天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編64話『ホワイトデーの贈り物を届ける』

「ホワイトデーには」
当然何もないのです。ふふ。バレンタインに何もしなきゃ、ホワイトデーにも何もこない。世の中よくしたもんですね(笑)腰越人材派遣センターの女性陣はそんな乾いた生活はしてませんから、ホワイトデーはデートのお誘いなんかをさばくのが大変のようです。種をまけ!そして刈り取れ!そういうことなんですね・・・(笑)

yukio
 

「さぁ兄ちゃん」
「は?」
「もう作らないと」
「・・・何を?」
「えっ!」
正広は軽く仰け反りながら、「がびん」のポーズをした。
「がびん」のポーズは最近正広のお気に入りポーズで、軽く仰け反った口元あたりに、指先をそろえた右手を持っていく、というものだ。軽い驚きとショックを伝えることがでいる。
それがなんだか可愛くて連発中の正広は、「がびん」のポーズのまま、ベッドに入っている兄を見下ろす。
「『えっ』って何が。何を作るって?」
相変わらずパジャマはグッチのシャツにおパンツだけというせくしぃ丸だしで寝ていた由紀夫は、なぜせっかくの休みの朝に弟から起こされなきゃいけないのかが解らない。
大体時計を見ると、まだ9時すぎ。いつもなら正広は爆睡中だ。
ひょっとしてもう夜なのか?とも思ったが、明るい日差しが違うわボケと突っ込んでくるばかり。
「兄ちゃん、だって今日からかからないと間に合わないよ」
「はい?何?俺、なんか約束とかしてたっけ?」
「してたでしょお!してたって言うか、まさしくお約束でしょう!?」
「お約束・・・?」
「そうだよ?もう火曜なんだから」
「え!?ホワイトデーかぁ〜っ!?」
「ぴんぽーん!!お返し作らないと!」
由紀夫は毛布を頭から被って丸くなった。
「ちょ、兄ちゃん!?」
正広がゆさゆさ揺さぶってもびくともしない。
「ねー、にーちゃーん!1度は作ってみなきゃー!千明ちゃんみたいに失敗できないでしょー!ねぇー!!」
「ぐー」
「寝たふりしないでー!ねー!にーちゃーーん!!」

バレンタインデー、由紀夫は多くの顧客たちからチョコレートを山ほどいただいた。
さらに、千明からも、茶碗にみっしり詰まった高密度チョコレート生地を食べさせられている。由紀夫は、甘いものが苦手ではないが、えぇー?ケーキバイキングぅ〜?いっくらでも食べられちゃぁ〜う、とか、お汁粉鍋一杯に食べたぁ〜い、なんていうタイプでは絶対にない。
「なんで俺があれに礼をしなきゃいけねんだよ!」
「千明ちゃんは、千明ちゃんなりに一生懸命だったんだよ!」
正広は強く主張した。
「できはともかく!愛情は詰まってたじゃん!」
「愛情しか詰まってねぇできそこないよりは、愛情かけて選んでくれた既製品を俺は愛するぞ」
「うわっ!ひどっ!!」
再び「がびん」のポーズになった正広は、これ幸いと由紀夫が寝の体勢に入ったので、慌てて揺さぶりを続ける。
「でも、お返しはしなきゃダメだってぇ〜!」
「んなこと言ったって、千明以外にもたくさんいたじゃねぇか!どーすんだよ、全員に何か作んのか!?大体、誰に返せばいいかなんて・・・」
「解るよ!」
びしっ!
正広は、B5サイズのシステムノートを得意げに取り出した。
「これに、ちゃんと書いてあるから!えっとね、兄ちゃんにプレゼントくれた人の名前と、くれたものと、解る人は連絡先と!ばっちり!」
「・・・なんでそんなこと・・・・・・」
毛布の下からうんざりといった声が上がる。
「やっぱりね、仕事をしてると思うんだ。人は財産だな、・・・って・・・」
酒の席でよっぱらった奈緒美から言われたらしい、キラキラとした目で正広は言う。
「こーゆー人たちが将来、兄ちゃんの顧客になっていくんだよ!」
「なんだ顧客って!」
「え、だから・・・。あの、お届ものしてくださぁ〜い、って言う・・・」
あまり深くは考えていなかったらしい。
ちょっと首を傾げた正広は、でも!と立ち直った。
「ともかく!いただいたらお礼をする!それは日本人の美しい習慣なんだよ!なんか昔って、風呂敷でお土産を貰ったら、その風呂敷に何かいれて返したって言うし!」
「今時そんな儀礼的な・・・」
「ううんっ!」
がばっ!と正広は由紀夫の毛布をはぎとった。
「プレゼント貰って嬉しいから、相手にもプレゼントするって言うのは美しい思いやりのやり取りじゃないの!ものじゃないんだよ!心なんだよぅ!!」

