天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編55話後編『338838を届ける』

『前回のあらすじ』
腰越人材派遣センターに、年末ジャンボの338838番が欲しいという依頼がやってきた。腰越人材派遣センター、宝くじ愛好会一同は、その番号をみつけることができるのか!?」

yukio
 

「なんだこれは」
「さすがねー・・・」
呆然とする由紀夫の後ろで、典子はしみじみとうなずいた。
「でもね、兄ちゃん、ここ、日本一の人気売り場があるんだって」
とある駅前には、長蛇の列ができていた。
「これに並ぶ訳?」
「いや、なにせ日本一当選本数が多い売り場ですからね!やっぱりここでしょう!」
野長瀬はわくわくしている様子だが、由紀夫は、『当選本数が多い=販売数が多い』だけなんじゃあ・・・?と思う。
「でも、やっぱり宝くじ買うんなら、ここがまず基本だよぅ」
正広はわくわくと列を眺める。
「兄ちゃん、並ぼう?」
由紀夫はその行列に、軽いめまいを覚えながらも、弟に腕を引っ張られついていった。

「こんな人並んでて、番号指名買いなんてやってもいい訳?」
意外に(?)良識派の由紀夫が宝くじ愛好会の面々に尋ねる。
「えっ!」
「兄ちゃん!」
「何言ってんですよ!由紀夫ちゃん!」
そして、『地球は、ほんとは、神様が創ったものなのよね』と言ったかのようなリアクションをされた。
「指名しますよ!ここまで来て、この列に黙って並んでるような人たちですよ?これは!と思う番号があったら、それを指名するに決まってるじゃないですか!」
「そーなのか?」
野長瀬の勢いにたじろぎながら正広に聞くと、重々しくうなずかれた。
「色々あるんだよ、ジンクスとかさ、星の回りとかさ、風水とか、直感とか」
それをイチイチさがさせられる、宝くじ売り場のおばちゃんたちに、深い同情を覚える由紀夫だった。

ところで行列には、なんだか非日常に入りこんでしまったような、妙な楽しさがあるものらしい。
「ねぇねぇ、なんか買ってきません?」
言い出したのは典子だった。
「あ!俺買ってきまーす!何がいいですか?」
「え、ダメだよ!こーゆーのはゲームで決めないと。えーっとね、えーっとねぇ・・・、じゃあ、古今東西!『腰越人材派遣センターのここがダメダメ』!はい!由紀夫さんからっ!時計回りよっ?」
「えっ?宝くじ愛好会なんかがあるところ!」
「えっと!えーっと、外の階段が13段なところ!」
「それホント!?ひろちゃん!」
「ホント!」
「はーい、野長瀬さん、リズム悪ぅ〜い、バツ1個。じゃあ、バツ三つで買出しね!」
「えー!だって今のは・・・!」
「野長瀬さん、次の問題考えないと」
正広からにこにこと笑われ、野長瀬が考え出したのは、『国の名前』

「・・・つまんねぇ〜・・・」
「いいじゃないですかっ!はい!千明ちゃん!」
「つまんないけどー、アメリカー」
「つまんねぇけどぉー、イギリスー」
「だんだん難しくなりますよね、フランスー」
「・・・いいんだ、いいんだ・・・、えーと。ハワイ」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

凍り付くような沈黙の時間が流れた。

「・・・古今東西って言うのわぁ。どんどんどんどん内容が複雑かつ、高度になって、スピードも上がっていくってのが醍醐味でしょう?醍醐味じゃないの?醍醐味よね!?」
「とっととなんか買ってこーい!」
負け犬のようにすごすごと、野長瀬は尻尾を丸めてコンビニに向かった。

「宝くじ3億当たって、でもそれを24時間で使わなきゃいけないの。何する?」
「えぇ〜?24時間でぇ〜っ!?」
「都内で家買ったら終わりじゃん」
「兄ちゃん、夢なぁ〜い!」
「夢ないって、3億の家つったら・・・・・・・、まぁ、そんなすごい!ってほどでもないのか・・・」
「哀しいこと言わないでくださいよぉ〜!」
「そーよねぇ〜・・・イチロー御殿が6億ですもん・・・」
しょぼん、と肩を落とした典子は、はっ!と顔を上げる。
「上原・・・!上原に投資する!えーとぉー・・・3000万くらい!そして雑草が大木になって、綺麗な花を咲かせるのをみるんだわぁ〜・・・!」
「でも、24時間で使うんでしょー?お金かかることってなんだろ・・・。あ!えーっとね、飛行機のファーストクラスにのってラスベガスとかいって、でっかいリムジンとか乗って、カジノで掛けまくる!」
「・・・ひろちゃん、意外に破滅的な・・・」
野長瀬は、性根の底が小市民なため、そんなことはできない。3億あったら、2億9千950万までは堅実は蓄財にあて、残り50万でぱっと遊ぶタイプだ。
「兄ちゃんは?」
「だから、家」
「ゆぅめぇがぁなぁいぃ〜!!」

