかって言ってたけど、それを組み合わせると、338838がいい数字だったらしいわよぉ?」
「ホントかなぁ・・・」
「それでしかも、今日買うのがいいらしいのね。だから、あんたたち買ってきて」
「うわー、信憑性ありそうじゃないです?会長!」
「そうか!それを探せばいいんだ!」
「待てって!それおまえらのもんにしていい訳じゃないんだろ?」
「そうよー。あったらあっただけ出すの」
「「「えぇ〜」」」
「『えぇ〜』じゃないっ!」

でも、それが当たるんだったら、自分たちも欲しいよぅ〜とぶちぶち言う宝くじ愛好会の一同に、奈緒美は行った。
「ほら、お駄賃に3000円あげるから、さっさと行きなさい。あんたたち、知ってんでしょ?宝くじ売り場!」
「もちろんですよ!ね、会長!」
「そうなんです社長。あのですね、都内の当たるじ売り場マップというのを独自に作成しまして、これがですね」
「いいからそれもってさっさと行く!」
つい先日完成したばかりの「都内当たる売り場マップ(A3カラー)」を取り出すまでもなく、さっさと行けと社長のデスクから追っ払われる。

「寒いのにぃ〜」
典子は、気合一発の女なので、タイツにミニスカートだ。コートだってロングとはいえ、ごく普通のウール。
でも、野長瀬のぺらっぺらなライナーもついてないコートよりはましだろう。
もちろん正広は、もこもことあったかいダッフルコートで、素材は兄とおそろいのカシミヤだから、大して寒くない。
「兄ちゃんは?」
「え?俺?」
すっかりくつろぎ体勢だった由紀夫は、なんのこと!?という風な顔をする。
「人手がいるんだったら、連れていってもいいわよぉ〜」
「えっ!?マジでっ?」
「あ、後、社長・・・。あの、資金の方は・・・」
「領収書もらってきて!」

ちっ!心で舌打ちする宝くじ愛好会一同であった。

「それじゃ、行きましょうか」
「俺もぉ?」
「そうだよぉ。いこ、兄ちゃん」
正広に腕をひっぱられしぶしぶ立ち上がった由紀夫と、宝くじ愛好会一同は、絶対当たる(らしい)「338838」を求めて、寒い師走の街へと足を踏み出した。

<つづく>


年末ジャンボ!しかし、年末ジャンボとか、サマージャンボより、ミニロトとか、ナンバーズの方が、よっぽどいいらしいよ(笑)両方やってる子の実感によると(笑)私もそう思うな。思うけど、会社でずっと買ってるから、買いつづけてしまうんだ。だって、自分がお金出してない時に当たったらと思ったら・・・!今年も買います・・・!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!