天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編72話前編『そば職人を届ける』

前回までの話「OL多恵子はイラついていた。梅雨だし。あぁ、むしゃくしゃする!そのむしゃくしゃを解消するには、そば職人を連れてくるしかない!!と、腰越人材派遣センターにそば職人を連れてくるように依頼するのだった。どうしたんだ!多恵子!!」

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由紀夫は走っていた。
ただ、そば職人を探すために。
雨上がりのアスファルトを、とりあえず走っていたが、そんなことじゃあ、問題は解決しない。かどを曲がったところで、どーん!と跳ねた相手がそば職人、なーんてことはありえなかった。
当然、正広経由田村にそば職人を当たってもらってもいたが、「そば職人」という言葉の曖昧さが問題をややこしくしていた。
そば職人。
それは、そば屋のおやじではいけないんだろうな。打ってもらいたいってことだから、そばを打てるヤツじゃないといけない。
まずは、会社近くのそば屋、「長寿庵」に入ってみた。
なんでも、江戸時代にいは岡っ引もやっていたという噂のそば屋だが、現在の主は、ザ・おじいちゃん!敬老の日にミスターおじいちゃんとして選ばれてもいいほどの絵に描いたようなおじいちゃんだった。
「ちーす」
「いらっしゃい」
そば職人といえばガンコ親父、というイメージを払拭した好々爺っぷりが由紀夫は好きだった。
「何にしましょ」
「あ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「はいはい?」
小柄で、白髪、優しい笑顔の店主に、今日の3時頃はヒマ?と聞いてみる。
「え」
店主は小さく驚き、小さくのけぞった。
「ゆ、由紀夫ちゃん、こ、こんなおじいちゃんと、デート・・・っ」
「ちがーーーう!!」
「いや、由紀夫ちゃんが望むなら、おじいちゃんはどうなったって・・・!」
「望まねぇーーー!!!!あ、望む、望む」
「え、望むっ?この体をっ?」
「おじーーーちゃーーーーん!!!!」
店主は、見た目はどこをどうひっくり返しても好々爺だったが、ボケたくて、ボケたくてどうしようもない人でもあった。
「そうじゃなくってよ!この店って、出張そば打ちとかやってんのかなって思って」
「出張そば打ち。そういうのはやったことないねぇ」
「あ、そぉ。頼めば出来たりする?」
「出来ないことはないけど・・・」
「今日の2時から4時くらいって、店・・・」
「開けてるねぇ」
「ねぇ〜〜」
そうだった。長寿庵は休憩を入れずにずっと開いている店だった。

さて、その頃。

車椅子の美女(本人曰く)貴子が住んでいる商店街には、「ラ・セーヌの星」という喫茶店があった。
看板娘はゴロコちゃん。その喫茶店には、なぜか、さすらいの蕎麦職人、ツヨシがいた。
さすらいの蕎麦職人ツヨシは、ザ・蕎麦職人という男で、非常に寡黙だ。映像化されるなら、高倉健がやっても問題ないくらいに寡黙だ。
その時、ラ・セーヌの星には、看板娘のゴロコちゃん、さすらいの蕎麦職人ツヨシの他に、常連客である、マスターとキムラエースがいた。いまさらだが、キムラエースは、世界の平和を守っている正義の味方であり、マスターは、心の中の悪と闘っている悲劇のマスターだ。彼らの詳しい活躍はまた別の機会に、別の人から語ってもらうことにするが、ともかく、ラ・セーヌの星には4人の人間がいた。

いつもと変わらない日常の中、ゴロコは、ツヨシの変化に気づいた。
「どうしたの?ツヨシさん」
しかし、ツヨシは無言で蕎麦を打っている。蕎麦職人だからだ。
「ん?ツヨシがどうしたって?」
「どうかしたの?」
インディアンスパゲティ(鉄板に乗ったパスタ、というか、スパゲッティーにカレーが乗っている。作者の高校時代、学校近くの喫茶店で売られていた)を食べていたマスターと、クリームソーダのアイスを幸せそうにつついて緑色にしていたキムラエースも尋ねる。
「今日のお蕎麦、いつものより微妙に固いわ」
白い額に微かなシワを刻み、ゴロコはつぶやく。
「そっかぁ?わっかんねえぞ、俺。ゴロコ食べるの遅いから蕎麦乾燥してんじゃねえの?」
当然のことながら、マスターはすでにもり蕎麦を食べ終えていた。今日のランチは、麺類!とマスターは決めていたのだ。
「やっぱり蕎麦はマスターみたいに勢い良く食べないとダメですよね♪」
「良くわかってんじゃん。エース」
「マスターの早食いは全国の蕎麦職人の喝采を浴びると思いますよ、俺」
「照れるじゃん、エース」
「えへ」
もちろん、エースも蕎麦を食べた後、デザートのクリームソーダだが、彼は意外とお上品で、いなせに蕎麦が食べられない。こんなことじゃあマスターに笑われる、と必死に真似した挙句、顔の下半分が蕎麦つゆだらけになったのは、わずか8分ほど前のこと。

