天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編60話『チョコレートケーキ(湯のみIN)を届ける』

ご挨拶

「こんにちは。千明です。
もうお忘れかもしれませんが、千明は元気にしています。
千明です。だいたい、私の名前が千明なのか、千晶なのか、千秋なのか、もう解ってないようです、書いてる人間も。昔の話を見て思い出してるようです。私が可愛いからでしょうか。そんなに典子が好きなんでしょうか。どうせ、典子本人の顔なんて覚えてないに決まっているんです。なんでも、書いてる人間の中では、典子と、ナニワ金融道の事務の女の子は一緒のイメージなんだそうです。そうは言っても、そのナニワ金融道の女の子の顔だって具体的には思い出せないに決まっているのです。
私、千明の方がよっぽど可愛いと思います。なので今日は千明の話です。ぺこり」

yukio
 

バレンタイン・・・。
乙女の夢。
2月14日、千明は意気揚揚と腰越人材派遣センターに向かっていた。
手には、もちろんチョコレートとプレゼント。チョコレートは、デパートのチョコレート特設売り場をくまなく回って、試食もして、探し出したおーいちーい生チョコ。
ひろちゃんへの可愛いテディベアチョコも用意したし、プレゼントだってばっちりよ!
ふふ〜ん♪と鼻歌まじりでドアを開け、
「ゆっきおぉ〜〜っ!!」
と、飛びこんでいったら。

「あれ」
「あ、千明ちゃん、いらっしゃい」
「ひろちゃん、一人ぃ?由紀夫はぁ?」
「仕事ー」
「えぇーーー!!んもー!なぁにやってんのよぉー!!」
何といっても当然仕事だが、千明はせっかくワクワクとやってきたのにと不服気にソファに身を投げる。
「つまぁ〜んなぁ〜いぃ〜」
厚底のサンダルをばたばたさせて千明は口を尖らせる。
「せっかくぅ〜〜・・・・・・・・・、それ、何、ひろちゃん・・・・」
「え?あ。これ?」
「それ」
「解るでしょ?」
「・・・うん・・・」
千明が目にしたもの。それは、由紀夫の机の上に、山盛りになっている華やかな包みの数々だった。
「でも、なんでぇ!なんでそんなにあるのよぅ!」
「ここんとこ、依頼人とか、届け先とかに女の人が多くってさ、なんか、顧客名簿みてるみたいでおかしかった」
片付けているだけで、自分もちゃっかり貰っている正広がにこっと笑う。
「えー!何考えてんのよぉー!仕事なのにぃー!由紀夫仕事でやってるのにぃぃーーー!!」
ソファから跳ね起きてプレゼントの山に近づいた千明は、そこに市販の包み紙をあまり発見できなかった。
「え、これってどこの?」
「あ、それはね、手作りだって言ってたよ。大変だよねぇ・・・」
正広はしみじみうなずいた。

昨日までの腰越人材派遣センターは、うっ、と来そうな甘い香りに包まれていたのだ。
奈緒美がトリュフを作りつづけており、正広、典子はそのサブにつき、由紀夫、野長瀬は、パッケージ作りにいそしんでいた。
まさしく家内制手工業、まにふぁくちぃあ!
「そのチョコ持って、奈緒美さん今お客様詣で中、野長瀬さん運転手にして」
「大変ねぇ、水商売も」
「水商売!?」
「え!?客商売!?」
え!?えぇ!?お互いに顔を見合わせて驚く二人だった。
「じゃあ、典子ちゃんも一緒なの?奈緒美さんと」
体勢を立て直し、一人ぼっちの正広を見ながら聞くと、正広は首を振る。
「バレンタインに働くほど落ちぶれちゃいませんってお休み」
「何ぃーーー!!!それどーゆー意味ぃぃぃーーー!!!???えっ!典子ちゃん、ひょっとして・・・、できたの・・・・!?」
「・・・多分・・・」
「うっそぉ!あたし、何も聞いてなぁーーーい!!」
くやちぃーー!!と由紀夫の椅子に乱暴に座ったため、正広が面白がって作った、プレゼントの山が崩れる。
「あっ!」
「あ!ごめん!大丈夫?千明ちゃん!」
「・・・・・・・・・大丈夫ぅ・・・・」
膝の上をプレゼントで一杯にした千明がひきつった笑顔で答えた。

友達は、人に内緒で男作ってるし、大好きな彼(彼言うな!!by由紀夫)は仕事で帰ってこないし、しかもよその女から断りもなく(断る必要ないじゃん!by女たち)チョコレート贈られてるし・・・!
許せないぃーーー!!!
でもぉぉーーーー!!

