天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編59話『お姫様を届ける』

今日のお話
『平成夫婦茶碗』があまりに好きだったので、このドラマの主人公。貧乏ながらも明るく暮らす金本家の人々にご登場願いました。
<キャラクター紹介>
父:金本満太郎(東山紀之)家業のラーメン屋を継ぐが、どうしても借金を作ってしまう困ったお父さん。最近はラーメン作りも上手になった。
母:金本節(浅野温子)一つ年下の満太郎にもいつも敬語の、満太郎LOVE!な節約上手なしっかりもの奥様。
長男:金本運(ガキの使いのプロデューサー似)寡黙で成績優秀。しっかりものの長男。12歳。
長女:金本幸(チャイドル?)美容、ファッションに非常に詳しい女の子。
10歳。
次男:金本完(誰に似てるかなぁ・・・)素直で大人しい、ややいじめられっこ。上がしっかりしてるから・・・(笑)8歳。
三男・四男:金本楽&福(山崎ほーせー似。あんまり可愛くない(笑))4歳。
この一家の現在の借金は1700万を超えているかと思います。そして、節さんは、日夜節約に励んでいるのでした!
なお、婦人警官は鈴木さりなです!

yukio
 

毎日寒い。
由紀夫は、早朝からの仕事に、大きなため息をつきながら自転車のペダルを踏む。ため息はそのまま白い湯気になって流れていく。
「ほんっと、さっみぃー・・・」
カシミアのコートに、マフラーをして、革の手袋をしてたって、寒いものは、寒い。こんな時には長い髪もたいして役に立たない。
自転車を走らせていれば、後ろになびいていくばかりだ。

「んもー!何やってるのよぉー!」
公園の側を通っていた時、女の子の声がした。続いて、子供の泣き声。
「ん?」
なんとなく立ち止まって覗いてみると、男の子が一人転んでいた。まぁ、それはよくある風景だが、ちょっと変わってるのは、その子の背負っているランドセル。
「・・・シースルー・・・?」
ランドセルの中身が見えているような気がしたのだが。
「・・・ペットボトルぅ!?」
転んでる子が背負っているのは、ランドセルというより、1.5リットルペットボトルホルダーだった。

「ほら!完!早くしなさいよ!」
その子の姉らしき、なかなか気の強そうな美少女も、ランドセル型、1.5リットルペットボトルホルダー(赤)をきりり!と背負っている。
なんだありゃ・・・。
じっと見ていると、もう一人、お兄さんらしき寡黙な男の子が転んでる子を立たせてやっている。当然、彼もペットボトルホルダーを背負っているに決まっている。
「あぁ、完、こぼしちゃってるよ。早く入れなおしてよ、寒いんだからぁ!」
くすん、と涙を拭い、男の子はペットボトルに水を入れる。公園の水飲み場から。
「・・・・・・・・・・?」

朝っぱらから小学生が、ランドセルを改造したと思われるペットボトルホルダー(1.5リットルサイズ2本収納可能)を背負い、公園の水飲み場で水を汲んでいる。

3人が公園から消えてもなお、由紀夫はその場に佇んだまま、どういうことなのか考えていた。

 

その日の夕方、一通り仕事を終え、食べられなかった昼食代わりにラーメンでも食べるかと、目についたラーメン屋に入ろうとしたら、
「おとーさんのバカっ!!」
ガラス戸が開き、子供が飛び出してきた。
「何おぅ!?幸、この野郎っ!」
「野郎じゃないわよ!女の子でしょっ!」
「うるっせぇなぁ!おめぇはよぉ〜!とにかくっ!無理なもんは無理だからなっ!!」
「解ってるわよっ!お父さんみたいな甲斐性なしに相談したあたしがバカだったんでしょっ!さすがはお父さんの娘よねっ!」
つんっ!とそっぽを向き、小さな足でたたたっ!と走り去るその後姿は、今朝、公園にいた女の子のものだった。
このラーメン屋の子なのか。
ひょいと店内を覗きこむと、がらんとした店内には父親と、若い婦人警官だけがいた。
「さっちゃん〜、バカにバカ、ゆーたらあかんや〜ん」
「誰がバカだ!誰が!」
「アホ、まんちゃん。お客さん・・・・・・・!」
「えっ?あ!いらっしゃいっ」
一歩店に踏み込むと、ふらふらと関西弁の婦人警官が近寄ってきた。
「いやぁ・・・、あの・・・」
「はい?」
カウンターに座って横を見ると、目がハートになっていた。
「こら!おまえ!仕事行け、仕事!」
カウンターに入った店主が、巨大なお玉で婦人警官を叩く。
「いったぁ〜いなぁ〜!もー!なんやの、まんちゃんっ!」
「迷惑してんだろ!おら!」
そこに携帯がなり、本当に呼び出しをくらってしまったらしく、それでは、ごめんあそばせ、と近頃聞かない挨拶をして出ていった。

