天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編65話『卒業式とは』

「卒業式」
多分、稲垣医師あたりは、卒業生総代で挨拶くらいしたことがあるかもしれません。ひょっとしたらですが(笑)

yukio
 

卒業ソングのランキングがテレビで流されている。
正広はうとうとしながらそれを聞いていた。
ユーミンの卒業写真とか、ドリカムの未来予想図とか、尾崎豊の卒業とか、菊池桃子の卒業とか、斉藤由貴の卒業とか、海援隊の贈る言葉とか、なんか色々。
卒業式かぁ〜・・・。

『卒業生の、おにーさん!おねーさん!』
とかってやったよなぁ〜・・・。すんごい練習させられるんだぁ・・・。在校生たちが、立ったり座ったりしながらあれこれいうんだよね。
あそこでソロを貰ったりすると、嬉しいんだか、プレッシャーなんだか、よく解んなくって大変なんだぁ〜。

 

春3月。
桜が咲いていて、校庭にはらはらと雪のように降る。
その校庭を歩いていくと、奥に体育館があって、卒業式はそこで行われる。正広は、紺のブレザーに、可愛らしい蝶ネクタイなんぞをさせられて、一人てくてく歩いていた。
でも、その蝶ネクタイは、当然ながらゴムで首にはめてるタイプ。なんだか、息苦しいと首を捻るけど、ずれたらいけない、となんとか我慢する。
今日は小学校の卒業式なんだから。
でも、どうして自分だけなんだろう。
クラスの友達もいないし・・・。体育館に先に行ったのかなぁ・・・。
てくてく、てくてく、桜の花びらの中を歩き、体育館についたら、もう体育館は人で一杯だった。
「やべ・・・!」
自分のクラスに早くいかなくちゃ、と思ったら。

「遅刻かぁ?」
巨大なおじさんに立ちふさがれた。
見上げるほどに巨大なそのおじさんは。
「野長瀬さん?」
野長瀬だった。野長瀬で、サイズはノーマルサイズなのだが、何分正広は小学生。見上げるほどに大きく、凶悪に見えた。
「遅刻するような子供は、そこに立ってなさい!」
「えぇっ!?」
卒業式なのにぃっ!?
卒業式で、ブレザーとかも着せてもらってるのに、どーして立たされてるの?しかも、バケツなんて持たされてるの!?
体育館の端っこで、野長瀬と並んで立っている正広は、その銀色のバケツの中に、やけに色鮮やかな金魚がいるのが見える。ひらひらの尻尾が綺麗で、ぱしゃん、と水面に波紋を作っていた。
そんな金魚を眺めて心を和ませていると、校長先生が壇上に上がった。

あ。奈緒美さんだ。

でも、挨拶が長い。
壇上に上がったと同時に喋り始めて、2分、3分、5分、10分・・・・・。
「ですから、社会のインフラ整備が進む中、わたくしたちが、その先に見るであろう、新しい、いえ、この問題は昔から言われつづけてきたことではありますが・・・」
何言ってるか解らないしぃ!

そのうち、段々手が痛くなってきた。
右手側のバケツが重たい、と思ったら、そりゃ重たいはず!
「野長瀬さん!なんで入ってんの!?」
「暑いから」
「暑いからって、重たいよ!」
「いや、でも、遅刻した子供は、水の入ったバケツを持って立つというきまりだから」
「きまりって!でも、遅刻した子供は、野長瀬さんと水の入ったバケツを持つなんてきまりはないはずです!」
はっ!
どういう体をしてるんだか、銀のバケツから、首だけを覗かせていた野長瀬が驚きの表情になる。
「・・・確かに・・・!確かにそういうきまりはない・・・!」
「でしょう?」
「でも、暑い・・・」
「だから、バケツ下ろしますよ。それならいいでしょう?」
うーーーーーん!!!
またどうやってか解らないながらも、手帳を取りだし、校則のページを眺めているらしい野長瀬入りバケツを下ろし、あー、痛かった、と手のひらをさすっていると。

