天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?
『Gift番外編』
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ギフト番外編75話後編『暑中見舞いを届ける』
私が普通にいただいた今年の暑中見舞いは、1枚。結婚した後輩からでした。結婚しましたハガキやがな(笑)!
暑中見舞いを作らなくてはいけないのに、田村が捕まらない。
いつもなら超お役立ち男の兄、早坂由紀夫も、今回ばかりはあてにならない。
そして、おそらく、その兄以上に、自分があてにならない。
まさしく溝口正広は絶体絶命のピンチに陥っていた。
「暑中見舞い・・・」
正広は絶望的な気分なのに、兄は簡単そうに言う。
「でも・・・、出来んじゃねぇの?」
「だって!だって、暑中見舞いだよ!?ハガキ作成ソフト、とかいるんだよ!?」
「ハガキ作成?」
「そうだよ。だって、ハガキなんて作ったことないもん。ハガキ作成ソフトとか、いるんだよ。・・・多分」
「買ってこようか?」
きっ!
心ない兄の言葉に、正広は、厳しい視線を向けた。
「知ってんのっ!?」
「な、何を」
「ソフトって買ったら!インストール、とかってしなきゃいけないんだよっ!?」
「・・・インストールって、なんだっけ。ガストール?」
「だれが胃薬の話なんかしてるのっ!パソコンに入れなきゃいけないんだよっ!?」
「あ。そーなの?でも、コピーとかでいけんじゃねぇの?」
「・・・い、いけるかもしれないけど・・・」
実は正広もよく知らない。
腰越人材派遣センターでは、今ここにあるパソコンに、新しいソフトを追加したことなどないのだ。
「とりあえず、なんか買ってくる?」
「ん、んー・・・」
正広は悩んだ。持てる少ない知識を駆使して考えた。
そして結論に達した。
「と、とりあえず、なんか、できるものがないか、見て見る」
典子のように、兄まで逃げるつもりじゃあ、というイヤな予感がしたのだ。
インターネットで遊び用くらいにしかつかってないパソコンの電源を入れ、淡々と起動していく画面を眺める。
思わずため息が出た。
「典子ちゃん・・・」
「ん?」
「典子ちゃん、俺らより、TOKIOの方が大事なのかなぁ・・・」
「おまえだって典子より、SMAPが大事だろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・」
そうはいっても、あまりにせつない、典子ちゃん、と思いながら、TOKIOリーダー城島の大アップが壁紙になっているパソコンの画面と向き合う。
とりあえず変えてやるぅ!と、壁紙をSMAP6人のポスターに変更し、もう一度ため息をついた。
「そーゆーことは早いのね、おまえ」
「こーゆーことは早いんだよ、俺」
マウスを持ち、どしたらいいのかなぁ、と画面の上でウロウロさせる。
「これって、ワープロのソフトだろ?これでいけるんじゃねぇの?」
由紀夫が指差したアイコンを見て、ワープロ・・・と首を傾げた正広は。
「あ!ワープロ!」
「えっ!?」
「ワープロがある!だって、ワープロでラベル打ち出しするんだもん!ワープロはハガキが作れるよ!」
いそいそ!とワープロの前にいき、ウキウキと電源を入れ、確かハガキ作成って言うのがあったもんねーー、とウキウキ操作する正広だったが。
「・・・これ、インクリボン、黒しかねぇみたいだけど?」
「え!?」
そうなのだった。
腰越人材派遣センターとあまり変わらないくらい古い歴史を持つワープロは、基本的には1色のインクリボンしか使えないタイプなのだった。
「今どき、ちょっと、それはー・・・」
「そ、そぉだよね・・・」
ふ・・・。
寂しく微笑んで、正広はワープロの前から離れる。
そして、もう一度パソコンの前で、がっくり!肩を落とした。
ワープロ専用機でできるんだから、ワープロソフトでも、きっとできるはず・・・。
祈るような気持ちでワープロソフトを立ち上げた正広は、その広い画面に、心を痛めた。
「・・・A4しか使ったことないんだもんなー・・・」
「A4ってこれだろ?ハガキの、4倍くらい?」
「そうかなぁ」
「じゃあ、この画面の、四分の1くらいになんか書けばいいんじゃねぇの?」
「兄ちゃん!」
がしっ!
