天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編58話『21世紀の真の男を届ける』

これまでのお話
「腰越人材派遣センターに日常が訪れた。最近千明は何をしているのだろう。多分、ガングロにしようか、白肌でいこうか考えているか、底厚ブーツで足首を捻ったか、そんなあたりじゃないかと思われる(笑)」

yukio
 

「野長瀬ぇ〜♪」
明るい腰越奈緒美の声が腰越人材派遣センター内に響き渡った。
いつものように、朝っぱらから少し疲れたような顔でドアを開けた、野長瀬定幸はそのままの姿勢で硬直する。
「しゃ、社長・・・・・?」
「奈緒美さん・・・・?」
こちらも出社したばかり、今しも机にバックを置いて、ぬくぬくとしたマフラーを外そうとしていた正広も驚いて奈緒美を見た。
「待ぁってたのよ、野長瀬ちゃぁ〜んっ♪」
「野長瀬ちゃん、だぁ・・・・?」
カシミアのコートを半分脱いだ格好の由紀夫は、顔を歪めて奈緒美を見る。
「さささ、早くお入んなさぁ〜い!お外は寒いでしょぉ〜っ?」

夢だ・・・。
野長瀬は思った。
俺は、今、都合のいい夢を見ているんだ。そうなんだ。もうすぐ目覚ましがなる。
そして、智子さん(野長瀬宅のミニウサギ、オス、巨大)が、優しく起こしに来てくれるんだ・・・!

野長瀬にとって、「優しい」というのは、ウサギの結構爪のとがった脚で、顔を踏まれることを指すらしい。
ともかく野長瀬はそうやって、もうすぐ目を覚ますであろう自分を期待していたのだが。

「のーなーがーせーちゃーーーーんっっ♪♪」
奈緒美の声に、明らかな苛立ちを感じて、慌ててデスクの前で直立不動の姿勢になる。
「おっ、おはよおございますっっ!!」
「おはよお、野長瀬ちゃん♪ひろちゃーん、あたしと野長瀬ちゃんに、おっちゃ〜♪」
「は、はぁい・・・」
ようやくマフラーを外した正広は、コートのくるみボタンを外しながら、急いで給湯室に向かった。

「お待たせしました・・・・・」
なんとなく気分で、ちゃんと茶たくにお湯のみを乗せて持ってきた正広は、二人の前にそっとお茶を置く。
「ありがと、ひろちゃん。あら!やぁね、野長瀬ちゃんったら、立ったまんま!由紀夫ぉ〜!野長瀬ちゃんの椅子はぁ〜?」
由紀夫は歪んだ表情のまま、野長瀬の椅子を蹴って滑らせる。
「もぉ、由紀夫は乱暴ねぇ。ねぇ、野長瀬ちゃん?ささ、座って、座って?」
その笑顔を、野長瀬の後頭部ナメで真正面から見てしまった典子は思った。
あたしが遅刻したからだ。
あたしが遅刻したから、大掛かりな罰ゲームをやってるんだ!どうしよう!たかが8分の遅刻じゃない!スマスマでゆったら、1.6点よ!!

まぁまぁどうぞ?先に野長瀬にお茶をすすめ、なおもにっこりと奈緒美は笑う。
「野長瀬ちゃんにねぇ、いいお話があるの」
「・・・お話・・・?」
「どぉしても野長瀬ちゃんじゃなきゃいけないっ!って。もぉ、野長瀬ちゃんったらスミにおけないのねっ!」
「は?す、スミにおけないって・・・」
「素敵なお嬢様から、どぉしても野長瀬さんにお会いしたいって呼び出されるなんてっ!」
「「「「えぇぇぇーーーーーーーーー?????????」」」」
野長瀬以外の3人、由紀夫、正広、典子の叫び声に、野長瀬の困惑の声は、小さく消されていった。
「野長瀬を見初めた女がいるって、何それ!アマゾンの女!?」
「うそぉ!野長瀬さんを!?野長瀬さんでしょお!?えー!!!!マニアックウ〜〜!!」
「由紀夫ちゃん!典子ちゃん!!何を言ってるんです!!やっと、真の男の価値が見ぬかれる時代がやってきたんですよ!21世紀は、真の男!つまりこの野長瀬のような、タフでクールな男がもてはやされる時代になったんです!ビバ!21世紀!」
由紀夫たちは黙った。
まだいたのだ、2000年は21世紀だと思っているやや化石な人間が・・・。
「しゃっ、社長!そのお嬢さんって、一体・・・っ!」
「西園寺京香様」
「はぁ・・・っ!名前だけでも匂い立つよおな・・・!」
「鈴木京香というよりも」
「鈴木京香というよりもっ!?」
「鈴木杏樹といった感じの!」
「うわーー!!知的でキュートな美人ですねぇ!!!」
「京香様がこちらでおまちよ!急ぎなさい野長瀬ちゃん!いーそーぎーなーさーーい!!愛のためにぃーーー!!」