そして店内は由紀夫と、まんちゃんと呼ばれる店長二人になる。
「すいませんねぇ、うるさくて」
「あ、いや。えーと、じゃあ、チャーシューメンを」
「はいよっ」
娘の幸はぱっと明るい可愛い顔をしていたが、父親はすっきりした顔をしてる。ということは、お母さんも美人・・・!?ラーメンも想像以上に美味しくて、ん、これはなかなかいいなと思った由紀夫だった。

「・・・よう」
帰り道で、由紀夫は幸を見かけた。思わず声をかけると、公園のベンチにぽつん、と座っていた彼女が驚いて目を丸くした。
「あ、俺、さっきラーメン屋の前で・・・」
と怪しいものではないことを告げようとすると。
「これ、カシミヤでしょう!?ねぇ、触ってもいい?」
「・・・い、いいけど・・・」
「うわぁ〜、気持ちいい〜、やっぱりカシミヤよねぇ〜。色も綺麗〜・・・!」
うっとりと由紀夫のコートの袖を持っていた幸は、自分のジャンパーを見てため息をついた。
「どした?」
「だって、こんなジャンパーなんてさぁ・・・。やっぱりコートだと思わない?」
「子供はそんなもんだろ」
「そうだけどぉ・・・」
「コート欲しいって言ったの?お父さんに」
「そう・・・。あれ?なんで?」
きょとん?と首を傾げた幸に、店の前にいたから、と由紀夫が言うと、目を丸くした。
「え!こんなカッコでラーメン屋なんかに入ったのっ?大丈夫っ?スープとかとんでんじゃないのっ!?」
まじまじとコートの前面や、袖をチェックする幸。
「あ!ほらぁ!」
そして袖口に小さなしみを見つけ、大げさに顔をしかめた。
「ダメじゃない!これ、ちゃんと染みぬきとかしなきゃダメだよ?」
「あぁ、それじゃあ水で洗うかなんかして」
「えっ!?だってカシミヤだよ!?ダメだよ、それきっと!」
「じゃあ・・・」
クリーニングに、と簡単に言おうとした由紀夫は、幸の真剣な顔に口をつぐんだ。
「えーっと、染みぬきってどうやってやるんだっけぇ〜・・・・・・」
「自分でやるの?」
「やるわよ!当たり前じゃない。でも思い出せないのよねぇ〜・・・。お母さんなら知ってるんだけど・・・、なんだっけぇ〜・・・!」
「お母さん、そういうの詳しいんだ」
「うん。詳しいの」
「カッコいいね」
「・・・カッコいい?」
不思議そうな顔で幸は由紀夫を見上げた。
「カッコいいじゃん。染みぬきに詳しいって」
「なんでぇ?」
「え?だって、たとえば布の材質に詳しかったり、何の染みには、どの染みぬきとかってことがちゃんと解ってるってことだろ?」
「・・・そういう風に言えないこともないけどぉ・・・」
「手持ちの服を大事に丁寧に扱うってのは、ホントのおしゃれだろ?」
「そうかもしれないけど、でも、限度ってものがあるでしょう?うち、すっごく貧乏で、あたしなんて、自分の服って新しいの買ってもらったこともないんだよ?いっつも誰かのお下がりとか、どこかのフリーマーケットとかさぁ」
「え。それ、お下がりなの?」
「これ?そうだよ」
こくん、とうなずく幸。由紀夫はじーっと見て感心した声をあげる。
「綺麗に着てんなぁ。子供の服なんて、もっと汚れてるかと思ったけど。あ、でもそっか。女の子はそんな外でとっくみあいとかしないか」
「する訳ないじゃない!そりゃ新品じゃないけど、洗濯とかはちゃんとしてあるの!」
「それにサイズもぴったりだし。よっぽどサイズを気にして買ってるか、直してるかのどっちかだろうな」
奈緒美に連れられてオーダースーツを作ることもある由紀夫だから、ジャストサイズにはうるさい。
「よく似合ってる」
にこっと言うと、幸がぽっと頬を赤くした。
「そぉかなぁ・・・」
「うん。元気のいい感じ。キャラクターにあってんじゃん?」
「ちょっと待ってよっ、あたし別に元気なキャラじゃないんだけどっ」