正広は、兄の手を両手でつかんだ。
「すごい!そうじゃない!?」
正広は突然目の前が開けたような明るい気分になった。無理をしなくても、大体ハガキサイズってところで、手を打てばいいんだ!きっとそうだ!それで!
「そ。それで・・・・・・・・」
「それで?」
「な、何を書いたら、いいんだっけ・・・?」
そうなのだった。
ハガキの裏面をデザインしなくてはいけないのだった。
早坂兄弟は、貰った暑中見舞いを並べて検討した。
「とりあえず暑中お見舞い申し上げますってあって、後は夏っぽいイラストと、うちの住所・・・、正広?」
正広が息を飲むのが解って由紀夫は顔を上げた。
そして、この世の終わりのような顔をしている正広を見た。
「・・・正広・・・?」
「イラスト!?」
「イ、イラスト・・・」
「どうやって!?どうやってイラストを入れるの!?どうやって、どうやって!?だってこれはワープロソフトであって、ハガキ作成ソフトじゃないから、イラストとかないんだよぅぅぅぅ!!!」
ソファに見を投げてさめざめと泣く真似をする正広の背中を撫でながら、イラストなぁ・・・と由紀夫も画面を眺める。
「ん?」
そして画面の下に、四角や丸といったアイコンがあるのを発見。これはもしかして絵が描けるんじゃあ?とマウスを操作してみると、ともかくそこで長方形が描けた。楕円も描けた。こういう組み合わせで、田村よりはもうちょっとマシなものが作れるんじゃあ?と思っていたところ。
「お!」
「な、なにっ?」
「これいいんじゃん?基本図形ってやつ」
基本図形というところに、太陽のようなマークがあって、このあたりを使えば、ややシュールな夏のイラストが出来あがるんじゃあ?
早坂兄弟は夢中になった。
夢中になった末、出来あがったものがこれである。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・これはー・・・ちょっとー・・・」
「これはー、使えねぇよなぁ・・・」
「白黒だし」
「意味ねぇよな。それなら、あっちのワープロの方がまだ・・・」
「そうだねぇ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「イラストのスペースはあけといて、他、先にやるか」
まだ文章のところも何もやっていないのだ。
「えと、じゃあ、暑中見舞いって・・・。暑中見舞いって縦書き・・・・・・。縦書き!?」
「よ、横書きでもいいんじゃねぇの・・・?」
「だってみんな縦書きじゃん!えーと、だから、A4で縦書きするように設定して、それで、4分の1のとこにこれをいれたらいいんでしょ?縦書きの設定!?」
「だ、だから!いいから、横書きで!」
「横書きぃ・・・?」
「だから、これがハガキだったら、上の3分の1くらいに暑中見舞いっていれて、下3分の1くらいがイラストで、真中あたりに、住所とか入ればいいんじゃねぇの?」
「イラスト、真中の方がよくない?」
「ん?あぁ、住所を下にしてな。挨拶とかは?」
「挨拶ぅ?挨拶、挨拶・・・」
しばし相談した結果、どこに何を書くかについての話し合いは終了。後はその通りに文字を打つだけ、となった。
「い、イラスト分をあけてぇ・・・」
「A4の4分の1だから、あー・・っと、もう1行くらいあいててもいけるんじゃねぇ?」
こうして、無事、A4用紙の4分の1程度のサイズに、なんとなく、暑中見舞い風のものが出来あがった。
のだが。
「・・・そんで?」
「それで、後は、イラスト、だけど・・・・・・・・・・・」
「イラストなぁ・・・・・・・・・」
二人はじーっと黙り込んだ。
じゃあ、ちゃちゃっと描くわとも言えない。
重たい雰囲気が早坂兄弟の間に漂ったが、それを打破したのは兄、由紀夫だった。
「一回、印刷するか」
「あ。そだね。ハガキに印刷・・・、は、ハガキ!?」
腰越人材派遣センターのプリンターは、なんでそんなもんが必要なの?というカラーレーザー。しかしいつも、A4の単なるモノクロの書類が印刷されるだけの代物だった。
「ハガキって、ハガキって、だってここはA4だし・・・!」
可哀想な早坂兄弟は、手差しトレイを見つけることができなかったのだ。
そして、由紀夫が、すごい方式を考えだした。
「A4でまず印刷するじゃん」
「うん」
「そしたら、ここに印刷されるって場所がわかるじゃん」
「うん」
「そこにあわせてハガキ貼って、もう1回印刷したら?」
「に、兄ちゃん!!」
ひしっ!