「そんなことより・・・・本当に何かあったんじゃない、ツヨシさん?」
さすらいの蕎麦職人、ツヨシのことを考えてあげっていたのはゴロコだけ。
「・・・・・・・・・・・」
しかし実写版なら高倉健といわれるほどのツヨシは無言のままだった。
はっ、と。唇の端から、ぺろん、とスパゲッティーを覗かせながら顔をあげたマスターは言った。
「そういや、伝説の届け屋が蕎麦職人を探してるって風の噂で聞いたなぁ」
「さすが!マスター!情報通ですね♪」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・ツヨシさん、もしかして自分が選ばれるんじゃないかって思ってたの?」
「・・・・・・・・・・・」
「ツヨシ・・・・もしかして緊張してたのか?」
「でも・・・・ダメだと思うよ、俺」
あっさりとキムラエースが言い切る。きっ!ゴロコは、かわゆらしいレェスのエプロンの裾を、きゅっ!と握り締め、エースを睨みつけた。
「どうして!?どうしてエースはそんなことが言えるの!?」
「・・・・・・・・・・・」
「だって心の揺れが蕎麦に表れるようじゃまだ本当の職人じゃないんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・」

マスター以外の人間には厳しいエースの意見を聞きながら、ツヨシは無言で蕎麦を打ち続けるのであった。

さて、その頃。

由紀夫は正広からの電話を受けていた。
「え?いないっ?」
『出張そば打ちの人って言うのは、基本的に予約制で、今日言って、今日ってのは無理なんだって!でもとりあえず予定の開いてる人を探したんだけど、のきなみ埋まってて・・・』
「じゃあ、昼間が休みのそば屋か」
『うん、そう。そこを当たってまーす。長寿庵、どうだった?』
「あそこで頼むと、貞操の危機にみまわれるかもしれないから辞めた」
『てーそーのききぃ!?』
『貞操の危機!?誰がですか!?由紀夫ちゃんですかっ?』
『由紀夫さんが貞操の危機!?たかがそば職人を探してるだけで!?』
『兄ちゃーーーん!!無事に帰ってきてぇーーー!!!』
「・・・おまえら・・・」
『由紀夫さん!大丈夫ですよ!犬に噛まれたと思って!!』
『えーーー!!もうダメだったってことぉーー!!』

ぶちっ。

電話を切り、田村にかけなおす。
『イマぁ〜、イマセぇ〜〜ン♪』
「出ろ。殺すぞ」
『そんなことで殺すな!』
「そば屋のデータ、あるんだろ?近いとこから行くから、店の場所言え」
『どこにいるんだよ』
「解ってんだろー?」
『えーっと、その場所からだったら』

うわぁ!!ホンットに解ってるんだぁ!!!怖いぃぃーー!!

そして本当に近場のそば屋を言われ、おどおどと店に向かう由紀夫だった。

さらにその頃。

さすらいの蕎麦職人ツヨシは、打ち立ての麺を、そっと口にしていた。
上下の前歯の間で、噛み締めた蕎麦は、確かにいつもと違う。
ふ、顔の皮膚の下、解らないくらいの筋肉の動きで、ツヨシは苦笑を表現した。
こんなことじゃあ、伝説の届け屋に探される資格なんて確かにない。
エースの言葉と蕎麦を噛み締めつつ、新たな蕎麦を打ち始めたツヨシだった。(出来の悪かった蕎麦は、戒めのため、自分で全部食べる。時々ゴロコにずるい、と叱られる)

1軒目、2軒目と振られつつ、なおも、正確に田村に自分の位置を把握されている由紀夫は、3軒目に向かっていた。

伝説の届け屋と、さすらいのソバ職人。そして倦んだOL。
果たして3人の軌跡が交わることがあるのか!

つづく


キムラエース、というのは、大変愉快な話なのですが、今、勝手につかっちゃいまちた!!きゃーー!!!バジル様ごめんなさーーーい!!うちの掲示板、6号室を見てくれてる方はご存知ね(笑)!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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