「幸!」
「お兄ちゃん」
公園に走りこんできたのは幸の兄と弟。
「どしたの?」
「お母さん、見なかったか?」
「お母さん?」
「お母さん、いないの!」

長男の運が言うには、双子の弟たちを保育園に迎えにいってからうちに帰ると家がもぬけの殻。最近、家庭菜園に凝っているから、と畑に見に行ったがいない。弟たちのおやつは用意してあったからそれを与えて帰ってくるのを待っているうちに、弟の完も帰ってきたが母親は帰ってこないという。
「どっかのスーパーなんじゃないのぉ?」
「だってっ、今日っ、お休みだもんっ」
完は泣かないように一生懸命力を入れて喋った。
「あ、そっかぁ・・・。ってことはでも余計にスーパーなんじゃないの?お母さんだったら、安売りがあるって解ったら、隣町だろうが、隣の県だろうが行くんじゃない?」
「それだったら俺たちも連れてくよ。一人一個ってのがたくさん買えないじゃないか」
「あぁ、そっかぁ〜・・・」
「ちょっと待て待て」
由紀夫が仲介に入る。
「まだ5時過ぎなんだから、お母さん帰ってこなくてそんなに不思議?」
こっくり。
3人の子供はうなずいた。
「お母さん、行き先言わずに出かけたりしないもん・・・」
急にしょんぼりしてしまった幸に、由紀夫は小さく微笑んだ。生意気言っても、お母さんをすごく頼りにしてて、すごく愛されてるんだろうな。
「お母さん、探すの?俺、手伝おうか?」
「え、ほんとに?」
「幸・・・、誰・・・?」
用心深く、運は幸に小声で尋ねる。
「え?誰って、お客さんよね?」
「そう。さっき、お父さんのラーメン食べさせてもらって。それと、今朝、見たよ3人とも。この公園で水汲んでたろ。何あれ。この公園の水は実は地下の涌き水で、ラーメンのスープには欠かせないとか?」
「水道代の節約です」
「・・・あ、そぅ」

冷静な長男の言うことに従い、兄弟は二手に分かれ、母親の立ち寄りそうな場所を回ってみることになった。由紀夫は幸を自転車に乗せ、お母さんのお気に入りスーパーランキング第3位の店に向かう。
「ランキングがあるんだ」
「うん。ここは、比較的いつも安いんだって。でも、どかん!って言うのがなくって第3位」
スーパーの前でブレーキをかけると、幸は、ぴょんっ!と身軽に飛び降りスーパーの中に駆け込んでいく。
そしてすぐに出てきて、自転車に飛び乗った。
「いる訳ないと思ったのよ。今日は全然安売りしてないんだもん」
「オッケ。じゃあ、次はどちらですか?お姫様」
「・・・!」
「ん?」
「やだっ!」
べしっ!
「イッテっ!」
「何っ?お姫様って、もぉっ!やだっ!シンデレラってことっ!?」
キャハハ!と幸は笑う。
「そりゃあ、ちょっと灰かぶり姫みたいだけどぉ〜」
「違う違う。まぁ、どのお姫様でもいいんだけど、王様、お妃様から愛されて育てられてる、お姫様」
由紀夫が言うと、背中は急に静かになった。
「そうかなぁ・・・」
「そうだろ」
「だって・・・」
「それより、次どこだ、次」
「え!?えーっと、今度はねぇ〜!」

