天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編57話中編の2『お母さんを何度も届ける』

これまでのお話
「兄の誕生日に海外旅行をプレゼントした太っ腹な弟、溝口正広。そして二人でやってきたのは、ロサンゼルスだった。海外生活を満喫する二人。しかもその二人の楽しい海外旅行には、あたかもアクセントのように、迷子になるお母さんが散りばめられていた!どこいくねん!お母さん!!」

yukio
 

『たのもう!!』

気分は道場破りだったが、早坂兄弟はにっこり笑って、「モーニン」と挨拶をする。
「ヒロ!ユキ!」
店主の顔は、福々しい。彼は、この兄弟をすっかり気に入っている。
早坂兄弟もこの店のパンが気に入っていた。プレーンベーグルだけはあまり好きにはなれなかったが。
「カンジ、カンジ!」
「カンジ、って漢字?」
店主はボールペンを振り回しながら、メモを出してくる。なぜ日本の数字にそこまでの興味をもつのかはさっぱり解らないが、早坂兄弟もにわかに愛国心が増したというのか、せっせと漢数字を書く。
「一、二ぃ、三・・・」
大きな字を書く正広の手元を、店主と由紀夫が覗き込む。
『ローマ数字を横にしただけか?』
『ここまでは似てるけど、後は全然違うよ』
「四!」
『ん?これは?』
思わぬ形に店主は首をかしげる。
『そーいや、これも、シとも読むし、ヨンとも読む』
『シチと一緒だな、セブン』
「四は、これ、こっちの右のはねるのは、こう、払うんじゃなくって、曲げて、こうやって書くんだよ。それで、五はぁ」
兄が通訳してくれるからと、正広は好きなように喋り捲る。
「六、七、八、九」
ふんふん、と、店主は真似をして書いてみる。
「・・・下手だね」
「・・・そっとしといてやれ」
正広の字も何だか子供っぽい丸文字だが、店主の字はそれを遥かに超えていた。
「それと後、十」
これは、簡単!と十字を書いて見せる。
店主はにっこりと笑って、同じように書いたが、違うのは、縦の棒がやけに長いこと。
『十字架だな?』
「あ。なるほど」
「え?何?」
「十字架みたいに見えるだろ」
ばしっ!正広は両手を合わせた。
「当たりますように!当たりますように!当たりますようにっ!」
「「のんのん!!」」
すかさず由紀夫も手を合わせ、早坂兄弟は声を揃えてお祈りをした。

『What's "nonnon"!?』
『アーメンみたいなもん!』
『アーメンはこうだろう』
『日本はこうだな。仏式!・・・神式かな・・・』
手の合わせ方について、しばし3人で不自由な会話が行われた。そんなことについて由紀夫が詳しい訳がなく、正広にも当然知識がなく、突っ込まれてろくな返事はできなかったが、ともかく。
これによって早坂兄弟は忘れかけていた闘争心を取り戻したのだ。

そう。馴れ合ってる場合じゃあない。
これは勝負だったじゃあないか!

その二人を見て店主も、表情を引き締めた。
彼には彼なりの腹案があった。確かに特賞が入ったフォーチュンクッキーを入れたのは最終日である今日だ。でも、入れたからには彼にも見分けがつかない。
99年最後の運試し。誰も特賞を引かなかったら、彼と妻が泊まりに行くつもりにしていたのだ。
この可愛らしい日本人の兄弟とてライバルだ!
びしっ!
フォーチュンクッキー入りのボックスが差し出される。
どっちから行く?
ど、どぉしよう・・・!
ちらっと交わした目線。
そして同じタイミングで二人は小さくうなずいた。
『おぉ、ユキから行くかい』
『もうベーグルは一生分食った』
『ははは!うちのベーグルは一生食べても飽きないね!』
右手に気合を込めボックスに手を突っ込む。
「うりゃっ!!!」
そしてそのフォーチュンクッキーの中に入っていたものは!

『おめでとう!』
「えっ!?」
『プレーンベーグル1ダース!』
「ふっざけんなーー!!!」

店主はいそいそ、と、由紀夫の荷物にベーグルを1ダース詰め込み。
『おまけ♪』
と13個目まで入れてくれる。
「みやげにしてやる・・・!」
腰越人材派遣センター一同の顔を思い浮かべる由紀夫の肩に正広の手が置かれた。
「正広・・・」
「敵は取るよ・・・!」
小さく、しかし強くうなずいて、正広はボックスの前に立つ。
由紀夫は、弟の引きの強さを信じ、「のんのん」の形に手を合わせる。
正広も両手を合わせ、時々兄がやる仕草、その手の中に息を吹きかける仕草を真似てからボックスに手を入れる。
フォーチュンクッキーだらけのボックスに手をいれた正広は、その指先に他とは違う感触を感じた。
あれ?とその感触を追いかけて握ってみる。
なんだか、一つだけ温度が違うような気がした。
「これだ・・・」
「解ったのか?」
「きっとこれだ!」
えいっ!と腕を抜き、これっ!と店主の前に差し出す。見た目も、大きさも、他のクッキーとはまったく違わないものなのに、正広は自信たっぷりだった。
俺には解った。これは、他とは明らかに違う!

