天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編56話後編『Wしぃちゃんを届ける』

『稲垣アニマルクリニックのサービス』
「ペットを育てる上での様々な問題に関し、広い人脈を使い、解決のお手伝いをしていきたいと思います。ペットの悩み相談は、お気軽に!」

yukio
 

しいちゃん行方不明!

「ど、どこに・・・!」
「しぃちゃんっ?」
しぃちゃんのお母さんは、自宅に電話をいれたがすぐに留守番電話に変わってしまったようだ。
「しぃちゃん、一人で出かけたりしないのに・・・」
「正広くん、間違いないの?」
「あの、似てます。お母さんと」
「あぁ、椎名ちゃんだね」
稲垣医師が何度かうなずく。
「とりあえず、一度帰ってみたらいかがでしょう。その途中で見つかるかもしれませんし」
「あぁ、あぁ・・・、そう・・・。そうね」
おろおろとコートに手を通したしぃちゃんのママは、綺麗に前後ろ反対に着ていた。
「あら」
「神父さんコント?」
稲垣医師に言われ、ホホホっ、とコートを着なおすしぃちゃんのママは慌てんぼさんだった。
「と、ともかく、私、うちにっ」
「あ、ご一緒します!」
とりあえず人間しぃちゃんが見つかれば、文鳥しぃちゃんの手がかりもあるに違いない。正広もコートを着てドアをあけたしぃちゃんママの後を追う。
「田口さん!」
稲垣医師が声をかける。しぃちゃんママは涙ながらに振り向いた。
「大丈夫です!しぃちゃんは!しぃちゃんは私の手で!」
「バック忘れてます。治療代忘れてます。ころちゃん忘れてます」

稲垣医師に容赦はなかった。

バッグを左手に、ころちゃんを右手に、しぃちゃんママは足早に歩いており、正広もその横を足早に進む。
「おうちまでは遠いんですか?」
「子供の足だと・・・。今日は寒かったし、あんまり体調もよくなかったから留守番させてたんです。どうしてついてきちゃったのかしら・・・!」
心配そうに一心不乱に歩いていたしぃちゃんママがぴたっ!と止まった。
「あ!いました!?」
「・・・行きすぎちゃった」

しぃちゃんママは、典型的なおっちょこちょいだった。

しかしいくらなんでも帰り道を間違えたのはその1回だけで、その後はすんなり家まで帰ってこれたのだが。
家の中はもぬけの空だった。
「しぃちゃん!」
家の中を走り回ったしぃちゃんママは、誘拐・・・!?と座り込んでしまう。
「お、お母さんっ」
「だって、だってっ、しぃちゃんってば、私に似て可愛らしいしっ!今日着てたコートなんて、可愛さ5割増しなのにっ!」
「確かに可愛かったです・・・」
「でしょお!?あぁ、しぃちゃん!」
どうしようかしら、とりあえずお父さんにって、お父さんの携帯の番号どこに書いたかしら。それとも警察っ?
あわあわと、立ったり座ったりを繰り返すしぃちゃんママを正広が止める。
「単なる迷子かも知れないじゃないですか!」
お母さんがお母さんだし、とは言わない。
「あの、あのっ!ころちゃんはダメなんですかっ?」
「ころちゃん?」
「しぃちゃんの匂いを追ったりとか・・・」

二人はじっところちゃんを見た。家の中に入ってきたころちゃんは、大きな体をソファに預けて、仰向けに寝ていた。

緊迫感0以下。

「ころちゃんに、ですか・・・?」
「む、無理です、かねぇ・・・」
けふんっ、ところちゃんはくしゃみをして、おもむろに寝返りを打った。
「で、でもっ、仲良しなんじゃないですかっ?」
「もちろんです!しぃちゃんは、おねえちゃんみたいにころちゃんのことを・・・!」
「やってみましょうよ!お母さん!」
「そ、そうですよねっ!」
すぐに寝ようとするころちゃんを起こして、お母さんはしぃちゃんの服を取ってくる。
「ころちゃん!ころちゃん、起きて!ほら!しぃちゃんの匂い!覚えてちょうだい!」
ころちゃんは、面倒くさそうに座りなおして、くん、としぃちゃんの匂いをかいだ。そしてすっくと立ちあがり、迷いのない足取りで歩きはじめる。
「えっ!」
「すごい!ころちゃん、わかってますよ!」

「・・・そりゃ解るわよね・・・」
「ころちゃん・・・」
ころちゃんは、しぃちゃんの可愛らしいベッドにあがってお昼ねの続きをはじめていた。
「きぃー!!ころちゃん!起きなさいっ!」
「そうですよ!外からはじめなきゃ!外からっ!」