そして飛び出していった野長瀬。
残った由紀夫たちは、呆然と、まだ勢いよく叩きつけられたため、ぎしぎしいってるドアに注目していた。
「・・・ウソだろ・・・?」
「ウソじゃないわよ?」
正広のお茶を飲みながら、奈緒美はふっ、と微笑み、さー、仕事仕事!と3人を席につけさせた。

 

野長瀬は、住所のかかれたメモを手に、少し戸惑っていた。
「ひよこ保育園・・・」
手元のメモと、ひよこ保育園を見比べるが、住宅街の中に、ちょっと破格の広さを持つひよこ保育園と、この住所はどうやら等しいらしい。
「あ・・・!」
野長瀬はひらめいた。
「西園寺京香様は、知的でキュートな美人なだけでなく、お優しい保母さんなんだ・・・!」
ふふ。うふふふふ。
ひよこのドアの前でうふうふ不気味な微笑みを浮かべていると。

がつん!!!

両開きになっているドアが乱暴に開けられ、右側のドアが野長瀬の額を直撃!
「いだだだだだだだ!!!!」
「あっ!」
ドアを開けた若い女性は、野長瀬の額を直撃したことでちょっとたじろいだようだが、それでも、きっ!と野長瀬を睨みつけて怒鳴った。
「うちの保育園にご用ですかっ!!」
「えっ」
ご用というか、呼ばれてきてるんですが。

なんてことを妙齢の女性にすかさず言い返せるような野長瀬ではけしてない。あーだの、うーだの言ってるうちに、もう一人、もう一人と、若い女性が顔を出す。
「どうしたの!」
「中を覗こうとしてたの!」
「警察!?警察呼ぶ!?」
「そうよ!警察よ!警察呼びましょう!」
「けっ!警察ぅーーー!!???」
野長瀬は慌てた。こんなことで警察に連れていかれたら、せっかく自分を見初めてくれた、西園寺京香様に申し訳がたたない!
がんばれ!営業マンじゃないか、野長瀬!おまえは営業マンだろう!トークだ!トークをするんだ!

「えー、あのですねー・・・。あー、ワタクシ、腰越人材派遣センターの野長瀬と申します。こちら・・・、あっ!名刺が!!」
営業マンにあるまじきことだった。
野長瀬の名刺入れは空だったのだ。
「何よー!人材派遣センターが何の用よー!」
「大体人材派遣なんて、キャリア・スタッフしか知らないわよー!!」
「あなた解りやすい趣味嗜好してるわねぇーー!!」
さらに取り囲まれ、あぁ、どうしようどうしよう!!と慌てる野長瀬。野長瀬が慌てるとロクなことがない。つまり、野長瀬はいつもロクでもない目にあっている。
そして今回は。
追い詰められたあまり、道路側に一歩下がったところ、徐行していた車に突っ込んだ形になり、要するに、はねられた。

 

いい気持ちだぁ〜・・・。
野長瀬は思った。
体がふわふわしている。
あ、あそこにいるのは・・・!野長瀬は目を輝かせた。あの後ろ姿は、西園寺京香様!
まだ見ぬ西園寺京香様に向かって野長瀬は走った。波打ち際を走る、青春映画のヒーローのように。
「きょおかさぁーーーーーん・・・・!」
うふふ、うふふ、と走って走って、そしてぎゅっ!と抱きしめる。
細い、華奢な体。
「京香さん、お待たせしました・・・!あなたの野長瀬です・・・」
「まぁ、嬉しい・・・!」
鈴を転がすとはこういった声か、という軽やかな声が微笑み、そして振りかえった顔は。