『オゥ!』
そして店主のアメリカンなリアクション。
『やられたよ、ヒロ。ほらこれがチケットだ』
「え?え?これ?兄ちゃん、当たりっ?」
「当たり当たり!やった!」
「やったぁ!うわあ!サンキューサンキュー!あいあむべりーはっぴー!」
店主の大きな手を両手で握ってぶんぶん上下に振りながら正広は小躍りしている。
「わーいわーい!当たったー!当たったぁぁーーーー!!」
賞品がなんであるか、ということよりも、賞品を当てた、ということが嬉しくてしょうがない。正広は、20円安い大根を買うために、自転車で30分のスーパーに行くことを厭わないタイプだ。
『悪いね♪』
『いやいや・・・。どうする?今日泊まるかい?』
『大晦日に?部屋なんて開いてないだろ』
『聞いてみてあげよう』
聞いてみてあげようもへったくれも。部屋はすでに押さえてある。彼は妻と行く予定だったのだから。
『ユキ!ヒロ!君たちは運がいい!なんでも急にキャンセルが出て、1部屋空いているらしい!』
「何何っ?」
オリジナルの当たった踊りを、のんのんした神様だか仏様だかに奉納していた正広がピュン!と近寄ってくる。
「部屋空いてるって。移るか?」
「移る移るー!うーつーるぅーー!!」

ちなみに。
現実的かつ、地に足のついた早坂兄弟は、到着した日はマリリン・モンローの定宿に泊まってゆっくりしたが、それからはしっかりと地に足のついた値段のホテルに移っていた。
どうせ1日中遊びまわっているからゴージャスなホテルの必要なし!
・・・と、頭では納得しても、どうせ泊まれるなら泊まってみたい一流ホテル。
『サンキュー、サンキュー!おじさん、いい人ー!俺たち幸せー!』
きゃあきゃあ喜ぶ正広を、店主はぎゅうぎゅうと抱きしめる。
『そうかいそうかい。喜んでもらえておじさんも嬉しいよ!心配するな!日本から小さな子供たちが遊びに来てるから大事にしてやっくれってゆっといてやったからな!』
「小さな子供たちって・・・・・・・・・・・・・・」
正広はともかく、いくらなんでも自分は違うだろ・・・・・・・。
『ビバリーウィルシャーの客になっても、このちっぽけなパン屋のことは忘れないでおくれよ!』
『おじさぁぁ〜〜〜ん!!』

言葉は解らないはずなのに、雰囲気だけで会話を成立させる二人を、すこぉし離れた場所で由紀夫は見ていた。カウンターの周りに集まったほかの客は、じぃーーーっと見ていた。

「俺さ、俺さ、解ったんだよね。これだって!神様が教えてくれたのかなぁ!」
当たりのクッキーが、他のものと感触が違った!ということを、帰り道で正広は切々と訴える。ほんとに引きが強いんだ!と由紀夫は驚いたが。
何日もボックスにいれられていたクッキーと、その朝入れたばかりのクッキーでは、湿気度合いが違う、というだけの話だったりした(笑)

 

そうして。
「うわぁ」
「この部屋かぁ?」
ホテルを移った早坂兄弟が通された部屋は、もちろん、プリティ・ウーマンで使われた部屋などではないが、結構なランクだろう!という部屋だった。
部屋まで案内してくれたのは、奈緒美よりも年上ね?というあったかい笑顔の女性で、きょろきょろする二人を優しい目線で眺めていた。
『お気に召しました?』
『はい。贅沢すぎるくらいです』
由紀夫はいろんな映画からも英語の知識を得ているので、多岐にわたった喋り方ができる。ブロークンなものから、丁寧なものまで自由に使い分けられた。
思わぬ丁寧さに、ホテルの女性がにっこりと微笑む。
『ベーカリーの方から小さなお子様が、と伺ってましたのに』
『見ての通りです』
ふふ、と笑う由紀夫と、ほほ、と微笑む女性。彼女の思う年齢と、由紀夫の実年齢の間には、まだ隔たりがあったが、とりあえず大人だとは解ってもらったらしい。
「兄ちゃん!こっちもすごぉーーーい!!」
もちろん、部屋中を探索しているちっちゃな子に関しては『子供』という共通認識ができている。
『今晩、メインダイニングでささやかなパーティを予定しているのですけれど、よろしければご出席ください』
支配人の名前入り招待状なんぞを手渡され、さすがの由紀夫も少しドキドキしてきはじめた。

「さて。正広くん」
「はい。お兄様」
「残念ながら、ここでは紅白歌合戦は見られない」
「SMAPさんは見られないということですね?」
「K林S子も、M川K一も見られない」
「はい」
「なので、パーティに行ってみますか?」
「・・・行きたいのは山々ですが」
「はい」
「もしかしたらなんですが、お兄様」
「なんですか、正広くん」
「・・・僕たちは、場違いなんじゃあないでしょうか」