そのプレゼントからは、ほんのりと甘い香りがする。いかにも手作りの温かい雰囲気・・・。
ソファの上にあるとある高級店のチョコレートが、なんだか義理っぽく見えてきた。
「・・・あたしも手作りしたぁい・・・」
「えっ!?」
「手作りチョコレートぉ」
「手、手作りって・・・」
「奈緒美さん、作ってたんでしょ?材料とか余ってるんじゃないのっ!?」
「・・・余る訳ないじゃない・・・」
「・・・そっか、奈緒美さんだもんね・・・」
最後の1個は、ボールからこそげ落とすようにして丸くした奈緒美だ。
「それに作り方とか解るの?」
「だからひろちゃん、お手伝いしたんでしょ?」
「お手伝いって、だって、材料に何使ってるかなんて知らないもん」
「えー!!チョコレートって、溶かして固めたらいいんじゃないの?」
「なんか、湯せんとかしてたよ」
「何、ユセンって」
「お湯の中にボールとかいれて、そこで溶かすの」
「そんなのレンジでチンすればいいんじゃないの?」
「・・・どうなのかな。いいのかな」
「・・・でも、とにかく、材料の分量とかが・・・!あ!ねぇこれは!」

正広のデスクから出てきたのは、ビストロSMAP体にいいレシピ。
「これに、チョコレートケーキが載ってた!」
「チョコレートケーキ!キャー!素敵っ!バレインタインぽーい!!」

 

「ねー、ひろちゃーん、買えなかったぁ〜」
大荷物で帰ってきた千明は、開口一番そういった。
「買えなかったって?何が?」
「メレンゲ〜。メレンゲって売ってないのねー」
「・・・うん。多分売ってないよ・・・」
「どうする?近所のスーパーだから?紀伊国屋とかいかなきゃだめ?」
「・・・作れるから大丈夫だよ、千明ちゃん」
「そうなの?メレンゲって。ん?メレンゲってなに??」

首を傾げる千明にエプロンを貸して、正広は体にいいレシピを音読する。
「まず、刻んだチョコ・バターを湯せんかけて溶かします!」
「レンジでチンすりゃいいのね」
「えっ!?」

チン♪

「溶けたわよぉ〜」
「・・・い、いいのかなぁ・・・」
ぷくぷくと泡だっているバターを見下ろしながら、正広は大きく首を捻る。レンジでもいいんだったら、レンジでって書いてあると思うんだけど、いいのかなぁ、いいのかなぁ・・・・・・・・。
「ら・卵黄・グラニュー糖は泡だて器で白っぽくなるまでよく混ぜ合わせます」
「ランオウ、ランオウ・・・。らんおう?」
「黄身!卵の黄身!」
「あ、黄身ね。・・・なんか懐かしいー!家庭科とかでやらなかった?白身と黄身の分けるやつ。えっと、どーするんだっけ」
「千明ちゃーん!白身もいるのー!!」
こんこん、と意外にすんなりと卵を割った千明は、黄身を卵の殻に残し、白身を流しに流す。
「え!なんで!?」
「白身でメレンゲ作るからー!」
「あ、そうなんだ」
「そうなんだよ、千明ちゃん。だから白身もちゃんと」

ぐしゃ。

「・・・こーゆーの猿も筆の謝りって言うのかしら」
「・・・それって、ものすご間違ってるってことじゃない?」
せっかく卵黄が1つ分入っているボールだったのに、正広は、そこに白身、黄身、殻を混入させてしまった。
「・・・後で、卵焼きでも作る・・・?」
「そ、そうね!そうしましょっ!」
そうして、4個でいい卵を、7個ほど使い、卵黄4個を用意、グラニュー糖と混ぜ合わせた。
「千明ちゃん、1kgも砂糖いらなかったんじゃない?」
「だって、グラニュー糖ってこれしかなかったんだもん」
「あれでもいいんだよ、あの、コーヒーシュガーみたいなやつ。1本6gとか入ってるヤツが10本で60gじゃん」
「ひろちゃん!!」
「えっ!?」
「あったまいい・・・!」
「え?そかな」
へへ、と笑いながら、千明の手元を見ている正広だった。