「うわぁぁっっ!!!!!」

犯罪マニアこと、田村だった。

「野長瀬さんっ!」
けれど、鈴を転がすような声だけは残っている。
どこだ!?ここはどこだ!まだ夢か!?はっ!そうか!!
野長瀬は思った。
俺は、今、都合のいい夢を見ているんだ。そうなんだ。もうすぐ目覚ましがなる。
そして、智子さん(野長瀬宅のミニウサギ、オス、巨大)が、優しく起こしに来てくれるんだ・・・!

野長瀬にとって、「優しい」というのは、ウサギの結構爪のとがった脚で、顔を踏まれた挙句に、相当鋭い歯で、すねを齧られることを指すらしい。
ともかく野長瀬はそうやって、もうすぐ目を覚ますであろう自分を期待していた。
だって。
「大丈夫ですかぁ〜?」
ベッドに起きあがった野長瀬の側には、まさしく鈴木杏樹!という美人がいたのだから。
「野長瀬さん??」
反応のない野長瀬を、鈴木杏樹こと、西園寺京香は心配そうな顔でのぞきこむ。
「お医者様は、打ち身だけっておっしゃってたんですけど、やっぱり病院にいった方がよろしかったかしら・・・」
「えっ。いや。あの・・・」
べしっ!!野長瀬は力いっぱい自分の頬を張り倒した。
「野長瀬さんっ?」
「あ、いや、夢かと思いまして!」
でも、叩いたら痛かった・・・と笑いながら言う野長瀬に、京香もくすくす笑った。
「やっぱり、野長瀬さんって、楽しい方・・・」
「や、やっぱりって・・・」
ドキドキする野長瀬。やっぱりこの人が西園寺京香様・・・!俺を、俺を見初めてくれた、真の男を見ぬくことのできる、ビバ21世紀な女性・・・!
京香の車にはねられた、というか、つっこんでいった野長瀬は、保母さんたちの手で、休憩室のベッドに寝かされ、近所のお医者さんが往診してくれたという。
その結果、怪我自体はまるでたいしたことはなかったのに、野長瀬はなかなか目が覚めなかった。
これは、昔の女性が、何か困ったことがあったら失神した、もしくは、失神して見せたように、野長瀬も困ったことがあると、意識を失う傾向にあるためだったが。
「よかった。野長瀬さん、気がついて・・・!もう、私、どうしたらいいかって・・・」
ぽろりと。京香の大きな目から涙がこぼれた。
あぁそれは、野長瀬にとっては、真珠に等しい価値を持つ涙だった。
「京香さん・・・!」
聞きたいことは色々あった。なぜ自分を見初めたのか。どこで見初めたのか、どこを見初めたのか。5W1Hで聞きたいくらいだった。
だが、口から出てくるのは、あーとか、うーとか、つまらない言葉ばかり。
そして、京香も何も言わず、潤んだ瞳で、じっと野長瀬を見つめている。
「野長瀬さん・・・」
そのささやく声は、野長瀬の理性を揺さぶる。
もう、どうなってもいい・・・!!

もう、何をされたってかまうもんか・・・・!!
それ、男の発想じゃねぇ!というセルフツッコミすら受けつけないほど、野長瀬はテンションが上がっていた。
「よかった・・・。来ていただけて・・・」
「は、はい・・・っ、えぇ、あの。・・・来ました・・・!」
「ほんとにそっくり・・・」
「えぇ。そっくり・・・って、誰に・・・」
「あ、ううん。ごめんなさい」
きゅ。細い指先が、浮かんできた涙を拭い取る。
ああ、その真珠のような涙を、そっとぬぐってあげたかった・・・!野長瀬は思う。
「あの。すみません、ご挨拶もしなくて・・・」
そっと立ちあがった京香は、西園寺京香です、としとやかに頭を下げる。
「このひよこ保育園の園長をしています」
「え!園長先生ですか!」
「はい。若輩なんですが・・・」
そっと赤らめる頬は、さくらんぼよりも甘いに違いない。もぉ!食べちゃうぞぉ!さくらんぼどころか、アメリカン・チェリーもあまり買えない野長瀬は願う。
「なかなかうまくいかないことも多くて、それで、偶然街で見かけた野長瀬さんにお願いしてくて・・・!」
なんでしょう。あなたは塔の上につかまったお姫様。私は、それを助けるナイト・・・!ナイトは姫のためになんだって!えぇ、なんだってするのです。さぁ、姫、ご命令を・・・!

