天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編57話前編『お母さんを何度も届ける』

果たして、ロサンゼルスの大晦日って言うのはどういうものだったのか・・・。ディズニーなどでは盛り上がったのか。ユニバーサルスタジオはどうだったのか。シリコンバレーはなにもなかったという話は本当か。ともかく早坂兄弟は何をしたのか。
・・・気になる(笑)

yukio
 

「カリフォルニアの青い空・・・!」
「吐き気押さえていうセリフじゃないぞ」
1999年12月27日、早坂兄弟はLAことロサンゼルスにいた。
小金持ちの正広が兄の誕生日に贈ったのは、『正広くんと行く!ミレニアムを映画の都、ハリウッドで迎えようツアーご招待』だったのだ。(ただし正広の分は保護者である由紀夫が負担。いーみなーいじゃーん!!)
仕事納めからわくわくと成田に向かい、わくわくと飛行機に乗りこんだ正広は、由紀夫が目を離しているうちにワインをかっくらっており、そのため現在軽い二日酔い状態だった。
「うー、にーちゃーん、ぎもぢわどぅいぃ〜・・・」
「だから、酒なんか飲むなっつっただろう!」
カリフォルニアの青い空もへったくれもあるかい!由紀夫はレンタカーの後部座席に正広を横にし、空港を後にした。

「あ。あのね・・・、にいちゃ・・・」
「酔っ払いは寝てろ!」
「今日の、ホテルは・・・」
「解ってる、解ってる。添乗員さんに100万回聞きました!」
「道は・・・」
「解ってますって。いいから寝てろ!」

由紀夫には解っていた。正広の不調の原因は寝不足だ。さらに言うなら知恵熱。
前回、ハワイにいった時腰越人材派遣センター一同から山のような土産を依頼されえらい目にあった由紀夫は、正広に絶対今回のことを喋るなと堅く念を押していたのだ。
喋りたい、喋りたい!
俺は兄ちゃんとハリウッドに行くんだ!ミレニアムのカウントダウンをLAで迎えるんだ!!
それでも正広は喋らなかった。
たしかにあの土産の山は大変だったからだ。

だから、その分、正広はうちで喋り捲った。どこへいって、何をして、どうする?何食べる?
いつ止まるんだ?と由紀夫が呆然とするほど正広は喋った。
「なんかもう俺ら行くことないみてーだな」と由紀夫は思わず言ってしまい、それでどれほど正広に叱られたことか!

で、あるから、初日のホテルがどこであるか、なんてことはすっかり解っている。

そして到着したホテルは。

「・・・正広」
「う・・・?着いた・・・?」
「着いたけど、ここか?」
「シャトーマーモント、って書いてある?」
「書いてある。あるけどなんかすごくねぇ?」
緑をふんだんに使ってある静かでゴージャスなホテルだった。
まだ後部座席で横になっていた正広は眠たい目をこすりながら、すちゃっ!とガイドブックを取り出し、高らかに宣言した。
「このホテルは、マリリン・モンローが常宿にしていたというホテルでございまして、お客様!」
「いいから寝てろ」

へろへろする正広をベッドに寝かせ、飲み物はどうだだの、薬を飲むかだのバタバタしていた由紀夫は、正広が本格的に眠りについてから、ようやく部屋を見まわす余裕ができた。
そして、なぜ男兄弟でこの部屋なのか・・・。
という疑問を覚えた。
マリリン・モンローが常宿にしていた、というだけのことはある内装だった。

窓から見える風景をしばらく楽しんでいた由紀夫だったが、正広がいつまでも起きそうにないので置手紙を残して散歩にでかけることにした。
由紀夫はなにせ、英会話教材のテープを丸ごと1本覚えられるほどの記憶力をしているので、すでに英語に不安はない。

