天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編67話前編『花見をする』

腰越人材派遣センターの花見推進担当主任は当然野長瀬定幸。彼は花見推進担当主任である自分に誇りを持っていた。彼は毎年、場所取りレースに勝利してきた男だ。思えは、1992年のあの日、そう、皆さんの記憶に残っているだろう、紅いジンジャーブレッド事件。あの日から野長瀬の場所取り人生は真にスタートしたと言える・・・!
え!?紅いジンジャーブレッド事件を知らない!?もぐりだ!あんたもぐりだね!?

yukio
 

春といえば花見。
腰越人材派遣センターは満帆商事以上に年中行事を大事にする会社なので、雨が降ろうが槍が降ろうが、行くったら行く!見るったら見る!
しかし実際に雨が降ったら鬱陶しいため、花見の日は、今日!という腰越奈緒美のGO!で決定されることになっていた。
「今日だわ!」
その日の朝、彼女は宣言した。
申し分のない青空。ふんわりと暖かい空気。
「今日は花見よ!」
「えっ」
「え?」
社員一同の驚きに、なぜ驚く、と振り向いた奈緒美は、社員一同の困惑した顔と目が合った。
「・・・何よ」
「でも、あの、社長」
典子が書類を持ち上げたままのポーズで言う。
「今日、野長瀬さん、いませんけど」
「えっ!!!???」

野長瀬定幸。
腰越人材派遣センターの花見推進担当主任だ。
彼がいなくては、毎年新たな伝説を生み出しつづけて行く腰越人材派遣センターの花見は成立しなかっただろう。
彼は、花見という崇高な年中行事に情熱を傾けていた。
頼むからその熱心さを仕事に向けてくれ、というほどの情熱、そして、創意工夫。
花見という舞台を最高に輝かすための努力・・・!

要するに場所取りだった。

「何よ!なんで野長瀬がいないのよ!あいつ、この時期は営業行けったっていかないじゃないのよ!」
「あの、屋外イベント用の設営なんですけど、人手が足りなくなって急遽・・・」
「んもー!何よそれぇー!どーすんのよ、どーすんのっ?あたしの勘が叫んでるのよ!今日だ!今日しかないって!明日は雨が降るってぇ!」
それは天気予報により、みんなが知っていることだった。
「それじゃあ・・・」
正広が立ちあがった。
「僕が、場所取りします」

近所の公園は、隠れた桜の名所だった。
それだけに近場の会社や、学校からは大勢の人がやってくる。そこでの場所取りは重要だ。
いくらなんでも普通の会社はお昼くらいから出かけてくるが、腰越人材派遣センターは、満帆商事よりも年中行事にはうるさい会社。行くとなったら、その時間から場所取りだ。
青いビニールシートと、花ござを手に、てくてくと正広は出かけていった。
じゃあ、俺も、と立ちあがった兄は、すかさず荷物を渡され届け屋として放り出されたのだ。
「なんかあったら携帯に電話しろよ!」
そう言いながら、ダッシュで出かけた兄を思い出しつつ、別に何もないよぅ。と思う。
お花見なんて楽しいばっかりだもん。

多分。

実は、正広は今までお花見の場所取りをしたことがない。手伝ったことすらない。いつもお料理を作る手伝いをしていただけで、正広が料理と一緒に到着して、宴会が始まる、という状況だった。
いつも、野長瀬がどういう風にしていたのかも知らない。
でも、ともかく、ビニールシートを広げたらいいんだよね。
人気のない公園で、ビニールシートを広げていく。広げる場所は、一番大きな桜の下で、日当たりのいい南側。毎年この場所を、腰越人材派遣センターは死守していた。
腰越人材派遣センターが、というよりは、野長瀬が、だが。
そして、対お花見用ビニールシートは大きかった。
広げて、広げて・・・、その上にビニールじゃあ風情がないから、花ござを敷いて、敷いて。
「あ。いい感じ」
およそ、8m四方はあるだろうビニールシートの真中にちょこんと座り、はらはらと落ちる桜の花びらを髪の毛にくっつけて、正広は満足そうな微笑みを浮かべた、その時。