「溝口正広!」

壇上から呼ばれた。
「えっ?」
「卒業証書を取りに来なさい!」
「あっ、はい!」
さっきまで立たされていたのは体育館の一番後ろ。一番前まで歩くのに、やけに時間がかかった。
こんなに大きな体育館なんて、代々木体育館みたいだ。
・・・どんなところか知らないけど、多分大きいんだよね。
体育館の中は、卒業生と在校生、それに卒業生のお父さんや、お母さんたちが来ている。
でも、卒業証書を貰うのは自分だけ・・・?
不思議に思いながら、壇上に上がろうとすると両側から腕を引っ張られた。
「いたっ」
「止まらなきゃ・・・!」
「ここで止まって・・・!」
双子みたいに同じ格好をしてる、千明と典子だ。
「え?と、止まるって・・・?」
列席者の一番前のところで正広は立ち止まる。
「ここで、礼をするのよ、礼」
「え、れ、礼?」
ぺこり、と校長であるらしき奈緒美に頭を下げると、奈緒美が小さく首を振る。
「そっちじゃなくって・・・!こっち・・・!参列の人に・・・っ」
「あ、そっか」
練習してたっけ。そおう思い出して、右側の人たちに礼をする。左側には先生たちがいるんだったっけ。と思い、そちらにも礼をして、もう1度校長の奈緒美に礼をする。
ここでようやく腕を放してもらった正広は、真中に置かれた階段を上って、奈緒美の前に行く。

それで、賞状を受け取る時は、右手でまず持って、左手でも持って、自分の手元に引き寄せたら、左手に半分に曲げて渡して、礼をするんだ。
あれ?礼は最初にもするんだっけ。
あれ?あれあれ?
練習したはずなのに思い出せない。
前にいる人を見ていようにも、どうしてか受け取るのは自分だけらしいのだ。

奈緒美が読み上げているであろう卒業証書の中身も聞いていられない。礼をする場所が解らなくなってしまった。
どうしよう、どうしよう・・・!
段々、気持ちが焦ってきて、ドキドキして、手のひらが冷たくなってくる。
それでも、証書は自分に向かって差し出され、ともかくそれを取らなくてはいけなかった。

ここは解ってる。右手で持って、左手を出す。
それが正解のはずだ。
よし、右手を・・・!

「あっ!」
「あぁっ!!!!!」

正広は顔面蒼白になった。
奈緒美も顔面蒼白になり、体育館中の人が息を呑んだ。
あの、野長瀬と水入りバケツを長時間持たされていた正広の右手はすっかり麻痺していて、受け取れたはずの卒業証書を取り落としてしまったのだ!
水を打ったように静まり返る体育館。
蒼白だった奈緒美にこめかみに、ぴしぃ!と怒りマークが入った音が、全員に確かに聞こえた。

「卒業証書を落とすだなんて、どういうことなんですかぁぁ!!!」
「校長が!校長が火を吹いた!」
「助けてぇーー!!!」
逃げ惑う児童たち。正広も逃げたかったが、足が固まってしまって動かない。

「1年生だった僕たちと、一緒に給食を食べてくれた」
『おにーさん!』
「掃除の仕方を教えてくれた、優しい」
『おねーさん!』

なんでこんな時に、在校生のお礼の言葉なんてやってるんだよぉーー!!
助けて!兄ちゃん助けて!!!
焼け死んじゃう!熱い!熱いよ、兄ちゃん!!にいちゃーーーーんん!!!

 

「どした・・・?」
額にひんやりとした手が置かれ、正広は目を覚ました。

 