ホテルから外に出ると、サンセット・ストリップ。
高級レストランや、ホテルの多い場所らしく、まぁ、観光客には眺めるだけだな、と思いながら歩いていた由紀夫は、困ったようにきょろきょろしている日本人女性を見つけた。
自分たちの母親というよりもう少し上の年代だろうか。
色々とやばい橋を渡ってきた由紀夫には、無防備におろおろしているその女性がいかにも危なげに見えた。
「あの」
だから、つい声をかけてしまう。
「どうかされました?」
「あら!日本の方!?」
「はい。迷ったんですか?」
「そうなの!娘と来てたんだけど、娘がどこかに行っちゃって。あの子方向音痴だから心配で・・・。ねぇあなた、娘を探してくださらない?」
「えっ?」
娘を探せって、おいおい、おかーさんよ。
と思ったところで、『お母さん!!』という声がした。
「もぉ!どこ行ってたのよ!」
「千恵!あなたこそ!」
「あぁ!やっぱり!そうじゃないかと思った!」
千恵という娘は、自分の母親がその前に立っている店を見て、母親を睨んだ。
「待ち合わせは、タワーレコード!ヴァージン・メガストアじゃなくて!」
「あら?でもここもCD屋さんでしょう?」

キョトン?とした母親に対し、由紀夫はすげぇ!と感心した。
地図を覚えるのも仕事のひとつだから、LAの地図は頭に入れていたし、正広が寝ている間に、サンセットストリップの通りも一通り覚えた。
タワーレコードとヴァージンメガストアはサンセットストリップの端と端に位置し、その距離およそ2km!
その距離を母親を探して移動してきたとは!
「私はもう千恵がいなくなったと思って、こちらに探していただこうかと思ってたのよ?」
「いなくなるのはお母さんで私じゃないの!ほんとにすみません・・・」
ようやく由紀夫に気づいた千恵は、正直に顔を赤くした。
「あ、あの。母が迷惑をおかけしましてっ」
「いえ。見つかってよかったですね」
にっこり。
届け屋も長くしていると愛想もよくなるものだな、と由紀夫は思った。

「ただーい」
「おっかえりなさいっ!ねぇどこいった!?なんか買ったっ!?」
熟睡から覚めてパワー全開!の正広がまとわりついてくる。
「いや、まだ別に・・・。オレンジジュースがおいしそうだったから買ったけど」
「うわー!でかい!」
容器の大きさにしばし笑った正広は、窓の外に広がる青い空を眺め、やっぱりLAにはオレンジジュースだよね。と解ったような、解らないようなことを口走った。

その日はもう無理しないでおいて、翌日はハリウッド観光。
「お客様、こちらがかのチャイニーズシアターでございます。ごらん下さい!このスターの手形を!えーとですね、こちらの手形が発祥した由来ざますが」
「おまえ何を読んでんの?」
「いいのっ!お客様は気にしないっ!えーっと、こちらの手形が発祥した由来ざますが。ざますが?」
「ざますはおかしいだろ」
「えーと、手形が発祥した由来。・・・発祥した由来って、おかしい?」
「・・・なんかおかしい気がするぞ」
「えー・・・・。えーと・・・・・。さー、さい、最初、最初の!最初の手形は!えーと、1927年、こけらおとしのイベントで、ある女優が間違って乾いてないセメントに手をついちゃったことにあります!」
「その女優って誰?」
「えっ!?えっ、と、ええっ!?」
せっせと作ったガイドノートを必死になってめくる正広だが、そこまでは書いてはいなかった。
むぅ!と眉間にしわをよせた正広は、冗談だよと笑う兄に、真剣な顔で答えた。
「お調べしまして、後日ご連絡いたします」
「ははは!そうか!」
「えぇ!当社は、有能なガイドを取り揃えておりますから!」

当社って何?

その謎の当社でガイドをしているらしい正広は、ビバリーヒルズにも由紀夫を連れていく。
「こちらです!こちらが、かの有名なリージェント・ビバリー・ウイルシャーでございます!ビバリーヒルズコップ!プリティウーマンなど!様々な映画で使われたこのホテル!なんですか、プリティ・ウーマンが公開された時などは、泊まる客、泊まる客、シャンパンとイチゴを注文したとかしないとか!」
「あぁ、そお!あれな、あの人好きだったな、ホテルの支配人」
「あの人いいよねー!カッコいい!」

他にも、ポセイドンアドベンチャーで使われたホテルだの、ターミネータやシークレットサービスで使われたホテルだの、正広がせっせと案内する。
由紀夫はその都度、頭の中にどういうシーンが思い出されてきて、非常に面白い。
「すごいな正広」
「はっ。お客様のご満足が、当社の喜びでございますから!」

だから当社って何?

