天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編71話後編『『お菓子』を届ける』

今までの話。
「はんぺんくんは、警察学校を卒業し、交番勤務になった。本当の名前はもちろんあるのだが、みんなが彼をはんぺんくんと呼ぶのだ。警察官には親しみやすいあだ名が必要と、先輩のキブンで決められた。そのはんぺんくん。駐車違反の車を発見した。黒塗りベンツだったが、そんなことでびびってちゃ、市民の安全は守れないぜ!と思う。が、そのベンツが逃げ始めたのだ!大変だはんぺんくん!犯人を捕まえなくちゃ!!いけ!はんぺんくん!!(とかいう話だったかなぁ・・・)」

yukio
 

「兄ちゃん・・・」
兄を見送った後、正広はイヤな胸騒ぎを覚えた。
「何だろう・・・これ・・・」
うっすい胸に手を当てて、その胸騒ぎの元を探す。
つい2分前、兄はあのバカ高いナイスな自転車にスペシャルマッシーンを、がっしゃーん!と装着。颯爽と乗って行った。
カッコよかった・・・!
なのに何が不安なんだろう・・・。

「ひろちゃん、あの人変でしたね」
野長瀬がぷぷぷぅと笑いながら正広の肩を叩いた。
「え?」
「あの、黒尽くめの・・・」
「あぁっ!!」
「びっくりしたぁ!」
「変だったよねぇ!野長瀬さんっ!」
「はっ、はいっ!?」
正広の目は、『兄ちゃんカッコいいアイズ』になっていたため、周囲の様子をきちんと把握できていなかったのだった。
確かに、由紀夫の自転車が走り去った後、この蒸し暑い時期にどうしたん!?という黒尽くめの男がスっと視界を横切っていた。
由紀夫が持たされているのは、ヤクザの親分宛の荷物・・・。
「あ、あの・・・野長瀬さんっ」
「はい?」
「俺も、病院行ってきて、いいかなぁ・・・」
「えっ!ひろちゃん、具合悪いんですかっ!?」
「・・・う、うん・・・」
あの、黒い帽子を目深に被り、黒いコートのボタンを上から下までぴっちり!締めて、塀や、柱の影々に隠れようとしていたあの姿を、おかしいとは思わなかったんだろうか、野長瀬さんって・・・。

ともかく、早くいってきなさい!タクシー使って!とタクシーチケットを渡された正広は、それを財布に大事にしまい、任天堂病院を目指した。
もちろん、ケッタマシーン正広号で(名前が変わってる!?正広の自転車、モデルチェンジした!?)。

兄ちゃん・・・!気をつけて・・・!

正広の祈りが通じるより早く、由紀夫も異変に気づいていた。
モノがモノだけに、あまりスピードを出さないようにしている由紀夫の自転車を、追いかけてきている存在があったのだ。
それは、ママチャリに乗った黒尽くめの小柄な男だった。
蒸し暑い昨今、全身黒尽くめでサングラス。角を曲がるときに、ちらりとその姿を目の端に入れた由紀夫は、暑そうだな、という感想を持ったに過ぎなかったが、その後もずっと後をついてきているということで、もう少し詳細に様子を見てみた。
ママチャリは、前カゴにスーパーの袋が入っていて、ネギが見えている。典型的すぎる買い物姿だ。
しかし、あの姿でそんなアットホームな買い物をしていたとも思えないから、誰かの自転車をかっぱらったんだろう。
・・・軽犯罪法違反か?
ん?そもそも犯罪と、軽犯罪の境目はどこにあるんだ?
そんなどーでもいいようなことを考えながら、いきなり左90度ターンをかます。
左折するために、一切右に膨らむことなく、急に曲がるのは由紀夫のお得意な技だった。
案の定後ろのもたついた空気が伝わってくる。
右に、左に、相手を振りまわしながら由紀夫は走った。
今、自分を追いかけているんなら、どうせ行き先は一緒だと解っていたから。

