天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編56話前編『Wしぃちゃんを届ける』

『稲垣アニマルクリニックのサービス』
「ペットを育てる上での様々な問題に関し、広い人脈を使い、解決のお手伝いをしていきたいと思います。ペットの悩み相談は、お気軽に!」

yukio
 

その日、彼女は小さな体をさらに小さくしながら母親の後をつけていた。
小学校2年生ながら、今歩いている道は今までに何度も来ているから一人でも怖くない。
それよりも、母親から目を離さないようにしなくてはいかなかった。
「ころちゃん・・・」
その名前を呟いただけで、思わず零れそうになる涙をぐっとこらえる。生まれた頃からずっと一緒に育ってきた犬の「ころちゃん」
そのころちゃんが、どこかに連れていかれるのだ。
昨日、母親と父親がこそこそ話しているのを聞いてしまった。
引越しするから、ころちゃんは連れていけないと言っていた。
そんなこと!
彼女はがまんができない。ころちゃんは、大事な大事な家族なのに!
自分はころちゃんよりお姉さんなのだから、ころちゃんを守ってあげなくてはいけない。
ミトンをした小さな手を、ぎゅっと握り締め、黒目がちの大きな目を、じっところちゃんから離さなかった。

母親の行き先は、いつも行っている獣医だった。
そこには獣医の先生が2人いて、彼女が知っているのは、いつもニコニコと優しい笑顔の先生で、その先生は好き。でももう一人の先生は、なんだかちょっと怖かった。きっとあの先生がころちゃんを連れていくんだ。そしてあの先生のところで、ころちゃんがどんなひどい目に合わせられるかと思うと・・・・・!

またじわっと浮かんできた涙を、ミトンの手でぬぐう。
泣いてる場合ではないのだ。

 

正広は小さな鳥かごに白文鳥のしぃちゃんをいれて、稲垣アニマルクリニックへの道を歩いていた。
定期検診という名の茶飲み話の日なのだ。
『あれ・・・?』
稲垣アニマルクリニックの前に、小さな女の子がいる。
フードつきのふわふわしたコートを着て、じっと門の中をうかがっていた。
どうかしたのかな、と様子をうかがった正広は、とりあえず声をかけてみることにした。
「大丈夫?どうかしたの?」

返事はなかった。

小さな女の子は、中の様子を伺うのに必死で、外からの情報を受け取れないらしい。
正広はどうしようかなぁと思ったが、窓の大きな稲垣アニマルクリニックの中に、その子とそっくりな女性がいるのが見えた。
お母さんにくっついてきたけど、治療が怖いのかな。
まぁ、中のお母さんにいえばいいや。
そう思い、正広は稲垣アニマルクリニックのドアを開けた途端。

「あー!!正広くん!いいところに!来て来て!」
「えっ!?あ、はいっ!」
草g助手の常ならぬ慌てた声に、正広は急いで処置室に入った。しぃちゃんはジャマになってはいけないと、鳥かごごと待合室にコートとともに置いて。

「ころちゃーん!ほら、ころちゃん、お兄ちゃん来てくれましたよぉ〜!」
必死の形相で、しかしなんとか笑顔で、草g助手はがんばっていた。赤ちゃんのがらがらのようなおもちゃで気をひいているが、その犬は、全身でいやっ!と逃げようとしている。
「ころちゃーん!じっとしてー!正広くん!ちょっとこれ持ってて!」
おもちゃを託され、呆然と、しかし手だけは使って犬の前で振りながら、正広は呟いた。
「ころちゃん・・・?」
「そう、ころちゃん!あ、ころちゃーん、ほら、うん、ここでもいいんだけど、じゃあお座りしてね、お座り〜」
「この犬、ころちゃんっていうんですか・・・?」
「そう。ころちゃん!」
「俺には、セントバーナードに見えるんですが・・・」
「俺にも見えるよ。セントバーナード」

ころちゃんは、セントバーナードだった。

「定期検診で来てるんだけど、この子、治療が嫌いなんだよ、ねっ」
「あっ!ころちゃん、じっとして〜!」
できれば診察台の上に乗って欲しいところなのだが、高所恐怖症らしいころちゃんは、抱き上げられるのさえ嫌がる。
「まぁねぇ、この犬を抱き上げられる人はなかなかいないだろうからねぇ」
貴子さんのおじさんちにある、酒屋のリフトを借りてきたい気持ちでいっぱいの正広は、草g助手と一緒に、一生懸命ころちゃんを抱き上げる。
ひとしきり暴れたころちゃんは、ぐったりと疲れた様子でされるがままになっているが、それがまた重たい。
「か、飼い主の方は、どーされたんですか・・・っ?」
「なんか、深刻な話があるらしくって、稲垣先生とお話し中・・・っ!」