いやがるころちゃんを外に引っ張り出し、再びしぃちゃんの服の匂いをかがせ、二人はころちゃんの跡を追った。

「・・・おかあさん・・・」
「ころちゃんはやってるわ・・・!」
「やってますよね!もちろんやってます!やってますけど!」
「いくら稲垣アニマルクリニックまでの道をたどってるにすぎなくても、やってるのよ!だってここまでは来てたんだもの!」
「そ・・・そうですよね!」
「そうよ!!しぃちゃんは、稲垣アニマルクリニックから先に行ったんだわ!」
「なるほど!」
それは大変!どうしてもさっき来た道を戻ってるようにしかみえないころちゃんの跡を、気持ちを改めて正広はついて歩いた。

しかし、稲垣アニマルクリニックの前まで来たところで、ころちゃんの足はぴたりと止まってしまう。
「ころちゃん・・・?」
しぃちゃんのママに言われても、ころちゃんは、うっそりとあたりをうかがっただけで座り込んでしまう。
その場所は、正広が見たしぃちゃんがいた場所と寸分変わらなかった。
「・・・ってことは・・・、ここから、車か何かで・・・」
「いやだ!やっぱり誘拐!?いやー!しぃちゃーん!!」

「正広?」

呼びかけられ振り向いたところに自転車に乗った兄がいた。
「兄ちゃん・・・!」
思わず泣きそうだった。
「兄ちゃん!しぃちゃんが!」
ひしっ!としがみつこうとして走り出した正広は、荷台に座っている小さな体に気がつく。
「しぃちゃん!?」(←文鳥の)
「えっ!しぃちゃん!?」(←人間の)
「え!?やっぱりこいつしぃちゃんか!?」(←文鳥の)

「こないでぇっ!!」

高い、女の子の声に駆け寄ろうとした正広としぃちゃんママの足が止まる。由紀夫も慌てて振り向いた。
「来ちゃだめっ」
「しぃちゃん!どうしたの!お兄ちゃんの文鳥なのよ、返してちょうだい!」
「だめ!」
「だめって、しぃちゃん!」
「だめ!この子を返してほしかったら、ころちゃんとひきかえよっ!」

「・・・ころちゃん?」

ねむたーいと人間しぃちゃんが立っていた場所で転がっているころちゃんを正広は見た。人間しぃちゃんは、ぎゅっと鳥かごを抱えて母親を睨んでいる。
「お兄ちゃんの、鳥だったのね・・・!あたしをだましたのっ?」
「だましたってゆーか・・・」

別にだました訳ではなかった。
偶然仕事の帰りに稲垣アニマルクリニックを通りかかった由紀夫は、あからさまに怪しい雰囲気の女の子を見つけたのだ。
背中をぴったりと塀につけ、コートの中に小さな鳥かごを抱えてじっとしている。
「どうした?」
場所が場所だけに鳥が死んだのかと声をかけたが、鳥かごの中の文鳥はとても元気そうであり、どうも自分のうちの文鳥のようにも見える。
ここがまだ一匹の文鳥しか飼ったことのない悲しさで、由紀夫には外見だけで文鳥の見分けをつけることができなかった。
鳥かごは確かにうちにあるものだが、それもペットショップで買ったばかりのもので、個性的な傷や汚れはまだできていない。
「その鳥、君の?」
返事はない。
「迷子?それとも、この病院に来たの?」
「・・・乗せて・・・?」
ぽつんと言われる。
「え?どこか行きたいの?」
こくん、とうなずいた子を由紀夫は荷台に乗せてあげた。
あんまりしょんぼりしているから、どこかしばらく走れば気分転換もできるだろうと思って。

「名前はなんて言うの?」
「しぃちゃん」
「え?」
「しぃちゃん・・・。お兄ちゃんは?」
「俺は由紀夫」
自転車の前と後ろで、会話はぽつぽつと続く。
「由紀夫お兄ちゃん、ペット飼ってる・・・?」
「・・・うん」
「何?犬?」
「えーと。鳥」
「鳥かぁ・・・。鳥だったら、いいよね・・・」
片手で由紀夫のコートをつかんでいるしぃちゃんは、もう片方の手でコートの中の鳥かごを大事そうに持っている。
「その鳥、しぃちゃんのじゃないの?」
「うん・・・これは・・・、人質・・・」
小さくつぶやいた最後の言葉は由紀夫には聞こえなかった。

「なんで鳥ならいいの?」
「だって鳥なら、どこでも飼えるじゃない」
「あぁ、まぁマンションでも飼えるか」
「犬は、ダメなんだよ・・・」
「でも、ペット大丈夫なマンションもあるだろ」
「ダメなんだよ!大きな犬はダメなんだもん!連れてけないってママ言ったもん!」

 