その有能ガイド正広とお客由紀夫が休憩しようと入ったのが、ビヴァリー・ヒルトン。茶ぁでもしばこーぜ、と巨大ホテルの中に入った途端、由紀夫がつかまった。
「あのぉ、ちょっと教えてくれませぇん?」
由紀夫は日本だけでなく、海外でも目立つらしい。彼を目にした途端、ガイドブックを手にしていた日本人の女の子たち3人組が近寄ってくる。
「え?」
「あたしたちぃ、ユニバーサルスタジオに行きたいんですけどぉ」
「ユニバーサルスタジオ?バスか何かで行けるんじゃなかったっけ?」
「えー!バスなんて解らないぃ〜!ねぇ、ご一緒しませんっ?」

その風景をちょっと離れたところで正広は見ていた。
やるな、兄ちゃん・・・!野長瀬さんでは、一生見られない光景だ・・・!こういうのをきっと「入れ食い」って言うんだね、兄ちゃん・・・。
兄に聞かれたらはったおされそうな事を考えながら、手近にあったソファの端に座った正広は、反対側の端に、日本人女性が座ったのに気づく。
自分たちの母親というよりもう少し上の年代だろうか。
疲れたような姿を見て、まさか一人ってことはないよねぇ、とあたりを見まわしたが、知り合いらしき姿はない。
このホテルに泊まってる人かしら、と思っていると、その女性と目があった。
「あら!日本の方!?」
「はい。どうかされたんですか?」
「そうなの!娘と泊まってるんだけど、娘がどこかに行っちゃって。あの子方向音痴だから心配で・・・。ねぇあなた、娘を探してくださらない?」
「む、娘さんですか??」
顔も知らないのに、律儀にきょろきょろした正広だが、解るはずもない。
「娘と私、似てますから、わかりませんか?」
「えーっと・・・。どんな服着てるとか、ありますか?」
「そうねぇ、今日はジャケットとパンツを・・・。あ、買ったばっかりの薄手のセーターを着てますけど」
「はぁ。買ったばかりの・・・」
それは値札でもついてりゃ目印にもなるけどさ・・・。

探してきます、とソファを立ち、その場を離れた。正広たちがいたのは、巨大なホテルのショッピング街といった感じのところで、宿泊客であればホテルのフロントとかの方がいる確率は高いんじゃないかと思ったからだった。
えーと、フロントは・・・。
壁にあった地図を見て、正確にそちらに向かおうとした正広の後ろで、「お母さん!」という声がする。
「え?」
振り向くと、そのソファに、確かにちょっとお母さんに似た娘さんがいた。
「あら、千恵!どこに行ってたの?」
「ちっがーう!お母さんがどっかに行ってたの!フロントにいてってゆったじゃない!」
「え?でも、私・・・。あ!あなた!どうもありがとう!見つかりました!」
呼びかけられ、正広はとことこと戻った。
「よかったですね」
「えぇ、ほんとに。ありがとう」
「もう、お母さん、昨日も迷子になったのに。すみません、ご迷惑おかけして・・・」
ようやく正広にお礼を言う余裕ができた千恵は、正直に笑顔になった。
「母が迷惑をおかけしまして・・・。ご家族とご旅行ですか?」
「はい。兄と」
にっこり。
ちっちゃい子が偉いね、とか思ってるんだろうな、と思いながら正広はいつもの正広スマイルを浮かべたが、その想像はぴったりあっていた。

「正広」
その親子連れがいなくなって、ようやく由紀夫が戻ってきた。
「いやー、すごいわ、今の子たち!」
「すごいって?」
「なんて言うのかな。こっちがご馳走してくれるんなら、こっちも3人まとめてご馳走してあげてもいいのよ、うふふん♪って感じで」
野長瀬ならメロメロであっても、由紀夫は日本に千秋という、こっちがなんのご馳走もしなくても、あたしはご馳走よぅ!!という押しかけご馳走がいる身分。いちいち相手にはしないようだ。
「正広、さっき何してた?」
「あ、迷子になった・・・、お母さん、だと思うんだよね、お母さんが迷子になってて、娘さんを探してた」
「・・・俺、昨日それやったぞ」
「え?」
謎の迷子お母さんが、早坂兄弟の前に現れた。
2度あることは3度あるのか、3度目の正直なのか。どうなる!迷子お母さん!

つづく


今ごろ、ボルケーノ様は西海岸にいっております。お母様とご一緒です。
・・・だから、イメージモデルはボルケーノ様と、お母様(笑)!いや知りませんよ!お母様がどーゆー方かなんて(笑)!いや、ほんとに(笑)!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!