粗大ゴミ回収所だの、デパートの地下食料品売り場だの、お気に入り度でいえば6位だけど、セール中のスーパーだのを回ったが幸たちの母親の姿はなかった。
兄たちと合流し、とりあえず1度うちに戻ろうと家路につく。
「どうもすみませんでした」
運に頭を下げられ、由紀夫は手を振った。
「いいよそんなの。それよりさ、お母さんの写真とかねぇの?もうちょっと手ぇ広げられると思うんだけど」
「写真はありますけど・・・」
幸たちが住むのは、今時なかなか見かけないタイプの木造アパート。でも、人情にはあふれていて、双子の弟たちは、ご近所さんに預かってもらっているという。
「まだ帰ってないよ・・・?」
由紀夫の自転車に乗せてもらっていた完が部屋を見上げて呟く。きちんと閉まった窓の中は、まだ暗かった。
「7時か・・・」
由紀夫が時計を見て呟くと、幸が由紀夫のコートをギュっとつかんだ。
「あたしが・・・。コート欲しいなんて、ゆったから・・・・・・」
「幸」
「だって、お母さん、お父さんに聞いてみないとって、全然聞いてくれないし、もう冬終わっちゃうって、自分で聞きにいったのに、お父さん、そんなの買えるかってそればっかりだし、お母さん・・・!お母さんいないし・・・!」
「幸、落ち着けよ!」
「そうだぞー。お母さんにだって事情はあるだろ。もう寒いし、うち入ってろ。そんで、写真な。ちょっと貸して」

「お母さん!」

帰ってくる母、節を見つけたのは幸だった。
「幸!どしたの、寒いのに外で!」
「外でじゃないわよ!お母さんこそ何してたの!何その荷物!」
「フリーマーケットをやってるってスーパーで聞いて、急いで行ってみたんです!ほら、子供服のフリーマーケットだったの!」
細い体に大荷物を抱えた節に、由紀夫はすかさず手を貸した。
「あぁ、すみません。大丈夫ですか?重たくない?」
「全然平気ですよ。そちらも持ちましょうか?」
「あぁ、これは大丈夫。ねぇ、幸」
「何よっ」
弟や兄の前で取り乱したのが恥ずかしいのか、幸はぷんっ!と背中を向けている。
「これ、幸に」
その背中にふわりとかけられたのは、
「・・・カシミヤ・・・!?」
「子供用のコートなの!フランス製なのよ。ちゃんと着てみて?サイズ、大きいんだけど・・・」
コートは、ジャンパーの上から着ても大丈夫なほどのサイズだった。
「あぁ、やっぱり大きいかぁ・・・」
裾や、袖の長さを確かめ、肩の位置を合わせ、節はにっこり笑った。
「大丈夫。ちょっと袖のところを直しましょう。そしたら、後何年かちゃんと着られるわ」
「お母さん、でもこんなのフリーマーケットに出ないよ!?」
「出てたんです。それでも、全然値引きはしてくれなかったの。だからお母さんね、このコート以外の服を売るお手伝いしますから、これは安くしてってお願いして、それでこんなに遅くなっちゃったの。ごめんなさいね」
「僕にはー?」
「完にも、運にもちゃんとあります!」
「楽や福にもぉ〜?」
「もちろん!」

さぁさぁ荷物を置いて、今日はお父さんのラーメンを食べましょう!子供3人に荷物を持って行かせ、節は由紀夫を振り向く。
「あの・・・」
「今日、お母さんを探す手伝いしてくれてた人。名前は・・・。あれ?なんだっけ」
「早坂由紀夫です」
「早坂さん。どうもご心配おけけして申し訳ありませんでした。それで、もしよろしかったら、うちの店なんですけれどラーメンご一緒にいかがですか?」
想像したよりはキツ目だったが、美人は美人。ラーメンも美味しかったし、由紀夫は喜んで、と答えた。

「さぁ〜ち」
大き目のコートを着て、指先だけを見せてる幸を由紀夫は小さな声で呼んだ。
「何?」
「さっきお母さんに聞いたんだけど、コート、お父さんがどうにかならないかって言ったらしいよ」
「ウソっ」
「俺が嘘ついてどーするよ。それでちょうどフリーマーケットがあるって聞いて急いで出かけたんだって。いいじゃん。カシミヤ。しかもファー付きで可愛いし」
襟元と、袖口にファーのついているコートは上品で可愛い。節は、肩の部分をつまんで、袖と、肩幅を微妙に調整するつもりのようだった。
「・・・似合う?」
「さすがお姫様」

さて、そのお姫様だが、父親にラーメンのスープを大事に大事にたたんで置いてあったコートの上に零され、烈火のごとき怒りを見せたが、翌朝には、きちんと染みぬきされ、サイズも補正されたコートを着て公園で水を汲んでいる姿が目撃されている。


そんなに好きか、『平成夫婦茶碗』・・・(笑)!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!