天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen@gallery様から使わさせていただいております!皆様も遊びにいらしてくださいね!

ギフト番外編70話後編『トラウマを届ける』

前回までのお話。
「その日、由紀夫は不機嫌だった。不機嫌でも由紀夫は男前だが、あまりの不機嫌っぷりに腰越人材派遣センターの様子はぴりぴりしていた。そのうち、由紀夫の具合が悪くなり、慌てた正広が水を無理やり飲ませたところ、大変なことが発覚したのだ!由紀夫は、虫歯に苦しんでいたのだぁ!!」

yukio
 

溝口家に引き取られてすぐのことだった。
由紀夫(当時、武弘)は、自分の歯の異常に気がついた。
あれ・・・。
歯が、痛い・・・。
由紀夫の背中に冷たい汗が流れた。
歯・・・。歯が・・・?
そろっと舌で触れると、思わず「うっ」と声が漏れそうなほどの気持ち悪さを感じる。
ぱっと両手で口元を押さえた由紀夫は、前の夜のことを思い出した。
歯を磨きなさいといわれていたのに、磨かなかった。
それで、歯がおかしくなったのだろうか・・・!

どうしよう、どうしよう。
どうしようったってどうしようもないけれど、由紀夫は心底焦った。何せここは貰われてきたばかりの家。気軽に歯が痛いとは言いにくかった。
返品されたらどうしよう、とも思う。由紀夫のいた施設では、誠しやかにそういう噂が流れていた。
すなわち孤児にもクーリングオフがある。
由紀夫は「クーリングオフ」という言葉は知らなかったが、ともかく気に入られなければ施設に返させられるかもしれないと思っていた。
歯ぐらい・・・、寝れば大丈夫・・・!
由紀夫はそう思い痛みをこらえて眠った。

なかなか眠れなかった由紀夫だったが、翌朝、痛みはなかった。
よかった・・・。
ホっと胸をなでおろした由紀夫は、元気に新しい両親に挨拶をした。
のもつかの間。
その日の夕方から、また歯は痛みだす。もうすぐ晩御飯よー、と言われていただけに困った。
「今日はね、ハンバーグにしたのよ」
うふふ、と微笑まれ、嬉しい!と喜んだのはついさっき。
施設のハンバーグは、結構固かった。あの固さはちょっと歯の負担になるかもしれない・・・。溝口家のハンバーグがふわふわであることをまだ知らない由紀夫は眉間に皺を寄せる。
歯の痛みは容赦なくじわじわと由紀夫を苦しめたが、返品!の言葉が目の前をちらつき、何も言えなかった。

その夜のハンバーグは、ふわふわだった。あ、ふわふわ、と思ったが、つけ合わせのミックスベジタブルはそこそこの歯ごたえを保っていた。
「たくさん食べてね?」
「お父さんのも食べるか?」
「うんっ!」
「あら、武弘、お野菜も食べなきゃダメよ?」
う・・・っ!
「えー・・・、でもぉー・・・」
由紀夫だって、ただの子供じゃあない。大きなウソを隠すための小さなウソは得意だった。
「にんじん・・・」
ミックスベジタブルの中でもっとも歯ごたえのあるにんじんをつついてみる。
「あら。にんじん嫌いなの?」
「うん・・・」
小さくうなずき、食べなきゃダメ?と上目遣いで義理の母親を見上げる。過去から現在に至るまでの由紀夫の必殺技、「捨てられた子犬アイズ−ウルウルバージョンタイプ1−」炸裂!

『両親は120ポイントのダメージを受けた。気持ちがよくなった』

「ちょっとは食べたの?」
「うん。ちょっとは、食べたよ?」
「じゃあ、今日はいいけど、ちゃんと食べないとダメなのよ?」
「うん・・・。ハンバーグ、食べる!」
「ま!」
ホホホホ!ハハハハ!エヘヘヘヘ!
こうして由紀夫は、歯ごたえのあるミックスベジタブルを回避することに成功した。
こういう可愛いワガママは許される、というのは解っていた。こういうワガママはOKでも、歯を傷めるような不良品は返品・・・!
ああああ・・・!おぉそぉろぉしぃいぃぃぃぃ〜〜〜!!

こうして、由紀夫は我慢した。
念入りに念入りに痛いのをこらえながら10分以上も歯磨きした。
昨日だって寝れば治ったんだから、今日だって寝れば治るはず。
治るはずっ!

しかし治らなかった。
夜中に、あまりの痛さにどたばたしていた由紀夫は、ついに義理の両親に発見されてしまったのだ。
「武弘!」
「どうしたのっ?大丈夫っ?」
ギュっ!と抱きしめられ、由紀夫は思わず言ってしまった。
「いたぁ〜・・・・・い・・・」
「痛いのっ?どこっっ?あ!歯ね!?」
解らないはずはないだろう、というほど、由紀夫の頬は腫れていたのだった。

「もうちょっとだからな!」
「武弘、我慢してね!」
由紀夫は車に乗せられ、近所の歯医者に連れていかれた。小さな、自宅兼用の歯科医は。
おじいちゃんだった。
これが小児科だったら由紀夫はおびえなかったと思う。しかし、小さな、そして照明が落ちているために薄暗い歯科医院で、おじいちゃんな先生。引き取ったばかりの子供の緊急自体にパニックしている義理の両親は、由紀夫のおびえより、ともかく痛みを取って欲しい!としか思っていなかった。
いいおじいちゃん先生なのだ。
深夜にたたき起こされても文句も言わずに見てくれる。
見てくれるのだが。

ぜってーーー!!眠いだろぉーーー!!
痛みの中、由紀夫は心の中で絶叫した。
その手元のおぼつかなさはなんだーーー!!!
その目のしょぼしょぼはなんだぁーーー!!!