「そんなこと言ってないわよっ!」
しぃちゃんがそう言ったと聞き、しぃちゃんのママは驚いた声をあげる。
由紀夫はとりあえず近所を一周して戻ってきたところだった。
「うそ!ママ、ころちゃん、連れてけないって言ったもん!でもダメだからね!そうじゃなかったらしぃちゃんこの鳥連れていくんだから!」
「えっ!しぃちゃん待って!しぃちゃんは、あ、えっとその文鳥もしぃちゃんって言うんだけど、うちの鳥だから・・・!」
「しぃちゃんって言うの?」
「そうなんだよ、しぃちゃんって言うんだ」
「しぃちゃん・・・」
ぎゅっと鳥かごを抱きしめて、しぃちゃんは悲しそうな声で言う。
「しぃちゃん・・・、二人でどっかに行こうね・・・」
「しぃちゃん!何言ってるの!ころちゃんここにいるじゃない!」
「どっかって、おまえどこに行くつもり・・・」
「ママがころちゃんをどこにも行かせないって約束してくれなきゃ、帰りません!しぃちゃんとあたしは家出します!さよなら、ママ!由紀夫お兄ちゃん、行ってちょうだい!」
「まてって!おまえ、訳わかんないぞ!?」

「話は聞かせてもらったよ!!」

稲垣アニマルクリニックの周囲には、150cmほどの塀が巡らされている。その塀の上に稲垣医師がよじ登り、もめている4人と2匹を見下ろしていた。

「・・・何やってんの・・・」
「うわっ!あぶなっ!!剛!ちゃんと押さえてろよ!」
「あっ、すみません、すみませんっ」
足元は草なぎ助手が押さえているらしく、よじよじと塀を降りて、外に回ってきた。
そしておもむろにもう一度。

「話は聞かせてもらったよ!!」

「稲垣先生・・・」
「すいません、すいません・・・っ!」
人差し指でぴしぃ!と指差され、呆然とする一同に、草なぎ助手がぺこぺこ謝る。
「しぃちゃん!」(←人間)
よく知らない稲垣医師に呼びかけられ、しぃちゃんはびくっ!とする。
「お母さんは、しぃちゃんをしばらく預かってくれる人を探して欲しいって言っただけだよ?」
「え・・・?」
「そうなのよ、しぃちゃん。急に転勤が決まって、そうすると時間がないからまずは社宅に入るしかないの。でも、すぐにころちゃんも一緒に住める部屋を探すから、それまで預かってくれる人はいないかって先生に相談にきただけなの!」
「・・・ほんとに・・・?」
「ほんとよ!」

へくしょ!

人間らしいくしゃみは、アルプスの救助犬じゃねぇのか!?というころちゃんの口からだった。
「・・・まぁ、ここでコントやってるのもなんですから、お入りください」
草なぎ助手のもっともなご意見に、一同おとなしく従った。

「こんな大きな犬、預かってくれるとこあるのか?」
由紀夫が稲垣医師に聞く。
「あるよ、心当たり。まず大丈夫だと思うけどね」

「へくちっ!」
「あれ?森先生、風邪ですか?」
「うん、なんか・・・、寒気がする・・・」

「それがダメなら、もう一人ね」

「へっくしょいっ!!」
「そーゆー慎吾も風邪?」
「今、突然ひどい悪寒が!!あっ!頭痛まで!」

稲垣医師の意思は、何ものよりも優先されるようだ。

「ママ、ねぇ、ほんとに?ほんとにころちゃん、誰にもあげない?」
「あげないわよ!こんなに可愛いのに!」
ようやくしぃちゃんがいるってことに気がついて、じゃれついてくるころちゃんを抱きとめているしぃちゃんは、まだ片手に鳥かごを持っていた。
「ころちゃん・・・」
そして手の中の文鳥しぃちゃんを見る。
しぃちゃは、連れ去られたにもかかわらず、ずっと大人しくしていた。そして今も可愛い声で鳴いてみたりする。

「ごめんなさい・・・」
しぃちゃんは、鳥かごを正広に返す。
「ごめんなさいでした・・・」
「しぃちゃん・・・」
自分の元にようやく帰ってきたしぃちゃんの鳥かごを抱いて、正広はにっこり笑った。
「よかった。しぃちゃんも、鳥のしぃちゃんも無事で」

その後、しぃちゃんのパパから連絡が入った。転勤先にペットOKのマンションが見つかったので、ころちゃんもそのまま連れていけるという嬉しい知らせだった。
そうでなければ、おそらく100%ころちゃんを押し付けられることになっていただろう、森医師、インターン慎吾のためにも幸いなことだった。

「お兄ちゃん、ほんとにごめんなさい」
「うん、いいよ。ちゃんと無事だったんだから。しぃちゃん、ころちゃんと仲良くね」
バイバイと、しぃちゃん、ころちゃん、しぃちゃんママは帰って行った。
が。
「田口さーん!!バッグ忘れてますよー!」
「・・・届けてくるわ」
「俺もいきまーす!」

おっちょこちょいでしょ?と笑いながら、自分は自分でしぃちゃんの定期検診を忘れてしまった正広だった。


先週は熱のためお休みしちゃいました。無事に見つかってよかったよ、Wしぃちゃんって(笑)それよりも、大変大変(笑)もう由紀夫たちはアメリカに行ってるはずなのに(笑)!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!