「もう白いかな」
「白く、まではないけど、いいんじゃないかなぁ。えっと次は、2に1と生クリームを加えてなめらかになるまで混ぜ、ふるっておいた薄力粉とココアの順に混ぜ合わせる、だって」
「2、ってなに?」
「2って、今やってるそれ。卵黄とグラニュー糖に、さっきのチンした・・・、なんか、変なのぉ・・・」
チョコレートが、妙な感じに固まりつつあり、正広は困った顔をしたが、千明は、料理は勢いと気合!と混ぜ合わせてしまう。
「後、生クリームはぁ〜」
「はい、1/4カップ」
まぜてまぜて、滑らかになるまで、混ぜて・・・・・・・

「・・・なんか、ちょっとなめらかじゃ・・・」
「大丈夫!だって火を通すでしょ!?滑らかになるって!後なんだっけ、小麦粉とココアだっけ!」
「そうそう。それはふるって・・・あーー!!まだだめーーー!!」
「えぇっ!?」
千明は、正広が計って用意してくれていた小麦粉を一気にボールにいれてしまっていた。しかしそれはまだ、
「ふるってないんだよぅ・・・」
「あ。それって・・・」
「・・・ちょ、ちょっと、なめらかじゃなくなる、かも・・・」
「だ、大丈夫よ.一生懸命混ぜるし・・・」
そういう問題なのかなぁ・・・。
正広の不安は徐々に、徐々に、大きくなっていき、これはいけない!とさっさとココアをふるった。

「さ、千明ちゃん、ここからだ大変だよ。メレンゲを作らなきゃいけないからね」
「メレンゲ。どーするの?作れるの?」
「作れます。さっき別にしておいた卵白。これを泡立てます!泡立てて砂糖をいれて、つのが立つくらいにします!でも大丈夫!ここには電動ミキサーがちゃんとあるからーー!!」
と、いつもの戸棚を開けた正広は、あれ?と首を傾げる。
「こないだまでここにあったんだけど・・・」
「ないの?」
「うん。あれ?ん??」
まさか野長瀬が趣味のシフォンケーキ作りのため、黙って持ちかえっているとは露知らずの二人だった。

「・・・ってことは、手で泡立てなきゃいけないんだ」
「それって大変なの・・・?」
「手でやったことないから解らない・・・」
「・・・でも、できるわよ。古代には電動ミキサーなんかなかったんだから!いけるわ!」
ふんっ!!とボールを腕にかかえこみ、えぐるように、泡立てるべし!泡立てるべし!!泡立てるべしっ!!
「ひろちゃん、疲れたぁ〜・・・」
「えっ!?もう!まだ1分もたってないのに!」
「疲れたぁ!変わってぇ〜!」
しかし、昔少年野球をやっていた正広の腕も、泡だて器の前ではあまりがんばれなかった。1分置きぐらいに、変わって、変わって、と変わりつづけて、
「ちょ、ちょっとまって!?」
正広が千明を止めた。
「俺たち、今、何作ってるんだっけ・・・」
「え?チョコレートケーキ」
「そ、そうじゃなくって。これ。これって・・・、生クリームだっけ・・・」
「これって・・・、これはメレンゲ。メレンゲって生クリーム?」
「違うけど、生クリームみたいになってない?」
なっていた。
二人が交互に持っていたボールの中身は、どうみても、6・7分程度に立てられた生クリーム。
「メレンゲって、もっとふわふわしてるんだよ。泡も大きいんだよ・・・」
しかし柔らかいし、ぴん!と角など立つ様子もない。
「・・・何をしたんだろう。泡立て過ぎ・・・?」
「さぁ・・・」
シーン、と黙った二人。千明の目は、じぃーーーーっと正広に向けられ、向けられた正広は、その目線を持っていくところがなく、じぃーーーっと見返す。
「・・・・・・・もう、いれちゃおっか・・・」
「そうね・・・・・・・」

「メレンゲの1/3を3に加え、よくなじんだら残りのメレンゲを加え、泡を消さないようにヘラでさっくりと混ぜあわせます」
「3って、これ、ココアの入ったやつ?」
「そう、それ。それに1/3の・・・、どう見ても生クリームだけど・・・」
「気にしない、気にしない!なんか、濃厚な味ってのになりそうじゃない?」
「なるかなぁ・・・」
メレンゲという名の生クリームをいれて混ぜ、残り2/3もくわえる。泡をつぶすもなにも、泡なんてありませんっていう状態で軽く混ぜて、後はココットにいれて焼くばかり。