広い部屋のソファに座って話している早坂兄弟の来ている服は、現段階ですでに場違い。いくらなんでもよくこの部屋に通しやがったな、というジーンズ姿。
ただし、奈緒美にしつこく言われたため、バッグだけはいいものを持ち、ついでに足元を見られるってことで靴もスニーカーながら手入れの行き届いたものを履いている。
それにしても、一流ホテルのメインダイニングでのパーティにこのカッコで行くわけにはいくまい。
「・・・こんなことになると解ってりゃあ持ってくりゃよかったな」
衣装持ちの早坂兄弟。家に帰れば奈緒美プレゼンツのタキシードだってある。
「そうだよねぇ・・・」
「・・・買うか」
兄の言葉に、正広はこっくりうなずいた。
「買いましょう!」
20円安い大根のために自転車を30分こいだってかまやしない!という正広だが、別段ケチな訳ではない。使うとなったら、ちょっと待て!というほど使ってしまうタイプ。
「だって兄ちゃん、俺の分の旅費出してくれてんだし、俺買ったげるー!」
「・・・じゃあ、おまえのは俺が買いましょう」
「だーからぁーー!!それじゃあいーみなーいじゃーん!ってゆってるのにぃぃぃーー!」

ロデオ・ドライブでお買い物。
なんだか心浮き立つフレーズだ。
「やっぱりお土産買わないといけないんじゃないの?」
「ロデオドライブボールペンとか?」
「ロデオドライブペナントとか」
「ロデオドライブタワーのプラモデルとか」
そんなものはない!というお土産を口にしながら、でも、ベーグルがあるからいいんじゃん、などと弟を納得させようとする由紀夫。
そしてその由紀夫が見たものは。

「・・・・・・・どうしてまた・・・・・・・・・・」
木田親子のお母さんの方だった。
「・・・・・・・ロサンゼルスって狭いんだね」
「そうだな・・・・」
「木田さーん!」
正広が手を振ると、木田母が大きく手を振り返す。
「まぁ!ひろちゃんに由紀夫さん!偶然ねぇ」
「そうですね!」
とことこ走りよりながら、すばやく当たりを見まわし、やはり千恵がいないことを確認。
「待ち合わせですか?」
如才なくたずねたのは由紀夫だった。
「えぇ。今日は買い物をしましょうって行ってたんだけど、千恵はダメね。すぐ夢中になって時間を忘れちゃうのよ。ここで待ち合わせって行ったのに」
木田母が立っていたのは、クリストフル。銀食器の店だった。
「ここで待ち合わせなんですか?」
「そうなの。食器のお店待ち合わせねって決めたの」
「そうですかぁ」
ニコニコと笑顔を向ける正広も、そして由紀夫も、本当か!?と疑っていた。
本当に、食器の店なのか!?
「あぁ、でも心配ね。千恵は方向音痴だから、ちゃんとここまで来られるかしら・・・」
「方向音痴なのに、一人にして心配じゃないんですか?」
千恵に聞きたくて聞けなかったセリフを、対象者本人に聞いてみる。
「心配ですよ!」
そして木田母はきっぱりと答えた。
「でも、私たち、買い物の趣味が合わなくて。そうしたら時間の無駄でしょう?待ち合わせ場所さえ決めておけば、まぁ、大丈夫だろうと思うんですけどねぇ」
でも、ひどい方向音痴でしょう?ホホ、と木田母は持っていた地図で口元を押さえて上品に微笑み、由紀夫はその地図をさっと視線でなでて、表情には出さずにショックを受けた。

「正広」
「何?」
ちょっと横に弟を呼びつけ、木田母と一緒にこの場所を離れるなと指示をする。
「え、いいけど・・。何?どゆこと?」
「やっぱり待ち合わせ場所が違う・・・」
「ち、違うの・・・?」
「食器は食器でも、日用品のウィリアムズ・ソノマだ・・・」

食器までは合ってたんだけどねー!

こうして由紀夫は、別の通りにあるウィリアムズ・ソノマまで走らされる羽目に陥った。
ウィリアムズ・ソノマの店頭で、可愛いー、可愛いー!を連発していた千恵は、由紀夫がやってくるのをみつけて、きゃあ!なんて素敵な偶然!と胸ときめかせたが。
「お母さんが、クリストフルの前で」
と言われ、がっくりと首を折った。
「お、お母さん・・・・・・・」
「地図はちゃんと持たれてたんですけどね」
「クリストフルって!全然違うじゃない!ウィリアウズ・ソノマ!クリストフル!何もかぶってない!」
「・・・食器つながりでした」
「・・・我が家に銀食器が似合うとでも思っているのなら、本当に危険な状態だわ・・・」

そうして二人が戻ったクリストフルの前には。
日本人観光客が何人かはいたが、正広と、木田母の姿はなかった。

つづく


どこまで続くねん!!いや、なんかせっかく海外だし、いろいろ楽しいこともさせてあげたいという親心といいますか・・・(笑)

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!