宝くじ売り場にはまことにふさわしいトークで盛り上がった40分。ようやく売り場窓口にたどり着いた。
4つの窓口に別れた4人は、ほぼ同時に尋ねる。
「338838番が欲しいんですけど!」

「・・・ねぇじゃん」
日本で一番当選枚数の多い、すなわち、日本で一番発売枚数の多い売り場では「338838」番は全滅だった。
「ありゃ?」
「ありゃじゃねぇよ!大体、ついつい宝くじのことは解らないと弱気になった俺がバカだった。地図だせ!」
宝くじ愛好会謹製「都内当たる売り場マップ(A3カラー)」を野長瀬の手からひったくる。そして、
「あーーーっ!!!」
野長瀬の悲鳴をものともせず、綺麗に4つに裂いた。
「はい、正広はここ、典子はこれ。おら!野長瀬!」
4枚に裂かれた地図にある売り場を当たれと指示を出され、典子と正広は大人しくうなずく。
野長瀬は、つらーい顔をした。
「由紀夫ちゃん・・・、これ・・・」
「おまえ、宝くじ愛好会の会長だろ?大好きな宝くじ売り場をたくさん回らせてやろうって言う、俺の温かさが解らないかなぁ」
一番多くの宝くじ売り場が載っている地図を渡されたは、野長瀬なのだった。

由紀夫はそれでも2番目に多い地図を取り、自転車で移動をはじめる。3番目が正広で、典子が一番少ないところに、ちょっと優しい由紀夫が現われていたりした。
「ひろちゃん、でも、ここと、ここ、すぐ近くだから、ここはあたしが行くわ」
「え、でも」
「大丈夫、大丈夫」
そんな風に仕事を分け合ったりして、美しい心配りも素敵だ。
「の、典子ちゃん、できればこっちも・・・」
おずおずと聞いてきた野長瀬に、典子は冷たく言い放った。
「あの売り場までいって、当宝くじ愛好会のために宝くじを買うことを思い付かなかったような、ぼぉーーーーーーーーっっ!!とした人の言うことを聞く義務はありませんね!」
「・・・野長瀬さん、どしちゃったの?」
小首を傾げて心配そうな顔をする正広は、338838について聞いている間に、ちゃっかり自分用の10枚を買ったしっかりものだった。
「あたしとひろちゃんで20枚だから、3億あたったら1億5千万ずつね!」
「ねー!」

こうして、宝くじ愛好会のメンバーと、届け屋由紀夫は、都内に散った。
聞き込み中の刑事か、荷物運搬中の宅配便のように駆け回り、宝くじ売り場を当たる。
正広の脳裏には、「太陽にほえろ」のBGMががんがんかかっていた。
昨日の夜、由紀夫を3時までビデオを見ていたのが影響しているらしい。
「犯人は必ず現場に戻ってくる・・・!やっぱり、あのチャンスセンターが怪しい!」
胸の中でぶつぶつ刑事ごっこをやりながら、楽しく売り場を回っていたのだが。

「・・・ホントにない・・・」
確かに3と8だけの番号だが、こんなにないとは思わなかった。
もしかして、この番号は欠番なんじゃあ・・・。
そう思い始めた時、正広はくん、と鼻を鳴らした。
「いい匂い・・・」
ちょっと寂れかけの商店街のようなところだったが、そこのラーメン屋から焼き餃子のいい匂いがしている。
「そーいや、おなかすいたな・・・」
ちょっとラーメンでも食べようと足を向けた正広は、いきなりその店のガラス戸にへばりついた。
中にいた店員がびっくりしているにも気づかず、正広は店の内側から貼られているポスターに釘付けになる。
「特製餃子10人前20分で食べられたら無料+宝くじ100枚・・・!」
そしてその証拠にと貼られている宝くじがあった。
それこそが、「338838」。

「特製餃子・・・」
正広は食べ盛りだ。10人前くらい食べられるだろうと思い、ちらっと店の中をうかがう。
餃子は人気らしく、多くの人が食べていた。
「1人前が8個か・・・。ちょっと大きいけど、でもあれくらいならいける・・・!」
確信を持って店に入り、特製餃子10人前!と元気に注文。
「あ!表の、挑戦します?」
「します!」
「大丈夫かなぁ〜・・・、そんなほっそいのに」
「俺、典型的な痩せの大食いですから!」
正広はにっこりと微笑み、店員は、それ以上ににっこり微笑んだ。

 

『にいじゃぁ〜・・・ん・・・』
「正広?」
こちらも空振り続きだった由紀夫は、死にそうな弟の声に驚愕する。
「どした?おまえ、今、どこ?」
『ラーメン屋ぁ〜・・・』
「ラーメン屋って、具合悪いのか?」
『悪いぃ〜・・・、野長瀬さん、連れてきてぇ〜・・・』
「野長瀬ぇ?森先生だろ!」
『あ、慎吾くんでもいいぃ〜、つーれーてーきーてぇ〜・・・!』
ぶちっ!
「えっ!?もしもし!?正広っ!?」
ラーメン屋ってそれはどこ!!