「あぁーーっ!!」
不意の強風に、シートの端がめくれあがった。
「えーっと。置くもの、置くもの」
急に言われてやってきているから、正広が持っているのは、小さなトートバックだけ。中身は、お茶の入った水筒に、ゲームボーイカラー、携帯くらい。
一番重たいのは水筒だろうと置いてみたが、今度は反対側が持ち上がる。
「くっ、靴とかはっ?」
反対がわにの角には靴。そうすると、また別の角が持ち上がる。
その日はちょっと風が強かった。
「ど、どうしよう・・・!」
水筒や、靴ごときでは重石にならない。携帯やゲームボーイなんて飛んでいっちゃう。おろおろと、飛びそうになるシートを全身で押さえていた正広は。
「あ!稲垣センセー!」
通りかかった稲垣医師に声をかけた。

声をかけられた稲垣医師は、稲垣アニマルクリニックの院長だが、今日は月に一度のお休みの日。
春の陽気に誘われて、句でもひねろうかな。ひねったことないけど。という気分で散歩中だった。
そこに、「稲垣センセー!」と声をかけられ、ちょっと辞めてよ、今日はオフなんだからとあたりを見まわす。が、声はすれども姿は見えず、
「ほんにあなたは、屁のような・・・」
なんてことをつぶやいてもみる。
「こーこーでーすぅー!!」
「あぁ。びっくりしたぁ」
「びっくりしたなら、びっくりしたってリアクションをぉー!」
「何やってるのひろちゃん。どうせ泳ぐなら、青いビニールシートの海じゃなく、白いシーツの海を泳げばいいのに」
「・・・今なんかエロいこと言いました?」
びらびら動きまわる花ござ&青いビニールシートの海を、正広はうつぶせ大の字で押さえている。
「言ってないよ。どうしたの?」
「あの、あのすいません。ちょっと、ここ、座っててもらえませんっ?」
ここ、ここ!とシートの角を指差され、稲垣医師はシートの角に座った。
「・・・なんで体育座りなんでか・・・」
「いや、なんとなく。やっぱり屋外で座る時はこれが基本かなぁ、と思って」
「・・・可愛いですよ」
「ありがとう。ひろちゃんも可愛いよ」
「ありがとうございます」

お互いにお辞儀をした時、また強風が起こった。
「あぁ〜!」
吹っ飛ばされる水筒をジャンプして押さえ、これは困った!と再びあたりを見まわす正広だった。
「あ!森医師〜!慎吾医師〜!」
今度は、大あくびをしている、長身の二人組が見えた。
「あう?あ、ひろちゃん」
「すいません!医師たち!ここと、ここと、座ってもらえませんかっ?」
「え?」

森医師は、正広の主治医であり、慎吾助手は、森医師の助手だ。当直明けで、今は死ぬほど眠たい時間。睡魔が大挙して押し寄せ、寝ろ〜、寝ろぉ〜、と脳から激しい誘惑を受けているところだ。
「何、してるのぉ〜・・・」
「場所取りです、お花見の!あの、ここ、ちょっといいですかっ?」
二人の目には、花ござが手招きしているように見えた。
あぁ、呼ばれている。あの、チープでキッチュな花ござが、かもぉ〜ん、とおいでおいでしているぅぅ〜。
よろよろ、と近づいていった森医師、慎吾助手は指示された角にそれぞれ座った。
と同時に横になった。
「え?」
よし!助かったと正広が立ちあがると同時に、二人の寝息が聞こえてくるほどのスピード。
「・・・お、お疲れなのかな・・・」
ともかく、これで3方向に重しができた。後は、この3人に代わる石か何かを持ってくればいいんだな。
立ちあがって確認すると、一番桜に近い場所が空いていて、そこから時計回りに、稲垣医師、森医師、慎吾助手。
桜の傍に自分がいればいいのだけど、このまま3人もの先生を重石代わりに使う訳にはいかない。
「稲垣医師、僕、ちょっと重石になりそうなもの、探してきます」
律儀に体育座りを続けている稲垣医師に言い、自分の靴を探そうとあたりを見たが見当たらない。
「あれ?あれ、靴・・・」
正広の様子に、稲垣医師も体育座りのままキョロキョロと探してくれ、見つかったのだが、シートから跳ね飛ばされたようで、結構遠くにある。
まぁ、靴下で歩いてもどうってことはないので拾いに行こうとしたところ。

