天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen@gallery様から使わさせていただいております!皆様も遊びにいらしてくださいね!

ギフト番外編72話中編『そば職人を届ける』

この話を読む前に、そろそろキムラエースについて知っておいた方がいいだろう。
キムラエースとは!
読んだ?読みましたね?
そう。キムラエースとは、そういうことなのだ。そんなキムラエースの行きつけの喫茶店、ラ・セーヌの星に雇われている伝説の蕎麦職人ツヨシ・・・!そのツヨシと出会えるのか、伝説の届け屋、早坂由紀夫!!

yukio
 

「なんなんだよ!」
12軒目のそば屋に振られ、由紀夫は自転車を蹴っ飛ばしそうになった。
多くの店で、出前でそばを打てるほどの職人はいないと断られたのだ。
そんなことでどうするんだ!そばは日本の心じゃないのか?こうなったら俺が打つか!?
由紀夫は、このまま本屋に飛び込んで、『初めての蕎麦打ち』なる本を買おうか、と思うほど、せっぱつまっていた。

その頃。

喫茶、ラ・セーヌの星の看板娘であるゴロコちゃんの落ちつきがなくなってきた。
「どうしたんだ?ゴロコ」
マスターに聞かれても、ゴロコは小さく首を振るばかり。
「お手洗い?」
「いやだ!エースっ!」
ゴロコちゃんは、伝統的な銀色のお盆をフリスビーの様に投げつけ、エースのコメカミにヒット。世界の平和を守る正義の人、キムラエースであっても、まだゴロコのお盆アタックを回避するのは難しいのだ。
「そんなんじゃないわっ!でも・・・、でもわたし、いかなくちゃ!」
ぎゅ。
ピンクの、おばあちゃまの着物地で作ってもらったがま口を握り締め、ゴロコは立ちあがった。
「ツヨシさん、マスター!お店をお願い!」
「え?俺は?」
「エースにはまだ無理よ!」
「そんなことないよ!俺だって、できるよ!ねぇ、マスター!」
「大丈夫だ、ゴロコ。エースにお運びはさせないから」
「お願いします・・・!じゃあ、わたし・・・!」
カラン・コロン、というベルの音を鳴り響かせ、ゴロコは商店街へと走った。
カラコラカラ、ゴロコのつっかけの音が商店街に響く。

店の中は、シンと静かになった。
「なんなんだろ、ゴロコちゃん」
「なぁ」
エースとマスターは、それぞれ残っているクリームソーダとインディアンスパゲティをつついた。

「でもさ、伝説の届け屋ってかっこいいんだろうな・・・」
最後の1本をつるりと飲み込み、マスターは言う。
「そんな・・・!引け目に感じることなんてないです!俺の中でマスターが世界一カッコいいんですから!伝説の届け屋だってやぐらの上のマスターを見たら痺れるはずです!」
そう。エースは、お祭りの夜、やぐらの上で「おとさた音頭」をソロで踊っていたマスターを見て、あぁ、この人こそ、俺のマスターだ、と決めつけた男。
「別に俺、張り合うつもりなんてないんだけど」
「・・・・・マスター」
驚愕。エースの目はまん丸になった。ただでさえ丸いのに!
「どのくらいカッコいいのかなあって思っただけだよ」
「そんな・・・・そんな牙を抜かれた狼のようなマスターなんて!俺は見たくなかった!マスターのバカァァァァァァ!!!」(ダダダダダッ)
「あ!エース!」

仲違いをしたエースとマスターには目もくれず、ツヨシは一心不乱に蕎麦を打っていた。
職人は心を揺らしてはいけない。
目を閉じ風の音に耳を傾け、蕎麦粉に魂をこめるのだ。
伝説の届け屋よ。俺はここにいる。
無言の思いを胸に秘め、ただただ蕎麦を打ち続けるツヨシだった。

その頃。

からころ、と、つっかけで走るゴロコがいた。
もちろんお出かけの時は、バレエシューズをかかさないゴロコだが、今日はそれほど気が動転していたのだ。
急がなくっちゃ・・・!
がま口の重みを大事そうに抱えなおし、なおも走るゴロコ。

その頃。

由紀夫は、見なれた風景に、ふと辺りを見まわした。
「あれ、ここ・・・」
前に、正広とやってきた、商店街だ。
下町・・・!むしろこういうところの方が探せるんじゃあ!?ここに住んでる貴子に聞いてみようと自転車を貴子のうちに向けた。
と、電話がなる。
『おいおい〜、方向違うよぅ〜』
「おまえは俺にGPS搭載させてんのか!!!」
田村の声に、携帯の電源を叩き切る由紀夫。
こうなったらもう自力で探してやる!探して届けてやる!待ってろOL!!