正広の担当区域に急ぎが、正広はどうしたのかもう電話に出ない。出られないほどのことが起こっているのか!と由紀夫は焦った。
森医師の居場所も確認した。ついでにインターン香取慎吾の居場所も確認したが、彼は都内に今いないらしい。
「野長瀬!?もうついた?」
『はい!ひろちゃんいました!ラーメン屋で倒れてます!』
「倒れてる!?おまえ、すぐ救急車呼んで!森先生、今病院いるからそこに・・・!」
『いえ!大丈夫えです!』
「何が!」
『急に食べ過ぎちゃっただけだそうで!』

「食べ過ぎ・・・・・・・・?」

その『特製餃子』は、確かに特製だった。
「・・・これは卑怯だろ」
手作りの皮のサイズが、まず通常のものの、1.5倍はある。その皮も分厚く、そこだけでおなかにたまる。
そして特製なだけに、焼き餃子と4個と、揚げ餃子4個がセットになっていた。かなり油っこい仕上がりが、これまた胃を直撃することになるのだ。
正広はがんばった。
20分の間に、6皿食べたのだ、それでも!
けれど、油で気持ち悪くなりあえなくリタイア。兄たちに、次代を託すことにした。
「まかせてください、ひろちゃん!俺が!俺が食べてみせますから!」
うー・・・と由紀夫の膝枕で横になった正広は、がんばれぇ〜・・・・・・・と力なく手を振る。

が。

野長瀬、10分、4皿目でリタイア。
「胃弱なんですぅぅー!!」
「死ね!おまえのツラのどこが胃弱だ!」

こうなると、由紀夫が出ていくしかない。
基本的に食欲旺盛ではあるが、この量とこの油・・・。一皿なら美味しく食べられても二皿目から以降は・・・。
出来たての餃子を食べながら、由紀夫は考える。
大食いのメカニズムはどうなってんだ。どうすることによってたくさん食べられる?
5皿目までは、なんなくクリア。時間は9分と、後半に多少の余力を残している。
砂糖水を飲んだらまだ食べられるとかいう不気味な女がいたよな。後、なんだっけ、からしだかワサビだかをつければなんでも食べれるとかって、ありゃおかしいぞ。
そんで、なんだっけな。なんかの大食い対決で・・・。
どっかの大学の、ほっそい学生が理論を打ち建ててたんだよ・・・!その理論で、並み居る大男を打ち負かして・・・
違う!あれは早食いだ!大食いじゃねぇ!
いや!これは早食いになるのか!えーとえーと、あの理屈はなんだっけー!!
確か、最後まで一定のペースを保ってだっけなー、なんだっけなぁーー!

由紀夫は脅威の記憶術で思い出そうとした。
けれど、いくらなんでもインデックスもつけず、目の前で通過させただけの情報にたどり着くには時間がかかる。
それを見たのはいつ頃で、なんの番組だったか、から始まり、脳をフル活動させる。
そうだ。ジャングルテレビで、ジャングルカジノをやってて、ってことは・・・・・

「18分!完食です!!」
「すごい!!兄ちゃんすごぉーーい!!」
「へっ?」

意識を脳に集中させ、体を切り離したのが成功だったようだ。
ロボットと化していた由紀夫の体は、食べつづけるマシンとして、まったく同じペースのまま、特製餃子10皿を難なく完食したあげく、2分の余裕まで作り出したのだった。
「脳を使うと、腹って減るよな」
「おなかすくほど頭使ったことないや」
胃を押さえながら、正広は少し苦しそうに胃を押さえた。野長瀬は、ちょっと起き上がれない状態になっていた。

 

見事手にいれられた100枚の宝くじには、例の338838もあり、宝くじ愛好会の面々は正々堂々と腰越人材派遣センターに帰ることができた。
そして奈緒美いわく「嘘の3・8、当たる訳なし!」の番号である、338838は、1枚5万で引き取られていったらしい。
300円が5万円よ!と奈緒美は大喜びしたが、そのために社員4人を半日以上動かしたと思うと、全然元は取れてないかもな、と思う宝くじ愛好会一同であった。

「一同って俺もか!?」
「だって兄ちゃん、宝くじのために、特製餃子10皿も食べたんだよ!?宝くじを愛してるとしかおもえない!」
「そうですよ。由紀夫ちゃんには、当宝くじ愛好会より、名誉会長の称号を差し上げます。どうぞお受け」
「お受け取りしないから」
「でも、その99枚の宝くじは、みんなで山分けしないと!」
「そーだよ!俺と千明ちゃんもかったから、119枚!絶対あたるって!」
「4人で分けたら・・・って、3人でいいのか」
自分で宝くじを買わなかった野長瀬は、まだいじめられている。
「発表が楽しみだね!兄ちゃん!」
119枚の宝くじを抱きしめ、幸せそうな正広だった。


119枚じゃ、当たらないよひろちゃん。うちはみんなで500枚くらい買うけど当たらないからね・・・・・・・・へっ・・・・・・・・。でも買うんだけどね(笑)

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!