「にいちゃん・・・?」
正広は最短コースを取って任天堂病院に到着した。
兄の自転車を探すが、あの目立つ車体は近くにはない。
まさか・・・!
正広の胸は、ぎゅっ、と締め付けられた。不安に弱い体質なのだ。
何も調べずにお金を受け取ったりするんじゃなかった・・・!親分が入院中ってことは、絶対、跡目相続とか、なんか色々あって、お家騒動とかあるんだ。
そんで、正妻の子供と、お妾さんの子供と、二号さんの子供とかいて、それで、若頭とか、後見役とかが、黒い陰謀の中でひしめき合ってるんだ。
もう一人や二人、コンクリート詰にされて東京湾に鎮められてるはずだ・・・!
そんな中、何も知らない届け屋が、親分への荷物を運ばされる。
ケーキの箱にそっと入れられた中身は、おそらく・・・、実印をかねた、親分の金無垢ダイヤ入り指輪・・・!
それを狙うスナイパー!
兄ちゃん!危うし!!!

「正広?」
「兄ちゃんっ!!」
ひしっ!と。
死ぬ時は一緒だ!という力で正広は由紀夫にしがみついた。
撃たれる時も一緒だ!俺の心臓から入って、兄ちゃんの心臓まで・・・!

・・・ってことは、斜め下から撃ってもらないと無理か。
俺の方が心臓の位置低いもんね。でも、兄ちゃん側からだと、兄ちゃん、結構胸板とか厚いから俺まで届かなかったらイヤだし。
「兄ちゃん、ちょっと、俺、こっちの方が・・・」
自分でしがみついておきながら、足元にあった段差に立ちなおし、位置を確認してから、
「兄ちゃんっ!!」
ともう一度しがみついた。
これなら、背中から撃たれた時に心臓の位置も一直線!
じゃない!!
向かい合わせになってるから、位置が左右逆だ!
「兄ちゃん!こっち!」
ぐるん!と由紀夫を180度ターンさせ、背中から「兄ちゃんっっっ!!」と抱き着いて、よーしこれで大丈夫。
「うん。オッケー!」
「オッケーじゃねぇだろ!」
「いってー!」
頭をはたかれた正広は、だって!と自らの考えを披露し、もう1度はたかれた。
「なんでおまえ側から撃たれるとか解るんだよ!」
「え。いや、兄ちゃん側からだったら、俺まで届かないかもしれないし」
「そゆことじゃねぇだろ!」
「あ。そっか。撃たれる方向、解らないのか。じゃあ、ぐるぐる回っとく?いてっ!」
「そんな危ないとこだったら、おまえはとっとと帰れ」
「えー!だって兄ちゃんになんかあったら困るじゃーん!」
由紀夫の自転車は、由紀夫のすぐ側にあり、スペシャルマッシーンもきちんと装着されていた。自転車の揺れを吸収し、中の荷物を振動から守るマッシーンの中に、例のケーキの箱は入っている。
「そりゃ、なんか、黒尽くめのマヌケはくっついてきてたけど、そんなもん、振り切ったし、これをさっさと渡して」
背中側にあったスペシャルマッシーンをバン!と由紀夫の手が叩き、そしてシルバーのチタンでできている(という噂)の筐体からは感じられるはずのない感触を覚えた。
「ん?」
「何?」
由紀夫が振り向き、正広が覗きこむ。
由紀夫の手の下には、黒い手袋をした手が挟まっていた。

「あーー!!」
「おまえか!!」
「それをよこせ!!」
マスクまでしていた男の声はくぐもっていたが、切羽詰った響きがあった。
「そういう訳にいくか!」
由紀夫は男の手を握り、片手で、スペシャルマッシーンの蓋を開けた。(ラーメン屋方式なので、側面の蓋を上に引っ張りあげる方式だ)
「正広!」
「うん!」
正広はそれを受け取り、病院の中に走りこむ。
心臓の位置がどーのこーのとやっているうちに、時間は2時45分。
3時までに持っていけと言われていたので、正広は急いだ。
「待て!」
由紀夫の手を振り払い、男は走る。
が、由紀夫の方が早かった。男の肩を掴み、地面に引き倒した時、帽子が飛んだ。
「女!?」
「渡さないで!!」
長い髪が地面に散る。ずれたサングラスの下には、マスカラで青く彩られたまつげも見えた。
女だと悟られたと解った彼女は、悲鳴のような声で正広に訴えた。
「それをあの男に渡さないで!お願いだから!」
「お、お願いって・・・」