「ねぇー・・・、にい、ちゃーーん・・・」
「あぁ?」
「そつぎょーしきぃ、なに、やったぁ〜・・・?」
「卒業式ぃ?」
ん?と由紀夫は宙を見上げる。
「・・・卒リンとかじゃなくて?」
「じゃなくってぇっ!」
がばっ!と起きあがった正広は、いたたたた・・・・・・・とベッドに倒れこむ。
「バカ!何やってんだよ」
「いたぁ〜いぃぃ・・・・・・・」
両手でこめかみを押さえ、涙目で正広は訴える。
「痛いに決まってんだろ!何度出てると思ってんだ!」
「ひぃ〜ん・・・」
氷枕に氷詰めこみ中の由紀夫に睨まれ、正広はしおしおと枕に頭を乗せる。
現在、38.9度。昼間暖かく、朝晩冷える気候の中で引いた風邪は、おっそろしい頭痛を伴うものだった。
「頭、上げるぞ」
兄の声がして、首筋にひんやりと冷たい氷まくらが当てられる。
「気持ちいー・・・」
「テレビ、消すか?」
「ううん。つけといて」
ぐらぐらするから目は開けられないけど、テレビっ子としては、テレビの音がないのが寂しい。ラジオやCDでもよさそうなもんだが、正広はテレビの音が好きだった。
「ねぇ・・・」
「ん?」
ちょうど3連休の初日に正広は熱を出し、今日は連休中日。熱がある!となった時点では慌てて森医師の往診を頼んだ由紀夫だったが、3連休だし、ゆっくり寝てれば段々引きます、とのほほーーんと言われて、今は落ち着いている。
「そつぎょう、しきは・・・?」
「卒業式ねぇ・・・」
早坂由紀夫になってからは驚異の記憶力を誇っている由紀夫でも、それ以前のこととなると人並み。
「あんま、覚えてねぇなぁ」
「おぼえてない?」
「ま、高校は行ってないで間違いないとして、中学、小学なぁ・・・」
うーん、と考えこんだ由紀夫は、そうだ、と手を叩いた。
「おもいだしたっ?」
「正広さん。お薬のお時間です」
「えぇ〜っっっ!!!」

その解熱剤は、由紀夫と正広の間では、「睡眠薬」と呼ばれている薬だった。
単に眠らせて体力温存させて、自力で治させようとしてるんちゃうん!!!というほど眠くなる。
そんな中で、正広は夢を見ていたのだ。
「さっきもへんなゆめ、みたのにぃ〜・・・」
「変な夢?」
「そつぎょーしょーしょをちゃんと、うけとれ、なくって、奈緒美さんにひぃふかれるの」
「・・・なんだそれ」
「兄ちゃん、さんれつ、しててくれないし・・・」
「俺、行ってなかったかぁ?」
「なかったよ!・・・なかったと、思うよ・・・?」
「見つけられなかっただけなんじゃねぇのぉ?おまえ、目ぇ悪いし」
「うー・・・」
とりあえず薬を飲んで、首に当たる冷たさを感じながら、正広は目を閉じる。
頭痛がゆっくり遠ざかっていくのが解ってきた。
「俺・・・、そつぎょーしきぃ・・・、でたこと、ないんだぁ・・・」
在校生としてはあったけど、卒業生として出席したことがなかった。もう、入院もしていたから。

卒業シーズンは、だから、少し寂しい。

卒業ソングを聞きながら寝たりするからこんなことになるんだろうなぁ、と思っても、音がないのは寂しいし・・・。
「あ。わかった・・・」
「何?」
「にーちゃん、おはなしして・・・」
テレビをBGMにした兄の声、というのが相当いいらしい。
「・・・おはなしって、桃太郎さん?金太郎さん?うらしま太郎さん?」
「・・・ながぐつをはいたねこ・・・」
何でやねん!!
それでも由紀夫は、そう言えば昨日森先生が帰る時に長すぎる足がからまって、階段の下に山と積まれているAVの中に突っ込んでいった話とか、しぃちゃんの小松菜のつもりでかったらクレソンで、本人にいたって受けが悪いとか、そんな話をしてくれる。

そして次に見た夢の中で、お母さんの訪問着を着た由紀夫が、火を吹く奈緒美から正広を助けてくれて、正広はようやく安心することができた。

「卒業式ねぇ」
そしてこっちも卒業式なんて、小学校以来まともに出ていない由紀夫。いつが卒業かなんて、自分で決めて、自分で卒業すればいいんじゃないの?
とりあえず、その熱から卒業してくれ。
強く思いながら、看病を続ける由紀夫だった。


ドリスタンも睡眠薬だよね!!朝仕事の前に飲んだら死ぬかと思った(笑)!めっちゃ眠い!立ったまま仕事をしても眠いってくらい眠かったっす!!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!