「剛!その靴、取ってきて!」
稲垣医師が指示をした。
「え?草gさんもいるんですか?どこ?」
そんなまさか、スーパージェッターじゃあるまいし、呼べばどこでも流星号がやってくる訳でもあるまいに。
そんなことを想像した正広は、僕って中途半端に古いこと知ってるのかも・・・と思う。
「剛!早く!」
しかしなおも稲垣医師は言っているではないか。
でもそこにいるのは、怪しいコートに、目深に被った帽子、そしてサングラスに、マスクという、あぁ、やっぱり春だね。春の風物詩が出たねぇ、といういでたちの男の人だけなのに・・・。
「・・・て、草gさんですかっ?」
「・・・そうです・・・」
「どしたんですか?なんかすごいことになってますけど・・・。私服ですか・・・?」
「・・・花粉症なんです・・・」
靴を持ってきてくれた草g助手は、辛そうに言った。
「えっ、花粉症っ!大変じゃないですか!」
「大変なんです・・・。今、薬をもらってきたところで・・・」
「あぁ、そうなんですかぁ。じゃあ、気をつけて・・・」
「はい・・・」
「何言ってんの!」
相変わらず体育座りの稲垣医師が言った。
「もういまさらだろう、花粉症なんて!さくら花粉は関係ないんだから、花見をしていきなさい、花見を」
「えっ!そんな無茶ですよ!」
「いいから、その角に座りなさい。ひろちゃんが、荷物を取りにいかなきゃいけないんだから」
「稲垣医師ぇ〜・・・!」

しかし、草g助手は、稲垣医師には逆らえない。
大人しく、最後の角に座ったのだった。怪しいコート、怪しい帽子、怪しいサングラス、怪しいマスク姿で。

それじゃあ、重石になるものを・・・。と、シートの真中に来ていたトートバックを拾いに行った正広は、ふとその場に座ってみた。
左前に怪しい草g助手、右前に体育座りの稲垣医師、右後ろにうっすら目を開いたまま寝ている森医師、左後ろに大の字で寝ている慎吾助手。
「なんか・・・。すごいものに取り囲まれてるみたい・・・」
「・・・ひろちゃん、自分で座らせといてそのいい方は・・・、くしゅっ!」
花粉症の最中でもおっとりとした口調は変わらない草g助手。
「四神獣のようだろう?さしずめ私なんぞは、青竜かな」
「・・・しじんじゅう??」
「すいません。先生、ぐしゅっ、あの、なんか、そういうのに凝ってて」
「そんな剛は玄武だね。亀だね、亀〜」
「セイリュウって竜ですか?」
「そう。後、虎と鳥がいるけど、どっちがどうだと思う?」
がーがー寝ている二人を見ながら、3人は、どっちがどうなんだろう、と考えるのだった。

桜の花は、はらはらと散り、怪しすぎる腰越人材派遣センターのビニールシートに近づこうというものは一人もいなかった。

<つづく>


お花見には行きましたか?私たちは、今度の日曜日に遅まきながら花見の予定でしたが、中止になりました。1週間あとにずれましたと連絡がありましたが、もうそのころには桜はない自信があります。昔、会社でいった花見は、寒さのあまり凍えそうでした。つらかった・・!夜桜はつらいっす!!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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