病院の自動ドアが締まっていても、正広にその声は届き、思わず立ち止まってしまった。病院の中と外で、兄と顔を見合わせる。
由紀夫は、女の腕を引き、立ちあがらせる。
「・・・届けるのが、俺の仕事です」
「でも・・・。あれは・・・」
女の目に涙が浮かび、マスカラが落ちそうになっていた。
「あれは、ダメなんです・・・」
「兄ちゃん・・・」
正広が、そっと出てくる。手の中のケーキの箱をもてあますようにしながら、由紀夫と女を交互に見た。
まだ若い女だった。

あぁ、きっと・・・!
正広は思う。
お妾さんの子供なんだ・・・!でも、女の子じゃあ、跡目はつげない。だから男の姿をしていた。
でも、本当は女だということがばれて、このケーキの箱の中身は、その証拠・・・!彼女は、ヤクザを憎んでいたが、父の事は愛していた。心臓の悪い父に、自分が女であることがわかれば、そのショックでどうにかなってしまうかもしれない。それは!それだけはイヤだった・・・!!

「レイコお嬢さん!」
野太い声がした。
「おやっさんのお見舞いですかっ?」
「違うわよぅ!」
レイコは、きっ!と男を睨みつける。いかにもチンピラというルックスの若い男だった。
「お嬢さん?」
由紀夫も、正広も、驚いて彼女を見た。
「そうだぞ!」
男は自分のことのように、偉そうに言った。
「寅田組組長のご令嬢だ!」
「じゃあ、なんでこの荷物!?」
「あ。来た来た。おやっさん、待ってたんすよー。あれ?高柳さんは?」
「高柳さん?」
「高柳は駐禁でつかまったわ」
「え!高柳さんが!た、大変じゃないっすか!明日はどうするんすか!」
「知らないわよ!」
「あ、あの〜・・・」
話がまったく見えない正広が、おそるおそるレイコに尋ねる。
「高柳さん・・・って・・・」
「伝説のパティシェっすよ!!」
「パティシェ!?」
「あのおっさんが!?」

高柳一。見た目は怖いが、誰よりも繊細なお菓子を作るパティシェ。
フランス、オーストリアで菓子を学び、有名ホテルでパティシェを歴任。寅田組組長に惚れ込まれ、また、組長の男気にも惚れ、寅田組専任パティシェとして働いている。

「じゃあ。これ・・・」
「今日のおやつよ・・・。あいつが食べる・・・」
「お嬢さん。あいつなんておっしゃっちゃダメですよ。ほら、おやっさんと一緒に召し上がってください。いつも楽しみにしてるんですから」
「糖尿病で入院してるおっさんがなんで毎日3時のおやつにケーキなのよぉぉぉぉ!!!!」

事件(?)は解決した。
由紀夫は病室までケーキとレイコを届け、レイコかケーキ、どちらかを選べと迫った。
病室に、虎の敷物を敷き、虎柄のガウンを着た寅田熊男は、しぶしぶ、本当にしぶしぶといった様子で、レイコを選んだのだった。
「た、高柳は・・・!」
「・・・捕まりました・・・。残念ですが・・・・」
「誰か!身代わりになって、高柳を出所させてこい!明日のおやつが!」
「あんた、全然わかってないじゃないよぉーーーー!!!」

その後。
天才パティシェ高柳は、その天才をいかんなく発揮し、糖尿病患者でも美味しく安全に食べられるお菓子作りに励み、寅田組長の長生きを約束したのだった。

その日、由紀夫たちが持ちかえったケーキは、病院のロビーで美味しくたいらげられた。
正広はひそかに、寅田組に入ったら、このケーキを食べられるのかなぁ、と不穏当な発言をしてしまい、また由紀夫に叩かれたのだった。


「西洋骨董洋菓子店」というマンガがあって、そこに出てくるケーキの美味しそうなことったら!!ことったらぁ!!!あぁ、ケーキ食べたい・・・・・・!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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