「ココットって何?」
「ココット・・・・・・。あれ?ココットって料理の名前じゃん」
「そうなの?」
「ココットって、・・・そうだと思う、けど・・・」
正広は記憶を一生懸命たどる。
「卵と、なんとかのココットって、食べたことある、と、思う」
「じゃあ、それがいるの?」
「でも、それ料理だし、ようは焼く時の入れ物でしょー。なんか、これとかでもいいんじゃない?」
正広が出してきたのは、腰越人材派遣センターでは一般職員用だが、小さな会社なら、そこそこのお客にも出せますぜ、という湯のみ。
「湯のみねぇ・・・」
「だって、写真見てよ、これから出して粉砂糖とかかけるんだから、入れ物はなんでもいいんだって」
そして湯のみにタネを流し入れ、160℃のオーブンでやくこと35分・・・。

「もう、いいかな・・・」
「あ!膨らんでるじゃなーい!」
オーブンを覗きこんだ千明は手を叩いて喜んでいるが、正広にも信じられなかった。膨らんでるじゃん、ちゃんと・・・!
やったぁ!とオーブンの扉を開いた途端。

ふしゅしゅしゅう・・・・・・・・

「あーーーーーー!!!!!」
「あっ!!えぇーーーーー!!!????」

チョコレートケーキはぷしゅんと沈んでしまった。
「えーー!!魔法ぅぅーーー!!?」
「千明ちゃん、無邪気すぎ・・・!」
様々な悪条件が重なり、うまく膨らまなくなっているようだ。
「で、でも、あの、しっとりしたケーキに、なってるよ!多分!うん!きっと!!」

そして、オーブンからそっと出された湯のみは、なんだか、重たい感じのチョコレート生地が、みっしり詰まったものになっていた。
「・・・こ、これを取り出して、粉砂糖でデコレーションして・・・」
「粉砂糖なんて買ってないけど」
「あ。あったほうが綺麗かもよ。上にふわっと、ほらこんな写真みたいに」
言いながら、湯のみをさかさまにして振りまわしていた正広は、でないなぁ、と湯のみの中を見る。
「出ないね」
「でないわねぇ。あの、フォークかなにかで回りつつく?」
「でもそんなことしたら傷ついちゃう。これ、バター塗った?」
「バター?なんで?」
「え、バター、塗るって・・・。俺いわなかったっけ!」
「聞いてないぃー!何、バターって塗らなきゃいけないの!?入れ物に!?」
「だって、取れなくなっちゃうんだよ!あー、どーしよー!」

「ただーいまー」

「あ、兄ちゃん・・・」
「あ、由紀夫・・・」
寒い中帰ってきた由紀夫はなんとも言えない顔で、正広と千明から見つめられた。

「バレンタインってのは、やっぱり湯のみとスプーンだよな」
「もー、いいじゃないのー!食べなさいよー!食べてよぉー!」
ケーキが入ったままの湯のみをもたされ、スプーンで食べさせられている由紀夫は、ふ、と口元だけで笑う。
「まぁ、バターを塗るのを忘れたから、ちょっと取れなくなってるけど、味はいいでしょっ?」
「・・・・・・・・・・」
「こーたーえーてーよぉーーーー!!」
「ごめん。口を開けば、正直な言葉があふれてきそうで・・・」
「どーゆー意味ぃ〜!」
ぷぅー!と膨れる千明は、そうだ!プレゼント!と自分の荷物を取りに行く。
「はいっ!後これ、プレゼント!開けてー!」
大げさな大きなリボンのついた薄い箱を由紀夫は開けさせられ、中身を見た途端、そのフタで千明を殴った。
「なんなんだよっ!」
「えっ!千明ちゃんと初めて朝を迎える時のための勝負パンツでしょう!?ボディワイルドでしょぅーーー!!!」
「帰れ!二度とくんな!」

うーん、やっぱり落ち着くなぁ〜。
やっぱ、事務所はこうじゃなくっちゃねぇ。
正広はうるさい兄と千明のやりとりを心地よいBGMに変換し、余った卵でダシ巻き卵を作っていた。
もちろん、その卵焼きが一番美味しかったことは言うまでもない。

「これって千明の話なのー!?話なのぉぉぉーーーー!!!!???」


そうじゃないかもねぇ、千明ちゃん・・・(笑)
この週末、私がこのケーキを作ってしまう確立は、今のところ75%ほどだと思う・・・!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!