「はい、目を、あ、口を開けてー」
目を開けるのはおまえだぁーーー!
「うーん、と・・・。あぁ、これはひどいねぇ」
つん、とつつかれ、由紀夫は口を開けたまま、声をあげた。
「武弘!」
両親も驚いて近寄ってくる。ぎゅっ!と手を握られて、もう泣きそうだった。
「ここと、ここ、も、虫歯ですなぁ」
のんびりと歯の検査なんてされて、由紀夫はキレかける。
「この歯は乳歯ですから、もう抜いてしまいましょう」
「うくっっ!?」
『歯を抜く』!?
由紀夫は血の気が引く音を確かに聞いた。
「武弘・・・!大丈夫だよ。痛くないからね!」
「そうよ。ずっとこうしててあげるから!」
両手を両親に逃げられ、もう由紀夫は逃げられない。あぁ、こういうのってまな板の上の鯉って言うんだ、確か・・・!
「えー・・・と、麻酔を・・・」
まっ、麻酔!?ちゅ・・・・・!!注射あああ!!!!

由紀夫は、何事においても、ちゃんと自分の目で確認するタイプだった。怖いからといって目を閉じると、もっと怖いからだが、今回ばかりは見なければよかったと心の底から思った。
その注射は、由紀夫が今まで予防接種とかでされていたものよりも、明らかに恐ろしい外見をしていた。
明らかに!
あんな注射を!注射をされるなんて!可哀想な僕の腕・・・!
盛り上がってくる涙をこらえるため、ぎゅっ!と唇をかみ締めた由紀夫は、信じられない声を聞いた。
「はーい、口を開けてねー」
く・・・・・・口・・・・・・・・!?
注射器を持って、口を開けろって・・・どゆこと・・・・?
おそるおそる口を開けた由紀夫は、それでも注射器から目を離せなかった。
じーっと、その奇妙な形を見ていて、はっ!と気づいたのだ。
これは!注射器じゃなくて、水鉄砲みたいなもんなんじゃあ!?だって、なんか変な形してるし!そうだ!きっとそうなんだ!!

だが。
神様は、そんな小さな由紀夫のささやかな希望をかなえては下さらなかった。
「いだぁーーーー・・・・・・!!!!!」
歯茎をぎゅぅーーーーー!!!っと圧迫されているような痛み。この痛みと歯の痛み、どっちがマシって言われたら、歯、と答えてもいいくらいだった。
両親に手を握られ、それでも必死に耐えていたら。

「あれ」
ノンキなおじいちゃん医師の声がした。
「抜けたねぇ」
由紀夫の、その虫歯は、すでに抜けかけていたらしく、この騒ぎの最中、勝手に抜けてしまった。
「あぁ、ほら。随分とひどい虫歯だったんだよ」
おじいちゃん先生は、黒い部分のある由紀夫の乳歯を由紀夫と、両親に見せてくれた。
「まぁ、ほんと」
「武弘、これから生える歯は大人の歯なんだから、ちゃんと歯磨きしないとな」
「ひゃい・・・」
しなくてもいい麻酔をさせられた由紀夫はまともに答えられず、じゃあ、口をゆすいで、といわれてもまともにゆすげず、ちょっと気持ち悪くなってしまった。

 

「という訳で、俺は歯医者を信用していないんだ」
「兄ちゃぁ〜ん・・・」
正広があきれたように言ったが、それにかぶせるように。
「解りますっ!」
野長瀬が飛びついていた。
「歯医者なんて、歯医者なんて最悪ですっ!たとえ、どんなにどんなにナイスバディな先生だって、先生だって!痛いし!当たることなんてないんですっ!当たることなんてっ!」
ナイスバディな歯医者さんに診察してもらってる間に、どこに何が当たるのか、についてはみんなあえて聞かないであげた。
「ともかく、俺は仕事を・・・」
「ダメだって!自然治癒はしないんだよっ?ずっと痛いんだよ!?それに夜中に痛くなって、またおじいちゃん先生みたいな人に当たっちゃったらもっと痛いよ!?」
「あ!!」
典子が声をあげた。
「麻酔でしょう?とりあえずお酒でも飲んだらどうですか!?」
「典子ちゃん!」
「あ、それいいかもー」
とにかく痛みを忘れたい由紀夫は、奈緒美のブランデーを勝手に取り出し、無造作にマグカップについで無造作に飲み干す。