ころちゃんは、臆病な女の子で、自分の側に知った人がいないのが心配でしょうがないらしく、哀しそうな泣き声をあげる。
「・・・セントバーナードっていうのは、雪山で遭難した人を助ける犬じゃなかったでしたっけ」
「いや、かたつむりが好きな犬じゃなかったかな」
それはアニメの話では・・・。
しかし、たとえアニメの中のセントバーナードが首にウィスキーだかブランデーだかの樽みたいなのをつけて遭難者を救助しようと、のんびりとかたつむりを食べていようと、目の前にいるころちゃんが、ぶるぶる震えながら、体に似合わないか細い鳴き声をあげている事実に変わりはない。
正広は、草g助手の定期検診の間中、ころちゃーん、ころちゃーん、とご機嫌を取り続けた。

「はー、疲れた・・・」
「いやいや、ごめんね。ころちゃんもお疲れ様」
「ころちゃんは、どうなんですか?元気なんですか?」
「ちょっと肥満の傾向はあるけどね。これだけ大きな犬を自由に運動させてあげられるスペースって、この辺じゃあなかなかないから、難しいんだけど」
しぃちゃんとかだとその点は楽だよね、と言いながら草g助手はころちゃんを診察台から苦労しておろす。
正広は、もう大丈夫だろうと、待合室に続くドアを開けた。

「しぃちゃん、お待たせー」

しかし、しぃちゃんの可愛らしい返事はなかった。
正広のコートの側にあったはずの鳥かごは姿を消していたのだった。

「しぃちゃん?」
稲垣医師が連れてったのかな、と稲垣医師の診察室の様子を伺うが、さっきと同じ女性が話を続けているだけで、しぃちゃんがいる様子はない。
「どしたの?」
草g助手がころちゃんを連れて出てきた。
「しぃちゃんがいないんですよ。鳥かごごと」
「え?」

待合室には誰もいない。今、稲垣アニマルクリニックにいるのは、正広と草g助手、稲垣医師に、ころちゃんと、ころちゃんの飼い主である女の人だけ。
「ちょっと先生に聞いてみていいですか?」
草g助手に許可を取り、正広は診察室のドアを控えめにノックして、細くドアを開けた。
「あの〜、お話し中すみません」
「ん?何?」
「あの、しぃちゃん、知りませんか?」

「えっ!?」

その言葉に反応したのは、稲垣医師ではなく、ころちゃんの飼い主さんだった。
「しぃちゃんがどうかしたんですか!?」
「え?あ、あの、いなくなっちゃったんですけど」
「しぃちゃんが!?え、どこで!?」
「こ、ここの・・・、待合室・・・」
「しぃちゃん、ついてきちゃったんだ・・・!」

「え?」

正広がきょとんとしていると、稲垣医師が教えてくれた。
「しぃちゃんってね、こちらのお嬢さんもしぃちゃんっていうんだよ。椎名ちゃんって言うんだけど」
字はこんなで、と教えてくれて、あぁ、そうですか、椎名ちゃんで、しぃちゃん、とほのぼの団欒しそうになる。
「じゃなくって!そっちのしぃちゃんじゃなくって、こっちのしぃちゃんが!先にこっちに入ったのかと思ったんですけど・・・」
けれどやっぱり診察室の中に、しぃちゃんの気配はなかった。
「あれー・・・」
「誰か連れていくにしても・・・、あ!しぃちゃん!あの、すみません、ころちゃんちのしぃちゃん、だと思うんですけど、外にいましたよ。あの子がなにかみてるかも!」
正広の言葉に、お母さんが顔色を変えた。
「それはうちのしぃちゃんですか?」
「た、多分そうだと思います!お母さんにそっくりでしたし、あの、可愛いピンクのミトンして、ふわふわってしたフードのついたコート着てました。白いヤツ」
「あぁ、しぃちゃんだわ!外に?」
「はい!」

2人は急いで稲垣アニマルクリニックを飛び出したが、人間しぃちゃんも、文鳥しぃちゃんも姿はなかった。
「しぃちゃん・・・?」
2人の声は、寒さだけではない震えで掠れる。
「どこいっちゃったんだ・・・?」
かごに入れられた文鳥と、まだ小学2年の女の子。

師走の街は小さな2人を飲み込み、なお賑やかであった。

つづく


このくそ寒いのに、どうなるんだ!人間しぃちゃん&文鳥しぃちゃん!書いてて、文鳥って寒さには強いのかどうか解らなくなった!温度管理がポイントかもしれない!がんばれ!がんばれWしぃちゃん!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!