うっとりと京香の言葉の続きを待つ野長瀬に、京香は言った。

「鬼になってください・・・!」

・・・オニ?
あれ?と野長瀬は首を捻った。
オニって、オニ・・・って。・・・鬼?

「今日は節分なのに、鬼がいないんです・・・!」

セツブン?セツブンって。あの。節分?おにわーそとー、ふくわーうちー、の、節分?節分の鬼?俺?ん?鬼って、ん??んん??????

「去年までは、ちゃんといたんです。鬼の役が・・・!でも・・・。でも、彼・・・。去年の、秋に・・・」
うっ!とハンケチで口元を押さえる京香。
はっ!と野長瀬は彼女を見た。
姫には・・・!姫には、もう、ナイトがいた・・・!でも、そのナイトは姫を置いて・・・・!
それなら。それなら今度こそ、彼女を悲しませないためにも、俺ががんばらなくては・・・!俺が、新しいナイトとして、姫の、輝くばかりの笑顔を取り戻す。それがナイトの役割だ・・・!
節分の鬼。
いいじゃないか。
それだけ頼り甲斐があると思われたって事じゃないか。なぁ。なぁ、そうだろう?野長瀬。21世紀は、おまえみたいな男の時代なんだ。真の輝きを持つ男・・・!そうだよ野長瀬。やれよ野長瀬。去年までやってた野郎なんかとは比べ物にならない、本物の鬼を・・・。
やってのけろよ野長瀬定幸!!

 

「ふーん。保育園の豆まきイベントねー」
今日はあまり仕事のない腰越人材派遣センターは、みんなで、太巻きを作りましょう大会になっており、由紀夫は太巻きだけじゃやだ。ちらし寿司も食べたい、と、具材の用意をしている。
「そうなのよ。なんでも、去年までの鬼と、野長瀬がそっくりだってゆってね。あの、西園寺家ってかなりの資産家でね、京香って娘は、趣味がこうじて、保育園の経営をしてるのよ」
「趣味ってなに?」
「子供好き」
「すごー!!」
正広と、典子はぱたぱたとすし飯をあおいでいる。
「まぁ、野長瀬さんだったら、お面なしで鬼ができるものねー」
「典子ちゃん・・・」」
「でも、野長瀬に似てるようなヤツがこの世に二人もいるとは思わなかったよなー」
「二人って言うのは、ちょっと違うわね」

由紀夫のセリフに、奈緒美は引き出しから写真を取り出し、おすし準備のテーブルに投げた。

「どこ飛ばしてんだよ!!」
それは、ひらひらと舞い、奈緒美の後ろに無様に落ちていったが、そんなことは気にしない。
「それが去年までの鬼」
柔らかな色のスーツをきて、優しい微笑みを浮かべている女性の隣に映っているのは。
「鬼堂丸って言ったんだって。すごい面構えよねぇ〜」
「と、土佐犬・・・・・!」

 

去年までの大きくて、でも、とっても優しかった鬼堂丸はもういない。
もう鬼堂丸はいないのに。だったらもう豆まきなんかしなくたっていいのに・・・!
年長さんたちはみんなそう思っていた。
そんな訳で、ほんとにお面なしで鬼をやれた野長瀬が、激しい豆攻撃にあったことは言うまでもない。

でも仕方がない。
それが、21世紀の真の男のあるべき姿なのだから。
だから野長瀬。まだ今は20世紀なんだってば・・・。


節分です節分!太巻きを食べなきゃいけません。太巻きを!今晩は太巻き!でも今年の方向がどっちかは知りません!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!