「兄ちゃん!ダメだって!」
「んー、なんか、いい感じぃ〜・・・?」
そうやって何杯か飲んだ由紀夫は。
「ででで・・・・・・・・・・・」
痛みにうずくまる。
「・・・歯が痛い時にお酒飲んだら、余計に痛くなるんですよね。動悸が激しくなる分」
「典子・・・!てめぇ・・・・・っっ」
「その痛みをこらえるくらいなら麻酔の注射の方が絶対マシですって!さ!ひろちゃん!由紀夫さんを歯医者さんへ!!」
「典子ちゃん!」
ひしっ!
正広は典子に抱きついた。
「ありがとう!典子ちゃん!」
「ユーアーウェルカムよ!ひろちゃん!」

こうして、由紀夫は正広に引きずられ、近所の歯医者に連れ込まれた。
正広は、異常に歯が丈夫なので行ったことはなかったが、なんだか綺麗な歯医者さんだな、と思っていた病院。
由紀夫は確かに頭まで痛くなってきて、これをどうにかしてくれるなら歯医者で我慢してもいいかな・・・と思ったのだが。

「はい。はじめまして」
その歯医者の顔が、稲垣アニマルクリニックの稲垣医師にそっくりだったことでその気持ちも砕け散った。
「あれ・・・稲垣、先生・・・?」
「はい?えぇ、稲垣ですけど・・・。前に来ていただいたことありましたっけ」
「稲垣アニマルクリニックの方には・・・」
「あぁ。そこは、うちの父方の親戚ですね。父の兄のお嫁さんの従姉妹の人が学生時代にバイトしていた喫茶店によく来ていた美大の学生さんのまた従兄弟にあたります」
それはもう親戚ではない・・・!
呆然とする由紀夫を見て、正広はその手をギュっと握る。
「え?」
「大丈夫だよ、兄ちゃん・・・!」
「えぇ、大丈夫ですよ。お兄さん。私のテクニックを信じてください!」
信じられない!この顔の人間は信じられない!

「はい、口を開けてー」
その声におずおずと口を開けると、思わぬ乱暴さで器具を差し入れられた。
「うーん、と・・・。あぁ、これはひどいねぇ」
つん、とつつかれ、由紀夫は口を開けたまま、声をあげた。
「兄ちゃん!」
ぎゅっ!と手を握っている正広の方が、もう泣きそうだった。
「ここと、ここ、も、虫歯ですねぇ」
のんびりと歯の検査なんてされて、由紀夫はキレかける。
「この歯は神経までいっちゃってるみたいだから、もう抜いてしまいましょう」
「うくっっ!?」
『歯を抜く』!?
由紀夫は血の気が引く音を確かに聞いた。
「兄ちゃん・・・!大丈夫だよ。痛くないからね!」
正広に片手を強く掴まれ、もう由紀夫は逃げられない。あぁ、こういうのってまな板の上の鯉って言うんだ、確か・・・!
「えー・・・と、麻酔を・・・」
まっ、麻酔!?ちゅ・・・・・!!注射あああ!!!!

デ・ジャブ・・・!
あの日とまったく同じ出来事が、今ここで起こっている・・・。
ということは、あの時と同じ痛みが、この歯茎に・・・!この歯茎にぃぃぃ・・・!!!

しかしそこはそれ、修羅場をくぐってきた由紀夫が観念して口を開け、麻酔の注射を受けた時、その痛みは想像の10分の1以下の痛みしかなかった。
あれ・・・?と拍子ぬけするほどに。
え、麻酔の注射って、もう痛くないんだ?別に?あれ?そうなんだ???
由紀夫の平気な横顔に、正広もホ、っと息をつく。
稲垣歯科医もよしよし、と自分のテクニックに満足し、解ります?と歯茎に触れた。
「はい」
「・・・解ります?」
「・・・はい」
「・・・あれ?」
何がいやって、医者に診察してもらってる最中に「あれ?」なんて言われることはないだろう。

「なんだろ・・・。あの、この匂いって、ブランデーかなんかですか?」
「あ、そうです。さっき、あのちょっと兄ちゃん飲んじゃってて・・・すいません!」
「そうですかぁ・・・」
うーん・・・と稲垣歯科医は難しい顔をした。
「アルコールが入ってると、麻酔の効きが悪いんですよね」

それから、由紀夫は4本の麻酔注射を受ける羽目に陥った。
やっぱり歯医者なんかにはいかない!!!と、その日のうちに、テレフォンショッピングで外国製ブラークコントロールもできるバカ高い歯ブラシを注文した由紀夫だった。

そして典子は、正広から大変な報告を受け、一体どこに逃げようかと荷物をまとめている(笑)


この話を書いてるうちに、歯が痛くなってきました・・・。私って可愛い・・・(笑)!でも、抜けかけの乳歯が虫歯になってると、それは痛いのかしら。もう抜けかけなら大丈夫なのかしら・・・。昔、私の友達に恋焦がれていた歯医者の息子がいたけど、彼は元気かしら。「タコザキ」って呼ばれていたわ。ちょっと男前だったのに、間の悪い男でした。大学入試の発表があった日に私の友達に電話して、「どうでしたっ?」って聞いて「落ちたわ!(がちゃん!)」といわれてしまうほど(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