思わず兄に抱きつく正広。
「兄ちゃんってすごい!」
あぁ!なんて可哀想な早坂兄弟(笑)!
まずはA4サイズで印刷してみたところ。
「ん?なんか、ちっちゃい、かなぁ」
「ハガキがこのサイズだろ?」
裏側にハガキをおいて、すかしてみると、確かにちょっと余白が多い感じ。
「もうちょっと字を大きくしてもいいんじゃん?それか、イラストを大きく・・・」
「イラスト・・・・」
また二人の間に重苦しい空気が落ちる。
「・・・ま、まぁ、それはまた考えるとして!とにかく、字のとこ、完成させようぜ!」
早坂由紀夫は、ともかく前向きだ。悩んでる時間があったら、手当たり次第に進め主義。
「えと、じゃあ、字を大きくしてぇ。えーと。それから、もう1行くらいいけるよね?んーと。それと・・・」
調整して、印刷して、調整して、印刷して、これぞ!というサイズになったところで、ハガキを丁寧にはりつける。
「こんなもんだろう」
と出来あがったハガキはりつきA4用紙を用紙トレイにいれて、印刷をすると。
「あーーー!!うらっかわだったー!」
「逆か!」
「あーーーー!!!はがきつまったー!」
「どーすりゃいんだよーー!!!」
それでも、人間努力すれば不可能はないと、早坂兄弟はがんばった。
試行錯誤の末、ハガキへの印刷もどうにかうまくいった。
やった・・・!
後は、イラストをどうにかするだけだ・・・!
キラキラ輝く瞳と瞳がぶつかり合う。
よし!がんばるぞ!
とノートパソコンの前に座った正広が、そのやる気の現れとして、パソコンを前にずらそうとした時だった。
ぷつっ。
「ぷつっ?」
軽い音とともに、画面が真っ暗になった。
「・・・何?」
呆然とする正広。
「おまえ、そこ・・・」
由紀夫が、そっと、指差したのは、正広の左手の場所。
あぁ・・・!
なぜ、神様は、このノートパソコンの電源スイッチを、左側面、しかも手前におかれたのか・・・!
正広は、保存もしていない状態のまま、電源を切ってしまっていた。
「いやぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
状況を把握してしまった正広は、突如キッチンに走った。
「正広!!」
追いかけた由紀夫の目の前で包丁を取り出す。
「何やってんだ正広!」
そして、引っ張り出したまな板の上に何やらおいて、力いっぱい振りかぶり、まな板も割れよ!という勢いで叩きつけ!
「正広!?」
そして、正広の手の中に残っていたのは、真っ二つに割られたさつまいもだった。
「ふふ」
綺麗な断面を由紀夫に見せながら、正広は笑った。
「日本には、芋版っていう、古式ゆかしい年賀状があるんだよぅ」
「正広!」
「こうやってね、断面を削るんだぁ、削るんだぁ〜」
包丁の根元で、かりかりとサツマイモを削っている正広の目の焦点は、まるであっていなかった。
「解った!解ったから、正広!」
サツマイモと包丁をとりあげ、なおも、うふうふ幸せそうな正広を、ひきずってソファに座らせる。
「俺が印刷所に頼むから!」
「ほんとに!?」
キラリン☆
正広の瞳は輝いた。
キラキラと。
綺麗田瞳の200倍美しく。
こうして、腰越人材派遣センターの今年の暑中見舞いは、由紀夫の自腹で作られることが決定した。
美しい海の写真に、浴衣の社員一同がコラージュされた、なんとも訳の解らない暑中見舞いには、早坂兄弟の血と汗と涙がにじんでいる。
(ラベルを貼ろうとしていた正広が、ラベルのふちで指を切ったのが、血)
実際には、Wordとかだと、自動保存とかしてくれてることがあるので、もう1度起動したら、途中までのは出てきたかもしれないけども・・・(笑)まぁ、ええがなええがな(笑)
次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!