力説する正広を、ベッドで丸くなったまま見上げながら、由紀夫は考えていた。
本来、日本のバレンタインデーには愛の告白という主目的が設定されていたのだから、それに対応するホワイトデーのお返しには、それを受ける、という側面があるのではないか。
それをそんなに全員に返してもいいものなのか。
しかし正広は、とにかくお返しをするんだ!と意気込むばかりなのだった。

「さて、兄ちゃん起きましたね」
起きましたね、どころか、丸くなってる兄の腕を引きずり、バスルームに放り込んだのは正広だ。由紀夫は、長い髪からぽたぽたしずくをたらしながら、グッチのシャツを濡らしている。
「もー、髪くらい拭きなよー!」
「・・・眠い・・・」
「プレステ2、やりすぎぃー!」
もちろん早坂家にはプレステ2が発売当日からある。田村による改造済みというおっそろしいブツだ。
「んなこと言ったって、休みだと思ってたからさぁ〜・・・」
「休みじゃん。お休みの日にお菓子を作るなんて楽しいよねっ!」
「うんっ!俺が女子高生だったらなっ!」
ぶすっとした顔で口調だけは弾ませる兄の女子高生姿を思い浮かべる。
「・・・結構イケるかもしれないけど、ちょっと迫力ありすぎ・・・?」
「え?俺はもう山姥丸だしで行こうと思って」
「そゆ子たちは、あんまうちでお菓子とか作らないんじゃないの・・・?」
「そりゃ人によるだろ。でも、正子ちゃんは、清楚な女子高生でいてねっ!紺の膝丈プリーツスカートに、白い三つ折りソックス黒の学校指定靴は、あくまでもぴかぴかと手入れが行き届きっ!」
「兄ちゃん、オヤジくさい・・・・・」
「いんだよ!俺はオヤジくさいんだよ!だから、お菓子とか作りたくねんだよ!」
「もー、そんなわがまま言ってぇ〜」
ニコニコと楽しげな正広に、諦めたようにソファに座った由紀夫は何を作るの、と尋ねる。それに正広は答えながら、つけていたエプロンを外した。
「チーズケーキを作りますっ!」
「・・・そんで、なんでエプロンを・・・。あ!てめ、俺一人に作らせるつもりかっ!?」
「違うよぅ。これは朝ご飯作り用。ほら、兄ちゃん早く食べて」
「あ?あぁ・・・」
テーブルの上には、ご飯に納豆をメインにした、正しい日本の朝食が並べられる。
「これ食べたら出かけようね」
「・・・どこへ」
「材料買いに」
「買っとけよ!!」

 

「んー?」
スーパーの乳製品コーナーで正広は首を傾げる。
「何?」
「ない」
「何が?」
「えっとねぇ・・・」
正広は、手にしたメモを見ながら読み上げる。
「クレーム・ラフィレ・・・発酵クリームだって」
「発酵クリーム・・・・・・・・・・・。ないなぁ」
「ないでしょ?」
そのスーパーの棚にあったクリームといえば、生クリームオンリー。これはいけない、と店を買えてみた。

「クレーム、クレーム・・・・・・・」
「ねぇぞ。サワークリームってのならある」
「サワークリーム・・・。何に使うもん?」
「んー?シチューにいれろとかって書いてあるけど」
「・・・ケーキだもんねぇ・・・」

また違う店にいくと、また新たなクリームが見つかる。
「クロテッドクリーム」
「ん?それは何をするもん??」
「スコーンに添えるもんらしいな。イギリス製」

むーん。
正広たちは立ち往生してしまった。
「それなかったらできねぇの?」
「うーん・・・どうだろう・・・」
正広は材料だけをメモして来たので、どこでどういった形で作られるものか解らない。
「それがわかったら代用もきくかもしんねぇけど・・・。なんか本の載ってたレシピ?そこらで立ち読みする?」
「ううん。本じゃないんだ。典子ちゃんがインターネットで見つけてくれたヤツだから・・・。だから、とりあえず他は見つかったんだし、うち帰ってレシピ見てみる!」