その頃。

そば職人注文中のOL多恵子は、早く3時が来ないかなぁ〜、とウキウキしていた。
あんまりウキウキして、コピー室で歌うほどだった。
同期のOLが、
「多恵子・・・、歌はいいんだけど(いいのか?)なんで堀内孝雄よ」
「歌ってた!?」
「歌ってたよ。はぐれ刑事の主題歌・・・」
「あら、やだわー・・・。ショムニ見てたから、しばらく見てなかったのに・・・。来週からまた見られるんだわ!と思ったら嬉しくてついー!」
コピー機も非常に調子がいい。
濃すぎず、薄すぎず、快調なペースでコピーは進んでいた。

その頃。

ゴロコは、ファンシーショップの袋を胸に、カラコロ、と走っていた。
悩んで悩んでやっと買えた色つきリップはベビーピンク。
だって、もしかしたら、伝説の届け屋さんが来るかもしれないんだもの。
ううん、違うの。わたしが、どうこうじゃなくって、私は、「ラ・セーヌの星」の看板娘。つまり、サラリーマンが会社を背負っているように、わたしは、ラ・セーヌの星を背負っているの!ラ・セーヌの星のゴロコって言う時、わたしはラ・セーヌの星のCEOなんだわ!
CEOってなんだっけ!
ううん、ともかく!だから、わたしには、色つきリップが必要なのよ!色つきリップが!!
早く塗りたい。
そんなわくわくした気持ちを抱えたゴロコが、角を曲がったその時。

ドン!!

「きゃあ!」
「うわっ!!」

少女マンガ入門では25年も前に禁じ手にされた、「曲がり角で出会い頭にぶつかる」というシチュエーションだった。
コロン、と転がったゴロコは、いけない!とまずスカートを押さえる。ゴロコは、羞恥心を知る少女なのだ。
そして顔を上げると、銀色の自転車が横倒しに倒れ、その下に人がいた。
ゴロコは、自転車の横っ腹に突っ込んでいっていたのだ。
「まぁ!ご、ごめんなさい!」
ゴロコはこう見えて力持ちなので、軽々と自転車を引き起こし、下敷きになっていた人を助け起こした。
そして。
まぁ・・・、と目に星を飛ばした。

ぶつかられた相手は早坂由紀夫。
角を曲がろうとしたところで、わき目もふらず、一心不乱に走ってくる女の子がいるなぁ〜・・・とまでは解っていたが、彼女の加速を甘く見ていて、横っ腹に激突されてしまった。
「大丈夫ですか・・・?」
「あぁ、平気平気。そっちは?」
「あ、わたしは・・・。あっ」
「え?」
ゴロコは、由紀夫のスーツを指差した。
「汚れちゃってます!あの、わたしのお店、すぐ側ですから!あの、こっちです!」
ぐいぐい、と引っ張られ、貴子の家とは逆方向に引っ張られていく由紀夫。
そして、ラ・セーヌの星のCEOとして、「わたしのお店」と断言してしまったゴロコは、この人ったら、カッコいい・・・!と思っていた。
ちょっと、キムラエースに似てるけど、ううん、キムラエースより、男らしい気がする。なんとなく、そんな気がする・・・!
ドキドキ。
その胸の高まりは、走ったせいだということに気づいていないゴロコだった。

「ラ・セーヌの星・・・?」
由紀夫はまずそのネーミングに引いた。
「えぇ、どうぞ」
しかしゴロコの笑顔を前に、お断りすることもできなかった。
『純喫茶』と呼ぶにふさわしいようなルックスをした店で、ガラスのはまったドアを開けると、当たり前のように、カランコロンカラーン♪コロンカランコローン♪と音がする。
この店のミックスジュースは、絶対に、分厚いガラスのコップで出てくる。そして、三角に折られたナプキンが、銀色の入れ物に入って置かれていて、砂糖は角砂糖!もしくは、コーヒーシュガー!ガラスの器に入れられ、まぁるいスプーンがついている!

由紀夫が、一応レディーファーストで、とドアを押そうとする、2秒の間に想像したことはすべて正解だった。

ただ一つ想像と違うことは。
ドアを開けると、一瞬一直線に覗くことができる厨房の奥に。
蕎麦職人ツヨシの姿があったことだ。

あれは、そば職人・・・?
どうぞ、とテーブルにつかされ、スーツの上着を取り上げられた由紀夫は、しまったここからじゃあ厨房が見えない・・・!
場所を移動してもいいものか、どうか。
キョロキョロと辺りを見まわしていた時、一人の男と目が合った。

早坂由紀夫、そして、マスターの運命の出会いだった。

その頃。

「やっぱりそば湯って美味しいですよねーー!」
「あらー、私は種物も好きよー、美味しいーー」
「いや、やっぱり江戸の男はね?江戸の男は、こう、ざる蕎麦を、こう、粋に、粋にっ」
「野長瀬さん、東京地元じゃないんじゃなかったでしたっけ」
「江戸っ子って三代遡っても江戸っ子じゃないと言えないんじゃなかったっけ」
腰越人材派遣センター留守番3人組は、これだけ蕎麦屋、蕎麦屋、と電話とかしているうちに、ついつい出前を頼んでしまい、つるつるそばを食べていた。
兄ちゃんのことは心配だけど、でも、お昼の時間は、お昼を食べなきゃあ。
自分の体を大事にすることが、兄に心配をかけない一番の兄孝行。そんなある意味けなげな正広は、兄とマスターが運命の出会いをしたことを知らない・・・・・・。

最後にその頃。

浮かれるOL、多恵子のランチは、あえて「鍋焼きうどん」
「あちっ!!」
「・・・あんた、バカ・・・?」
思いっきり口の中をヤケドしてしまったけども、どうしても、暖まった半熟になりかけの卵が食べたかった多恵子に後悔はない。

つづく


ついに皆様にもキムラエースがなんであるのか、ということを解っていただくことができた。大満足だ。目指せ大団円!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