天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

Gift番外編』

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ギフト番外編66話前編『洗車場を探す』

腰越人材派遣センターの洗車大臣は当然野長瀬定幸。彼は洗車大臣である自分に満足していた。彼は、洗車グッズマニアでもあり、深夜の海外テレショップで新しいグッズを見るたびに注文してしまう男なのだ!奈緒美のベンツはいつだってぴかぴかだぞ!

yukio
 

「おい!なんだこれ!」
自転車で仕事をしていると、突然の雨にはかなり腹が立つ。
それも、真横から吹く強風まじりになってくると、激怒に近いものがあった。
「こんな天気予報じゃなかったじゃねぇかよ!」
むかむかしながら、仕事の最中だった由紀夫は、小さな封筒だけをいれたメッセンジャーバックを、スーツの下に掛けなおし、きっちりボタンを留めて、由紀夫は向かい風に向かって行った。

お客のところについた時は、絵に描いたような水もしたたるいい男になっており、対応に出てきた受付嬢を驚かせる。
常日頃は愛想を振り撒ける由紀夫だっただが、あまりの濡れっぷりに仏頂面になることは避けられなかった。
仏頂面のまま届け物を渡し、乾かしていかれたら、という声を慇懃無礼に断る。
扉の外で、風は変わらず吹き荒れ、どうせこのまま外に出るのならとヤケにもなってきていた。
こうなったらどこまでも濡れてやるぜ!

ばんっ!とその事務所のドアを開け、吹き荒れる風雨の中に出ていった。
ら。
自転車が転がっていた。
「げ」
風向きはどんどん変わっていて、止めた時にはいい向きだった自転車は思いっきりな横風を受けたらしい。
「うわぁ・・・、マジかよ・・・」
その時、壁にでもぶつかったのか、車体には傷、そしてなんとなく曲がってるような・・・。
後からの風を目一杯受けながら、立てた自転車の側にしゃがんでしげしげとあちこち眺めていた由紀夫は、後から声をかけられた。

「はぁ?」

あ、そのかけられた言葉のおかしさに、思わずそのままの姿勢で勢い良く振りかえり、水溜りに倒れこみそうになってしまう。

「何だってぇ!?」
「あ、あの、だ、だから、あの、こ、この辺りに、コ、コイン洗車場、は、あります、か?」
この強風まじりの雨の中コイン洗車場を捜している女がいる!!!
軽自動車の運転席から困り果てた顔で自分を見ている。
由紀夫は困惑しきった顔で、低い位置から、その眼鏡の女をじっと見上げた。

無言のまま風雨にさらされること、およそ45秒。
困り果てた顔の女は、はっ!!と今気づいた顔になった。
「あ、あのっ、か、傘・・・っ!」
彼女は、きっちりシートベルトを閉めたままあわあわと後部座席を覗きこみ、く、くるしいっ、と息を詰まらせている。
「いや、傘はもう・・・」
どうせ全身濡れてるし、と由紀夫は手を振って断るが、彼女はまるで聞いておらずまだ後を向こうと努力中だ。
「あ、か、傘・・・」
「だからいいって。それより、何、コイン洗車場って」
「え、あの・・・。せ、せん、洗車が、じ、自分で、できる・・・」
「ちげーよ!こんな天気で何で探してんだってゆってんの!」
「あ、あの・・・でも、きょ、今日、く、車を、洗わ、ない、と・・・」
雨で髪が落ち、目の前を雨粒が垂れ落ちていく。
その悪い視界の中、どもりまくっている女を見ていた由紀夫は、おや、と思った。
レンズの分厚い黒ブチの眼鏡。ひっつめた髪。地味なスーツ。おどおどを通り越しておびえているような態度。
でも、多分、こいつは美人だな?
眼鏡の奥の切れ長な目や、綺麗な肌を見て、由紀夫はそう確信した。

が、彼女はまだおどおどと、コイン洗車場・・・と呟く。
「ガソリンスタンドで洗えばいいじゃん、ガソリンスタンドだったら」
「あ、あ、でも、あの・・・、じ、自分で、洗って、あげたくて・・・っ」
「自分で?」
「きょ、今日、この、車、廃車に、するんです・・・。だから、ずっと、の、乗って、い、いたから、最後、に、せ、洗車、くらいは・・・っ」
小さな紺色の軽自動車は、そう汚れてるようでもなかった。
でも、最後に自分の車を自分で洗ってあげたいなんて、なんだか可愛いことを言うなぁ。
横からの激しい雨にさらされながら由紀夫は感心した。
「あのさぁ」
「は、はいっ」
「俺、こんなカッコだけど、俺と、あの自転車と乗せてくれたら、うちの事務所の駐車場、使わせてやるよ。洗車道具もいくらでもあるし」
「えっ、え、い、いいんですっ、かっ?」
「まぁ、これが乗ったらかなりずぶぬれだけど」
「でもっ、もう、は、廃車、ですから・・・、ど、どぉ、ぞ・・・っ、きゃっ」
彼女は、車に乗ったら最後、降りるときまでシートベルトを外してはいけないと思っているらしい。そのままの状態で助手席側のドアを開けようとして、息を詰まらせている。
「トランク、いい?自転車乗っけちゃうから」
「と、トランク、え、えっと、あ、こ、これ、か・・・、きゃーーーー!!!!」

うそぉ。
由紀夫は呆然と立ち尽くした。
トランクを開けようとしてリクライニングを倒す。
そんなミスタービーンでもやらないようなネタをする人間がこの世に存在しただなんて・・・!

開け放たれてる車の窓から腕をつっこみ、さっさとトランクを開けた由紀夫は、さっさと自転車を積みこむ。何か紐でも、と思ったがいいのが見つからず、スーツと同じくグッチのネクタイで、無理やりトランクの口が開かないように止めた。
助手席濡れたまま乗ったら、まだリクライニングされたままじたばたしてる女からシートベルトを外してやり、助け起こしてもやる。
「あ、あぁ、び、びっくり、しました・・・っ、あ、ありがとうございますぅ・・・」
「いやいや。えっと、それじゃあ、ここからだと」
道の説明をしようとした由紀夫は、今外したばかりのシートベルトをがちゃがちゃと締めようとしている姿に口を閉ざした。
「・・・そ、そんなに真剣に締めなくても・・・」
「あ、あの、す、すみません・・・、あの、シートベルト・・・」
「あ、あぁ、はいはい」
由紀夫はスムーズにシートベルトを締め、それじゃあ、逆方向だから、あの角で曲がって、と言おうとした。
が、「それじゃあ、逆方向・・・」
で、突然車が発進。いきなりその場でUターンした。
あたかも、その場で車が180度ターンしたかの錯覚に陥るほどだった。
「あぁっ!?」
「えっ!ぎゃ、逆、って・・・っ」
「逆だけど!誰がこの場でUターンしろってゆったよ!!」

シートベルトが命綱になるのかもしれない・・・!
由紀夫は小さな後悔を覚え初めていた。

<つづく>


時間がーー!!ってことは今回短いっすすみません!そしてこの女性は、麻生祐未!2時間ドラマで小林捻待に憧れている役をやって麻生祐未(笑)!!なぜって私が好きだから(笑)!!

てことで、次回は来週の水曜日!の予定は未定にして決定にあらずってことを人々はもう知りすぎている!