 

他の材料として、グラハムクラッカー(溝口正広未体験)、クリームチーズ、無塩バター、粉砂糖、生クリームなどを買いこんでうちに帰ってきた。
正広は慌ててレシピを広げ、妙にこそこそと覗いている。

その弟の行動に不審を覚えた由紀夫は、気配を殺して背後に近づき、さっ!とレシピを取り上げる。
「あっ!なんだよ!兄ちゃんっ!」
「・・・イタリアン・レストラン・ラ・ボニータ」
「きゃーーー!!!!」
「おまえはどこまでファンなんだぁーーーーっ!!!」

そう。
正広はただ、イタリアン・レストラン・ラ・ボニータのHPに載っていた、Tくん考案のチーズケーキを作ってみたかっただけなのだった。

「・・・でも、待てよ。ん?1回やいて、今度はこのクリームを乗せて、また焼くってことか」
「二層なんだもんねぇ」
「発酵クリームねぇ〜。デパートとか、後はー、高級食材店でも行かなきゃないんじゃねぇの?」
「じゃ行こっ!」
ウキウキ、キラキラした表情をする正広に、なんかめんどくせーなー、と思っていた由紀夫はついつい手近にあった雑誌なんぞをめくってしまう。
そして。
「あ。これいいじゃん」
と正広に見せた。
「え?あ!」
正広の表情が驚きに変わった。

 

「ゆっきっおぉ〜♪♪」
3月14日ホワイトデー。千明は踊る足取りで朝一に腰越人材派遣センターに足を踏み入れた。
「うふっ!来ちゃったっ!」
「何しに」
「いやん!だって今日はホワイトデーなのよ!ホワイトデー!解ってるくせにぃっ!」
由紀夫の腕に抱きついて、プレゼントはっ?とマスカラでばっちりカールさせた目元をしばしばさせる千明。思わず笑いそうになりながらも、由紀夫は難しい顔を作って、バックから小箱を取り出す。
「はい」
「きゃあ綺麗!」
千代紙細工のような箱に千明は声を上げて、両手で大事そうに眺める。
「うわーん、可愛い!何が入ってるのぉ?ピアスぅ、指輪ぁ?」
そう。あたかもそういったものが入っていそうに見えたその小箱には。

「・・・・・・・・・・・・・・これ、何・・・・・・・・・・・・・・?」
「生八つ橋」
「生八つ橋ぃ〜〜〜〜!!!!!???????」
「手作りよ、ハンドメイド」
「えっ!?由紀夫が生八つ橋なんて作ったの!?手作り!?」
「手作り、手作り。おめ、大変なんだから、1度に4枚しかできねんだぞ?皮」
「えぇ〜〜!!八つ橋って作れるのぉーーー???」

作れるのだった。
早坂家の主夫を自認する正広は、どうしても、オレンジページや、すてきな奥さんを買ってしまう若者で、その中に生八つ橋の作り方が載っていた。
1度に4枚しか作れないという希少性が面白くて、二人は、何度も何度も作り、かなりの数の八つ橋を作り上げていた。種類も4種類にのぼり、中に挟む餡さえ2種類用意され、さまざまなバリエーションが作られた。
しかもそれは月曜の深夜からの作業だった。なぜなら。
「それ、全っ然日保ちしねぇから。すぐ食えよ」
「えっ?あ、うん、ありがと・・・」
もちろん、ヒカリモノを期待していた訳ではなかったにせよ、あまりに意外な「手作り生八つ橋」。千明はすっかり毒気を抜かれた形で、一口食べて、「美味しい!」と声を上げた。
この大量に作られた生八つ橋は、由紀夫自ら、チョコレートをくれた人たちのもとに運ぶというオプションつきで大好評、来年から大変な騒ぎが起きそうだが、これが一般のトレンドになるかどうかは多いなる謎だ。


それにしても、ほんとに見つからないんですよ、クレームラフィレ。サワークリームならあるんですけどね。むー、むかちゅくー!!!作りたいんです、Tくんのチーズケーキ(笑)そして八つ橋好きとして、八つ橋も作ってみたいんです!でも八つ橋は綺麗に伸ばして、綺麗にカットしなきゃいけないらしく、そこが面倒だ、と正直に思う私なのでした(笑)誰か作ってみて!生八つ橋(笑)!ちなみに私がホントに好きなのは、生じゃなくて、焼かれてる八つ橋!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!